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おまけ4 振り出しに戻って進もう~ミーティとモーイの第一歩 4

「雰囲気だけじゃなくって…言動の辻褄が合わない感じだったじゃないか」


モーイは善意の解釈をしようとするミーティの心情を気遣いながらも、門での集落の者達の応対に違和感があったことをハッキリと伝える。


「どこらへんが?」


ミーティはモーイが抱く引っ掛かりを全く感じなかったようだ。


「ここに来る前にニュールが連絡してたし、了承の返事もちゃんと貰ってただろ」


「えっ、だからお客だから何たら…って言って、此処に通されたんだろ?」


ミーティはモーイの持った疑念をまだ理解出来ていなかった。


「ミーティが門に現れたことに、随分驚いている感じだった」


「久しぶりに会ったからじゃねえの?」


ミーティにとっては集落は善良であり、ミーティ自身がどのような対応受けていたとしても然程気になることでもなかったのだ。


「それだけじゃない感じ…まるで集落に実際辿り着いたこと自体に驚いていた感じだったじゃないか」


「うん……確かにそうだな…」


モーイに強く言われ、遅ればせながらミーティもその時の様子を思い返し少し違和感を覚える。

自身の中の思い込みを取り払うように考え込んだ。

かつて好意的であった者達からも、以前から集落の一部の者が向けてきた侮りのような感情を示された。より強い…拒絶感の様なモノや、一瞬すれ違っただけの者の中に、憎しみ…に近い感情を浮かべる者さえも居た。

人の心の機微に疎いミーティでさえも感じとることが出来る…あからさまな変化。


完全な部外者として扱われたために生じたのか…時の流れにより起こったことなのか…他の要因があるのか…、いずれにしても何か予期しない事が水面下で動いているような感覚。

意識の奥底で何か予兆の様なものが蠢き、2人の心をザワつかせる。


「ニュールの事前連絡は、プラーデラ王国の使者として訪問する事を申し入れたって言ってただろ?」


モーイは、出発前にニュールから言われた事をミーティに伝え確認する。


「うん、オレもソレ聞いた」


「まるで来るはずが無い者が来た…って感じの反応になるのは、おかしいんじゃないか? 非公式だからって、国の使者を受け入れる…って返事をしたなら、迎えぐらい寄越すだろ。それが出来ない火急の要件があったからって、少なくとも門でアノ応対は無いと思うぞ」


モーイが核心…とも言えそうな部分を取り上げ、ミーティに疑問をぶつける。


「…そうだな、客として扱う…ってことは、連絡は伝わってたって事だよな。顔見て戸惑ってたのは…来られないだろう…って確信してたってことだよな」


「あぁ、来られないようにしてあった…って事じゃないか?」


そしてモーイが決定的な違和感の正体を口にした。

だが確実な証拠がある訳でもなく、消化しきれない疑いだけを残し…それ以上の手掛かりを探し出すことは出来なかった。


「来た時の転移陣の事で、少し気になることがあるからニュールに確認出来ると良いのだけど…」


「転移魔石で手紙でも送るか? そういう時のためのもんだろ」


「そうだな…確認したからって謎が解けるわけでもないけど、スッキリはさせときたいな」


「あぁ、食えるもん食ったら始めるか」


今後の方針は決まったので、来られないはずの来る予定の者達として扱われた…と言った事実はさておき、用意されていた夕食を眺める。


先程の探索魔力の展開で刺客や見張りは置いてないことは分かったし、敵意や悪意は感じ取れたが殺意や害意は認められなかった。それでも念のため安全度の高そうなモノを選び食すことに決めた。


丸のままの果物や野菜…肉を丸焼きにしたモノなど、量はあるが簡素なものだけだった。

立て込んでいる状況のせいなのか…あまり歓迎するつもりがなかったのか…。

幸い食材に過度に手を加えてあるような食事は少なかったので、色々と疑いたくはないが安心して食べられそうな物が多く安堵した。


微妙な状況の中…2人だけで向かい合い摂る夕食。

最近プラーデラでも行動を共にすることが少なかったので、それぞれの身近に居た仲間達や旅をした仲間の話しなど…意外と楽しく話題は尽きなかった。


「こんな状況だけど、すっごく久しぶりにモーイとゆっくり話せて嬉しいや」


ミーティは無邪気に楽しそうに微笑む。


「本当だな…プラーデラにいると落ち着かないぐらい、色々と賑やかだからな」


モーイも微笑むが、青く澄んだ瞳が一瞬何処か苦しさ含む遠い目になっていた。

意思を取り戻したあと魔力取り戻す訓練をしながら、プラーデラ国王周辺や賓客として来訪する者の護衛をモーイはしていた。

その中には、割と頻繁に訪れるモーイの友も入っていた。モーイの特別に大切な者の…特別な大切を手に入れつつある者が…。


食事も終わり、心地よく吹き抜ける風を感じながら2人窓辺で横並び、もう少し気楽な感じの雑談を続けることにする。

鬱蒼と生い茂る木々に囲まれた樹海だが、集落の部分は切り開かれ少し丘になっている。樹海の木々の天辺よりは低い位置だが、集落の長の家はその一番上の部分にあり、定住する人々の家を見渡せるようになっていた。


モーイが今までの雰囲気と違い酷く真剣な表情で話しかけてくる。


「何か色々と悪いな…」


「えっ?」


「結局、何だかんだ言ったってアタシの為に連れてきてもらったようなモンだからさ。来たくなかったんだろ?…手間かけさせて…嫌な思いさせてすまない」


今回の集落の者達の対応で、ミーティがこの地に来ることを嫌がっていたことを察した。


「……!! 、ずっと旅してた仲間だろ? 水臭いこと言うなよ!」


いつも偉そうで鼻っ柱の強いモーイには、数えきれない程負かされてきたミーティ。それなのにミーティに負けてしまいそうな雰囲気のモーイが…あまりにも繊細な感じで…壊れてしまいそうで…調子が狂う。


「ありがとうな…」


その上嬉しそうに柔らかな笑顔で礼を言うモーイのクルクルの金の髪に縁どられた横顔があまりにも綺麗過ぎて、息を飲み次の言葉を発せらなかった。


ミーティの目は泳ぎ…ドギマギする。

2人だけの空間…いつも勝ち気でアタリの強いモーイが儚げで…その落差に驚くとともに、守りたいと言う衝動に駆られる。

ミーティは突然…逆上せている自分を感じた。

掌は汗ばみ、顔も熱いし、心臓はバクバクしている…窓辺の魔石灯火が旧式で薄暗い事に感謝したくなった。

無意識に抱き締めたい…と思っている自身の思いに気付き、ミーティは余計に赤面が酷くなってしまうのを自覚する。しかも、自分が考えなしに…思ったままの行動をとっている状況が、想定内だけど予想外すぎて唖然とした。

ミーティは横に座るモーイに向かい合い…気付いた時にはモーイの華奢な身体を自身の腕の中に納め…強く抱き締めていた。


「!!!」


モーイは驚きで絶句し身体を硬くしたが…拒絶せず、ミーティが抱き締めるままに留まっている。


「オレは、いつでもモーイの力になりたいと思っているよ…だから、焦るなよ」


その言葉と思いと行動にモーイの心がほぐれ、力が抜ける。


「ミーティ…ありがとう」


その言葉を聞きモーイの顔を見ると、そこには美しくキラキラと輝く女神様の様な笑顔があった。

目に入った瞬間…ミーティは考えになる前に行動していた。

ミーティは自分が考えなしの人間…行動型の者であるのは分かっていたが、ここまで本能とでも言えるような衝動に突き動かされる人間だとは思っていなかった。

だが衝動以上の…それだけで納まりきらない、熱い心籠る思いでモーイの唇を塞ぎ気持ち捧げる。

何度も何度も繰り返しモーイの唇に近付き深く交わす口付けは、ニュールの治療で昂り生み出される時のように…ミーティの中の更に先を求める衝動を呼び覚ます。

だが、此れは本能だけの昂ぶりはなく…愛しさ伴う思いのある衝動だった。


「オレ…モーイの事、大切な仲間だと思ってたけど、それ以上の特別…」


見つめあっていると思っていたモーイの表情が怪訝なモノを見る表情となり、ミーティは選択を誤ってしまったと感じた。


『いっ、今は言うべき時では無かった?』


動揺し混乱する。


「でも有耶無耶に事を進めちゃうのは…あれっ、雰囲気壊しちゃったか? 今回は余計な事言ってないよな? 内面は以前からキツイけど優しくて頼りがいがあったし、体だって前よりズット柔らかそうに育ってるなって思ってたし…ピオが語る背中から足に向けての線がグッとそそる…って言うのも納得できるようになったし…」


思わずミーティは焦りから、声に出して…褒める? ように…告白? していた。


ミーティの最大の長所であり、最高に残念な点…正直者であるが故に空気を全く読まない点。


聞いていたら間違いなく鉄拳制裁加わるであろう内容だったが、幸いにも聞こえなかったのか…聞いてても其れ所では無かったのか…強ばった表情のまま固まっているモーイ。

実際には現時点で何が起きて、この状況になっているか不明であり、ミーティは動揺の極致…と言った感じだった。


モーイの視線は、窓辺から見える外の世界へと漠然と広範囲に…しかし鋭く何かを見極めるように向けられている。見つめる方向にミーティも目をこらすと、転移陣でこの地に着いたとき館の周囲で感じ取れた重苦しい魔力…それと同じような雰囲気のモノが地面の所々に漂っているのを感じた。


「あれって、樹海ん中の転移陣のある建物…館のところで感じたのと一緒のやつだよな…」


押し黙っていたモーイが口を開いた。

暗い力を帯びた魔力が、ゆっくりと蠢きながら所々に漂い…広がっている。一番濃い魔力を感じる場所は、既に感じるのではなく見ることができるぐらいの状態になっていた。

先程は欠片も感じなかった魔力だが、今はミーティにもハッキリと見える。

今までの浮かれ気分の饒舌で呑気な状態から、一転して黙り込み鋭い表情で考え巡らす。


感知した魔力は、負に傾いた…暗く歪な悪感情引き起こすような力。

闇石などが発生させる魔力と同じものだった。


元々は、死者が持つ無念の思いと一緒に死者の魔力が地上に残った様な力である。

塔と繋がる大賢者が存在する場所では、自然に往古の機構の流れの中に戻り浄化還元されていく。

ただし機構が稼働していない場所では流れの中に戻れないため、自然の中を漂い長い年月をかけて浄化されるか、闇石が魔力を吸着して空間を浄化する…と言った過程を経ることが多い。


そう言った負の力帯びた魔力が集まりやすい場所や条件などは存在する。

何処からともなく湧き出る様に集まり、集まったモノが流れを作り漂い周囲に影響を与える事があるのだ。


「…外からなら居住圏の外壁には防御の結界陣を施してあるから、ああいうモノは入り込まないはずなんだけど…」


ミーティは厳しい顔で呟いた。

樹海は魔力溜まりの様な場所であり、恵みの魔力である天輝降り注ぐ事も多かったが闇に傾いた負の魔力も集まり漂うことが多い。どちらにしても高濃度の魔力は有害事象を引き起こす原因になるので、対策は万全のはずだった。


「取り合えず行ってみよう」


何かが起こっているけど見当がつかない状態から抜け出すために、まず手近な所で確認をしてみることにした。

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