おまけ7 残されたモノ~残念王子が描く夢 1
本年も宜しくお願いします
サルトゥス王国の王都にある時の神殿では、時の巫女により定期的に "先き見" が行われる。
時を先んじて読むことで、今まで様々な危機を回避してきた。
過去最大の災厄…後に大事変と呼ばれる様になった世界に降りかかる異変も予見する。
「この都市に…世界に…圧倒的な…抗いようのない純粋な力が、聖なる輝きを放ち…無慈悲に審判下すべく現れるでしょう。選別の時…、導きに従わぬ者は逃れ得ぬ力により…振るい落とされるのです。直ぐに王城へ…神殿へ皆を導いて下さい。守り強き此の地が、我らに対し時の神が赦した…安寧を得るための唯一の場となることでしょう」
時の巫女が受けた天啓を神殿が宣布し、更に王家が避難勧告として改めて発した。
「巫女が受けた天からの啓示に従い、王家は王城を開放します。速やかに避難してください!」
天からの導きの言葉は、忽然と現れた破壊的大魔力の襲来や…大自然が引き起こしたかのような大地の歪みなど…想像を絶する力から逃れる猶予を作り出す。
それは…多くの民へと手を差し伸べる機会を生み出し、守り救う結果へと繋がる。
大事変が起こる1の月程前、弑逆と言う形での…王位簒奪劇が繰り広げられたサルトゥス王国の王家。
首謀者となった皇太子は…謀反を起こすより以前にあった、サルトゥスの夜と呼ばれるムルタシアの闇神殿で起きた魔力暴走事件に巻き込まれていた。其の時点で皇太子と一部の側近達は、命運が尽きる…はずだった。
だが、膨大な魔力に飲み込まれ…生命の根源へと届く回路の…最後の糸が切れる瞬間、皇太子の器の命が繋ぎ直される。何処からか…何者からか伸びてきた魔力が、奥底で回路を繋ぎなおし…皇太子と言う高貴な身分持つ…中身の無い空虚な人形を作り上げたのだ。
繋ぎ止められ…操られるだけの傀儡となり、何者かの手足として…王宮に放たれた。
通常の人形は、繋がり操られぬ限り…反応の薄さが人とは程遠い。
巧みに操られていた様ではあるが、硝子目玉をギョロリと動かし…明らかに人形であると分かる虚ろな表情を浮かべる事もある皇太子。
見破られ、操る者が繋がらぬ隙に…捕らえられ…人形として拘束される。
外部から操られる事を防ぐため厳重な結界の中へ閉じ込められ、隔絶された空間で操る力持つ者に接触することもなくなり…生ける屍の如き状態に陥る。
処罰も処分も出来ず…ただ人形として生かし留める中、突如として皇太子人形が変化した。
まるで人として戻ったかのような切なる表情浮かべ…世話していた監視する役目持つ侍女に問いかけてきたのだ。
「…何が…起き…た?」
虚ろな状態で動いていた皇太子人形だったのに…決して外部からの干渉受けぬはずである厳重な結界の中、ぎこちないながらも…意思持つ表情で相手の反応を待つ。
「…まっ…魔力暴走にっ…巻き込まれたようでございます」
突然活性化した皇太子人形に、1人の侍女がオドオドしながら答える。
其の答えを聞きながら、正気を取り戻した頭をハッキリさせるかの様に…首を一振りながら虚ろに座っていた場所から立ち上がる。そして普通の人間の如く…キョロキョロと辺りを確認しながら述べる。
「あぁ、もう大丈夫だ…普通に動ける。だから自分の宮に戻らせてもらうぞ…」
「そっ…それは…国王様に確認を取らせて頂きたいと…お体の事を気遣われ…こっ…この部屋の内にて必ず休んでいて頂くよう指示が出されております…」
侍女からの制止の言葉に、皇太子人形は…驚きと…苛立ちと…口惜しさと…怒りと…人形らしからぬ千変万化する思いを顔に浮かべるも、感情抑えるように再度伝える。
「…心配や…誤解を与えてしまったようだな。だが…この監禁まがいの…不当な扱いが…本当に国王の御意思なのか?」
淡々と問い質しながら、閉じられた空間に拘禁されていることを確認し…少しずつ抑制がはずれ…昂っていく。
「私は此所から出ると言っているのだ!!」
冷静に抑えられていた感情が溢れる。
「そもそも、あの夜、私は操られていたんだ! ムルタシア神殿に導かれ…知らぬ間に襲撃者にされていた。仕組んだ者を捉えずに私を留めることは、真の謀反人を利する行為だ!!」
皇太子は硝子目玉に狂気を宿し、憂い漂う悲痛な面持ち浮かべつつ怒りをぶつける。生気漲る眼光放ちながら周囲を見渡し、自身が謂われなき扱いを受けていることを訴え…解放するよう激昂する。
「一体どう言う事なんだ!!」
様々な感情見せ、周囲を糾弾するように叫ぶ。
本物の人に戻ったかのように見えたが、瞼の中…硝子目玉が煌めく。
魔力の扱い長けた賢者が、一時的に自身の意思を人形の中に移し人形を克明に…人の如く動かす事は可能である。
しかし、実行するには高度な魔力操作が必要であり…操れる時間的制限など様々な制約がある。
皇太子が感情露わにする姿は、明らかに…人形とは掛け離れた…生命力溢れる確固たる存在に見えた。他者から操られ動いているようには見えないし、操られている人形とは一線を画する…常に自身の意思を持ち判断を下せる…人と見誤りそうな反応をするモノになっていた。
普通の…人と言う生物以外の何者でもないかのようだ。
人ならざる者が持てぬ複雑な心の動き示し…人形として今まで見かけたことのない特別な状態には見えるが、変化した者が持つ妖しげに不確かな光を宿す硝子状の瞳を失う事は無かった。
其の微妙で不確かな存在が、言葉巧みに…閉じ込められた結界より脱出し…行動を起こす。
人形であるのに、命じられるのではなく…まるで本人の意思持ち行動したかにように…弑逆を完遂した。
「…お…お前は…お前達は何を望み…何の為に事を起こしたのだっ…」
葬られた王の最期の言葉。
事後…王位示す玉座に尊大な態度で着座する皇太子の姿をしたモノが、王の最期の問いに対し…不敵な笑み浮かべ答える。
「我が意のままに事を成しただけ! ははははっ、あはははははっ!」
物言わぬ古き王の骸が転がり、新しき王の笑い声が不気味に響き渡るのだった。
数日後、王位に就いた皇太子に対峙した者が目にしたのは、既に明確な回答返せぬ…ただ命令に従い動くような普通の人形だった。
結界により外部との繋がり断つ空間、時の巫女の指示で日常の行動のみ行い動く人形が…無表情に活動していた。王の座を得た特別な皇太子人形から中身が抜けてしまった。
事を起こし…新王となった意思持つ自動人形は、知らぬうちに…再びただの傀儡へと戻っていた。
糸を引くモノが存在するのなら…王位を手にした最高級の…特別な人形を手にした事になると言うのに、一切の躊躇無く切り捨てられ動きが止まる。王位など目に留めることも無く、混乱…のみを目的としているかの様な潔さ。
面白さのみ求めたのでは無いかとさえ思える、執着心の欠片も見えない選択。
重要ではない…と判断された駒は、操りしモノにあっさりと見放され…壊れた玩具の様に捨てられる。
通常の空虚な木偶へと戻った皇太子人形は、生き長らえさせるための繋がりまで切断され…血塗られた玉座の上に遺棄されたのだ。
結局、皇太子人形操りしモノが何処から繋がったのか…通常は賢者でも難しい人のような常に意思を感じられる人形を作り出したのか…は不明のままとなった。
「この木偶の処遇は如何いたしますか?」
「今はまだ此のモノが必要です」
唯一残る判断を委ねるべき存在は、王女の地位を持ち…王の相談役も務めていた…時の巫女リオラリオだった。
かろうじて必要と判断された…王となった皇太子の器は、巫女に再度人形として命繋がれ…生き長らえる。国を維持するための道具として、此の世界の内に留まらされ…利用される。
「王の血統とはいえ、あの様な醜態晒す者が血筋に現れるとは…如何なものなのでしょうか?」
「アレを王と呼んで良いのでしょうか?」
「何も本物の人形を使わずとも、自由になる者など山程在ろう…」
口にしてはならぬ言葉を口にするものが現れ始め、当然の如く騒めきが増す。
…城の中…王家に献身捧げる者達の中に、其の状態の国王に対し…其の傀儡を王位に留まらせる者達に対し…不信と疑念が高まる。
他国なら…とっくに権勢誇る他の血筋の者が現れ、国を受け継ぎ正しく導いたかもしれない。若しくは内乱が勃発していたかもしれない。
サルトゥスが中途半端な状態ながらも反乱が起きず…国として維持されたのは、此の国の王家が…王家たる所以を持つため…。サルトゥスの魔力源となる闇石扱うために有用な…賢者の石と適合し扱うための能力、器としての性質を代々受け継いできたからだ。
有用な器質を保つために改良維持してきた、贄…とも言える血筋。
事情を把握する国の中枢に在る者達は…王家の揺らぎに目を瞑り見ぬ振りをするが、理由知らぬ周辺の力有る者達は…王家に不満を募らせる。
日に日に強まっていく疑心…衰える求心力…崩れ始める忠誠心。
王家への尊崇は有って無きに等しい状態であり、非常時に強権を発動出来る統治体制とは程遠かった。
心騒めき…積み重ねられる不信の思いが、王都の民衆の中にも疑心生み出し…反発する者が現れる。
恐ろしい出来事起こる可能性に対しての善意ある勧告を、悪意による強制…と受け取る民の出現。
示した未来への道標が、目に入らない者…目を背ける者…。
欲に目がくらんだ者は…益に走り警告を無視し、王国の体制に対し斜に構えて様子窺う者も…束縛を厭い自由を主張する。自身の掲げる主義主張を誇示し、根拠薄き布告…と反発をする者達が保護の手から少しずつ解離していく。
危機を避けるために…諫め導く程の力は、此の不安定な状態のサルトゥス王国には残っていなかった。
あと数刻で1人のモノが導いた世界への粛清が下されるという時、己が望む状態しか信じない者は…傾けるべき耳を持たない。
「危険が予知されているので、どうか王城内へ避難して下さい」
「何の根拠もない状態で商売放り出せるか!」
陽光の如き光を放ち…都市上空に留まる不可解なモノが現れてから…告知した啓示である。今まで目にした事の無い…怪しさ漂わせる現象であると言うのに、警告の言葉が届かぬ者達は消えぬ。
「あのような謂れ無き言葉に騙され、業務放り出すことなど許さん。逃げたら此の先は無いと思え!」
逃げようとする雇われる人々を恫喝する雇用主。
「どうか、せめて今日だけでも警告聞き入れて下さい」
善意のモノからの導きが虚しく響く。
「何が起こるかなんて分かるわけない!! 誰が損失を補償するんだ!」
王城や神殿から市中に御触れを出す者の言葉が空転する。
「神殿や国の戯言に付き合ってたら商売あがったりなんだよ」
異議を唱える者達は、救いとなる助言を顧みず…其れに従わざるを得なかった者共々…容赦無き裁きの襲来とも呼べる…天災の様な事態を身をもって受け取る事になった。
真摯に耳を傾けた者達は、安全を優先し…素直に従い…救われる。
巫女を…王家を…天啓を侮り、我を貫く者達は…容赦なき力の奔流に飲み込まれた。
引き続き、おまけ話での投稿になります
今年も、少しだけ楽しめる暇潰しになる世界を目指してみますので
お時間頂けると嬉しいです~




