おまけ6 フレイリアルの小さな悩み 1
フレイリアルは青の間の扉を開けると…リーシェライルが入るグレイシャムの器座る長椅子へ一直線に向かい、横に並んで座り…呼び掛ける。
「ねぇ、リーシェ…」
そして他所を向いたと思ったら…椅子の上に足をのせ膝を抱え…グレイシャムの器そのものを背もたれのように使い、トスリッと寄りかかり…言葉続ける。
「私って大賢者を引き継いだんだよね?」
「賢者の石を取り込んだ時点で、そう言うことになるね」
急な質問に訝しみつつ、普通にリーシェライルは答える。
「ならば…ヤッパリ…少しぐらい…ほんの気持ち程度でも歳取っても良いんじゃないのかなぁ?」
以前にも問い…答を求め、既にリーシェライルから明確な解答を得た質問である。
其れから随分と時も経過し…今さら感が強いと言うのに、フレイリアルは…再度掘り返しリーシェライルに疑問として投げかける。
しかも、露骨な不満顔で山盛りの不平を込めて。
なぜ此の問いかけが再燃したかと言うと、主な原因はミーティであり…若干ブルグドレフも加担しているかもしれない…。
「やっと会えて凄っく嬉しいよ!! ミーティもモーイも元気そうで良かったぁ、それに凄っく大人っぽくなったよねぇ! もう2人ともプラーデラで成年の儀も受けたんでしょ? おめでとう!! それにそれにっ、2人とも何だかトッテモ幸せそうだよ? 良い事でもあった??」
旅した仲間と…青の間で久々の再会を喜び合った後…リーシェライルとニュールが色々と話しが有ると言うので追い出され、残された者達は別室で旧交温めることとなった。
面と向かって気楽な会話を始めた時、フレイリアルが捲し立てる様にミーティとモーイに一気に話掛ける…そんな騒がしくも懐かしい風景が作り出された。
エリミアにやって来た目の前の2人は…此の1の年の間に成年し、完全な大人として一人前の役目担い過ごし始めたようである。容姿も十分に成長し…子どもから若者へと羽化した様に輝かしく、他人事ながらフレイリアルはワクワクした気分が止まらなかった。
フレイリアルの言葉に…ちょっと浮かれながら照れるミーティと、少し顔を赤らめ…恥ずかしそうに視線逸らすモーイの笑顔が眩しい。
接待役として新顔のブルグドレフも含まれているが、心温まる親しい者達で作り出す和やかな空間は…全ての者を許容し包み込む。
「へへっ、今のオレってば大人な感じだろ? まぁ、成年を迎えると色々と幸せな出来事を手繰り寄せる機会や…決意すべき時が遣って来るんだよなぁ…」
久々の対面だと言うのに、ミーティが訳の分からない自慢のような自分語りを始める。そしてモーイを横目でチラリと見やり、モーイはミーティの行動に反応せず素知らぬ顔を装う。
樹海の集落で色々と…モーイに対し行動し、何やら申し込んでいる状態。ミーティ的には、今の中途半端な状態は予想以上に落ち着かず、高揚する気分が冷めやらぬ。その為つい悪い癖で、フレイリアルを揶揄い…おちょくる事で気を紛らわしてしまった。
「マダマダお子様なフレイには理解出来ないかもしれないよなぁ。ブルグドレフだって婚約者役やってても、此のお子様っぽいのが相手じゃあ気い抜けるっしょ? 婚約者って笑っちゃうよねぇ、役を引き受けるのも一苦労なんじゃね?」
ブルグドレフとミーティは初対面とは言え、仲間内で近況の遣り取りしてるため、周囲の人物像や状況を知らぬわけでもない。其のせいで、余計に礼儀を忘れるミーティ。
しかもモーイへの申し込みは返事待ちだと言うのに、ミーティは人生の勝負に勝った者…という感じで気を大きくし…配偶者持ちであるかの様に余裕ある素振りを見せ気が大きくなる。
そして、一緒に席に着いていたブルグドレフまで巻き込み始めた。
「いくら乳がデカくても、中身も顔もお子様じゃあ魅了されないよなぁ」
フレイリアルのお子様っぽい部分をあげつらい、自分が成年を迎えた事を自慢する浮かれた状態のミーティ。
1の年程前…ヴェステの宿…フレイの温かな対応と…大人で艶麗な肢体に魅了され、其のお子様に手を出し…色々と遣らかそうとしていた記憶などスッポリ抜けているらしい。
「勿論、決して惑わされないし…心動かされるなんてあり得ないですね」
ブルグドレフはミーティのお気楽な問いに、心にもない返事をする。
この1の年…フレイリアル達と行動してきたブルグドレフは、エリミアの水の機構の改修に携わりつつ…国の中枢担う者たちの謀略に巻き込まれぬよう上手く躱し…抗い…楽しみながら…様々な危機を乗り越え過ごしてきた。
弱くとも…逞しく強かなフレイリアルを補助しつつ…色々な経験積み、かなり刺激的で…今までになく愉快な…ある意味生きている事を極限まで実感できる…濃厚な1の年を送った。
「貴方達と過ごす事は…私にとって、今までに無い…刺激的な時を得る機会となってますよ」
そう和やかに言えるぐらい、フレイリアルとリーシェライル…2人で1人な者達と言葉で渡り合えるようにはなっていた。
ブルグドレフは言動には慎重を期し、フレイリアル自身に対しての感情は表さぬよう気遣う。フレイリアルやリーシェライルと共に過ごし…其の隣にブルグドレフが存在出来たのは、ひとえに其の空気を読む能力と慎重さがあったからこそ…である。
細心の注意払い対応してきたが、最近のブルグドレフの心の中には…心惹かれる何かが溢れだし…特別な心情が隠しきれない…と言う感じになりつつあった。
だからこそミーティの言葉に乗り、単独のフレイリアルに対する思いを否定しておきたかった。
リーシェライルと言う存在は、命を手玉に取ることを躊躇しない…恐ろしく自己中心的であり限りなく闇寄りの心持つ…完璧で圧倒的な…フレイリアルの内にあり決して切り離せないモノである。
だからこそ…何処に存在しているのか…聞いているのかも分からないリーシェライルを警戒し、怒り買わないよう立ち回るのは必須事項であった。
"フレイリアルとの距離を縮めないようにすること" …それはブルグドレフが協力者となり、共に過ごすにあたっての重要課題であった。ブルグドレフにとっては生死に関わる問題に繋がる。
リーシェライルの病的な執着は、初対面の頃から十分に理解していた。だからこそ、誤解受けないよう慎重に…十分に警戒しながら過ごしてきたのだ。
それなのにミーティはたった一言で、予想外の場所からブルグドレフの立場を叩き壊し…危うい場所へ無邪気に他意なく陥れる。
今回のミーティとブルグドレフの…フレイリアルに対する言動は、相当失礼な感じにも聞こえる。
言った後に気付いたが、後悔先に立たず。その小さな言動1つで自身の生命を危険に曝す…と理解するのは…此処に居る者の中ではブルグドレフだけであろう。
ミーティと共にいると…折角回避してきた危険な道に引き戻され、怒りを買う…命取りになりかねない運命に入り込みそうだった。
『呑気なお気楽男よ! 此の場から立ち去る予定のあるオマエとは立場が違うんだ! 此れ以上危うい場所へ私を追い込まないでくれ!!』
ブルグドレフは切に願った。
そんな中、フレイリアルがゲンナリした顔をしながら2人をたしなめる。
「ミーティってば相変わらず失礼でヤラカシ放題だね…ある意味変わらなくって安心したよ。ドルは変に感化されないようにしてね!」
大人な対応で流してくれた。
「申し訳ありません。気を付けます」
ブルグドレフは速攻で謝罪し、一抜けで生命の危機を脱し救われた気分になる。
そして今回も…フレイリアルの大らかさによって、窮地から救われた事をブルグドレフは自覚する。
だがミーティは久々に会ったにも関わらず…気心知れた仲間である事に胡坐をかく。其の立場を過信し、饒舌に何の気遣いもせず…思うがままに…喋り続けてしまった。
「いやぁ…真実の気持ちを捧げる事に目覚めた俺は、些末な事には拘らないのさ。乳がデカかろうと貧弱だろうと…真の大人は愛で全てを凌駕するのさ」
この愛情溢れる微妙な表現は、最愛の者をも…真なる敵へと変貌させた。
だが、浮かれ男状態のミーティは気付かない。鼻高々に大人度を誇るミーティは自分に酔い、知らず知らずと境界線を越えてしまったのだ。
そこに愛や友情が有ろうと無かろうと…言っちゃいけない事行っちゃいけないし、駄目なものは駄目である。
親しき仲にも礼儀は必須、礼儀なきモノは天誅下るが必定。
許容範囲を超えてしまったミーティを放置し、モーイもフレイも呆れる。下劣な者を見下す視線送り、女子2人のみが存在する世界へ移動する。
「本当に鬱陶しいし…偉そうな感じで本気で腹立たしいんだけど、何か変なものでも食べちゃったの?」
フレイリアルは憤り隠せないようにミーティの行状をモーイに問う。
「若干浮かれ病を罹って脳がやられているかと思うが、許す必要はない」
「一度、此の世の果てを見に行った方が良いんじゃないの?」
「直近に居た者として指導至らず申し訳ない。遣るときは私が殺る…」
殺気帯びた会話が繰り広げられていると言うのに、空気を読まないミーティは駄目押しするようにヤラカシ続ける。
「いやぁ…大人の情事…あっ、事情には子供は首を突っ込んじゃぁいかん…うぐっぉっ」
止め処なく付け上がり…際どい言い間違えまでするミーティに、堪忍袋の緒が切れたモーイが言葉の途中で背後から蹴りを入れる。
ちょっと変な呻き声と、バゴッと言う鈍い音もしたようだ。
制裁は近場から下された。
そのモーイが作り出した光景は、フレイリアルにとって以前と変わらぬ雰囲気でありなつかしさに和んだ。
少しスッキリした表情になった女子2人は朗らかに会話を続ける。
もっとも…なんでミーティが調子に乗って偉そうに大人を語っていたのか、フレイには其の時点では分からなかったので…憤り残る。
「フレイ、ごめん。何かコイツいつも以上に失礼で残念なヤツ過ぎて申し訳ない…」
「モーイが謝ること無いよ。それにミーティが大人げなく言葉吐き出す脳味噌入ってない子供っぽいヤラカシをする人間…ってことは覚えてるよ。命なくしちゃいそうなぐらい調子に乗る迂闊さ持ってるのは予想外で呆れちゃたけど、こんな奴って事だって忘れない様にするから大丈夫だよ!」
フレイも思ったまま辛辣に言葉返し、ミーティから売られた言葉を十分に買い取ってやった。
諸事情により…ミーティがその日の内にプラーデラに送り返された後、ミーティがモーイに結婚を申し込んだ件などを聞かされた。
そして…恥ずかしさを紛らわせるために偉そうな言動になっていたのであろう事も、モーイから説明され…再度謝罪される。
「あそこまで調子こいてヤラカスって、少し先を考えたくなるな…」
モーイの言葉に残念な思い滲み出し、 "ミーティ危うし" である。
「まぁ…見た目はお兄さんっぽくなってたけど、相変わらずミーティらしくって…ある意味安心するかもね」
自身の幼さが揶揄いとは言え…馬鹿にされる欠点となり得る事をフレイリアルは把握した。
そして心の中に、今後も変化しないであろう自身の幼い容貌に対する劣等感…のようなモノが刻み込まれるのだった。
日常小話的な、おまけらしいおまけ話かと思います~
3話程で終わる予定ですが、気軽に読んで頂ければ幸いです。
宜しくお願いします。




