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おまけ6 フレイリアルの小さな悩み 3

頭を撫で付けられながら…小動物の様に膝の上に乗せられているフレイリアルに、リーシェライルは柔らかく微笑む。

グレイシャムと言う器を使っている状態であり…本来のリーシェライルの身体とは別物であるのに、リーシェライルそのものに感じられ…安堵と安らぎが広がっていく。


だが此の膝の上にちょこんと乗せられた状態、少し落ち着き考えてみると…とてつもなく恥ずかしくなろ。その場所に留まっていること事態、落ち着かない気分を引き起こす。

故に気を紛らわすため、フレイリアルは強気に猛々しく主張してみた。


「私は個人的にアイツが大嫌いなの! 奴みたいに人に嫌われる程嫌な行動する人間になりたくないだけ。リーシェに制裁をお願いするつもりはないし、もし遣るならば…遣られたときに自分で遣り返す!!」


勇ましい宣言ではあったが…膝の上から脱出することは未だ叶わず、しかもフレイリアルを支える腕が腹に巻かれている様な状態…説得力が半減する。

ピオに対する憤りを露にしてはみたが…何とも格好がつかない状態。

まるで厳重な結界の中で大切に守られているのに、騒いで暴れる聞き分けの無い…小さな子供になったような気がした。

フレイリアルは自身の無力さを実感する。


フレイリアルは多少嫌な事を言われたり遣られても、制裁をしようとは思わない。

その場で反撃する事はあっても、後から仕返しをしようとは思わないし…誰かに仕返しを依頼しようなどとも決して思わない。

そこまで誰かに執着するつもりもないし、その場で遣り返す機会が逃したのなら…むしろその後は自身の思考から排除してしまいたかった。

元々フレイリアルも、他の大賢者同様…特定の者以外への関心は薄い。


『アイツへの嫌悪に…自分が目指す未来が遠く険しい道である事への憤りを一緒に乗せてしまい…凄く腹が立ったのかも…』


自己分析が出来るぐらいには気持ちが落ち着いてきた。

リーシェライルはそんなフレイリアルの様子を見守りながら、返事を返す。


「そうだね、報復はフレイの思う通りにすれば良いよ。まぁ、嫌な事する奴は当たり前に嫌悪するよね…人が嫌がる行動控えるのが常識だもの…」


其の表面的な同意の後、リーシェライルは本音を付け足す。


「…だけど僕は、…たとえ全ての者に誹謗され…悪意向けられる悪い事しなければならないとしても、それでフレイが…君が傍に居てくれるのなら…どんな悪しきモノにだってなれるよ。フレイが僕の幸せはフレイそのものなんだ…」


リーシェライルの真剣な言葉に、驚きながらも…フレイリアルは信愛の情が溢れる視線で答える。リーシェライルも、最大限の愛情を込めた瞳でフレイリアルを見つめ返す。

フレイリアルの小さな心の傷が、少しだけ埋まったのかもしれない。

瞳の中の揺らぎが完全に消えた。

其れを確認したリーシェライルは、ピオを最適な症例とした説明の続きを始めるかどうかフレイリアルに確認する。


「…先程の話だけど続きを聞く?」


リーシェライルの問いかけに無言で頷く。


「フレイは大嫌いな様だけど…一番分かりやく体現している者だから、あえて例として用いるのを許してね」


少し不満そうではあるが、黙認する気になったようだ。


「じゃあ、面白い事実から…。彼、あんな感じだけど…女性からは結構人気があるはずだよ!」


リーシェライルが予想外の内容で切り込んできた。


「あんな奴がそんな訳…んっ?!!…えっ何でなの??」


フレイリアルは思いきり否定しようとしたが、ふと…ヴェステでの…ピオの姿入る嫌な記憶を思い出した。その中に…侍女達がピオへ熱い眼差しを向けているのを見て、大変訝しんだ…と言う記憶が残る。

その時は唖然とし…必死に願った。


『こんな悪どい奴に騙されちゃ駄目だよ! みんな正気に戻って!!』


嫌な思いして出向いたヴェステではあったが、其処に働く侍女は予想以上に良い人達であり…一層混乱した気分になった覚えがある。

過去の記憶の詳細を振り替えっている、リーシェライルが更に続ける。


「まず見た目は、ごく普通の青年だよね。目に止まる程の美男でもないし、目を背けるほどの醜男でもない。筋骨粒々…と言った男性的魅力があるわけでもなく、あの実力の割には…むしろ非力そうな感じだよね」


表面的にはまさしく…リーシェライルが分析した通りだった。


フレイリアルにとっては "言動が腹立たしく気持ち悪い" と言った感じの、即刻踏み潰したい嫌な奴。見た目が悪い訳では無いが…凄く良い訳でもなく、極普通である。

そんなピオの… "モテる" と言っても過言ではない状況、ヴェステ王宮で見かけた時の侍女達からの人気ぶり。

フレイリアルにとっては全く解せない状態だった。

近付きたくも…近付いて欲しくもない、嫌悪以外の感情持てぬ相手であり…最低の奴…としかフレイリアルには思えない者。

それがフレイリアルにとってのピオであった。


ピオ…と呼ばれる者は、現在はニュールの下…プラーデラ王国で宰相務める。


元ヴェステ王国の裏の仕事背負う組織である…場末の高能力者集まる "影" に所属し、《14》から特殊数《五》を背負う強者として認められる。

その後ヴェステ国王の指示にて、上流家系集う賢者水準に達している者が集う表の組織である隠者…に移動させられ《Ⅸ》と言う…1桁の…限られた優秀な者のみが持つ数を与えられた。

ある意味、栄達した…とも言える立場に就く。


それなのにあっさりと抜け出し、本能の赴くまま気の赴くまま…心酔するニュールの下に付いてしまった。もっともニュールが国盗りをしたため、使われる者から使う者へと変貌し今の地位へと至る。

機を見るに敏…と言えるのかもしれない。

だが其れだけではなく、十分な才覚持ち業務滞りなくこなす。そしてプラーデラを、ヴェステに対抗し得る国へと積極的に作り替え…ニュールがあらゆるモノを蹂躙し…猛進することを渇望する。


「心酔する我が君…真なる我が主が、周囲を容赦なく飲み込み…無慈悲な力ふるう御姿を拝見できるならば、何も惜しくはありません。我が君が進む道の敷石の1つとなりましょう」


狂信的にニュールを崇める者であるピオ。

元々酔狂な質であり、面白いことには目がない。

ヴェステ王国の影に所属している時から、任務は最大限に楽しんで行ってきた。

フレイリアルにエリミアで関わった時も…サルトゥスで関わった時も…タラッサで関わった時も、全力で遊び…他人の苦痛を快楽として味わい…楽しみながら努力した。

卑劣で悪どくて残忍であり…人としての最低の行為も顔色一つ変えずに実行出来る者である。

その結果としてもたらされたフレイリアルが持つ嫌悪であり、嫌うには嫌うだけの…正当な理由があるのだった。


故に…フレイリアルにとってピオについての話は、聞きたくもない知りたくもない奴の話となるのだ。

だが、ほんの少しだけ "他の者が極悪で最低なピオに近づく謎" …に対して、知的好奇心がくすぐられた。そしてリーシェライルの解説に…相変わらず不満顔浮かべたままではあるが、しっかりと耳を傾けることになった。


「まず…真っ当な場所出身でないからこそ…媚びへつらう事に躊躇せず…生き残ることに貪欲で…人を蹴落とす残忍さを持てるようになったみたいだねぇ。まぁ、楽しまなきゃ遣っていけなかっただろうし、気質も環境に適合するものを元々持っていたのかな」


リーシェライルは楽しそうに…状況推測しながらピオについて語り、所々で心情まで推察する。


「捻じ曲がった根性しているのに…礼儀正しくも振る舞える。逆にだからこそ…なのかな? それにマメだし、相手の気を引く話術を駆使する才覚も持っている」


誉めるような落とす様な、面と向かって言われたら単純には喜べない様な内容であろう。


「周囲を良く観察し…其れに合わせて振る舞い、手段選ばず狙い定めた者の懐に滑り込む…。巧妙に…気付かれぬうちに…息の根を止められる距離に存在し、影に潜む。裏の世界に住まう者特有の…忌まわしくも極められた技術…と、天性の…暗躍する者としての力量が有るのだね」


客観的な考察以上の…称賛とも呼べそうな思いまで入っていそうな、リーシェライルの分析。

フレイリアルは、複雑な表情を浮かべる。

膝の上に置いたままのフレイリアルの表情を面白そうに覗き込みながら、リーシェライルは続ける。


「フレイにとっては…下衆で最低最悪な輩…自分の好き勝手に行動する残忍で冷酷な変人…って印象なんでしょ?」


今度リーシェライルが語った描写は余りにもフレイリアルの印象と重なり、的を得ていた。全面に納得…と言う感じで、コクコクと無言で頷く。


「フレイが嫌悪感抱くような奴なのに…多くの異性からの関心を得ているのは、職業的なものから来る表層を装おう習性のせいかな…。そつのない雰囲気を作り出し、周囲に格好良く感じさせるんじゃないかと思う。そして滲み出る…猟奇的で酷薄な部分が、味わい深い影を作り…魅惑的に感じさせるのかも…」


此れまた…どう考えても極悪な奴であると表現しているのに、褒めているようにも聞こえ…フレイリアルの首が大きく傾ぐ。


「そうして雰囲気の良い魅惑的な青年感作り上げ、優男…たらしめているんじゃない?」


「うーん…」


フレイリアルは…ピオが具体例として出てきた時点で、やっぱり何となく不快で…何処までも納得いかない…全てを拒否したい…そんな気分になっていた。其れでもリーシェライルが説明してくれた事であり、何とか理解しようと努める。


「…つまり、見た目がどんなでも…雰囲気でごまかせる…ってこと?」


「其の通り! なりきれば…普通の男でも雰囲気紳士なモテる優男になれるし、子供っぽい顔の作りでも…大人で妖艶な美女にだってなれる。完璧な見た目を持たなくとも、印象で人の見た目は変わるんだ」


一応フレイリアルが説明に納得した事に喜ぶが、リーシェライルは更に大賢者ならではの選択肢も示す。


「まぁ…僕らの場合、実際に視覚と触覚を偽装する魔力纏えば、全くの別人になる事も可能だからね」


膝の上で頭を撫で付けられながら説明を受けていると、フレイリアルは何でも良くなってくる。

自身の子供っぽい顔の作りなど些末なこと…具体例で出てくる嫌な奴の事何てフレイリアルは微塵も考えたくない。

結局…リーシェライルに構ってもらい、ごねて…あやされて…落ち着いた。


『リーシェの温かい気持ちが入ってる此の手があれば…まぁいいか…』


心の中の思いを今度は声にして伝える。


「もう良いよ…我が儘言ってゴメンね。相手をしてくれてありがとう。アイツの事は考えたくないし、納得もしたから…」


そう言うとフレイリアルはリーシェライル入るグレイシャムを抱き締める。優しく抱き締め返してくれる腕に、安心と幸せを実感する。

でも別の事で…再び納得いかぬ思いがムクリと持ち上がった。


「…でも、何でリーシェはあんな奴の事を…そんなにちゃんと見ているの?」


リーシェライルがピオの存在を認めている事に対しての、若干の嫉妬がフレイリアルの気持ちを逆立てる。そしてピオに対する敵意丸出しにしてリーシェライルを問い詰める。


「別に特別に観察していた訳ではなくて、たまたま君の近くに居るときに見ていただけだよ」


「其れでも…アルバシェルやキミアに対するより好意的な気がする」


納得いかない思いを…盛大に膨らました頬で表現し、不満を示すフレイリアル。


「それは…フレイに対して粉をかける様な事が決して無いと思うからさ。ニュールに対する感じと一緒だよ」


「???」


フレイリアルはリーシェライルの説明に今一つピンと来なかった。


「極端に言えばフレイを異性として襲う事は無いだろうし、どんなに絡んだとしてもフレイは決してアノ者に…許さないでしょ?」


「はいぃ??」


『何を許すってぇ???』


後半の思考は…何とか口にせず飲み込むが…、其の予想外なリーシェライルの回答に…赤面しつつ…フレイリアルは目を丸くして怯んでしまうのだった。

文字を減らしたはずなのに、何故か増えていました

…3話終了予定が、中途半端に増えてしまったので4話にします。

予定と異なりスミマセン。

明日、4話目で終了…予定です~

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