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おまけ4 振り出しに戻って進もう~ミーティとモーイの第一歩 16



ニュールから粗方の説明を受け、結局最後の美味しい所を持っていかれ…場を収められてしまった…と言うことが判明した。

だがミーティとモーイに不服なく…むしろニュールに労われ…嬉しくなっていた。

姉弟そろって父親に褒められた…そんな気分かもしれない。


「やっぱり、ニュールって父さんみたいだな!」


呑気に気楽に思ったままを呟くミーティ。

だけど珍しくニュールが楽しそうに反論する。


「いや、こんな面倒臭くてデカイ餓鬼持った覚えはないし、オレはまだ嫁さえもらってないんだぞ。見た目年齢以上の苦労は背負いこんだかもしれんが、せめて母親役迎えてからにしてくれよな」


その余裕ある温かみ持つ微笑みが、2人の背筋をぞわりと痺れさせる。

居住まい正したくなるような、もたれ掛かりたくなるような…抱きつきたくなるような…一生付いて行かせてくださいと申し出たくなる気分。


その状況に2人とも嬉しくなり自身の状態忘れ、相当浮かれていた。

ニュールは、そんな感じで…数日ぶりの御対面済ませた後、意識戻った後の2人の状態を確かめ始める。

まずモーイの顔を覗き込み…額に手を当て、様子を確認する。


「モーイは体力さえ回復すれば問題ないな。…魔力回路の状態も、十分に動き巡っているようだ。これで、やっと完全回復だな…来た甲斐はあったじゃないか」


ニュールは其の状態に満足し、微笑みながらモーイの額から手を外す。

次にミーティの状態を確認し始める。


「…魔力で内臓を損傷していて、相当血を失っている状態だ。分かってなさそうだが…今の状態で痛みが無いのは、薬を与えられてるからだって事を忘れるな。…お前が思っている以上に重傷だぞ。もう少し…魔力扱うことで何が起こるのか、事前に勉強しておくべきだ。実技だけじゃなく座学…も重要だぞ、自身の深層から知識得る方法を体得しても良いがな…」


ミーティの上役としてのお叱り…と言うか、保護者の叱責…と言う感じだった。

お小言が山ほど入る…。


「えぇー、オレ頑張ったのに勉強しろって怒られるの?」


明るく受け答えするので元気良さそうに見えるが、腕は上がらないし、少し続けて話していただけで息が上がっているのがバレバレだ。


「今度は心配掛けないように頑張れ。動けるぐらいになるためには…もう少し治療が…必要だな」


そして、いつもの光景が再現される。

訓練や戦闘で傷つき瀕死の状態で倒れた時に行う、最も効果的な方法が取られた。

ニュールが魔物の力を注ぎ込むために行う…口付けを介した治療。

あらかじめ、この地の者達にも治療方法を説明してあったし…効果の実証もしてみせてあった。


それに、見るものが見れば魔力…などの譲渡と、それにより活性化している体の状態が見て取れるので、一瞬ギョッとされ引き気味の対応はされるが納得はしてもらえる。


だが、それによって引き起こされる施術受けた者の状態は…周囲の怪訝な表情を生み、一歩後ずさる人々を生む。

ミーティの定番の反応ではあったが、理性が…吹き飛ぶ…。

勿論、治療であるがゆえに軽く済ませる予定のものなのだが、ミーティが毎回ニュールの頭を捕まえ…抑え込み離さない…。

深く貪るように吸い付き、絡みつき…離れようとするニュールの頭を必死に手繰り寄せるミーティ。

ミーティは周囲の者など一切目に入らないかの様に、恍惚とした表情を浮かべ…ピオに止められる更なる先を求めるかのようにニュールを引き寄せる。

魔物なニュールは来るもの拒まない故に、気にもしていない様子だった。

周囲に居合わせた5~6名の世話する者達の反応は様々で、その光景に嫌悪感浮かべる者…冷静に興味深げに観察する者…思わず一緒に魅了され逆上せる者…様々だった。

横にいるモーイの表情が、刻々と…確実に…冷え冷えと…凍っていく。


『このまま放っておいて、何処までやらかすのか見てみたいもんだよ』


心で呟くが…当然のようにミーティに対してのみ怒りが湧く。


『昨日…人に言い寄ってたヤツが、身もだえしながら男を引き寄せ恍惚とした表情で口付けている微妙な状況って、どう考えりゃあ良いんだかな…』


怒りと蔑みが同居するような気分になるモーイ。

顔をしかめつつも目を離さず…見つめる。


『煩悩から解放されて悟りが開けそうだよ…』


万人の目がある中で更に突き進むのなら、心の崖からミーティを突き落とすつもりだった…一生目に入れぬ為に…。

だが、幸いその先の状況を目にする事は無かった。


「馬鹿やってるで無いだ! まったく…此の餓鬼は、モノにしたい女子の前で…しかも仕える主に対して何をしくさってるんだい!」


アクテが引き連れてきた者達に指示し、ミーティを取り押さえた。

体調は治療によりほぼ完治まで一気に導かれているようであり、抵抗する力も強かったようだ。

少し時間が経つと、魔物の力による魅了が解け…気迷いから解放されたミーティだったが、随分と気まずそうにモーイにチラリと視線送る。

モーイは完全にシラっとしていて、達観の域に入っている…と言った状態だった。ミーティは自身がヤラカシてしまった事を自覚する。

正常な状態に戻ってからは、モーイの事しか考えられなくなっていた。


『誤解だけど、誤解じゃない状態…どうしよう…』


今のミーティのモーイに対するおどおどした姿は、半の日前まで勇猛果敢に穢れた魔力と対峙していたとは思えないような有様だった。



語り部の長アクテとプラーデラ国王であるニュールは初めての対面だった。


「この度の救出助力、集落を代表して感謝致します」


正式に集落が用意した席であり、双方2名ずつの侍従的者を引き連れての対面を行なった。

ニュールは転移陣より2名を招集する。

ピオが何処かから連れてきた、優秀な頭脳と事務処理能力持つ元影だった…と思われる者と、元々プラーデラで外交担当していた大臣の補佐を呼び出した。

アクテは内部の反乱分子的な集落の長を処分したため、自身の語り部補佐と、語り部の副長を伴った。


初対面の堅苦しい挨拶とアクテからの謝辞の後、ニュールは語り部達との情報交換を始める。

もっとも、ミーティの意識下に呼ばれ繋がった時点で時点で、ニュールは情報取得の接続点を得ていた。

だから語り部の長のみ繋がれる場所以外の語り部達が共有する情報は開示された状態だった。

確認作業の様な話し合いが終わった時、アクテが切り出す。


「ここからはミーティの祖母として話させて頂きますが、このままミーティを貴国に預けたい。可能だろうか?」


アクテはズバリと願い問う。

ミーティは記憶の一部継承受け、語り部同様の繋がる扉を持ち…意識下に入る覚醒を済ませた者となっている。

大賢者の保護下に入れなければ集落にて強制的に語り部にされるか、拒否すれば一生監禁されるか、下手したら処分されるであろう。


ニュールは語られぬ其れらの内容や、この集落が闇組織とも繋がりを持つ事まで…語り部達が共有する記憶から把握していた。

いくら立年の儀を迎えたとは言え、専門職集団まで含む者達が手ぐすね引いて待ち構える作為ある罠…それをかわし続けるのは難しいであろう。


「貴女の願いは聞けない。聞く義理がないし利点もない…」


状況を理解しているのに…答えは否だった。

アクテは、魔物の様なニュールの冷徹な言葉と態度に口を真一文字に結ぶ。


『だが、ここで断られては、イラダと約束した…ミーティの自由を保証できなくなる…』


再び説得を試みるため、更に言葉を継ごうと思った矢先…ニュールが言葉足す。


「…だが、それは貴女の願いであるからだ」


「??」


「私が義理や情を持つのはミーティ自身だ。自分自身の責任を持つべき年齢の者に対し、彼の者の希望聞かず応じる訳にはいかんだろ?」


「!!!」


アクテもやっと気付く。

ミーティが既に世話されるだけでない、自分で判断し行動する一人前の者になっていることを…自身の展望持つべき時を迎えていることを…。

ニュールが求めたのは強制でも…成り行き任せでもない…自分自身の考えや思いから導き出される、自分で持つ意志であった。

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