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おまけ5 守護者契約 9

闇落ちしそうな…リーシェライルのフレイリアルに対する偏執的思いに、ニュールは危機感を覚える。

どうやってもリーシェライルの意に添わぬ人選となるアルバシェルだが、それでも守護者の候補に入れられる事を…敢えてリーシェライルの前でフレイリアルの耳に入るよう伝えた。


新たなる可能性を明示したのは、リーシェライルの暴走を防ぐ意味もあった。

そして、フレイリアルに "自身の意思持ち決断する" と言う経験も積んで欲しい、親心…の様な思いもあった。

ニュールは魔物魔石持つ意識の取り込みで、理性よりも冷酷無残な本能的割り切りを手に入れた。それでも意識の奥に一旦沈み込んだ…人としての情は、少しずつ記憶の中で鮮やかな彩りを取り戻しつつある。

親心の情の様なモノも、其の1つであった。


選任する守護者の選択肢を増やす事は、リーシェライルの理性奪う可能性を孕む…賭けの様な部分を含むのは承知している。

リーシェライルの計画、 "フレイリアルを使った甦り" …への決断を促してしまう可能性持つことも…考えに入れてはあった。


だが、選択肢を増やす提案をしてからのリーシェライルは、一瞬ニュールに殺意籠る視線を向けただけで…その後は至って大人しかった。

そして予想外にニュールに謎めいた微笑み浮かべながら、懐くように絡みく言葉を発する。


「ニュールってば、前より食えない感じになったよね。…可愛いげが無くなった…って言うのかな、ちょっと嫌味な感じがいけ好かないよ」


不服を表し、ちょっとムクれた表情でリーシェライルが文句を言い放った。


「お褒めに預かり光栄だ」


その可愛らしい…ニュールにとっては予想外だったリーシェライルの嫌味に、笑顔で答える。


「あぁ…、何だかその厚顔な感じが悔しいなぁ。君から余裕をはぎ取り…足下に跪かせる御主人様になるのも…一興…かもしれないなぁ…」


吐息もらし…誘い寄せるように囁き…美しく妖艶に…悪巧む微笑み浮かべ、リーシェライルはニュールに颯爽と近づき…優しく腕に触れる。


リーシェライル自身であった頃の銀糸の髪と暮時の薄青紫の瞳と繊細なガラス細工のような面差しは無いが、グレイシャムと言う器の見た目も洗練された非凡さを持つ。

黄金の輝き放つ瞳と髪と端整で精悍な華やかな顔を持ち、老若男女問わず目を釘付けにする華やかさを持っていた。

普通の者なら、その天からの使者の如き姿と柔らかな接触で…自ら言われた通りの行動を取ってしまう意志ある人形と化すであろう。

性別が違ったらニュールでさえも危うかったかもしれない。

絶大な強要なき強制力が働く。


「…それは御遠慮願いたい…」


無言で迫り来る誘惑と言う名の威圧感と戦い、ニュールは魅了魔法の如き力を跳ね除け対応しながら…言葉返す。


「それに今でも十分…貴方に対し、頭垂れる思いや畏敬の念は持ってます。勿論、年長者を尊重する思いも…」


「だけど僕には物足りないんだ。僕を止めたいのなら…全てを捧げ尽くして欲しいと思っちゃうんだ」


リーシェライルがニュールの瞳捕らえ、一層悪諾む艶美な笑みを深める。

しばし見つめあい…思惑を読み合う。


「君は此処まで降りて来て、僕を思ってくれるかい?」


「近しい場所に在る…のと、跪く…のは、両立しないと思うんだがな…」


「心酔する様な絶対的服従や、狂おしい程の愛…を持てば…可能なんじゃないかな?」


「それは勘弁して欲しいかな」


両者おどけた物言いなのに、言葉の温度感が凍るようだ。

ある意味2人だけの甘く鋭い空間が出来上がっていた…が、割って入る者が現れる。


「あのぉー、2人とも仲良すぎて私が置いてかれてるんですけどぉ」


フレイリアルに問いかけていたのに…リーシェライルとニュールが世界築き、表面上はにこやかに楽しげで妖しげな遣り取り繰り広げていたのだ。

放置されたフレイリアルとしては面白くなかったけど…面白かったし、若干臍を曲げたかのように見えるが…喜んでいるようにも見える。

ちょっとフレイリアルの表情に謎感はあったが、一気にその場の濃密な空気感は散開し…和む。


「ごめんね、フレイ…ついニュールとの意見交換に夢中になっちゃったよ」


「ううん、気にしないで。仲良しなのは嬉しいし…リーシェが私以外にも心開いてくれるのはウキウキするよ!」


フレイは謎の高揚感見せ、楽しそうである。


「あのね…私、ミーティとタリクが仲良くしてる時も嬉しかったけど、リーシェとニュールが仲良くするのも有りなんじゃないかと思うの。美少年同士の友情もありだけど、おじさんと美青年の友情もこれまた尊いって言うか…ありって言うか…」


混乱しながらも目を輝かせ鼻息荒く語るフレイを見ながら、保護者2人が…ゲンナリした表情を浮かべ…自分達の言動を悔いる。

今後は周囲を十分に確認しながら会話し、誤解を受けるような発言は控える…と心から反省する。

フレイのチョットだけ偏った嗜好をこれ以上目覚めさせ…刺激しないためにも、慎重に行動すると誓い合う2人であった。



「決まったのか?」


気を取り直して、フレイリアルの選択を確認するニュール。


「無理! ヤッパリ、すぐには決められないよ…」


フレイリアルが至極まっとうな答えを返す。

元々、新たな守護者については追々進めていく予定であった。


新規守護者の選任についての提案を受けた後…フレイリアルも暫し熟考はしたようだが、この先何年も…下手すれば何十年も続くかもしれない契約に巻き込む相手。

今回も…ある程度差し迫った状況だが、ニュールを巻き込んだ時よりはモノを考えるようになったフレイリアル…そう簡単には決断できないようだった。


「確かに急な決断を迫ってしまって悪いとは思う…。だが…予想よりこの国の…国王の、機構や大賢者への執着が強そうだと判断したんだ…」


ニュールが其の根拠となる、王城で情報収取していた者からの情報を開示する。


ピオが国王との謁見後…エリミア側の大臣も含めて実務者との間での話し合いに参加する中、その間に国王と側近周辺に潜ませていた者からの報告が上がってきた。


本当に直近で得た、エリミアの中枢…国王側の往古の機構への拘り…執着についての情報。


"往古の機構についての国王から臣下へ尋ねる機会や会話への出現頻度が高く、強い執着がみられる。希望的観測と楽観的な行動が見受けられ、何らかの策を講じてあると思われる言動が強く現れている。水の機構の主要な魔力汲み出し地点について確認する作業を行っているいようであり、この件については引き続き調査中。プラーデラを巻き込むために、滞在する間に実行すると会話からの情報取得あったため取り急ぎ直接報告に至る。 零06"


情報収集しているいのは…ピオがヴェステの影から、譲歩してもらい(無理やり)…好条件を提示して(脅して)、引き抜き(強制的に連行)…をしてきた者達だった。

飛書魔石と同じように…魔石に情報を刻み込み飛ばし伝達する伝書魔鳥で報告がなされた。

魔物化した小型の鳥を人形化したものを使う連絡手段である。

送信者は直接の書き込みではなく、意識下遠距離でも人形と繋がっている者ならば可能であり双方が所持する必要もない。


1体をある程度の距離に滞在させれば、わざわざ警戒される場所へ持ち込まなくても送信可能である。

ただし直接の遣り取りには向かないため報告専用…とも言える。


同じように長距離の伝達手段の1つとしての飛書…飛書魔石があるのだが、こちらは大分流通してきたため持ち込みへ強い警戒を持たれている。

そして飛書は、高出力の結界を通ると不具合が出る事が多いため…エリミアの様に王城壁にまで結界陣施されている場所では、正常に働かない可能性が高い。


一長一短はあるが、今回は伝書魔鳥が使われた。

これもヴェステの魔石研究所で開発した連絡用の技術であり、ピオが程好い情報や金銭を与えながら研究させ手に入れたモノである。

もともとピオが所属していた国や場所ではあるが、敵対する状態の他国の国立研究所を勝手に利用する図太さは流石…としか言いようがない。


「零06って?」


フレイリアルが知らせた報告内容にではなく、全く関係のない…謎…と感じた部分に素直に食いつく。


「組織名と所属番号だ…」


ニュールが端的に答えた。

"零06" は情報員の呼称であるが、零なのはピオが未だ未定…の意味として付けただけだった。しかし既に定着してしまっているようだ。

余りにも色々と無頓着なためミーティがピオに尋ねた事があった。


「自分が1から編成した組織なのに気にならないんすか?」


鍛練前に零に指示を出しているピオの姿を見て、何気なく考えなしに口にした疑問だった。


「僕は、こう言うのには興味ないんです」


自身が手に入れたり遣り遂げた事に、全く興味が無いようだ。寧ろ手に入れてしまった者モノに対して、嫌悪感さえ抱いているかの様に冷淡だった。


「じゃあ、何になら興味が有るんすか?」


「勿論、僕の興味は我が主が何処までも無双して下さることであり、無慈悲な蹂躙を繰り広げるお姿にただひたすら萌えます。まぁ、普段から皆が苦労するような事を…然も下らない容易な事として片手間に片付ける様なお姿もグッと来ますし、人々の諸行を天空から俯瞰し先を見る御姿に人智を超えたものを感じ心打ち震えますし…その他にも…」


「…もう十分伺えました」


止めなければ…永遠にニュール語りをしそうな勢いで話し続ける所が恐い。

だが止めてしまったがゆえに…ミーティはその後の鍛練でピオと言う名の魔人住む大魔境へ送られることになった。

それがニュールの魔物な治療の世話になる5度目の機会であった。



ピオが放っている零からの情報が直接ニュールに届くのは、余程の影響出るモノか差し迫った状況の場合だけである。つまり相当な影響あると考えられた為の連絡であった。


「実際に起こる行動は水の機構への干渉…って感じだね。実行するのが今日明日」


リーシェライルが淡々と状況再確認する。


「予想としては、単純な破壊か。プラーデラの使節団がいる間…と言う指定は、巻き込むため…と言うのは分かるが理由は何だ?」


「破壊されると何が起こるか…新し機構への民の信頼度の低下とか…。他国を証人として使うのかな?」


「少なくとも謁見では往古の機構のままである…と言う印象しか残らないように国側は扱ってたよ」


フレイも国王との謁見での様子を伝える。


「国王側の目的は往古の機構の復活…大賢者と賢者の塔の接続による、機構を万全に使用する機能の取得かな…」


リーシェライルは以前に王城で取得した情報を利用し、予想できる国王が望み進むであろう道を並べてみる。そうやって少しずつ計画を探り、答えへと辿り着くための道順を皆で協力して手繰り寄せて行くのだった。

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