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おまけ4 振り出しに戻って進もう~ミーティとモーイの第一歩 12

「ミーティ…此れは父さんと母さんと3人だけの秘密だよ」


坑道へ父さんと2人で行き、石授けごっこをしていて初めて取り込みが成功した時…父さんと交わした約束。


ミーティの石授けの儀は、4歳になると同時に…母と祖母と集落の語り部に見守られながら、街ではなく…集落で儀式を受けた。

樹海の中で生活する者は、濃い魔力の影響を受けるため魔石を内包することが当たり前と言われていた。

特に樹海深部にある集落では、高位魔石を内包する者も多い。


集落での儀式は、街で行うのとは少し異なり…必ず一番最初に手に乗せられる魔石があり、其れは集落で一番重要な魔石とされていた。

青黒い魔力を発する黒曜魔石…それが集落にとって特別な魔石である。


集落が出来てからずっと同じように行われてきた慣習であり、語り部の適正を見るための儀式。

手にした黒曜魔石に変化があれば適正あり…と見なされ、次代の語り部としての修行を受けることになる。変化とは、手にした黒曜魔石の魔力を動かせること…若しくは、黒曜魔石を内包することだ。


儀式の時、語り部の長であり祖母であるアクテから、直接にミーティの手の上に魔石を乗せられた。


「さぁ、魔力を動かしてみるだ…」


「これ嫌! 怖い! 違う」


幼いながらも好みのハッキリしているミーティは主張した。


「ほうっ、そうなのか…ではどれが良いんだい?」


「これ!」


ミーティは自ら選んだ魔石を手のひらに置いてもらい、望んだ魔石の魔力を動かし…内包した。

内包したのは柘榴魔石であった。


所謂…雑魚魔石と呼ばれる生活魔石の1種であったが、その中でも熱を司り、攻撃魔石扱う親和性もある魔石でもある。決して悲観するような魔石では無いし、標準的な力持つ魔石である。

周囲は普通に内包できた事を祝う。

ミーティ達の年には、黒曜魔石に適正のある、魔力動かす者も…内包する者も…現れなかった。

ここ数十年、集落で用意する黒曜魔石を内包する者は皆無である。



ミーティの石授けの儀に父ドムスが参加できなかったのは、ミーティの母イラダとの婚姻が駆け落ちに近いものだったからだ。

ミーティの父ドムスは元はサルトゥス王国の騎士であり、仕事の関りで母イラダと出会った。

イラダと結婚し暮らすために、騎士を辞めスウェルに定住する。ドムスは共同経営で鉱山主となることを決断し、樹海の住民となる道を選んだのだ。


鉱山主となって4年、ミーティが生まれてから3年。

ミーティがしっかりと坑道を歩けるようになってから、父ドムスは仕事がてら頻繁に連れ歩き魔石に触れさせていた。

自分に合った魔石を内包出来るようにするために、貴族の…比較的親馬鹿な者が…自身の家で各種魔石用意して子供に触れさせたりする事が多い。

同様のことを…鉱山関係者の親は幼い頃から子供を連れ歩き、環境を利用し鉱石に親しませる事で行うと聞き、ドムスも試していた。


2の月後にミーティの石授けがある…という頃。

ドムスは鉱山へいつものようにミーティを連れ歩く。

ミーティは時々落ちている魔鉱石の欠片を拾っては手に乗せ、魔力動かす訓練のように力をいれて石授けごっこをしていた。


「父さん…動かない! ボク動かせるのかな?」


6歳ぐらいまでは、余程相性の良い魔石でもない限り普通は魔力を動かせない。徐々に慣れることで、生活魔石なども使えるようになっていく。


「あぁ、感覚掴めるまでは難しいよな。でも色んな魔石に触れてると、動かせそうかなっ…て思えるのが出てくると思うから試してごらん。上手くいったら見せておくれ」


そして同じ場所でミーティは遊び、ドムスは鉱石調査の仕事をする。

日常的な行動だった。

ただ、今回来た横穴は、安全性だけ確認できている未知の区域だった。岩盤そのものは崩落の危険性等も無く、探索では獣や魔物が入り込んでいることもなく安心していた。その為、含有する鉱物の内容はあまり気にかけていなかったのだ。


「父さん!!」


ミーティが嬉しそうにドムスに走り寄る。

ドムスは調査中の鉱石から顔を上げミーティを見ると、満面の笑みを浮かべていた。


「ほら見て!! 棘っとしてて格好良い石みつけたらね…出来たの!」


ミーティは嬉しそうに広げた手の中にある魔石の魔力を動かすと…手の上の魔石の魔力が動き…スルリと消えた。


「!!!!」


ドムスは驚愕した…そして自身の浅慮を悔いた。

ミーティが得意げに見せた内包…父は驚き喜んでくれると思っていたのに…喜んでもらえなかった。

そして父ドムスの醸し出す…恐怖のような…落胆のような…無念のような…雰囲気に、ミーティは少し寂しさを覚える。


「…ボク…できたんだよ?」


「…あぁ、そうだな…偉かったな!」


父は、心ここに在らずな状態だったが笑顔で応じてくれた。だが何故か複雑な表情で…でも思い直したかの様に、今度は楽しそうな感じでミーティの興味を引くように挑戦…の様な提案を持ち掛ける。


「他にも動かせるのが無いか試してみよう。色々なのを試した方が楽しいだろ! もっと大きくて凄いのがあるかもしれないぞ!! 今度は凄く大きいのとかでも、出来るか試してみような!」


「うん!」


ちょっと楽しそうな父の提案にワクワクして、ミーティは直前に父が見せていた様子など頭から消え去る。


「その黒い石を見つけた所に案内してくれるかい?」


ミーティが案内してくれた場所にあったのは、黒い輝きの中に…青く輝く魔力を持つ黒曜魔石…それは、空間魔力を持つ闇石の原石だった。

幸い、穢れた魔力を含まぬ空の状態のものだった…そうでなければ痕跡が残り、周囲に発覚していたであろう。


そこから、ドムスは周囲から親馬鹿っぷりを嘲笑われようが気にせず…多種多様な魔石を集めた。そしてミーティに触れさせ、魔力を動かし内包出来そうな他の魔石…可能性のある2種目を探した。


大概は魔石内包できればどんな魔石であっても僥倖…と言われることが多い。


ただし、樹海の様な内包率の高い場所や王侯貴族などは、満足のいく魔石でない場合…2種目を探すことがある。

子供のうちなら、1種以上の魔石を内包できることが…極稀にあるのだ。


ミーティの石授けの儀が差し迫る中、ドムスは100種以上の魔石をせっせと集め運んできた。だが、その中にはミーティが内包出来そうな物は…なかった。

所が、予想外の場所で魔石に巡り合う。


台所で母イラダの周りをうろついていたミーティの目は、前から気になっていた魔石を捕えていた。

母が調理に使う器具を動かすための大きめの柘榴魔石。

熱を生む力持つ魔石であり、万が一の事故を恐れ触れることを許してもらえなかった。


『あの、黒くて格好良いのは父さんも母さんもお化けが出るから怖いって言うけど…この大きくて強そうなのなら悪いのを追い払ってくれるかな…』


イラダが料理する横の調理台に置いてある魔石を、母の目を盗み首尾良く手にするミーティ。


「ミーティ!!」


その瞬間、母に咎められ…思わず証拠隠滅を図ったミーティは…石榴魔石を内包していた。

2種目は身近にあったのだ。


「…母さん、触って御免なさい…。でも出来たよ!」


「…良かった。良かったね…良くできたよ!」


いつも元気で怒ると超怖い母イラダが、調理台にあった…触れることを禁止されていた柘榴魔石に手を出した事を怒りもせず、涙流しながら心から喜んでいる姿…大きくなってもミーティの記憶に強く残っている。


その後、ミーティは黒い魔石の恐ろしい話…お化けが入ってる話を、夜お手洗いに行けなくなるぐらい散々聞かされ近付きたくない気持ちになった。

そして、自分の中に少し入ってしまった黒い魔石の事を口にすると、お化けが魔石を狙って押し寄せてくるような気がして…誰にも話さなかったのだ。


知らぬうちに鉱山から黒い…青い魔力含む魔石は消え、時間が経つほどに自分の中にあるもう一つの魔石の事は忘れてしまった。


勿論、導いたのは父と母だった。



緊急事態であわただしく皆が動き、支度を整える。聖域に繋がる館から浄化の間のある聖域へは転移陣で向かう。


「アクテ様、準備が完了しました」


語り部の補佐が声を掛けてきた。


「浄化の間には、現…語り部のみ…で向かう」


それがアクテの指示だった。

現状…浄化の間にミーティを運び処分…するのが一番の策である。それでも暴走した魔力が周囲を巻き込む危険性を考えたら、それが打倒な選択である。

語り部の補佐や集落中枢の者はそう思っているであろう。


「あたしは行くよ! 自分の息子の危機に対処出来ない親なんて有り得ないからね!」


アクテに向かいイラダは啖呵切るように述べる。


「お前さんは此処に留まりな!」


アクテは語り部の長として厳格に指示を出す。


「あたしはあの子を救う!!」


イラダは母として譲らない。


「…親である以前に、お前はもう次期語り部の長となっちまっただい。記憶の継承も粗方完了している…一度引き受けたものは逃れようがないんだよ。それに、お前は未だ補佐でしかないんだ…記憶の共有をしてないお前にに道は見えない」


「あの子の…道を…自由を守るために受けた話なのに、あの子自身を救えないなら本末転倒だよ!」


切実な思いを乗せてイラダが叫ぶ。


「では、長として問う。戻った後…あの子を捧げんだね…。それに、今のお前が側にいても役に立たない。既に…親と子の繋がりや時は、隔たれているんだよ…」


アクテは容赦なく現実を突きつけ、諭す。


「あの人と共に守った子を、こんな環境に捧げてたまるか!」


「それでも…お前は…此処に留まらねばならない…それが最善だと言うことは分かるはずだ」


同じような強さの思いでぶつかる2人。


「あたしは…あの子を…」


「それならば言うこと聞きな! ワシが今度も救うから大人しく待っとれ!! 絶対に孫は…ミーティは見捨てんだい!」


強気にアクテが宣言する。アクテも決してミーティを諦めている訳ではなかったのだ。

イラダも、次期語り部の長は、補佐でしかなかった…故に長の言葉信じ…従うしかなった。


アクテはミーティが柘榴魔石と共に黒曜魔石も内包する、2種持ち…だと言うことに気付いていた。尤も、其の事に気付いたのは、転移で座標失い彷徨いそうなミーティに記憶を移した時だ。


アクテは、転移事故を回避させるためミーティに記憶継承を行った。

それにより、自身の回路傷つき瀕死の状態となるが…最終手段として意識下に沈み込み、他者の回路に依存し回復する可能性にかける措置を取る。

非常手段ではあるが規定の措置でもあったため、滞りなく最短距離にいる語り部に…寄生した。


『まったく、よくも長々と謀ってくれたものだい…』


アクテは沈みゆく意識下で楽し気に呟いていた。

見事に語り部の長であるアクテを騙し、正当なる継承者を隠蔽し保護していた…娘と娘婿に賞賛を送りたくなったのだ。


『確かに集落のためとは言え、我が子や孫に無理強いる苦難の道を歩ませたくは無いものな…』


その時の事を思い出しながら、アクテは決意する。勿論、自身を投げ打ち救った孫を見捨てる気は更々無い。

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