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おまけ5 守護者契約 16

「流石に王宮も…国王側でも全ての状況を把握していると思うよ…正しい分析や判断が出来る者が居るかは別としてね…」


賢者の塔…青の間に…捉えた襲撃者共々移動してから設けた話し合いの場。

プラーデラから使節団として表立った行動を担う者達も…エリミア側に察知されない様に呼び寄せたつもりだった。

それなのに開口一番リーシェライルが皆に告げた内容。


「だから此処に誰が居るかも…守護者の解約が行われた事も、少なくとも国王は…把握しているはずだよ」


続けて伝えられたリーシェライルの言葉は、ニュール以外の其処にいる者にとっては予想外の内容であり…驚く。

1人驚かなかったニュールが補足のように付け加える。


「"正統なる王" の承認は大地との契約でもあるから、常に微かな兆しが伝わってくる。故意に契約との繋がりを感じないようにしない限り、当然…状況は伝わるだろう。まぁ、どっちにしろフレイに会えば分かってしまうだろうがな」


「だから国王側も本格に動き出すと思う」


リーシェライルはそう告げると、フレイリアルに問い質すように続ける。


「塔の賢者を動かして…僕らで此の国を制圧しちゃっても良いんだけど、フレイは望まないんでしょ?」


「私は此の国に居たくない。だから…私が負うべき責任を果たしたら、後は此処の人たちが勝手にすれば良いと思う」


未だに樹海の色合いなどと難癖つけるような者達が住む国。

王城に留まる事はフレイリアルにとって苦痛にしかならず…未練も感慨も感傷も…何の思いも…此の城の人々に対し持って無かった。


「でも此のまま、僕とフレイが国を去れば…ニュールの所に責任の所在を求められちゃうだろうね。それはプラーデラの使節団がこ此のまま去っても同じことだと思うけどね…」


「そうだな…どっちにしろ突かれるだろう。手を出すための口実作り…でもあっただろうからな…」


「僕はそれでも構わないんじゃあないかと思うけどね」


そう言いながら…リーシェライルはニュールに向け、柔らかく微笑む。


「…もう暫く猶予は欲しいんだがな」


ヴェステ国王シュトラに布告を受けた時から、ニュールも…いずれ訪れるであろう対峙せねばならぬ状況を覚悟している。だが、本当の敵が内に巣食う "アレ" であるのなら…もう少し準備を整えたい…と言うのが本音だ。


「逃げちゃう…って言うのが、僕的には最上の策なんだけどなぁ…」


可愛らしくお道化て…勝手な選択を口にしながらリーシェライルが続ける。


「他に僕が考えられる策としては…ニュールが、プラーデラ国王ニュールニアとして表立ち来訪する…と言う案が1つ。宰相君に死んでもらう案が1つ。エリミア国王に死んでもらう案が1つ。関わった襲撃犯全員を葬る案が1つ…かな。複合技でも良いよ!」


「オレが来訪する以外は死人が出る案ばかりだぞ…それに何でウチのピオ…宰相を片付けるんだ?」


ニュールが思わず不満を述べる。

横で聞いていたピオが目を潤ませ…歓喜の表情浮かべ恍惚としている。ニュールが "ウチの…" と口にしたことに感動し感極まった…様だ。

其れを見聞きしていたフレイリアルが "ケッ!" と小さく音を漏らし顔を背ける。どうもピオの言動には過剰に反応してしまうようで…とても姫様とは思えぬ行儀の悪さ。

ニュールは気付いた状況を、見て見ぬふりで黙って遣り過ごし…面倒事を避ける。リーシェライルは珍しくフレイリアル以外を目に映し…冷たく綺麗に…そして穏やかに微笑む。

其れがチョット怖い…。


「僕が示したのは手早い方策だよ、だって口を塞いじゃうのが一番簡単でしょ? ニュールが前面に出る案も、結局…エリミアの口をプラーデラ代表する者の言葉と力で無理やり黙らせるだけだから…あんまり変わらないと思うんだけどなぁ…」


悪びれず言ってのける口が、其処に説明を継ぎ足す。


「あぁ、君の所の宰相君を片付ける案は、エリミア側に罪を擦り付け…お前らが殺っちゃったんだからソッチにも非があるよっ…ていう妥協引き出す為の犠牲かな。まぁ、死んだふりして表舞台から消えてもらうのも有りだけど…ね」


事も無げに提案し、軽い感じで語る。


「後はフレイに対して失礼だし、君ん所の優秀な戦力でもあるから…イザという時の為に削いでおこうかな…って感じでもあるよ。均衡…って大事だからさっ」


にこやかに…冷血で酷薄な事を簡単に述べる。


「分かったよ…オレが何とかすりゃあ良いんだろ?」


嫌々了承するかのようなニュールに、リーシェライルは引き続き美麗な笑顔を浮かべ言葉返す。


「相変わらず…君の仲間認定は緩いんだねぇ。そんなんだと…僕ぐらいの繋がりあれば親友…って自称しちゃうよ…ふふふっ」


リーシェライルが蛇が型魔物の如き妖しい笑み浮かべ、笑い声たて…丸ごと飲み込む様にニュールを包み込む。

一瞬、ウゲっとした表情を浮かべてしまったニュールを捕まえ、寛大な許しの言葉を与える。


「まったく…その反応って本当に酷いよね! まぁ、君と僕の仲だからさ…多めに見てあげるよっ。ねっ、親友!」


借金の様に…絶対に後から取り立てられそうな許しをニュールは背負ってしまった。


「さっき提案したものは…今取れる措置の中で…一番フレイや君好みの穏当な案だと思うんだけどなぁ。だって王都そのものを滅する…って選択肢もあるんだよ。まぁ…何にしても納得してくれたのならそれで良いけどね!」


確かに提案された中ではニュール自ら動くのが一番マシであるが、権力・武力行使と言う力業には変わらない。

だからと言ってニュールにも、手間暇かけず…他を巻き込まず…その条件で今出来る事は、同じ事しか思い浮かばなかった。


「具体的には…宰相君かニュール自身かがエリミアの国王に謁見申し入れ、国王の目の前に立てば良いんじゃない? どうやって赴くかは問題じゃないし、まずは辿り着かないとね…」


提案はしてくれたが、臨機応変…という名の適当でいい加減な場当たり的対応を求められる。


「後は、ニュールの言葉と力でゴリ押しして解決…って感じが、一番丸く収まると思うよ」


雑な計画だが…他の手段や考えがある訳でもなく決断する。



エリミアの王が控える国王執務室に様々な伝令が届く。


「急報です。外務司る大臣の側近、継承59位のエルギノ様とその護衛ユモーナの死体が王城壁付近で発見されました」


「共に居たはずのプラーデラ宰相様と側近の所在が不明ですので引き続き手配…捜索中です」


「一応賓客である。何事か起これば国際問題。十分に注意して行え」


「了解しました!」


王城壁内の異変と賢者の塔への襲撃…についての報告が終了した後、国王は他国からの映像伴う伝令に対応するため…外務司る大臣と共に席を外す。

そして残る者は…国王の執務室横にある談話室に移動する。

その中に在るのは側近中の側近…宰相と内務司る大臣、そして警備司る大臣…である。

忠義の仮面被る胡散臭い者共が、手に入りそうな高級魔物蜥蜴の皮を数えるように…まだ手に入ってもおらぬ益に対して算段始める。


「彼の方のご提案通りの運びとなっております」


「…してプラーデラの卑賎なる宰相殿は何方に逃げ込まれているか…」


「賢き屋根の下に宿って居られると予想します」


「ならば、その屋根ごと引っ剥がすが良かろう。先程の小雨では流石に物足りないであろう」


誰とは無しに進められる会話。


「屋根の主は如何に?」


「逆らうならば仕置きを加えよ…本人より周囲に対してが良かろう」


「では、使えぬ婚約者あたりを…見せしめに…これまた引っ剥がしますか…」


「樹海近くの者ゆえ…そのまま剥ぎ取り放り出すのも良かろう」


「そうですな…少し融通の利く…聡い者をあてがい…大人しくしてもらわねばな」


この1年、フレイリアルの近くでリーシェライルに仕込まれ…忠実に働く仮の婚約者ブルグドレフは、重鎮の方々にとっては…既に思うように使えぬ…目の上の瘤のような存在になっていた。


「…そう言えば色合いはともかく、先程確認した御姿は…成人してないのに良い体…婀娜な姿態をお持ちのようで…」


1人が好色な話題として持ち出し、下卑た笑いを漏らす。

同様に他の者も、その愚劣な頭のなかの卑猥な思考に落とし込み…思い浮かべる。


「確かにアレならば相手も程よく得られよう…塔に繋ぎ子を生させれば良い」


「そうですな…様々な血筋を得る…というのも1つの策かと…」


「そのように素晴らしき計画ならば、是非私どもも協力させて頂きたいですな」


「えぇ、その際は…機会を設け…存分に御協力頂きたいと思います」


国王の執務室横で…自国の王女を、不埒な視線で品定める下衆な輩が国の中枢に在る。

様々な利益求め…手に入れ味わうための算段つける…不届きな者達。

虫の湧いた腐った幹を救うには切り倒すしかない。

ただし其れを救う…と言って良いかは、最早疑わしい。



青の塔…計画の最終確認で王城の様子を探っていたニュールとリーシェライル。

リーシェライルが思うがままに怒り昂らせ、周囲から魔力導き出す。更に我を失い…自身では決して望まない、フレイリアルに繋がる賢者の石からの力まで導き出しそうになっていた。


「やっぱり僕がプチッと踏み潰してきても良いかな…」


激しい憤りを、何とか押し留めながらニュールに凄惨な微笑み作り話し掛けるリーシェライル。

その背後に立ち昇る怒りの魔力は、一瞬でその暗愚な会話繰り広げる大臣達の下へ導き…脳天を素手で握り潰し芯まで燃やし尽くしそうな怨毒持つ存在へ…リーシェライルを変化させてしまいそうであった。

ニュールへと向けた怒りでは無いのに、間近にいたニュールが一番その毒気に煽られ被害被りそうな状態である。リーシェライルの怒り昂る魔力は文字通り目に見える程の力持ち、周囲を焦がす。


状況探るため、王城に設置してある転移の登録地点に一部繋ぎ…音声拾い…様子窺う。

そうして聞き捨てならぬ算段を聞くこととなってしまい、リーシェライルは笑顔のまま…王城を滅ぼしそうな程の魔力を動かし…一番最後に持ち出した案を実行してしまいそうになっていた。


「己の口にした罪に気付かぬ…愚昧な者って、存在する価値無いよね…」


「…では貴方が行くか?」


リーシェライルの目に宿る、爆発しそうな冷たい憎悪の炎を目の当たりにし…鎮める為の提案をするニュール。

ニュールは多少温かみのある心を持ちつつあるとは言え、基本…魔物な心持つ者。生物としての禁忌を堅持するよりは、魔物としての本能…怒りの源は潰してスッキリする…と言う意識は揺るがない。


「嫌っ、僕が行ったら本当に綺麗サッパリ掃除をしてしまいそうだ。君がヴェステで作ったのより深くて暗い鮮烈な泉を作ってしまいそうだから止めておくよ…僕が遣らかす事は全てフレイの経験の一部になってしまうからね…」


結局予定通り、ニュールが力業で平穏を手に入れるべく…エリミアの国王の前を目指すのだった。

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