おまけ8 ピオの優雅で憂鬱な休日 10
周囲に勘付かれないよう…ピオは極少量ずつ慎重に体内魔石の魔力を動かす。
極細い糸のように導き出し…糸吐く魔物が罠づくりをするように…繊細に探索魔力の網を広げていった。
『変な所で引っ掛からないと良いのですが…』
通常探索魔力を扱う時は、外部魔石の魔力を導き広げる。
其処に体内魔石の能力を追加して範囲を拡大するのだ。
探索の範囲は…十分な効果ある魔石使うなら賢者なら50キメル先の大まかな動きを察知出来るが、詳細な動き捉えるならば1キメル内…と言った程度である。
防御魔力など立ち上げられていれば、場合によっては10メルさえも探れない。
体内魔石の能力は人それぞれだが…ピオの場合、魔力扱いは優秀だが…内包魔石は飛びぬけて優秀なものではない。
それでも通常賢者より優秀な魔力扱いで、高位魔石内包者に勝るとも劣らぬ能力を発揮してきた。
70キメルの範囲は探索できるし…3キメル内の詳細な動きも探れる。
但し…自身の体内魔石だけでは、大まかな探索でも5キメル、詳細な探索を行うのなら50メル…条件によっては其れ以下になってしまう。
今回の探索は障害物もなく成功したが、役立つ結果は得られなかった。
把握できた現状は、先程の店の敷地内別棟…其の一室に移動させられたと言う事。
そしてお嬢様方も一緒に移動したようであるが、介入する者の存在は特に確認できない。
探索で知ることが出来たのは其れだけであり、他の事柄について不明のまま終了する。
…と言うよりも…ひと気の無い建物ではあるが…荒れすさんだ様な場所ではなく…手入れの行き届いた…全く問題のない…不信さの欠片もない…健全な場所であるため、探りようがなかったのだ。
…お嬢様達は同じ部屋には居ないが、続き部屋である隣室に居る事も分かった。
「…いあぅうううい??」
『…一体何のために??』
言葉にならない言葉を音として発してみるが、答える者は誰も居ない。
ピオは困難な状況の中、ありとあらゆる状況を想定し…思考巡らす。
此の様な状況もたらす一般的な原因として…悪意を疑うが、周囲から感じられる…敵意も無ければ…殺意も無い。
むしろ…嬉々とした好意…? と、興奮…? が感じられる。
最後に目にした状況から考えても、捕らえられてはいるが命に関わるような何かに巻き込まれた…と言う訳では無さそうだ。
ふと…自身が捕らえられた時のお嬢様達の言葉を思い出す。
『…お仕置き…って事でしょうか…』
其の事に思い当たったせいか、若干寒気を感じるピオ。
だが其れ以上に最大の違和感が…先程からずっと全身を支配し感じられ…気になって仕方がない。
目覚めた時から、何とも言えぬ心もとなさを覚えてはいたし、衣服に忍ばせてある魔石の反応がない時点で分かってはいた。
『もしかしなくても…コレッて…着衣が奪われている状態…ってこと…ですよね』
ピオをゾワリとさせた忍び寄る寒気は、此方のせい…だったのかもしれない。
体感的なもの?
手足拘束され視覚も奪われているため確認しようはないが…昼時前に続く2度目の感覚であり、素肌が敷布に触れている感覚や…被せられている上掛けの感触が…肌に直接伝わってくる感じは…間違えようもない。
全ての覆いが剥がされている一糸まとわぬ感覚である。
『何故…またしても此の様な生まれたままの素の状態?? しかも拘束されてるって…更にエグイ状況じゃないですか…』
別にピオが裸族…と言う訳でもないし、所かまわず脱ぎ曝す性癖が有る訳でもない。
増してや自身の身体に自信持ち、肉体美を披露したい訳…でもない。
『ミーティ君でもあるまいし…』
ピオは、美しき筋肉纏うミーティの肉体を嫌悪する。
悪びれず…所かまわず肉体美曝すミーティに対し、瞬殺できそうなぐらい鋭い憎悪の視線を送る。
秀逸な筋肉…肉体美を撲滅するためなら、地下に潜り殲滅計画を実行するための組織作り上げそうな者。
出来るなら顔同様…自身の身体についても、出来るだけ放っておいて欲しいのだ。
『まぁ、理屈通り…手順通りではあると思いますがね…』
現状に不満はあっても、此の状況には理解を示す。
人の着衣を剥くなんて…大変不躾で破廉恥な行いであるが、敵や賊の拘束時における手堅い措置…である事は認める。
ピオとて敵を…捕縛したのなら、拘束する環境によっては…男女問わず同じ処置をとる…かもしれない。
若干…倫理観欠如した行いではあるが、理にかなった…対処ではある。
隠密系職や戦闘職の内包者ならば、各種魔石を衣服に散りばめ…いざという時に備えている。
だから完全に反撃する機会を奪うのなら、着衣まで徹底的に排除するのが正解…なのだ。
もっともプラーデラでは、表だって内包者である事を明らかにする者は未だ少ないので…実際に遭遇することなき状況へのウィーゼの対処は…学習による成果なのであろう。
ピオは完全に自由を奪われた状態であり、今…刺客が訪れたのなら…抵抗することも出来ず…一瞬で片が付いてしまうであろう。
他者に完全に活殺委ねられた…惨めな状況。
朝とは比べ物にならない危機的事態であり、生存本能が研ぎ澄まされる。
…はず…なのだが、お嬢様方からの害意が無いため間抜け感この上ない。
『はぁ…何で此処までするんでしょう…』
お嬢様達の…無鉄砲で無謀なピオ拉致計画は、見事成功していた。
今回陥っている状況は、悪意とは程遠い…好意から招かれた非常事態。
ある意味モッテモテであったが故に押し寄せた…災難とも言える。
本人自身の評価とは裏腹に、ピオは…一部のお嬢様に…あらぬ行動を起こさせる "執着" 生み出す魅力…を持つようだ。
ピオが持つ、目に見えぬ優秀さに? 醸し出される危うさに? 微妙に感じられる可愛らしさに? 何かを感じ取り魅了されるお嬢様方が此処に実在した。
そして集うことで危うき道を手を取り合い…渡ってしまったようだ。
もっとも…躊躇なく道なき道に踏み入ってしまうようなお嬢様方だからこそ、ピオに親しみを感じ…愛着を持ち…度が過ぎる遊びに突き進んでしまったのか…。
蛇が先か卵が先か…どっちもどっちな話だ。
少しずつピオを絡めとる執着が、お嬢様方の心の内に形成されていたのか…。
ただし今回のお嬢様方の謀が成功したのは、ピオ自身が分析したように…一重に油断と甘さと侮りによるものである。
『私も相当に甘ちゃんになってしまったようです…。もし…此のお嬢様方が殺意なき殺意を抱ける者達だったのなら…最悪の状況でも…甘んじて受け入れましょう』
ピオの心の中に…達観に近い思いが出来上がった時、隣の部屋からか…お嬢様方が移動してくる音がする。
そしてピオが居る部屋に人の気配漂う。
視界塞がれる中、何をされるか…何が待っているか分からない緊張感がピオを満たす。
お嬢様達の目的はさっぱり読めないが、ピオ自身が目的であることは確かである。
『いざと言う時は…』
自身の甘さ削ぎ落し…中途半端な緩い環境から飛び出す覚悟持ち、変化の時を待ち受ける。
だが…お嬢様達が入室した事で訪れた変わり目は、ピオの予想とはかけ離れたものであり…想定外の事態が続く。
まず外された目隠し…其の中から現れた…決して大きいとは言えないピオの目が、大きく見開かる。
瞳の中に映る美しき4人のお嬢様達は、狂おしい程の艶麗な笑み浮かべ…ピオに妖しく優しく語り掛けた。
「大人しくして頂ければ、決して手荒なことはいたしませんわ」
「きっと楽しい…と思うんだ。意外と癖になっちゃうかもよぉ」
「ちょっとは苦しいかもしれないけど…大丈夫だよ…」
「痛かったりはしないからさ」
お嬢様方が口々にする声掛けが、微妙な恐怖を生む。
少しずつ…ピオの目に映るお嬢様達の瞳に、狂気孕む嬉々とした色が深まる。
そして、ピオを取り囲むお嬢様達から次々と手が伸ばされ…ピオは…。
目隠しの後に解かれた拘束…猿ぐつわ外された口から漏れ出るピオの哀訴の言葉は、切実な思いが込められていた。
「っふはぁぁぁぁん、あぁ…はあ…おっ…お願いですからぁ…ふはぁひあぁ…勘弁して下さいひぃ…」
身をよじり悶え苦しむピオ。
相当に情けない姿だ。
御大層な決意をして臨んだお嬢様達との対面だったが、お嬢様達からの責め苦により…見事に気持ち挫かれる。
ピオは呆然とした表情で脱力したまま顔を横向け、涙ながし…涎たらし喘ぎながら切なそうな声で懇願する。
既に息絶え絶え…と言った風情に見える。
周囲を囲むようにしてピオが拘束されて居る寝台に腰掛けるお嬢様達は、必死に懇願するピオを見下ろしながら…楽し気に上掛けをごく一部しかかけてないような全裸のピオに触れ…撫で付ける。
「ピオがいけないんだよぉ…」
「そう…悪い子にはお仕置きが必要だからね…」
「そうそう…まだまだ楽しませてもらいますわ…」
端から見たらお嬢様達に囲まれ色々と弄ばれてる状況、羨ましきにも程がある…と言った様に見えるかもしれない。
「次は誰の順番?」
「私です…」
「どんな感じで遣っちゃう?」
狂気を宿した瞳でピオを上から見下ろし、ウィーゼは舌舐めずりをする。
お嬢様達は激しく興に乗り、歯止めが利かない状態のようである。
「…今になって…何だかちょっと恥ずかしいです…」
赤き熱きお嬢様のスーレが、ピオを散々弄んだ後だと言うのに今更のように恥じらう。
「大丈夫だよ…折角だから楽しまないと…」
「これで2巡したかな…、3巡目はもっと凄いことしちゃおっかなぁ…」
やはり一番ノリノリなのはウィーゼの様である。
周囲にはあられもない恰好の衣装が散らばる。
「非常に…十分に…反省したから、もうっ…許して…下さいよ」
少し息が整ったのか、ピオが再び懇願する。
「ダーメっ! まだ遣り尽くして無いんだから頑張ってよぉ…」
「仕方がないですわね…。ではご褒美もあげますから…もう少し頑張ってみてください。まだ私たち満足できませんの…」
そう言って優雅な薄紫の髪を持つ美神の如きお嬢様へスタレスアが、何かを口に含み…ピオに口付ける。
「ほーらっ、良い子ですね…。美味しい上に私が口付けて与えたのですから…有難く頂戴して下さいませ」
「あらっ、私も…」
口の覆いは外されていたが、手足の拘束は未だガチリと固められた状態。
お嬢様方は代わる代わる、甘くねっとりとした口付けを…一方的にピオに与える。
されるがまま、自身の状況に呆れつつ…甘んじて受け入れてしまうピオ。
そして…次の周回へ進む前に罰を与えるお嬢様方、深い情けを持つが故…情け容赦無くせめ立てるのだった。




