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2.不注意で巻き込まれ

「此の大きさの魔物魔石は普通狩った者が持ってっちゃうから、鉱物由来魔石でも魔物由来魔石でも…天輝を浴びたと思われる状態で此処に残ってるのは凄く珍しいんだ」


荒れ地に1人で現れるぐらい魔石に多大な興味持つと思われる子供、魔石について語り始める。


「此れは…多分、元は普通の砂蜥蜴(サンドリザード)の魔石だと思うよ。此処に残されてた魔物系のヤツに、鉱石由来のみたいに天輝降り注いで魔力溜め込んだんじゃないのかな? 魔力がスッゴク濃厚だよね」 


ゆったり進む砂蜥蜴が引く荷車の御者台、その火竜(サラマンダー)のような強烈な魔力出す異様な魔石を大事そうに横に置き…まるで愛らしき生きモノに対するかの如くスルリと撫でつける。

そして現在の…見知らぬ男に助力願い同行する微妙な立場と状況など気にもせず、子供は自分が見つけた…と主張する魔石についての考察をじっくりと行う。


「小さめの魔物魔石は良く拾うけど、此の区域の魔石は色々な魔力として取り出しやすいから…直ぐに採取されちゃうんだ。今回見付けられたのは、凄い幸運!」


キラキラと目を輝かせ、先程知り合ったばかりのニュール相手に…一方的に語る。


「念のため魔力濃度が高まる場所の予想立てたりはしたのだけど、こんな大当たりが出るとは思わなかったよ」


心から楽しそうに話す姿は、何とも微笑ましい。

思わず此の異様な状況を…黙って受け入れてしまいそうになるが、ニュールは全身から嫌な汗が出るのを感じる。


大当たり…と称する其の魔石、隣り合い座るだけでもゾワゾワした感覚引き起こし気力体力を消耗させる…強い魔力を放ち続ける際どきもの。

ニュールにとっては可愛さの欠片も感じないモノであり、狂暴な生きた魔物が隣にいるかの様な気分に陥る。

剣呑とした心持ちにさせる…悪しき存在が、子供との間に鎮座しているのだから…仕方がない。

其れなのに、此の能天気な子供は好き勝手にあっけらかんと…好ましきモノとして気楽に魔石扱う。

此の傍迷惑なモノ達が及ぼす…理不尽で重い緊張感により、ニュールは頭を痛め…じわじわと病んだ気分が増していく。


「此の大きさ…此の状態の魔石は、滅多に見つけられないんだよ!」


興奮押さえきれぬ…と言った面持ちで、魔石語りをする子供。

相変わらず周囲への配慮は一切無く、ニュールの様子窺い知る事はない。

其の上、一度たりともニュールを警戒することが無かった。


「大きさだけでも珍しいのに、膨大な天輝…魔輝を帯びた状態って凄いよね!!」


魔輝とは、一定空間に突如生じる過剰で濃厚な魔力の総称。管理は愚か、把握さえ困難な…人知を越えた自然現象。

天から降り注げば天輝…地中から湧き出せば地輝と呼び、魔輝に接した存在は過剰な魔力の供給を受ける。

蓄える能力持つものには、魔力が蓄積されていく。

拾った魔石も天輝が降りたと思われ、魔輝と呼べるほどの威圧感ある魔力を持っていた。

其のひたすら魔力溢れ出す存在を横にする状況下でもケロリとし、子供の口からは延々と魔石について言葉紡がれる。


「だけど…天輝で力を増した魔石は放出も早いから、見つけたら直ぐに移動させて接点を離さないと。だから、手伝ってくれて凄く助かったんだ」


そもそも日も昇らぬ内から働いていたニュールは、王都への運搬依頼の完遂後は…旨いもんを食って家に帰り寝るだけのつもりであった。

其れなのに、頼み断れず更なる荷運びを引き受けてしまったのだ。

一仕事の後であり、追加仕事受けた時点で…既に身体も心も疲れきると言った苦難重なる状態。

其の上に、厄介事を背負い込み…はっきり言えば三重苦。

無心の境地へと至り、耳も目も口も塞ぎ…全てを遣り過ごしたい気分になる。


其れでも気になることは多く、子供を横に乗せたまま…流石に放置は出来ない。

魔石について饒舌に語る子供の勢い削ぐ意味合いもあり、ニュールは重い口開き…問う。


「どうやって見つけたんだ?」


「探索を掛けた…だけだよ…」


一転して子供の口が重くなる。


『確かに…少し遠かろうが、大きな魔力持つ魔石なら…探索掛けて反応出る可能性はある。だが此処は、第1都市と王都の中間地点。普通なら…探索魔力使おうが、どっちの街からだって届きやしない。荒れ地に出てから探索掛けつつ…魔石見つけるにしても、時間と距離が不自然過ぎる』


警戒心の欠片さえ持ち合わせぬ子供の、言い淀みと…ぎこちなさ。

ニュールはそれ以上の追求をせず、話題を変えてやる。


「そういえば名前をまだ聞いてなかったよな。俺はニュールだ。主にエイスからの便を中心にナルキサ商会の荷物を配送してる」


「フレイだよ。石拾い…見習いかな。今日はコレに呼ばれて此処まで来ちゃった」


その大きく強力な魔力放つ魔石を、気軽にポンポンと叩きながら答える。

子供が陥るにしては不審な状況であるにも関わらず、解ってか解らずか…悪びれず微笑むフレイ。

その暢気で無謀な言動に、ニュールは今までのフレイの行動を思い起こす。

そして自分も過去に言われた…年を重ねた者から伝えられたお小言を、ついつい…口にしてしまう。


「不用意にも程がある。お前の師匠は何も指導しなかったのか?」


「リーシェには、良い事だってダメな事だって魔石の事だっていっぱい教えてくれるよ。だけどコレは急がないと消えちゃうし、今日は絶対行った方が良い気がしたから…でもコレを探してたのはリーシェも知ってるよ」


ニュールからの叱責に…あわてて師匠をかばうフレイだが、半家出人状態の暢気な子供…にしか見えない事に変わりは無い。

そして、ニュールがそれを拾ってしまったと言う事も事実。


「でも、此処まで出てきてるのは知らないんだろ? そもそも人が通りかからなかったどうするつもりだったんだ…気付いても手伝ってもらえなかったら?」


「…」


「俺が野盗だったらどうするつもりだったんだ?」


畳み掛けるように問う。


「それは無いよ。ニュールは違う」


そう答えるフレイの笑顔には、根拠なき信頼が込められていた。

どうしようもない無計画さと、考え無しの行動。

苛立ち以上に脱力感を覚え、ニュールはフレイの師匠やその回りの人々の気苦労を思いやり…思わず溜め息をつく。


「ふぅ…。自分を大切に思っている人間のためにも、自分を大切にしろ…」


「…ごめんなさい」


素直に反省して謝るフレイの姿見て、かつてニュール自身がかけられてきた言葉に込められた思いを実感することになる。

期せずして振り返る我が身に、思わず苦笑いが浮かんでしまうニュール。


だが説教相手のフレイの方は…一瞬の反省はあったようではあるが、その後の道程でも自身が手に入れたり気になった魔石についてひたすら語り続ける。


「天輝を浴び…魔輝が宿る魔石を見付けた事も何度かあるけど、魔物魔石のは…あっという間なんだ。直ぐに放出した上に、壊れちゃう。鉱物系のは、荒れ地で大きいのに出会ったことないぁ…。魔輝石と呼べる水準には至らない感じなんだよね」


フレイの勝手気ままな魔石語りは止め処なく続くが、ニュールは耳を傾ける。


「前に偶然荒れ地で大岩蛇(グロッタウ)のを見つけたよ。普通の魔石っぽかったけど、黄色く輝いていて透明でとても綺麗だったんだ。コレの四分の一ぐらいだったから鎧子駝鳥でも平気だったの。魔輝は感じなかったんだけど、力は普通の魔石よりは強かったからやっぱり天輝が降りて入ってたのかな? 周りでみつけた水袋甲虫(マイヤル)の魔石も普通のより良かったから、役立ったんだ」


フレイはニュールの顔に目を向け、ちゃんと聞いてもらえている事を確認し…嬉しそうに続ける。


「今回のは今までの中でも一番の大きさかな。明け方から力が大きくなってきてたから急いで来ちゃった。だから鎧子駝鳥しか連れ出せなくて…本当は砂蜥蜴に乗って来たかったけど今日はダメだった」


「砂蜥蜴? 砂蜥蜴は大きい商会や王城が管理してるから個人じゃあ連れ出せないだろ?」


野生の砂蜥蜴は沢山いるが、騎乗出来るものは卵から孵して人馴れしたものだけである。

この近隣の土地柄である砂漠や荒野、森林、岩山や荒れ地で共通して使える唯一の足、希少で優秀で…貴重なのだ。

個人での管理は禁止され、国から委託された飼育場でのみ育成され貸し出されているので普通の人間では短期間に許可を得て使用することは難しい。


「ははっ! そうだよね。挑戦してみようかと思ったんだけどねぇ~」


「捕まっちまうぞ」


ニュールの言葉に一瞬目を泳がせ口を噤むが、すぐにまた魔石について語り始める。

フレイは身振り手振りを交えながら引き続き楽しそうに語っていたが、ほぼ一方的に語られ聞くような形でいるうちに目的地が見えてきた。


「そろそろ王都砦が見えてきたがどうする、門で降りるか? 俺は商会の荷下ろし場へ行くが、お前もそこで良いか?」


「ここでいいよ!」


笑顔での返事と同時に、フレイは並走していた鎧子駝鳥を荷車に引き寄せ飛び移った。

ニュールは何故かどんくさいと思っていたフレイが、予想外の身軽さを持っていた事に衝撃を受ける。

驚き唖然とする間にフレイは鎧子駝鳥を加速させ、ニュールが残る砂蜥蜴の荷車を引き離していく。


「おおい、魔石はどうするんだ?! 」


「後で取りに行くー!」


「後でって?? 俺はまたエイスに戻るんだぞ! 其れにコレ、持ったまま検問って大丈夫なのかー!!」


「大丈夫、大丈夫!!」


どちらの言葉への返事か解らないような適当な返事を残し、フレイは1キメル程度先の王都砦へ向かって走り去った。


突然現れ…片っ端から周囲吹き飛ばす、運命の流れを加速させ巻き込む…大砂嵐。魔力蓄えた魔石以上に危険であった、そう気付くのは遠くない先だ。

自由すぎて思わず叱っちゃいましたが、悪い子では無さそうです…ただ、子供は何か隠しているようです。

気の良い見た目確実にオッサンな青年は魔石運びに巻き込まれて、次はとある小部屋に入れられます。

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