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おまけ5 守護者契約 13

最初に青の塔に到着した時点で、絶え間なく複数の探索魔力が…賢者の塔…しかも中央塔のみを対象に探りを入れているのを…ニュールは感じ取る事ができた。


詳細な部分まで調べられる程の強さ…ではなかったが、人の出入りは把握する…と言った感じの…絡み付き…息苦しさを与えるような嫌味で不快感ある魔力。

取っ掛かりを探すように蠢き…隙を見つけようと粗探しをしているような…厭わしい探索魔力の1つが、王宮から…常に伸びている。


ニュール達の来訪は "使節団の来訪を告げる使者" が先駆けて現れた…と、でっち上げた。

宰相であるピオを含む使節団をプラーデラから迎え入れる時、ミーティに一時的に人と同等の魔力発する様にした魔石を持たせ…幻影も映し出し…入れ替わりで賢者の塔の転移陣からプラーデラに帰し…先発隊が戻ったように見せかけた。


ニュール達が訪れた時も、勿論…転移陣は国王直属の兵が管理していた。

自分で築いた転移陣の終点を利用し18層に至ったニュール達は、賢者の塔の転移陣の使用報告と…伸ばされ続ける探査魔力が確認したであろう人の動きと…辻褄が合うように調整が必要だったのだ。


そうして…賢者の塔に来訪する者の人数や目的をごまかしたものが、転移陣の使用に義務付けられた王宮への報告に記された。


賢者の塔の魔法陣には、常に厳重な監視の目が向けられている。

外部からの侵入に対応する…と言う建前だが、探索魔力同様…賢者の塔への…大賢者への…フレイリアルへの…監視の意味が強い。

端的に言えば、外部からの加勢の阻止と逃亡の抑止。

大義名分得られる場所には、常に王宮から送られている兵士が配置されている。


もっとも、完全な隠蔽魔力纏う前…一応威圧しないよう魔力だけ丁寧に隠したニュールを見かけた塔の賢者達は…プラーデラの国王であるとは思いもしなかった様だ。

謎の来訪者ではあったが、ミーティとモーイが主賓であり…ニュールは護衛だろうと判断されていた。


「隠蔽や偽装の必要が無いって凄いよな!」


ミーティがまだエリミアに滞在するとき、いつものように不用意に…悪意なく…ただ空気読まずに発した…無邪気な棘無き棘。

ニュールの胸にチクッと突き刺さる。


「あぁ、目立ってもしょうがないからな…」


私的な訪問でもあったため、国王と臣下である…と言う立場については多めにみる。


「ニュールって魔力が隠されてると、ただのオッサンにしか見えないもんなぁ…」


ミーティ的には…親しみやすさを褒めた気分だったのだが、言われた本人的には…穴を掘って埋められて…更に土を被せられたような気分になる言葉だった。


「……」


ぐうの音も出ないニュールだったが、ミーティは全く気付かない。

人の持つ内から溢れ出る雰囲気…と言うものは変えようもない。

中身の本来の年齢は別として…外身は完全にくたびれたオッサンな感じのニュール。本来の年齢以上に疲れきっているし、気の抜けた時はただのオッサンにしか見えない…のは確かな事実。

都合の良い誤解ではあったが、報告書をチラリと目にしたニュールは何だか納得いかない気分になるのであった。

そして無謀な天真爛漫さを発揮するミーティに…権力者からの制裁が加わらなかったか…と言ったら、其の限りでは無い。

私的な訪問だったのに仕事の名目でプラーデラに戻されたのは…もしかしたらミーティの自業自得だったのかもしれない。



守護者解任の儀に対する新たなる選択。


「分かった…引き受けよう。この状態で時間を掛けるのが良くないのは理解している…」


ニュールが渋々…とは言え、大賢者と正当なる王の2役…いやっ…守護者でもあるので3役…担うことを承諾し、解任のための儀式を一気に片付ける方向に踏み出す。


「そうだね、さっさと片付けた方が良いかもね…。既に結界の出力が落ちているのは気付かれてるみたいだし、探るための魔力が強くなってる。放って置けば、王宮から直接に人を差し向けられそうだからね…」


そのリーシェライルの言葉に、ニュールが苦笑いをする。


「余程…賢者の塔には旨そうな匂いがするんだな。お零れにあずかろうと、満幅のくせに…涎垂らしてウロツク強欲な魔物の多いことに吃驚だ。少しでもいい目を見ようと必死だな」


利益求め群がる…呆れた状態に嫌気さし、ニュールが更なる苦言を呈す。


「それとも此処に居るとモテモテになっちまうって事なのか。此れだけ厳重に結界陣も結界も多重展開しているのに、ちょっと出力落ちただけで忍び寄ろうとするなんてドンだけ積極的なんだ?」


ニュールの唾棄する様な言葉に、リーシェライルではなくフレイリアルが同調し…此の国の在り方に憤りを示す。


「此の国の偉い人達は、普通に生活している人達の事なんて考えないし…どれだけ勝手気ままな欲張りなんだろう…って私も思ったよ…」


水の機構の修復を、私欲の為に方々から散々邪魔をされ…其の一番犠牲になってきた者達に思い馳せ怒る。


「昔から…此処はそんなもんだよ。中枢を占め…力を手に入れた者は、どの時代でも私欲に走るし…利益になるなら幼き者でさえ理由取り繕いながら巻き込み…差し出すんだ…」


リーシェライルが虚ろな…怨みとも達観とも嘆き…とも言えない表情浮かべながら遠い目をする。


「まぁ、本質は今も昔も人間は人間だからな! まぁ、細かい事は気にするな。お前の思いは、届く範囲に届ければ十分だ。すべてを背負う必要はない…自己犠牲は気持ちを受け取ってもらえる範囲にしろ。そうしないと本当に大切なものを悲しませる…」


ニュールが明るく気軽な感じで述べる。

だが、世界が受ける理不尽な仕打ち…上位の存在からの気まぐれを是正すべく…全てを背負ってしまったモノ…であるニュールが何を言おうと、全く説得力持たない。


「さぁ、遣るべき事が目の前に有るのなら其れから片付けてしまうぞ!」


そうニュールが声をかけた瞬間、建物自体に張ってある結界が揺らぐ。

爆音響き攻撃を受けた事を示す。


「気が早い者がお試しの攻撃を仕掛けてきたみたいだね…。選択肢は2つあるけど如何する? 今遣らなくても後で落ち着いてから再挑戦…っていう選択もあるよ…」


「実行するには場が不安定だが、契約解消しとかにゃ…いざと言う時の足枷になりかねないな。遣る…か、遣らないか…」


既に割り切るフレイリアルが、選択見直すべきか悩む2人の背中を押す。


「2択じゃないよ! 選ぶのは "続ける" の1択だよ!」


結局2人もその言葉に頷き、中断していた儀式を再開する。

色々と滞っていたものが、堰を切った様に大きく流れ始める。



ピオは襲撃者と思しき者が居ると思われる王城壁内にある森に辿り着くが、既にもぬけの殻だった。


「…っちっ! 遅かったか…」


ド定番の取り逃がした時の台詞を吐きながら、ピオは早速…詳細な痕跡探るため探索魔力を広げる。

残された魔力の痕跡は、予想外にも大物で…ピオが珍しく本気で驚く。


「やはり、関わっているのはヴェステ。しかし何故、あの御方が直接此処まで赴いているのであろう?」


隣に控えるカームに…ではなく、自身へ向けて呟いているようであった。


「何にしても…相手方の素早き対応の原因が判明したのは重畳だが、収め処を探るのが難しくなった…かな」


一瞬だけとは言え…他の事そっちのけで思索に耽るピオ。

まず第一に確認すべき事項が欠落している事が気になるカームは、今まで黙って付き従っていたが口を開く。


「ニュールニア様の安否確認が必要では?」


「我が君は問題無いよ。余程の荷物を背負わない限り…世界が滅亡しても平然と生き残れると思う」


当然の事…と、主君の安否は気にしないと言ってのけるピオ。


「まぁ、そのうち分かるよ」


大事変後連れてきカームには、ニュールがどんなに強くとも人である…と言う認識があった。

だが、ピオはニュールの存在する位置…次元を理解していた。


そもそも大賢者と言う存在自体が、人間…と言う括りを越えた存在である。

寿命にしても、魔力の操作能力にしても遥かに常人を越えた能力を持つ超人…と言える存在である。

其の中でもニュールは単独で世界から外れたモノ…となっていることを…、ただ人の中でも、ピオは数少ない其の本質を理解する者であった。



青の塔に存在する…賢者の石と対になる天輝石。

そこに再度回路を築くためフレイリアルとニュールは天輝石の近くに立ち…冷んやりした感触の其れに触れ、今度はニュールの導きで繋ぎ直す。

リーシェライルはグレイシャムの器から抜けることを想定し、椅子に深く腰掛けて2人の状態を確認しながら指示を送る。


「繋ぐのは簡単でしょ?」


リーシェライルの声掛けに、ニュールとフレイが答える。


「あぁ、何とかなったな…」


「此処までは完璧だし、此処からも楽勝だよ!」


ほぼ全ての工程行うのはニュールだが、安請け合いするフレイリアル。


「特に、負担も…問題も…無さそうだね」


ニュールは3役こなす事に多少気負っているようだが、フレイは至って平常心だった。手短にニュールとフレイリアルの状態を確認したリーシェライルは、その先の指示に移る。


「其れならば次に、1度目の接続で見えた…絡まった繋がりを2人とも再度認識してください」


リーシェライルの口調が改まり、真剣さが伝わる。

その気持ちを受け取りながら目を瞑り…フレイリアルの体内魔石である賢者の石の周りで、複雑に絡み合った様々な繋がりを把握する。

2人が1回目の挑戦で辿り着いたところまで進んだのを見届けると、リーシェライルも意識下に戻るため…フレイリアルとの感覚の共有を試み始める。

そして準備を進めながら、リーシェライルがグレイシャムの中から最後の指示を出す。


「さぁ、ニュール。君は大賢者として天輝石との繋がりを保ちつつ、力づくで…其の繋がりを…繋がって無い状態を連想しながら、強制的に断ち切って下さい。容赦は要りません」


にこりっ…と、器としたグレイシャムの中で強く煌めく微笑み浮かべながら…説明を続ける。


「むしろ手を抜けば失敗するので、気を抜かないで! 上手くいけば…僕が此の人形の器から抜けると思う。そうしたら成功なので、透かさず承認を与えて下さい」


リーシェライルが事も無げに、ニュールが遣るべき…何やら慌ただしい工程について伝えてきた。


「了解した」


手短な答えを返すと、ニュールは最初から言われた通りに本気で始めた。

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