おまけ9 大賢者の報酬~受けとる前に必ず御確認を 2
プラーデラ王国から遣ってきたもの達の帰国予定は明後日。
使節団として入国したピオ達が到着して4の日の間程。
「ニュール様、今後の使節団としての対応は如何致しましょう?」
「事件を無かった事にしたいって申し入れもあったんだし、問題なければ其のままで良いんじゃないか?」
「御意」
話し合いの最後…ピオから確認を受けた滞在日程。
早めに切り上げても良いのだが…縮めても1の日差、元々エリミア行きを希望していたモーイの意見等も考慮し…一応予定通りの日程で行動するとニュールが決定を下す。
王宮前で堂々とプラーデラ王国国王ニュールニアとして正体曝したのだが、結局…不届きな不審者扱いで処理されてしまった。
何だかチョット情けない結末…の気もする。
事件前同様…其処に在ること自体を秘匿して過ごさねばならぬ。
早朝から…唯一自由に過ごせる青の間を訪れ、エリミア王宮への対応…昨晩の話し合いの続きを賢者の塔代表するリーシェライルと行ったが…其れも一段落した。
ニュールにとって、やっと辿り着いた…何を強要されるでもない時の巡り。
解任の儀を完遂した達成感や…楽しく穏やかな再会の喜び、それらをユッタリ味わう予定を散々乱されたのも事実ではある。
だからこそ…余計な事から開放された気分は、一層爽快…なのかもしれない。
多少気を抜き…休暇気分に浸り、適当な…淡い夢的計画を思わず口走ったとしても…仕方がなかろう。
久々の…何が有る訳でもない、無為な時の流れに浮かれる。
「もしかしなくても…オレは "暇" を持て余してる状態…自由って事なのか? あぁ…折角エリミアまで来たんだし、ついでだからナルキサ商会に顔を出して…」
あれやこれやの希望思い描く。
短期間とは言えニュールもエリミアで暮らしていたモノ、世話になった者達は存在し…顔を出したい場所の1つや2つある。
冷酷な魔物の心持ちに変化したとは言え、純粋に人としての思いや礼儀を重んじていた頃の本質は変わらない。
不義理に此の地を出立する事になった、過去に対する心残りを思い出す。
「主君は警護の関係上、王都へ出ての行動は御慎み下さい。出来るだけ賢者の塔…此処中央塔・青の間にて御滞在願います。不躾な進言御許し下さい」
思わず口にしていた…ニュールの気楽で呑気な無計画な計画。
語り終えるよりも前に、カームが一刀両断する。
ニュールの足元に膝を折り…頭垂れつつも、正論放ち…断固とした態度で言葉遮り押し留めた。
不快な程に失礼…ではないが、相当に…強引だ。
だがニュールが言葉で対応するより前に、ピオが秒で一歩踏み出す。
そしてカームの背後に立ち、跪くカームの背に足を乗せ…踏みつける。
「カーム君ってば、主君に対しマージそんな事言っちゃいますぅ??」
ピオは静かな笑みを湛えているが、心の内が怒りで満ち満ちているのが言葉と態度に現れる。
「なーに、主君に逆らっちゃってるのぉ? 出来る限りぃ…仕える御方のぉ…希望にぃ…添うのがぁ…臣下の取るべき道なんじゃぁないかとぉ…ボクはぁ…思うんだけどなぁ」
ニュールに対しする不敬を感じたピオ、跪き進言していたカームの背を…ゲシゲシと足で小突きながら意見する。
「危険回避すべく…お諌めするのも…臣下の務めです」
ピオが施す制裁…嫌な部分に的確に入る背部への小突きを、片手突き支えながら…何とか姿勢を維持し耐えるカーム。
ピオの下衆な行い受け入れつつ、意思曲げず…自身の正当性を主張する。
"滞在する王都への…王城からの外出" について、曲なりにもプラーデラ国王を務めるニュールを守る者達による…些細な意見の食い違い。
平穏であるが故、起こる事…なのかもしれない。
「私は…伝えるべき事を…伝えたまで。ただ諾だくと…従うなら木偶でも務まる」
踏みつけられ罵られている者にしては、カームは言いたいことを言い返す。
余計な計算巡らせぬ、実直…な者なのかもしれない。
ヴェステの後ろ暗い部分司る組織…影に所属していたのに、真面目の上にクソが付く程の…厄介な四角四面さ持つカーム。
逆に其の融通が利かぬ頑なさが、影に相応しき癖の強さ…なのかもしれない。
同じ古巣を持つニュールやピオ以上に、ある意味影の中では個性的な存在であったと推測出来る。
「はぁ?? 何、調子乗っちゃてるぅ? 我が君が隠れる必要性なんて皆無だろ! 其れさえも理解してないのに語るな!!」
其の言葉と共にピオが更に思いっきり踏みつけるが、表情変えずに耐える。
ニュールの人外とも呼べる圧倒的な魔力扱いを目にした事が無いからなのか…職務に忠実な生真面目さ故に護衛任務に就く者として当然の安全策願い出ただけなのか、非常識なモノ達に常識的対応を主張するカーム。
だが君主至上主義なピオの思考は、ニュールの行動妨げる全てを…排除すべき事象と捉える。
ピオにとってのニュールとは、其の足下に頭垂れ…手足となり万難排すべく尽力すべきと本能で感じる主君。
妨げとなる物事を自身が矢面に立ち薙ぎ倒すべきと思える…御前に立ち塞がる有りと有らゆる邪魔者に対し率先して掃滅すべき思いに駆られる、自身の覚悟導き出す…尊き御方。
如何様な手段使おうとも、何としても突き進ませたい至高の存在。
カームの…穏便に纏め収める、安全第一主義な方針とは当然相容れない。
両者とも主君思う故の言動ではあるが、微妙な主義主張の違いから…小さな軋轢が生じる。
普通なら部外者は傍観すべき…と思われる状況なのだが、空気読まぬフレイリアルは堂々と口を挟む。
「そうだよ! ニュールってば少し落ち着いて過ごさなきゃダメだよ」
予想外のフレイリアルからの声掛け。
勿論…反ピオ陣営…カームの勝手な応援団として、ピオに対抗するがためだけに…首を突っ込みしゃしゃり出る。
完全にピオを敵認定しているフレリアルにとって、ピオの邪魔をするのは最早使命と思い込んでいる状態? なのかもしれない。
傍から見たら "どんだけ絡みたいんだよ!" と思わず茶化したくなるぐらいの…一種の執着にも見える。
少し離れた場所で執務行うリーシェライルが一瞥した視線の中、冷気が混じる。
善意だろうが悪意だろうが…フレイリアルが他者に向ける思い入れは、全て不愉快に感じるリーシェライル。
場の緊張感高め…空気を凍らせていくが、フレイリアルは意に介さず…我が道を進んで行く。
「カームさんの言う通りだよ! 上の人がバタバタしていると周りはユックリ休めないんだからねっ」
ピオの意見却下させるべく、鼻息荒く挑むように…もっともらしい言葉でニュールに説教する。
若干論点は違うようだが…一番落ち着きの無い慌ただしき無鉄砲なモノに諭されてしまったニュール、渋々ながらも青の塔で残りの時を過ごすと決めざるを得なかった。
「まぁ、そうだな。ちゃんと挨拶するつもりなら…また今度改めてすべきだよな。突然立ち寄ってもサージャさんが居るとは限らないし…他に知ってるモンに会えるかも分からんからな」
意見採用されたフレイリアルは得意げに、ドヤ顔して横目でピオを見る。
ピオは素知らぬ顔で…涼し気な表情と空虚な笑みを浮かべたまま、興味は失せた…とばかりに既にソッポ向いていた。
もしかしなくても…何処からか冷え込む視線送るモノの心情読み取り、素早く手を引いたのかもしれない。
ピオの本心が如何ばかりかは不明ではあるが、一応フレイリアルの勝ちで終わる。
無難に場が落ち着いた後…ピオは自身の役目果たすべく、状況探りにカームを引き連れエリミア王城へと向かう。
ニュールは皆に押し留められた結果として、青の間に残る。
慌ただしさの後…更なる騒がしさが過ぎ去り、其の後やっと訪れた…小ぢんまりとした味わい深き和みの時。
青の間中心部に据えられた応接用の長椅子に腰掛け、茶をすするニュール。
見た目は40代も暮れる頃合い…相応の落ち着いた感じ醸し出すが、実際の年齢で考えれば20代後半のはず…少々老成が過ぎるような気もする。
潤沢な魔力を浴びる環境に居続ける事で、少しは若返る感じが有っても良いはずである。
だが…雰囲気は、既に悩めるオッサンを卒業し…至高なるジーサンの領域に近付いている感じだ。
時を持て余しつつ…半強制的に青の間にて無為に過ごす姿は、オッサン的年齢傾向が優勢であり…其れに比べれば十分若いはずの実年齢を欠片も感じられない。
疲れているからなのか…見た目年齢に引っ張られ心が馴染んでしまったのか。
普段から忙殺される事を良しとしてきたので、短時間とは言え…此の贅沢なほどの無駄な時の流れを若干持て余しぎみに見える。
だが実際は…退屈している訳では無い。
気だるげにボーっと過ごしている様に見えるが、心の内に快適さ溢れ…何もしない時を満喫している。
他人の執務や…語らう姿見たとて大して面白くもないだろうに、其れさえも一時の安寧を実感する材料とし…ただ見守り楽しむ。
そんな中…予想外のモノが現れた。
視界に映るのは、何故か青の間に連れてこられている鎧子駝鳥のクリール。
飼い主であるフレイリアルと一頻り戯れた後、大人しく休んでいる。
青の間…窓近くの一角。
ポカポカの日差しの中…フカフカに整えてある空間に、光を反射し…鎧化出来なかった羽を輝かせ…癒しの御神体と言った感じでチョコリと鎮座する。
旅仲間でもあり…フレイリアルの命の恩人でもあるクリールは、サルトゥスの夜と言われるようになったフレイリアルが起こした魔力暴走事件で…魔物に変化してしまった。
元々羽が鎧化しなかったクリールは、他の鎧子駝鳥に侮られ…一緒にしておいても追いやられていた。
今は逆に、他の鎧子駝鳥が怯えてしまうので共に過ごせない状態なのだ。
城の裏手にある森に新設された厩舎で…完全に1頭で過ごす。
其の為、こうして時々青の間に連れて来るらしい。
高濃度の魔力満ち溢れる青の間も…魔物化による狂気を乗り越えたクリールにとっては、既に快適空間になっている。
「あぁ、お前とも随分と久方ぶりだな…」
そう言いながらクリールに近付き、頭にポスリと手を置くニュール。
此れは無意識で行う、ニュールの癖…のような行動。
だが…優しさ込められた暖かな手を認識したクリールも、置かれた手に向かい…自ら擦り寄る。
実際に触れてしまうと…少しお疲れ状態のニュールの心に対し其の感触は、抗い難き強烈な誘因力となり…押し寄せる。
げに恐ろしきは、フワモフ。
心囚われ…撫でつける手が止まらない。
持て余しぎみだった時の刻みは…まったりとした寛ぎで埋まる。
無意識に其の場に腰を下ろし、ニュールは離れられなくなっていた。




