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おまけ4 振り出しに戻って進もう~ミーティとモーイの第一歩 6

「人がいないのは、みんな避難してるから…なのか…?」


あまりにも不自然な状況に驚き、ミーティに問い掛けるモーイ。行きは居住区域を通らない外周経路で長の家まで案内されたので、全く気付かなかったのだ。


「集いがあるって言ってたから…あらかじめ集落への人の出入りを制限していたのかもしれない…」


以前も儀式ある時など、重大事ある場合は制限をしていたのをミーティは覚えていた。


「…なら、何で今回訪問を打診したときに拒否しなかったんだ? 決して強制するような無いようじゃ無かったよな。途中で状況が変わったのか? 」


モーイの妥当な疑問にミーティは押し黙るしかなかった。

ニュールが扇鳥(ハーピアル)で事前の了承得るために送った書簡を、返事も合わせてミーティは一緒に確認している。

行動しやすくするため公文書としての体裁も整えてくれて、プラーデラ王国から語り部の長へ依頼する様な形の文書だった。誤解を生む内容もなく、確実な内容の遣り取りだったとミーティは覚えている。


少し意外だったのは、婆ちゃん宛て…語り部の長に宛てて送った文書だったが、集落としての正式な返信になっていた事と…集落の長の名前で返信されていた事に驚いたくらいだった。

通常は語り部の長に対しての書信は、公私ともに語り部の長として返信していた。それは、全てを統べる者としての地位が語り部の長にあったためだ。


その時は気にしなかった違和感が、此処にきて少しずつ大きくなっていく。


『婆ちゃんは大丈夫なんだろうか…』


ミーティの中でにあった違和感が不安へと形を変えていく。


「取り合えず行こう」


真剣な顔でモーイに声を掛け、外部の状況を確認するために門へ向かうことにした。


他の者から情報得る機会無く、外周壁正門…一応外部からの出入りを管理する場所へ辿り着くと、丁度そこで8人程の集落の者が話し合いをしている最中だった。

2人の存在に気付くと会話はパタリと止まり、一斉に此方を向く。


その中の1名が門に付属している見張り小屋へと走り、入れ替わりで集落の長がゆるりと出てきた。

ミーティ達が立ち止まると長は、朗らかな笑み浮かべ目の前まで歩み寄ってきた。


「久しいなミーティ。1の年ぶりぐらいの訪れか?」


「前回はご挨拶もせず、申し訳ありませんでした…」


此の部分だけを見た者なら、旧知の者が来訪したことを喜んでいるように見えたであろう。


「礼儀は多少学んだか?」


柔らかな表情を浮かべ気遣いある言葉を掛けてきたが、次に続く言葉は不躾であり声の中には全く情が含まれていなかった。

その場にいた他の者達は、冷ややかな表情の者…と、哀れみ浮かべるような申し訳なさそうな表情を作る者…と、様々な表情を浮かべている。


だが皆の雰囲気から共通して分かる事があった。

それは欠片も好意的な部分が存在しない…と言う事だった。人の心の機微に疎いミーティにもさえも感じ取ることが出来た。


「離れで待つように伝えたつもりだったのだが、他国に行っている間に言葉すら伝わらなくなったかな」


慈悲深げな表情浮かべつつも、あからさまな嫌味をぶつけてくる…相変わらずの大人げなさ。

ミーティは叔父でもある集落の長に久々に対応し、げんなりした気分になる。

そして溜め息を飲み込み返事を返す。


「負に傾いた力が地を漂うのが見えたので、様子が気になり…確認したくて来てしまいました」


「ほう…見るぐらいは出来るようになったか。馬鹿力だけしか発揮しないのでは、一部とはいえ移された記憶の繋がりがもったいないからな…」


「……記憶??」


心に引っ掛かる言葉に疑問を浮かべ呟くミーティだったが、その考えを潰すように矢継ぎ早に嫌味を返される。


「今はプラーデラで将軍補佐とかになった…そうだが、随分と偉くなったものだな…。まぁ、魔力少ない国ならでは入り込む余地があったと言うことか。力だけが自慢のお前の父親譲りだな」


「お褒め頂きありがとうございます」


ミーティは余裕の笑顔で返しているが、長の口から吐き出されミーティに投げつける言葉は、人を不快にさせる…落としめ突き刺す様な言葉ばかりであった。

横で聞いているモーイの方が苛立ち殺気放つ。


今までも散々ぶつけられた罵詈雑言だが、ミーティの祖母であり語り部の長であるアクテの居る場所では、決して大人げない嫌味をぶつけてくる事は無かった。

ミーティしか居ない時にだけ、ミーティとミーティの父をこき下ろす。


集落の長が、未だ次期長であった頃…ミーティの母は、次期長の婚約者であり、時期語り部の長であった。所がミーティの父と出会い、集落を後にし鉱山へ行ってしまった。結局、母の妹…ミーティの叔母と結婚し、一族間の対立は避けられた。

一応表面上は円満に解決したように見えたが、当事者である長の中では相当しこりが残っているようだった。


「外部で活躍され取り立てられたのが事実…と言うのなら、宝の持ち腐れにならぬよう機会を進呈しよう。出来るものなら…その豪腕振るい、集落に少しでも貢献して頂きたいものだ」


挑発するように、予想外の助力要請をしてきた。



「これって、お前への嫌がらせなんじゃないのか?」


モーイはここに来てからの集落の者たちの態度を腹立たしく思っていた。露骨な侮りと、蔑み含む視線を送る者達…以前、ミーティの祖母を訪ねて来た時とは明らかに違う態度や対応。


「前っから婆ちゃんや母さん居ないときはあんなもんだったから気にすんな!」


カラカラと呑気に笑うミーティ。


「最初気づいた時は落ち込んだけど、慣れちまうと哀れっていうか…気の毒って言うか…ガキの八つ当たりみたいだよなぁ。まぁ、実害はないからさ、気にすんな!」


「おいっ、実害がないだと!! 今のこの状況は危険な場所に放り出されたって言うんじゃないのか? これは立派な実害って言うんじゃないか??」


長達の行動に対して…本来なら持って然るべき怒りを、ミーティの代わりにモーイが発散する。

モーイは、罠に嵌めるように外へ放り出されたことにも怒っていたが、あまりにもお気楽なミーティに対しても相当ブチ切れていた。


集落の長は協力を要請してきた…。

それをミーティが今後の行動に必要な措置として、一応承諾した…所までは許容範囲だ。

要請を承諾し門へ向かう数十歩進む間も、集落の長は低俗な戯言を繰り返し失礼な態度で応対する。それでも門を一緒に出て、共に魔物に備えるはずだった。

それなのに、いつの間にかミーティとモーイは門から押し出され結界外へ締め出され…そして門は閉ざされた。


「内側は魔力巧みに操れる者以外必要ないから、お前たちは外部からの魔物の襲来でも防ぐが良い。其処なら大した魔力扱えなくとも武力で存分に暴れられるぞ!」


唖然とするミーティとモーイに容赦ない言葉を継ぐ。


「内は防御結界陣で守られるから安心して戦ってくれ! まぁ、外の魔物が一掃されない限り門は開けられないがな」


ミーティ達を門の外に弾き出し内に残った長達は、引き続き愚劣で陰湿な言葉をミーティ達に向ける。


「お前らに此の結界を破綻させ無効化することは出来ないだろうが、出来たとしても遣ってしまえば集落自体がが破滅するから余計な事はしてくれるなよ」


恥ずかしげもなく長は勝手な理論を展開する。


「魔物には回路の優秀さより腕っぷしの方が効果あるかもしれんからな。今晩はじっくりと魔物と語り合うが良い。魔力納めるための器になってもらうのも良いかと思っていたが、器の品質が劣ると結局失敗してしまうから、こっちの戦いの方が適材適所…似合いの役目だろうよ!」


集落の長は好き放題言い放つと、その場を立ち去った。

門の内で立ち去る長を見送った者達は、ウンザリ…と言った表情の者や、ザマを見ろ…といった表情の者、手も口も出さぬが、哀れみの目で見守るもの…此処でも多種多様な反応見せる者が居た。それでも、誰一人として再度門を開き招き入れようとする者は居なかった。


「モーイは完全復活目指して此処に来たのに、嫌な遣り取り見せちゃたし…色々と巻き込んじゃってゴメン…」


締め出された後、仕方なしに一番安全と思われる樹海と集落の境界にある地上から5メル程の高さある木の上へ避難した。何だかんだと闇時は入り、魔物が活発に活動する時間になっていた。

今回は意気消沈…と言った気分になる場面が多かったようで、ミーティ本来の…良くも悪くも単純で馬鹿っぽい真っ直ぐな部分が影を潜めてしまっている。

宵の風に吹かれながら、モーイはミーティに告げる。


「そんな湿っぽい状態で魔物が来ても、餌にされるだけだぞ!」


モーイは気分切り替えさせるために、ミーティに喝を入れる。


「巻き込むとかよりも、この状況打開するための情報をくれ。此処ら辺で闇時に現れそうな動物や魔物は何だ?」


「鉱山より東寄りだから、熊や蛇が良く出るよ。樹海深部は魔力も多く漂っているので魔物化してることも多いし危険かな…遷化した魔物だけど数が増えてる。群れになりつつあるから、そろそろ累代魔物に変化しそうなんだ。あと、既に累代化した剣虎(マカイロ)が現れることがある。コドコドに似てるんだけど、大きくって危険なんだ」


ミーティは樹海深部の魔物や獣などについて説明を始めた。


エリミア辺境王国とサルトゥス王国の国土の一部であり、インゼル共和国とアカンティラドの山々に面している樹海。

だが実質は、各国が領土として管理しているのは、魔力巡らせ防御結界陣が築かれている境界壁のみである。


一応エリミアからサルトゥスへ繋がる名ばかりの街道は、管轄国が近隣の街町に委託管理を依頼し整備している。それ以外の区域は、街町や村…其々の集落が自治権持ち管理自衛することになっていた。

都合の良い時だけ国土として国の権利を主張するが、基本的には放置している場所。

だから無数の集落が樹海の中に出来上がり消えていく。


此処の集落にも全てに通じる名称は存在しないし、特定される事で不利益生じる事の方が多いので敢えて外部には集落としか名乗らない。

デュアービル…神通る地…とも呼ばれている此の地に集落の居を構えてから、既に700年近くなる…と語り部が受け継ぐ記憶に記録が残されていた。

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