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おまけ4 振り出しに戻って進もう~ミーティとモーイの第一歩 7

「コドコドは獲物を木の上から狙うこともあるけど、剣虎(マカイロ)は大きいから高く登ることは少ないんだ。この地域なら此処はある程度安全な場所と言えるかな…まぁ、高い所に来る危険なのも居ないわけじゃないけどね」


2人は外壁門から一番近い樹上に、静穏の魔力で自分たちを包みながら潜み周囲を伺う。

地上から5メル程離れた高さの此処は、空に近く開放感持ち心地良い。こんな状況下だけど、今まで溜まっていた嫌な気分が洗い流され爽快な気分になれた。

ミーティは近隣の魔物について説明しながら…モーイはそれを聞きながら…2人で分担し、5キメル…近距離広範囲で隠蔽をかけた探索魔力を広げ警戒する。


「幸いにもここら辺は、人を糧と認識するオークの生息地じゃあない。現れる可能性のある魔物熊は、見た目がオークに似てるけど行動が単純で集団で襲ってきても一度に5~10頭ぐらいのことが多いし、群れ…とは言っても組織化した行動とは程遠いからね。まぁ油断しちゃいけないけど、ここら辺には他に魔物化して集落を滅ぼす程の脅威となる獣はあまり見かけないからさ」


色々と魔物のことを把握しているミーティ。

これは幼少の頃、祖母の家で遊びながら皆で学んでいる時に得た知識と、この1年でピオに魔物の学習をさせられて得た最近の成果でもあった。

ミーティの話を聞いてたモーイが、突然思い出したように口を挟む。


「そう言えば、漂う魔力のせいで有耶無耶になっちゃったけどヤッパリ確認した方が良い気がするんだ…」


「何を?」


「夕食後にしようとしたヤツ」


「えええっ?!?! 食事の後にオレが言ったり遣ったことの確認??」


ミーティはモーイの言葉に驚き、真っ赤になりながら思わず大声で叫んでいた。

音消す魔力を纏っていなければ、ミーティの声が樹海の静寂を乱し魔物や獣を呼び寄せたであろう。


「!!!!」


その驚きの言葉に今度はモーイが絶句した。

モーイの中では、思い出すと恥ずかしくて…記憶に蓋をしたくなる出来事だったのに、蓋を外され白日の下に晒された気分になる。

動揺しまくりながらモーイは否定する。


「なっ…ちっ違う、何でそんな事、再確認する必要があるんだぁよ!!! アッ、アタシが言おうとしたのは…来た時の魔法陣が壊されていたんじゃないか…ってことをニュールに確認したかったっ…て事だよ」


「えっ? 無事着いたよな?? 壊れてなかったんじゃないのか?」


予想外の言葉に驚き、ミーティは自分だけ通常の状態に戻る。そしてモーイが告げようとしていた話に辿り着く。


「魔法陣の上に修復した箇所があったんだ…よ。以前フレイが直した所じゃないヤツが…しかも修復して間もない感じだったから、ニュールが直しながら転移先の移動をしてくれたのか確認したかったんだ…」


「全く気付かなかった」


「本当に小さな…切れ目の様な痕跡だったからな…その上に陣から供給された魔力が多めに乗っていて、修復した跡じゃないかと思ったんだ…」


「でも何で…」


ミーティも気づいた。それがワザと壊された可能性に…。


「今、質問飛ばしとこう」


「あぁ、それが確認できれば、集落での対応の謎が少し解けるかもしれないな」


モーイが尋ねたい内容を記した紙を用意し、ミーティが転移魔石の魔力動かし手のひらの上で飛ばす。その作業をしている間はモーイが単独で周囲に探索かけ警戒していたが、途中でモーイの表情に緊張が走る。


「…何か近付いてきている。獣…ではなく魔物…だな。大き目のやつだ」


探索魔力に引っ掛かりを感知し、気付いたモーイが発した警告。

樹海の中から此方の方へ向かってくる、大型魔物…と思われる集団の気配が現れたのだ。

ミーティもニュールへの文書の転移作業が終わると、正確に詳細を把握するための強めの探索魔力に巧みに隠蔽魔力を乗せて広げる。


「やっぱり集団…だな。ちょっと予想以上に多そうだ…やっぱり熊型の魔物か…」


ニュールの指示でピオの下に付き鍛錬するようになってからのミーティは、隠密系の能力の向上が著しかった。

大容量の魔力の導き出しなどは出来なかったが、以前には思い及ばない様な微細な操作で魔力を扱い裏をかく。本人は未だ大雑把にしか魔力を扱えないと思っているが、十分に賢者相当の魔力操作技術を身に付けていた。


常日頃から緊張感持ち、同じ対応出来てれば相当な大物になれる才。

だけどミーティは対戦時しか戦闘仕様に…非情に切り替われない。

周囲に馴染み境界低くする能力は、平時に生きていく上での長所ではあるが…有事に生き残る上では最大の欠点となる…ただのお人好し。

だからこそ、闇の底に蠢いていそうな魔物、鬼、亡者…と言った異形の強者風情の者達に囲まれる中でも、飄々と自分の立ち位置確保し何処にいても立ち回り可愛がられるのであろう。


しかし今回はちゃんとミーティの思考は戦闘仕様に切り替わっている。

相当な強者に対したとしても今のミーティが遣る気を出せば、足止めする程度の能力は持つ実力…そこら辺の普通の強者じゃあ相手にならない。

プラーデラの上位3名に鍛え上げられる…と言う事は、生半可な者では耐えられないのだから…。

故に多少の想定外の事では動じない。


「本来なら5~10程度のものが、30~50ぐらいの集団とは…。予想よりは多いし以前より本物の群れになっているけど、この動きなら社会性持つ集団行動が取れる…と言う感じでもなさそうかな」


ミーティは冷静に分析する。


「確かに、系統立った動きは無さそうな、寄せ集めって感じだよね」


「単独の魔物熊の動きと一緒なら、あいつらの行動は真っ直ぐ門へ進んで力業で侵入する…その一択だろう。背後から確実に仕留めていくか…。多少の統制とれてる可能性も考慮して、その場合は退避一択で」


「じゃあ、予定通りアタシは補助するよ」


「うん、今回は美味しい所はオレがもらっちゃうね」


「了解! 任せる」


モーイもミーティを指揮する者と認め、その推測と計画に異議なく従う。

軽やかに落ち着いて決断下す場慣れしたミーティの姿は、将軍補佐という肩書が名前だけでないことを物語っていた。

現場を瞬時に把握し、合理的な判断で他者を従わせ率いる能力を持つ。

真に将軍の下で働く能力持つ者…であることを示す。


集落の中心部から門に至るまでに見聞きした内容から、闇石が門から遠くない樹海の木々の中に設置されているのは分かっていた。

だが、樹海の中に有るだろう負の気配以上に、集落の中…外周壁に施された防御結界陣の内から漂う力が異様な気配を放つ…危険を孕む強烈な魔力を集落内に抱えている事が感じられる。

それは脳を直接揺さぶる様に刺激し、警鐘を鳴らす。


樹海の闇石から漏れ出る魔力と、集落から漏れ出る魔力…似たような距離にあるなら、確実に魔物は集落を目指すであろう。そう推測出来るほど、明確な魔力濃度の差があった。


「集落の中の重々しい魔力って、インゼルの白の塔でヴェステが使った闇石ほどでは無い感じだけど、上位の賢者が扱えるギリギリって所だよな…」


今は上手く魔力を扱えなくなっているが、賢者相当の研ぎ澄まされた感覚を持つモーイが呟く。


「確かに…それに外に出た方が、何か中のヤツのヤバさを感じるな…」


ミーティにも、モーイが言っていたおおよその感覚は掴めた。


「…多分、集落内には隠蔽を掛けてあるな。もしかしたら、今感じている以上の魔力が漂っているのかもしれない」


「うん…だから物騒なことを長が言ってたんだな…」


集落内に案内されたまま留まっていたのなら、長はミーティ達を上手くいけば儲けもの…といった程度の魔力の入れ物の一つとして、生贄のように扱うつもりでだったのではないかと推測できた。


闇石から大量の穢れた魔力を導き出すのも…入れるのも、一気に行うには賢者相当の者の犠牲が必要となる。

扱うための依り代が必要となるのだ。収集がつかないような大魔力は、一度ヒトの中に収めてからでないと扱えない。


扱った者はどちらにしても吞み込まれる。

ただし賢者ではなく大賢者相当の者ならば、しっかり準備を重ねれば扱うことは可能である。

そして、語り部達は1人では賢者でしかないが、集まることによって大賢者相当の力を持つと言われているのだ。


だが、ミーティはいつも以上の村の人々の対応の悪さを受け流しつつも訝しんでいた。


「婆ちゃん達なら、あの程度余裕な感じだとは思うんだけどなぁ…」


ミーティは此処の集落に何かが起こっているのであろうことは理解できたが、何が何故に起こっているのかは把握していなかった。


「何にしても、ただ黙って捕まえられて生贄として捧げられるより、戦い挑むコッチの方がましな待遇だな」


ミーティ達は気配を消し、機会を待つ。

集落内の魔力に誘き寄せられるように集まってきた熊型魔物達は、群れを成し外周壁に辿り着く。

3~5メルの外周壁と大差無いような魔物熊達が群がり、結界施された門や壁を壊そうと必死に魔力纏い叩き壊そうと力込める。

予想通り、強烈ではあるが単純な攻撃の繰り返しだった。


入念な隠蔽纏うミーティは、気取られる事なくスルリと背後から魔物達に近づく。そして剣と身体に魔力纏わせ、魔物化した熊2~3頭に次々切りつける。

此の攻撃で自分達を襲う敵を認識した魔物熊達は、驚異を排除しようと振り返り、殴り掛かる先を外壁からミーティに切り替えた。

興奮状態の魔物熊達は何も考えず、囲んだ中心部に居るモノを驚嘆すべき力で血みどろにし、肉塊へと変化させていく。

そこに居たと…言うだけで同じ魔物熊であったのに、中心部に居たモノは袋叩きにされた。

偶々中心に居た3体程の同類が力尽き、肉塊へ変化し気が済んだのか、思い出したかのように再度門へ向かおうと動き始める。


結界が張られた安全な門内で、中心部に居たモノが袋叩きに合う様子を観ていた者達。後味の悪い思い抱く者…と、安堵する者…思いは二分する。


「所詮、口先だけの鍛練怠る者。当然の帰結に心痛める義理は無い」


苦々しい表情浮かべる者達に向かい、長と入れ替わりに門に戻って来ていたラオブが吐き捨てるように事の顛末を嘲笑う。


「此で奪われた記憶も、正当な引き継ぎの流れへ戻るであろう」


そして満足のいく結果を手に入れたように笑む。

未だラオブにとってミーティは、負うべき責任から逃れ怠けさぼる者として認識されていた。


門外に居た魔物達が再び門へ向かうかと思われたのに、再び何かを囲み攻撃している姿が目に入る。

別口の魔物が現れ、魔物同士での潰し合いが始まったのかと思って居ると、再度3頭の熊型魔物が中心で仲間の手により潰されている。


繰り返し集合散会を繰り返す魔物達は、いつの間にか5頭を残し…自滅していた。

すみません

終わり予定だった7話越えてしまいました…もう少しだけお付き合いください

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