おまけ5 守護者契約 10
かつてリーシェライルが大賢者として青の塔と繋がっていた時、王宮には情報得るための人形が多数放たれ…数多の情報を取得していた。
其の人形が、塔から離れられない…囚われた…リーシェライルの目であり手であったからだ。
だがフレイリアルの内なる存在…助言者となったリーシェライルは、人形であるグレイシャムと自身をある程度同化させて繋ぎ操るために…フレイリアルの中に残る意識の比率を少なくしている。
その為…リーシェライルが自由に操れる魔力量は少なく、自身が城で操る人形も減り…数体残るのみ。賢者の石からの魔力の導き出しが必要な時も、フレイリアルに一任している状態だ。
フレイリアルは人形との繋がりを好まない。
人形を作るには…死にかけの生物の意識に繋ぎ、生命の根源となる回路を自身に導き入れ命繋げる過程が必要である。その接続の感覚は、魂凍る様な感覚を持ち…殆どの者にとって好ましい感覚とは程遠い。
帰巣本能のようなもので自動的に戻ってきたと思われるグレイシャムを利用する為には、改めてフレイリアルが人形化して繋ぐ必要があった。そのため魔物鳥でまず試してみたのだが、…無理だった。
「ごめんリーシェ…」
「仕方ないよ…決して気持ち良いモノではないからね」
「でもね、それだけじゃなくって…何か…あのね…感覚が…見たやつと違うの」
今はフレイの体内魔石となった…かつてはリーシェライルの中にあった賢者の石。
そこに詰まっている過去の経験から蓄積された情報礎石を…リーシェライルの言い付け通り、予習としてサラッと閲覧していたフレイリアルが持った違和感だった。
出来なかった言い訳…の様な言葉にも聞こえるが、リーシェライルの中にも内なる繋がりで…自身が繋いだ時と少し違う感覚…が伝わってきていた。
「そうだね…後で調べてみよう」
その違和感が、初めて人形作る感覚から来る不快感なのか…本来の接続と違ったために得た感覚なのか…。後で情報礎石で再検索をかけ、もし該当する情報が無ければ…記憶の記録の中から類似情報探し、1つずつ洗い出すしかなさそうだ。
それは其れとして、グレイシャムを再度繋ぎ直さねばならなかったので…リーシェライルはフレイリアルに完全に同調し、表面にリーシェライルが上って繋ぐ措置を代行する。
一応、問題なく繋がり…作業は完了した。
その後リーシェライル自身が繋いだグレイシャムに入り…そのグレイシャムからリーシェライルが過去に所持していた者達を繋ぎ、今現在は5~6体がフレイリアルの世話や情報得る役をこなす人型の人形として存在する。
他にフレイリアルのエリミア王国内で婚約者役こなすブルグドレフが、リーシェライルに強要されて繋がされた1体を所持している。
以前何十体と王城内に人形潜ませていた頃に比べれば、見たまま聞いたままの情報得る役割を担う者は少ない。
そもそも、人型の人形得るためには…死を目前にした体持つ人を捕まえなければならない。しかも間接的にでも魔力扱うためには、内包者である必要があり…更に条件付けるならば、賢者が望ましい。
グレイシャムと言う人形は全ての条件を満たすモノであり、簡単には捨てられない。
「好条件だし、僕の手で初めて人形にしてあげたモノだから、大切にしたいんだ」
リーシェライルがリーシェライルであった頃、フレイリアルへ最初にグレイシャムを見せた時に伝えた説明だった。
その時に見せたリーシェライルの輝かしき美麗な笑みや言葉に隠された真実が有ることなど…幼かったフレイリアルが気付くはずもなかった。
繋がりを強くして同調し…力を利用すればするほど、内在するモノは意識の同一化が早まる。その事を恐れるリーシェライルにとっては、数多く存在する人形を処分する事など些細な事。
あの日…王城では原因不明に事切れている屍が、各所で見受けられたのだった。
「王の考え方としては、目的である…塔と大賢者を…フレイを…繋げるために、懐柔する切っ掛けを作りをしている…って感じかな?」
リーシェライルは、過去に得た情報と…現在は数減った城に潜む人形から得た情報を合わせた乏しい情報から類推し、推測する。
それを聞きフレイリアルも何となく思いついた事を…気軽な口調で口にしてみた。
「プラーデラに罪を擦り付けてニュールを呼び出してみようとか思ってたり? 私が新しい機構に組み換えたせいで壊れた事にするつもりだったり、それで私が動揺して国王に泣き付くとか? ニュールが私と繋がっている事で、プラーデラでの立場を悪くするとか? 全部の要素詰め込んで良いとこ取りしてみーようって魂胆でしたぁ…なぁーんて感じだったりしてね!」
「まさか、そんな安直な…」
ニュールが一刀両断するような感想を漏らし、チョット凹むフレイリアル。
だが…その言葉は決してフレイリアルに対しての否定的なものでは無く、王国が…国王が目論んだであろう事の安直さ…愚かさに対する言葉だったのだ。
ニュールとリーシェライルの表情が固くなる。
「…あぁ、其れが正解だな。愚劣な国王の心情として考えるなら合理的だ」
「そうだね…短絡的考えなしの思考…」
「全く結果を考えない、その場限りの浅はかさ…」
フレイリアルは最初国王の意図や計画の推理が当たり嬉しかったが、今は何だか嬉しくない。ニュールやリーシェライルが罵倒する王への言葉がそのまま心に突き刺さる。
「あのぉ…あんまりケチョンケチョンにけなされると、言い当てた私自身も馬鹿って言われてる気がしちゃうんですけどぉ…」
メチャメチャ恨みがましい目でフレイリアルは2人を見る。
ニュールには背中をボスリと叩かれ、リーシェライルには無言で抱き締められる。
慰めの様な行動が、余計に心の傷に沁みる。
フレイの軽いお遊びのような意見だったが、それが一番辻褄が合う答えだった。
その推論に従い検証してみる程に…ピタリと嵌まる。
新機構の破壊で脆弱さを示し、新機構へと改修したフレイリアルの功績を貶め…プラーデラが仕掛けた事にしてプラーデラの責任追及し、フレイリアルかニュールの双方を双方の人質とし…どちらかを機構との接続へく導く。
そんな辻褄さえ合わない安い策…とは思う。
だが、純粋な力を行使し…敵対することは出来なくても、国と国の駆け引きとして使えば相手方を崩せる可能性のある…そんな遣り方。
エリミア王国は武力では劣るとも、胡散臭さとしては相当な強者集う…由緒正しき伝統持つ。閉じられた国とは言え、エリミアは歴史ある国なのだ。
歴史ある所に、闇は巣食う。
何故ならば…歪み重ね積み上げられていく国の歴史は、崩れた時に残ったものが真実となる…正しい者が正しい訳ではないからだ。
少しずつ他国と共謀し周囲を固めていけば…まだまだ国として若く固まっていない現プラーデラ。
如何様にも叩き潰せる…と、影に潜む者たちが判断したのかもしれない。
国王と言う立場持つモノとして "望みを達成出来るならば手段を選ばぬ" と言う部分を、ニュールは十分に理解できる。
安直な計画を実行できる実力があるかどうかは甚だ疑わしいしが、戦う手段によって未来が変わるのも確か。攻める方向性を変えれば、相手方が勝利し自身が負ける可能性持つ…と言うことだ。
「だてに歴史を刻んできたわけではないんだな…」
ニュールは少し楽しそうに呟き、この先の展開を見据える。
「歯向かう者…敵対する者が居るから…叩き潰して良い相手がいるから…戦えるのが楽しくって昂っちゃうんでしょ?」
リーシェライルが同じ様な魔に傾くモノの心で楽しそうにニュールに問う。
「否定はしない…」
「善い人…とか周りから思われてそうだけど、ただ優柔不断なだけだよね。それに、この状況に昂って…戦い控えて気持ちよさ感じちゃうような?…逃げる癖に真剣に逃げないで…追われると嬉しくなって戦っちゃう所とか…会ったときから変わらないよね」
リーシェライルが悪い笑み浮かべニュールの内面見通し、痛い感じの突っ込み入れて…バサリと切り捨て…更に留目を刺す。
『その言い方だと全くの変態じゃないか!』
ニュールは声に出して大きく否定したいが、否定しきれないので声に出せない。
沈黙を是としたリーシェライルが追い打ちかけるように付け加える。
「ニュールってヤッパリ、僕と同じ場所に住む鬼畜な魔物だよね。だから最初から気に入っちゃったんだなぁ…」
その微妙に褒めているようにも思えるリーシェライルの好感っぽいものに、ニュールはたじろぎ…沈黙する。
「僕は…善い考え持ち人を巻き込み猛進する善い奴は反吐が出そうなぐらい大嫌いだけど、自分勝手だとわきまえて…言い訳せずに自分の為に動く良い奴は意外と好きなんだ…」
楽しそうにリーシェライルはニュールを見つめる。
何となく意図を察したニュールが予防線を張る。
「貴方の獲物になる気は無いぞ」
「獲物だなんて勿体ない! 君は噛みしめる程味が出るんだから、以前と変わらず…長ーく遊べる玩具では居てもらわないとね」
リーシェライルから予想外の荷物になるような、立場や気持ちを背負わされ…げんなりした気分になるニュール。気が重い。
魔物な冷淡さ以てしても…同じ様に魔物な心持ちに傾くリーシェライルに対応するには、まだまだ経験の差が埋められないようだ。
結局…次の守護者候補を決める事も無く、何の事態の解決もなく進める事になった守護者解任の儀。
必要とするモノは守護者と守護されるモノ、契約時に使用した魔輝石。そして大賢者と大地と契約した正統なる王。
天空の間にいるフレイリアルとリーシェライルが入るグレイシャムの器、そしてニュールで執り行う。
かなり役目が被っていて人材不足が否めない感じだが、力だけで世界を揺るがし…国を何個か滅ぼせそうなぐらい持つ組み合わせ。
「まぁ、何とかなるだろ…」
意外と…皆して出たとこ勝負なモノ達だった。
「集中するため、一旦結界は解くよ。でも、感知された瞬間から干渉を受けると思う…。フレイも分かった?」
一応、敵に対する警戒が疎かになってしまう事は予想できていたので、モーイとブルグドレフを21層…この部屋の真下に呼び出してあり、結界出力が落ちてきたら代わりに受け持つ様に指示は出してあった。勿論、ピオとその周辺の者にも計画は綿密に伝えてある。
「可及的速やかに対処する…ってやつだよね!」
この微妙な緊張感をワクワクした事態として捉えるモノが此処にもいた。
フレイリアルは目を輝かせる。
「お前、いつからソンナ好戦的になったんだ?」
「えー、私の師匠であり保護者である2人がソンなんだから仕様がないよぉ」
フレイリアルも遣る気満々…ニュールの問いに、シレッと返す。
意外と好戦的なこの面々…少しずつ、皆で調子も上がっていくのだった。




