おまけ5 守護者契約 18
言葉と力による譲歩の引き出し…と言う駆け引きを、エリミア国王を相手に試みたニュール。結局…微妙な結果に終わった。
エリミア国王との会談を早々に切り上げる事になったのは、自身の未熟さ故であると言う自覚は持つ。
会談を行った王宮へ続く扉より1人現れたニュールは、苛立ちを隠せないような様子で…少し殺伐とした空気感纏い、兵に囲まれたまま待機していたプラーデラの者達の前に立ち声を掛ける。
「取り敢えず戻る…」
そう無表情に呟くと、未だ冷めやらぬ怒気を抱えたまま…憮然とした表情で大気中の魔力を集め魔力を導き出す。
『今さらだが…大賢者ならでは出来る魔力扱いを見せつけるのも、力の誇示にはなるのだろうか…』
考えるとはなしに考え…集めた魔力使い一瞬で転移陣の起点を築き、プラーデラの者たちをの環の中に収め…飛ぶ。
「多少の威嚇にはなった…と思うが、効果が出る程かは分からん…」
戻ってきた青の塔。
少し落ち着いた後、会談の内容を説明しながら…遣っちまった感を漂わせ…額に手を当て頭悩ませるニュール。
目指す処は、 "プラーデラを相手にするなら覚悟しろ!" …と圧力を掛ける事だった。相手方に十分な揺さぶりをかける予定だったが、逆に自身の感情揺さぶられてしまう。
武力ちらつかせながら、言葉で丸め込み手を引かせる…と言うところまで至らなかったことを皆に懺悔する。
「話が通る相手…では無かった」
予想以上に自国の存在への優越意識が高いエリミア国王。
端々に見られる独善的な態度が目に余り、ニュールの忍耐力は直ぐに限界を超えてしまった。
先に退出したのはニュール。
"対等なる時" を申し出たニュールだったが、エリミア国王は応じるも…話し合いと言えるような話し合いは成立しなかった。
駆け引きを放棄し敗けを認めた…と思われる状況ではあるが、必要以上の譲歩を引き出そうと足掻くのは悪手である。罠にはめられたり…揚げ足を取られたりする危険性孕むので、致し方のない選択ではあった。
「まぁ、動き始めるまでの牽制…ぐらいにはなったんじゃない? 先に手を引いたのは情けないけど、ニュールがまともな話し合いを単独で行って成功でもしちゃったら…天変地異が起きちゃいそうだからねぇ」
状況理解しているのに…ニュールの申し訳なさそうな表情を楽しむためだけに、然り気無く持ち上げ落とすリーシェライル。
「リーシェってばニュールだって頑張ったんだから仕様がないでしょ? 元々、口下手なんだから無理だよ」
フレイリアルが助け船のように差し出したのは泥舟。無理やり乗せられて…沼の底に沈められる様な気分を味わうニュール。
話してスッキリするのかと思いきや、何か余計に悔しい…話す前より一層モヤモヤした気分になるニュールなのであった。
エリミアの王宮よりニュールが去った後…会談を行った場所に1人留まるエリミア国王イズハージェス。
「新たなる茶を用意してくれ」
席を外させていた侍従呼び戻し、新たな茶を所望する。
無言で従う者に再び声を掛ける。
「2人分でな…」
客は帰った…と思われたので一瞬侍従の頭に疑問が浮かぶ。
それでも一切表情には出さず、指示に従った後はいつも通り退室する。
「君って感覚だけは大賢者並みだよね…」
いつの間にか窓際…窓掛けの内に人影が生じ、其処から声を掛けられる。
「貴方からお褒めの言葉を頂けるとは、有り難き幸せでございます」
立ち上がった国王が恭しく礼をして答えると、豪奢なマントを頭から深々と被った人が窓際の影から現れた。
「我のお気に入りとの話はどうだった?」
「十分楽しめましたぞ」
「可愛らしいよね?」
「確かに…若いですな…」
微笑ましいモノを語るように笑みを浮かべながらの訪問者の問いに、若干返答に困り…苦笑い浮かべるエリミア国王。
此の遣り取りで評している対象は一体誰なのか…。
豪奢なマントを払いのけ、国王と共に席に着くモノ…其処には十分に華麗で美しいと言わざるを得ない容貌持つ青年が座っていた。
見た目は神々を信奉する国の宗教画に描かれる1柱…と言った崇高さと威厳を持ち、目の前のエリミア国王よりも明らかに高貴で尊い存在であると判断できる雰囲気を持っている。
其のエリミアの国王さえ慇懃な態度で接する者が、更に問いを発する。
「警告…は受け入れてあげるの?」
「考慮はしますが、此方で対応できるならば却下しようかと思っています」
冷静に言葉で、エリミア国王は客観的に判断し答える。
そして真に望む願いを口にする。
「私が望むのは往古の世界。貴方様が存分に力を発揮なさる世界を希望しているのです」
逆に…問い掛けるではなく投げかけられた言葉に、美しき訪問者は簡略に返す。
「我は偏るモノ。故に君が望むモノが得られるとは限らないよ」
「均衡は停滞です。先に進む力を持ち続けるには不平等も必要悪です」
「気持は今のところ変わらない様だね…」
エリミア国王の持つ意思は堅かった。
「我が一族は…此の国に捧げられし生贄。運命からは逃れられないし、逃れるつもりもありません」
「わかったよ。でも我も直ぐに動き始めるには力不足だから、我の愛でしモノの努力も汲んであげてね」
「我が神の仰せのままに…」
そう答えるとイズハージェスは立ち上がり…訪問者の横へ移動する。そして神を持たぬ国の国王が堂々と神と信じるモノに跪き頭を垂れる。
「我は神じゃないよ…。この世界の神というのなら我らが選び愛でるモノの方が近いんじゃあないのかな…」
「貴方様方ではなく貴方様が…この世界での、私が崇めるモノなのです」
「我は旧秩序の残りモノ。むしろ神の…見守るモノの…対局にある…手を出し楽しむモノだから、今…加担していても君が最後まで我の掌の上に居るかは保障できないよ」
「貴方様の御心のままに…」
エリミア国王が更に深々と頭を垂れ、其のモノの足元に口付ける。
その瞬間、イズハージェスが神と仰いだモノは、言葉と存在感のみ残し…消えた。
全てが片付き、此の国を去るにあたって…何だかスッキリしない気分に陥るニュール。
色々と苦労を背負うことになったのは、結局いつも通り…我知らず…溜息が出る。
今後の展開についての話し合いと、帰国を告げるために青の間を訪れたが、フレイリアルはモーイとの別れ近くのひと時を過ごすため…不在だった。
リーシェライルとの話し合いは、守護者任命を受けた始まりの頃を思い起こさせ…懐かしさを感じる。
そんな中…自分だけに伸し掛かるかのような重圧に馬鹿馬鹿しさを感じ、思わず目の前にいるリーシェライルに愚痴の様な苦言を漏らしてしまう。
まるで気心知れたモノに向けるように…。
「…他の者に任せるより、貴方が国の頂点に立ち指揮を執った方が良い方向に進むんじゃあないか?」
リーシェライルに対し、文句の様な…意見の様な…物言いになってしまうニュール。
「僕は統べるモノであっても導くモノでは無いんだ。数多の不特定な者達のために動くのは好きじゃあ無いんだよ」
至極真っ当に、リーシェライルから正直な言葉が戻る。
「それに君みたいに被虐嗜好は持ってないんだ!」
明るく朗らかにニュールを切って捨てる。
「貴方は間違いなく嗜虐的だからな…」
「僕は両方の趣味持つほど多彩じゃあ無いからね」
にっこりと流麗な笑み浮かべ見つめるリーシェライルだったが、その時…予想外の行動を起こす。
いきなり立ち上がったリーシェライルは、ニュールの真横にポスリと座り…満足げにニュールの肩を抱き…もたれ掛かる。
「!?!?!?」
今までに見たことのないような驚愕の表情で固まるニュールが…其処に居た。
「君だから色々任せられるし、近づきたいと思えるんだよ…有難う!」
その青天の霹靂のようなリーシェライルの言動に、思考が止まり…赤面しつつ…冷たい汗を流すニュール。
30年近く生きてきた人生で、艶麗なる美男に此処まで接近接触されるのは初めて…だった。
「ぷふふっ、あーはっははっ、うふふふっ!!」
悪戯っぽい表情で、チラリとニュールの姿を横目で確認し、リーシェライルは吹き出す。そして、これまた見たことのないぐらいの大爆笑に陥り…涙を流しながら転がりまわる。
「…あぁ…やっぱりニュールは最高だね! 僕の玩具兼、友人…って事でこれからも宜しくね」
思いっきりリーシェライルに遊ばれたようだ。
全くの予想外の言動を見せるリーシェライルに、ニュールは返す言葉を失う。
「僕らは暫くしたら、此の国を出て旅をしようって話しているんだ。その時には君の国に寄るから…友人として十分にもてなしてね」
ドギマギした状態から未だ抜けられぬ気の毒なニュールに、リーシェライルが温かみ持つ声で今後の予定を教えてくれた。その暫く…が、どれくらい先になるのかは分からないけれど…波乱に満ちた訪問になるであろう事を予感する。
「それじゃあ行くぞ」
「うん、気を付けてね!」
長いようで短い旅路が終結する。
「繋がりが切れたからって羽目を外すなよ」
「もう小さな子供じゃあないんだから当たり前でしょ?!」
ニュールの注意する言葉に、啖呵を切るフレイリアル。
だが今現在、リーシェライル入るグレイシャムに背後から密着され…強く抱きしめられた状態でニュールの前に立つ。リーシェライルはニュール達の事など見向きもせず、フレイリアルの大地の色した髪に口付け落とすように顔を埋め…抱きしめつつ全身を撫で擦っている。
そう…小さな子供じゃないモノへ、至近距離での…熱い思い込められた接触…。
ニュールと共にプラーデラに戻る面々も、興味深げに其の様子に見入っている。
ピオはまじまじと興味本位に観察し、モーイはその状態に若干目を逸らしつつ恥じらう。他の3名も見ぬ振りしながらジックリ横目で観察し、更に何かが起こる事を期待する目で眺める。
ニュールの眉間のシワが刻々と深まる。
『違う意味で心配になる…』
守護者の繋がりは切れても、父さん気分は断ち切れないニュール。
だが此の状態になったのは…リーシェライルを煽ったニュールのせいである。
このエリミア来訪で、元々の目的であった守護者解任は無事に成立した。
だが…そこに至るまでと至ってからで色々と余計な事態が生じ、望まぬ関わりが強まってきている。それなのに結局フレイリアルは、新たなる守護者選任を行わず…直近で守護するモノが居ない。
その事は、2の年近く守護者こなしてきたニュールにとって…大きな心の引っ掛かりとなっていた。
だから、つい遣らかしてしまった…リーシェライルの嫌がることを。
今の状態について…アルバシェルに報告してしまったのだ。
其れは直ぐに…リーシェライルの気付く処となる。
「ニュール…君は遣ってはならない事を遣ってしまったんだね…」
リーシェライルの冷え冷えとした冷酷無残な声が響き、ニュールの恐怖と悔恨を強制的に呼び起こす。
『どれだけヤバイコトをヤラカシテしまったのか…』
今更ながらニュールは悟る。
まるで呪いの扉を開いてしまったかのような怨嗟籠る思いをリーシェライルから向けられる。
後悔とは後で悔いること…だが悔いる暇さえ与えないような…恐れを抱かせるための凍った視線が送られる。
言葉少なに責める態度が恐怖を煽る。
何かが起こるかもしれないが…何時かは分からない…、そんな恐れをニュールに植え付ける。
「僕はこの仕打ちを一生忘れられないかもしれないなぁ…」
憂い含む美しい表情で残念そうに寂しそうに呟く言葉が、無数の剣となりニュールの心を突き刺す。
「…少しは近しい…心届く存在だと思っていたんだけどなぁ」
言葉の中の憂いが、次第に企み喜ぶ声へと変化していく。
そこには既に玩具で遊ぶ大きな魔物な存在しか感じられなかった。
ニュールは此の仕打ちを受け止めながら考える。
魔物の心を受け入れ融合したモノは、本能優位の冷酷さ持つ存在であったとしても…ヒトであった心情を未だ持つ。生来の心が魔物に傾いた…ヒトから変化したモノと、どちらがより魔物なのであろうと
『どんどん隷属へ導く鎖が増えていく気がする…』
大魔物に捕らえられた小魔物は自由と安寧を得るために、今後も必死に足掻くしかないと覚悟するのであった。
読んでいただき有り難うございました。
5話ぐらいで終わらせる予定が18話になってしまい予想外でしたが
おまけ5 守護者契約 はこれで終了です。
何だか色々と組み込んでしまったので、そのうち続きを書きますので
またお時間許すときに読んでいただけたら嬉しいです~
他のおまけ話もポツポツと書いていきますので、またお時間ある時に
宜しくお願いします




