おまけ4 振り出しに戻って進もう~ミーティとモーイの第一歩 11
燃えるような眼光でミーティを睨み付けるラオブが闇石の力を導き出す。
そして狙い定めた者へ…ミーティへと、その穢れた力を向かわせた。
「…!!、何しやがるんだ!」
ミーティは、近距離からの闇石による攻撃を瞬時に防御結界立ち上げ弾く。
弾かれた力は再び闇石に戻る。
「やはり此れくらいじゃあダメですよね…」
一撃目はラオブが手にした闇石そのものに蓄えられた力だった。
ラオブが手にしていた闇石は大きいものでは無かったので、賢者であるラオブは扱うことができた。
だが、闇石を使っている此の場所が最悪であると言える。
転移陣が辿り着いた場所は…聖なる領域までの通過点ではあるが黒曜魔石で作られた部屋である。聖域に繋がる場所と言っても、儀式行う場でもなく直接穢れた魔力を浄化していたわけではない場所。
そもそも、浄化…正式に穢れた魔力を闇石に取り込む作業が滞っていたために、集落全体に穢れた魔力が湧き出している状態だった。
しかも、この部屋の黒曜魔石は所々闇石に変化して、自然と魔力を貯めこんでいる。更に、変化した闇石が連携し、短時間のうちに其々が満たされた状態になりつつある様だった。
穢れた魔力は、其れ自体が1つの意思持つかのように、ラオブを器にするべく目指し一斉に動き出し…導かれ…集約し始める。
「私如きでは、呑み込まれるだけかもしれません…それでも可能性と、貴方が引き受けざるを得ないのではないかと言う2つの希望に掛けます。2つとも願いが弾かれるのなら…自分に運が無かったと諦めます」
闇石が持つ魔力は、死者の意思残る穢れた魔力である。
大概は生物の死後、魔力と意思は分かたれる。
但し強い思い抱き逝った者は魔力の中に思いが残る。良き思いも悪しき思いも…絡みつき分かたれぬ魔力は、執着や指向性を生み、生きている者へ関わろうと纏い付き掻き乱す。
通常、穢れた魔力は空間に漂い続ける事で意思と魔力が薄まり分離拡散するか、往古の機構に取り込まれるかして循環に戻るのが最善である。
そして、闇石に取り込まれ、永遠に意思残したまま留まるのが最悪の状態である。
純粋な悪影響持つ力となる。
魔力であるのは変わらないので留まる魔力の利用も可能であるが、分離せず扱う事は難しい。
魔力が貯蔵されて間もない闇石は、賢者であれば多少の危険と不快感伴うが通常の攻撃魔石と同様に扱える。だが、魔力多く含むものは一部の者しか扱えない。
更に多くの魔力含む、満ちた状態の闇石は大賢者でも扱いは慎重になる。
大賢者は機構の代わりをなし、分離して意思は意識下の奥底へ流し入れ彼方へ送り、魔力は体内魔石である賢者の石に蓄積する事が出来る。
賢者は器となることは可能であるが、扱う事は難しい。
1名の犠牲を覚悟すれば、魔力に宿る意思を切り離し犠牲者の魂と共に見送り、魔力だけ取り出すことは可能である。
内包者や非内包者ならば、跡形もなく呑み込まれるだけであろう。
ラオブは、この場所で仕掛けることを決めていた…そして、ミーティだけが此の部屋の中に残る瞬間を狙っていたのだ。
「引き受けるって…何でこんなことしてるんだよ!」
ミーティはラオブに向かって叫んでいた。
「貴方に…責任…と言う…ものを、味わって欲…しかったから…です」
言葉切れ切れに語るラオブ。魔力が集まり苦しさが増しているようだ。
「何で此れが責任に繋がるんだ? それに…だからって、此処でこんなことしなくても…」
「意図…して起こした事…ではなくても、導き…起こしたのなら逃げ…るべきではありません。…受け取った…のなら責任果…たすべきです」
「逃げてなんて…」
「逃…れる…のは美し…くないで…す」
「わっけ分んねぇよ!!」
こうしてラオブと会話している間にも、闇石の魔力がラオブに集約していく。
ミーティは見守るしかできなかった。
この異変に周囲は気付いたが、手出しすることが出来なかった。
ラオブはこの転移陣繋がる部屋を巧みに利用し、狭間の空間を作り上げた。それを外界と隔てる結界として利用し、周囲の空間と繋がりを絶ち切っていたのだ。
外界と繋がるのは、ラオブの内に繋がる闇石の力のみ。
周囲が気付いた時には既にラオブとミーティが閉じ込められた空間に、闇石の力が注ぎ込まれ…ラオブにその力が集約されつつある光景だった。
内からも外からも何が起きているか見えはするが、音は漏れぬようだった。再度周囲に人が集まり叫んでいるように見える。
ミーティはこんな状態なのに目に入るモーイに見とれていた。
黒髪ばかりの樹海の民の中で、光の女神のように輝く金髪と透き通る青い瞳が貫くようにミーティを見つめている。
その表情には、不安以上に信頼のようなものが含まれていた。
こんな状況でも打破する機転や根性がミーティにはあると期待する瞳。
「あぁ、やっぱり奇麗だなぁ…しっかりとモーイに告白して口付け以上に色々と先に進みたいなぁ…」
こんな状況下で余裕なのか現実逃避なのか…ミーティが思わず呟きもらす。
未だ穢れた魔力に吞み込まれる事無く苦痛に耐え力を溜め込んでいるラオブだったが、耳にしたミーティの呑気な呟きに苛立ち毒を吐く。
「随分…と余…裕がある…のだ…ね。…お前に先がある…とは思え…ないが…な」
「先を見るか決めるのは自分自身。それこそお前が決めることじゃないよ!」
ミーティはキッパリと意思強く言い切る。
「この状況…打破で…きるものならして…みるが良い! …取り…入れた穢れ…た力に更に私の…憎悪…を追加し…て進呈しよ…う」
「出来るなら貰いたくない!」
ミーティは素直に遠慮してみた。
「腑…抜けが…この…状態で…も逃れようと…するのか!」
「当たり前だよ! 普通、何でオレがっ…て思うでしょ」
「ふっ、そろ…そろ…十分満ち足り…てきた…何とか…意思保ち、お前に…私の手…で…責任取ら…せること…ができて…僥倖よ!!!」
「なんでそんなにオレを恨むの? 何かしたっけ?」
全く身に覚えのない…最近関わり合うことの無かったラオブからの個人的な恨みに思い当たることは無かった。
ラオブが言うように、ミーティが語り部の長である祖母アクテを巻き込み転移陣使った事については、集落の損失になるとは思うし、祖母に対する負い目とはなっていたがラオブは関係ない。
ラオブ自身が直接的な…際立った行動取るような原因が見えなかった。
「…逃げた…時点…で万死に値…する。それにお前が消えれば…記憶…の譲渡の…」
恨み…と言うより、妬み…の可能性をミーティは悟った。それに、語り部の記憶の継承についても何かある…と言う事も察することが出来た。
ミーティは先へ繋がる道筋目指し、まずラオブの感情揺さぶるために…妬み…から追及していく。
「…もしかしてラオブも此処から逃げたかったの?」
「…!!! 、私…は逃げる…よう…な卑怯な…真似はしない!」
複雑に絡まりあう事情はあると思われるが、妬み…が大きな要因になった事はラオブの態度からも明らかだった。
「曲げられない遣りたくないことや場所から抜け出ることは、逃げじゃないよ! ラオブだって我慢して留まってそんなんなっちゃうぐらいなら脱出したほうがましだよ!」
「お前の…お前のような…無責任…な者がいるから…!! がはっっ!!!」
ラオブの中の溜まっていた魔力は怒りによって暴走し始める。
「ラオブ!!!」
ラオブは身の内で暴れる魔力が身体の負担となり、倒れ込む。
溜まった魔力を攻撃魔力に変換し放つ前に、穢れた魔力がラオブを飲み込み意識を奪ったのだ。
ラオブの状態は気になるが、これがミーティが目指した状況だった。
「オレには夢も希望もあるんだ! だから周りを巻き込まず切り抜け脱出するために足掻いてみるよ」
そう呟き、汚れた魔力に飲み込まれ闇石そのものになったかのような意識のないラオブの体に近づき手を触れる。
「お前が押し付ける責任はとれないし、お前に討たれてやる気は毛頭ないけどな…! オレが自分で道を決めて進んでいくんだから、お前が望んだ気が晴れる結果は望めないとは思うけど…」
そしてラオブの中にある魔力を動かす。
「その力、希望通り引き受けてやるよ!!」
ミーティは自身の中にラオブの中に溜まっていた穢れた魔力を…導き入れた。
ラオブが意識奪われ倒れたことで、転移陣利用しラオブによって作られていた狭間にできた空間は元の場所に戻る。
ラオブに取り込まれていた穢れた魔力は消え去り、手に持つ闇石からも綺麗さっぱり負の魔力は消えていた。
尤も一度闇に落ちたラオブの心や回路はズタズタに引き裂かれ…意識戻るかさえ危うい。
だが、存在そのものを吞み込まれ肉体ごと消失しても可笑しくない状態からの生還…それだけでも奇跡と言えよう。
ラオブが意識を持ち結界張っている間、結界内は闇石が引き込んだ穢れた魔力で溢れている状態であるのは外からでも確認できていた。だが、結界が消え…中の者たちが現れたその空間には、一切の穢れた魔力は存在しなかった。
結界が消失する前にミーティは全ての負に傾いた魔力を自身の内へと導き、空間を浄化したのだ。
暗闇の淵に沈んだラオブを引き戻したミーティは倒れていた。
自身が身代わりとなり闇石から導きだされる穢れた魔力が持つ執着を一身に引き受けたのだ。その繋がりは保たれ、今も溢れ出る穢れた魔力をその身に集め続けているようだった。
周囲に影響及ぼすことは無いが、ミーティの内側で蠢く魔力が増え続けているのが、賢者以上の目を持つ者達には分かった。
「…自ら器となったミーティを聖域へ…浄化の間へ運べ…」
淡々と語り部の長アクテが指示を出す。
イラダも我が子が陥っているこの状況に悲痛な表情を浮かべるが、想定されていた事態であり速やかに処理をしていく。
モーイだけが現実味のない状況に呆然としていた。
目の前で倒れているのがミーティであるのが信じられなかったのだ。
語り部や語り部補佐が冷静に、指示通り行動しているのを見守るしか出来なかった。
まるで意識なき人形に戻ったように、自分の心が切り離され…自分を制御する者が消えたような気分だった。
最後まで残っているモーイにアクテが声をかける。
「まだ終わってない。ミーティのこれから先が続くかは、我ら次第…お前さんが協力することも必須なんじゃ! 例外はないだい」
そして背中をバシリと叩かれモーイは思い出す。
『ミーティは可能性を捨てたりしない。いつでも小さな希望を繋ぎ合わせ、最善を探し出す達人。なら、アタシも決して諦めない…』
モーイも自ら動き出す。




