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おまけ8 ピオの優雅で憂鬱な休日 12

ミーティと言う存在は、毎回余計な事持ち込む確率が…異様に…高い。


本人は至って普通であると言うが、少年っぽさを残す整った顔立ち…そして逞しく鍛えられた身体を持つ美丈夫。

しかも一部の強者を除けば敵無しの、魔力扱いと身体能力活用した…心強き武力まで操る。

其の上…気さくで人懐こく、万人と距離を近付ける天然の才能を持っていた。


此の生まれ持った幸運を、普通…と言ってのける鈍さ持つ。

ピオの様な恵まれぬ環境の中…手段選ばず立ち位置押し上げる努力をしてきた者にとって…反吐が出る…正統で…真っ直ぐな薄っぺらな者だった。

若干考え浅く…決して馬鹿ではないのだが、周りを見ず突っ込んでしまう所ある…放っておけぬ…放っておいては不味い存在でもある。


周囲にいる厄介な面々が、常に干渉し…世話焼き…関わってくるせいか、良きにつけ悪しきにつけ…何やかんや引き寄せてしまうようだ。


「ヤッベー、忘れる前に伝えられて良かった!」


あっけらかんと述べる。

ミーティがディアスティスより請け負った、ピオへの出頭要請を伝える使者。

伝言を受け取るピオの表情は、どう見ても芳しくないものだった。

まぁ…言動間違えれば命取りになるような将軍様、面倒に関わりたくないのは当然であろう。

それなのにミーティは自身の役目は果たした…とばかりに、悪びれる様子もなく…満足げに自分が溜め込んだ書類仕事を始めようする。


確かにミーティは…ただ伝えただけであり、何の非もない…のかもしれない。

だが全く相手の様子など窺うことなく、子供のお使いであるかの様に伝えただけ…と言う稚拙さは…手落ちであると責められないのだろうか…。

仕事として請け負ったのなら、伝えない訳にはいかずとも…伝える状況を鑑みる事は出来よう。

だが、ミーティは何も考えていなかった。

ディアスティスからの言葉を直接ピオの耳に入れた者、其れはピオにとって罪に値する…と判断された。


音もなく応接用の椅子から立ち上がるピオ。

ミーティが占領している補佐の者が使う執務机の横にいつの間にか立ち、其処に座るミーティの頭上から…ニッコリと冷ややかな笑みを降り注ぐ。


「もぉーミーティ君ってば…ボクの挫けた気持ちまで、怒りの炎で焚きつけ煽り…シーッカリ立て直してくれちゃうなんてさぁ…とーっても親切で…参っちゃうよ」


ピオの声音と、ボク呼び口調。

ミーティも…やっと自分の行動が、立ち入ってはならぬ…魔物の巣穴を踏み荒らすが如き行い…だったのだと自覚する。


気まずそうな表情浮かべ…取り敢えずシラを切り通すべく、書類から顔を上げず…真剣に臨んている姿勢を見せてみた。


「アッレー、ミーティ君はボクの声が聞こえないぐらいヤル気満々なんですねぇ。それならば師匠として…同じニュール様に仕える身として…私も付きっきりで色々と手解き…させて頂いちゃいますよぉ…」


魔物に狙われた小動物の如く…固まっていたミーティは、驚きと共に横に立つピオの顔を見上げ…小さく疑問の声を上げる。


「えっ?」


「提出予定の書類…今日中に仕上げてください。私が確認して不備が有ればその場でお返ししますので、其れを明日の朝まで繰り返し…完璧にしてスッキリ旅立ちましょう」


寝耳に水…と言った感じの驚くべき提案を受ける。

しかも微妙に突っ込みを入れたくなるような言葉付き、すぐ様問い返す。


「今日中にって…あと1つか2つ時しか残ってないじゃん! ピオって昨日…怪我してニュールに治してもらったばかりだぞ、絶対体に良くないよ。それに旅立つって…一体どこにだよ!」


新たなる裁定を逃れようと、必死に働きかける。

ミーティに降りかかるのはトバッチリと言う種類の災難、今まで以上に過酷な条件であり…回避すべく挑んでみた。


「ご安心下さい。何やら怪我の直後から…意識のないままディアスティス様が私の身体を御利用になられたようですし、昼時からお嬢様方に散々酷使されましたが…耐えられました」


ピオにきっぱりと却下される。

かなり気になるピオの発言内容を、ミーティが尋ねる勇気と機会は無かった。


だが…何ゆえ導かれた結果であるのか、理解し逃れられる様になるまでの道程は険しそうである。

其れでも…ミーティの今から明日の朝へ向けての、ピオの監督下で取り組む苦行が確定したのだった。 



ミーティから告げられた伝言に従い、ピオはディアスティスの元へ向かう。

だが執務室を訪ねるが不在であり、一応私室も訪ねてみた。

扉叩き名乗る。


「ピオでございます。ミーティから聞き及び只今参りましたが、御時間も御時間です故…ご都合によっては…明日また出直させて頂きます」


帰る気満々で声を掛けた。

後々の厄介事を防ぐには、一応聞いて直ぐ駆けつけた…と言う体裁が必要。


「あぁ、丁度良い…入れ」


其れなのに、ピオは招き入れられてしまった。

既に寛いでも良いような時の頃、夕時も終わり…侍女さえも下がる時刻。

言葉に従い、部屋に入り…扉の近くでディアスティスの対応を待つピオ。


何となく予想はしていたが、ディアスティスの恰好は…裸体に近き状態…薄布纏うだけの…あられもない姿。

寝台の上で上体を起こし書類に目を通している。


「ご用件を伺っても宜しいでしょうか?」


目の前のディアスティの姿に、動揺する事なく…ピオは淡々と用件の確認をした。

だがディアスティスの言葉は、昼時…意識取り戻した時に味わった衝撃が…ピオを再び襲う。


「此処に寝ろ」


ディアスティスは自身が居る寝台の上…真横をポスポスと叩き、ピオ招く。


「??? どう…言ったご用件でしょうか?」


「ごちゃごちゃ言わず、昼時の約束を守れ」


其の投げやりな指示に不満はあるが、ピオは一切の表情顔に出さず…無言で従う。

ディアスティスの横に行き、指示通り寝台に寝そべる。

すると徐に…裸体が透けて見えるほどの薄き布纏う艶姿のディアスティスが接近し…ピオの体の上に跨る。


「???!!!」


ピオは絶句したまま仰天する。

視界上方に存在する薄布の中で揺蕩うものが、ピオの心と視線を縛り付ける。

昼時の見下ろすような状況と反対の、見上げるような角度からの眺め…甲乙つけがたい絶景であった。


客観的感想…を思い描いてみたのは、激しい動揺故の現実逃避…必死に平静装う。

夕時近くまで…お嬢様方に中途半端に甚振り弄ばれたばかりであり、簡単に熱を帯び…昂る状態。

其の様子に気付くディアスティスは、少し楽し気に…妖しい微笑み浮かべながら…頬にてを伸ばし触れ…告げる。


「ふふっ…吝かでは無いと申したが…望みとあらば…心行くまで挑もう。だがまずは…確認させてもらう」


その言葉と共に、スルリと足を撫でさする。

そしてピオの着衣を乱し…腹及び下腹部を曝す。


「なっ!!!」


いきなりの所業に平常心という仮面が脱げそうになる。


「うんっ、腹の傷は問題ないようだな」


ピオの負った傷を確認したようだった。


「では…」


其の言葉と共に、ピオは一瞬にして俯せにされ…刹那激痛が走る。


「うがぁああ!!」


「ほう…この意識水準で施すと苦痛となるのか…では此方は…」


「うぎゃぉぐぅぅ…」


ピオから叫び声しか上がらない。


「こ…これは攻撃技…で…すか…?」


「いやっ…違うぞ、整体…とでも言うのか? 苦痛は伴うのだが。体を整えるのには非常に有効なんだ」


苦しい締め技掛けられているような体制のまま、ディアスティスの説明が続く。


「此の様に…各筋組織や関節…骨…などに適度な…すこし強めの負荷を掛けつつ…伸ばしたりして調整すると、魔力回路の流れが円滑になり…病や負傷からの回復が促進されるようなんだ。お前は身体系の理論を好まないようだから流してしまったんだろうがな、ヴェステでも良く被験者募って研究していたんだぞ」


ちょっと嬉しそうにドヤ顔みせるディアスティス。


「お前のような筋組織に沿って魔力回路が異様に発達している型の者は珍しくて、以前から気になってたんだ。だからついでにチョット…いやっ相当か、体を使わせてもらった」


「???」


「いやぁ…効果は有るんだ。だが如何せん耐え難い痛みを伴うものでな、皆…拒否するんだ」


若干声の調子がいいわけじみてくる。


「本当に確かな効果は有るんだぞ!」


「それで私の体を使って、一晩中…施術されてた…のですね」


ディアスティスとの夜通しの悩ましきアレヤコレヤは幻想だったようだ。

シラッとしたピオの対応を感じ、更に言い訳するディアスティス。


「弱った身体を調整するにはもってこいなんだ。それに傷の治療で昂ぶり惚けている状態なら、痛みさえも快感に変わっていたのだろ?」


意味深に尋ねるが一切、ピオの記憶にはない。

ちょっと期待外れ感を持ったピオだが、イタシテない…との言質が取れ…負い目が消えた分…弱みも消える。

気分スッキリ心の防御結界を築こうとした瞬間…俯せ状態の身体に、柔らかく優しい重みが加わる。


顔を横向け確認すると、今まで背中に腰かけていたディアスティスが四つん這いになりピオに覆い被さり…軽く乗っていた。


ピオの逃げ腰な態度を読んだのか、ディアスティスの雰囲気が…妖しく危険孕むものへと変化した。

まるで…しなやかなる美しき狩猟型魔物が、捉えた獲物を逃さぬよう…周到に退路を断つかのような行動を取りはじめる。


「私とて…同意なき…意識がない者を襲ったりするほどの好き者ではない…」


ディアスティはピオの耳元に唇近付け…囁き、ゆっくりと横たわるピオを表返す。


「だが…意識もあり…やる気ある若者を見逃してやるほど、欲無き善人…と言う訳でもないんだ…」


反論や拒否の言葉を紡ぎだす前に、ピオの口は塞がれた。


その後何が起こったかは…御想像にお任せしよう。


だが…宰相執務室でピオを待つミーティが朝までゆるりと呑気に過ごしていた事、ピオがディアスティスの呼び出しに赴き…夜通し戻らなかったのは事実である。

翌日…周囲に作意無く吹聴して回るミーティが、ピオの更なる怒りを買ったことは確かだった。


休みが休まらないものであるのは世の常。

人からしたら、飛び切り豪華で優雅な休日でも…休む者にとって休まらないなら…憂鬱で疲れる休日にしかならないのだった。





おまけ話のチョットだけおまけ話~


お嬢様達が…自身の行動と…信念と…思い、そして趣味嗜好に走り…ピオを追い詰めることで事で勝ち取った…譲歩。

1人1日を使用して2人で過ごす約束。


最初はウィーゼとの2人で過ごす休みが訪れる。


ウィーゼ希望の魔物狩りには行けなかったが、雰囲気の良い庭のある菓子処を貸し切り…屋外に敷物広げ2人並んで座る。


ピオがお嬢様方を虜にするのは、相手の好みを熟知し尚且つ新鮮な驚きを与える卒のなさ…相手の心読むかの如く対応する完璧さと小粋さ…そしてピオ自身は何処までも悟らせず奥深い。

…其の最奥には、魔物が住んでそうな闇を感じさせる。


そんな読みきれない所が相手の執着を呼び、捉えて離さぬ。

癖になる…と言うのかもしれない。


「でも凄いよね…あんなにされてたのに…ピオが我慢し続けるとは思わなかった」


捕縛計画そのものに…一番ノリノリになっていたのはウィーゼである癖に、耐えたピオに感嘆の言葉を告げる。


「皆さん其々に興じ昂ぶる姿が美しく、其のお姿を力に…責め苦に身悶えしつつ…忍耐力を駆使し…力振り絞り乗り切ったんですよ」


お嬢様達を誉めそやし、持ち上げるピオ。

だが、続くピオの言葉はウィーゼにとって予想外のものだった。


「ただ…我が君から与えられた昂ぶりに比べれば耐えられる範囲なのです…」


ピオの述べる内容に大変興味を抱くウィーゼ。


「新しい国王様?」


「えぇ…我が君は口付け一つで此の世の至福を与えて下さるのです…」


お嬢様方には現在の素性は伝えてある。

自身の力量のみで繋がり築きはしたが、隠すようなものでもない。

信用裏切る者ならば、自身で始末つけるのみ…。


「えっ? 男の方なのにピオに口付けるの?」


「我が君が施す恩寵に、男女の別など有りません。生命枯渇する寸前からの救いは、万人へもたらされるのです」


少し訝しげな顔をし、新たな宗教に入ってしまった人でもみるようにピオを見つめるウィーゼ。

実際ニュールを教祖とした…新興宗教じみたものの布教活動中…とも言えるピオの言動は、相当に怪しく危ない。

普通…一緒に過ごす相手が此のように何かに心酔してしまった殉教者の様な者なら、共に信奉する事ない限り御免被りたい相手だと思う。


だが割りきっている上に…ちょっとだけピオに盲目なウィーゼは、気にせず興味を示す。


「それって気持ちの面からでなく、肉体的なものとして?」


「全てです…。我が君は、心も身体も至高の世界へ導いて下さいます…」


完全に相手を引かせるような答え。

神など信じなさそうなピオに、神と崇められる存在。


「何か凄ーく気になるなぁ…」


其れなのに…思わず興味を持つウィーゼ、くすぐり方は…心も身体も秀逸なよう。


ニュール語りをしたいのは山々であるピオだが、今が目の前のお嬢様と過ごすべき時…であるとピオは心得る。

しっかりと軌道修正し、小粋に華麗な所作でお嬢様をもてなし始める。

お茶を進め菓子を食べさせ…甘く囁く。


「…ですが…取り敢えず、この前は熱い思いを皆様に捧げて頂きましたので…今度は私から…お返しさせて頂きます。ウィーゼさんへ…我が君から賜った恩寵に私の昂る熱き思いを込め、貴女に届けます…」


そう言ってさりげなく…ウィーゼの頬に優しく触れた後、自身の口で塞ぐ。

此の前のように我慢することなく…自らの意思で行動し、濃厚な口付けに…昂る思いを注ぐ。

自身が向けた思いに対し、相応の思いが戻らぬと知りつつ…ウィーゼは瞬間だけ高まるピオの熱き思いを受け入れる。

そしてピオはウィーゼを絡めとり、2人して至福の時の中へと沈む。

2人は…交感し循環する思いと魔力を、存分に楽しむのだった。


ピオの中にある憂鬱さは消え、優雅な休日を取り戻す。


其の後毎週…其々のお嬢様達と公平な時を過ごし楽しむが、何故か毎回同じ事を問われ…同じ流れでニュールを語る機会を得るピオ。

水を得た魚のように語り尽くす。


1巡目のお嬢様方との逢瀬を終える頃、何故か巷に…新国王ニュールニアの新たなる噂が加わる。


「新国王は男女見境なく食い漁る真の魔物であるが、至福のような…極上の快楽を味合わせつつ…死の底から魂救い上げる神なる力持つ。そして…信奉する配下に対しては…悦楽の極みを見せ、最強の力を与えてくれる魔人である。勇気ある者は王城を訪れ試してみるのも一興…極上の夢を見る事叶うやも知れぬ…」


この噂に踊らされた男女が、幾人も城を訪問する出来事が…有るとも無しとも…真しやかに語られる。

お読み頂き有り難うございました。

小さな小さな暇潰しぐらいにはなれたでしょうか?

また…おまけも、その他も…出来たら本編続きも…色々と書いてみたいと思います。

御時間も御都合も宜しいときは、是非お立ち寄り下さい~

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