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おまけ4 振り出しに戻って進もう~ミーティとモーイの第一歩 1

世界が魔力の暴走による終焉迎えたかと思われた…大事変と呼ばれる出来事。

人々は懸命に乗り越えようと、力合わせ慌ただしく復興に勤しむ。

だいぶ落ち着いてきたとはいえ、各国各所全てに取り組むべき事が山積し…魔物の手足でさえも使いたいぐらいの人手不足であった。


それなのに優先して考えるべき事が沢山あるはずの国王と言う重要な役職こなすべきモノが、身近な2名の若者の行く先が気になり余計な事に心が傾いてしまう。

未来ある優秀な力持つのに、自ら限界を決め留まる…次の一歩を踏み出さない臆病な者達のもどかしい行動と、勇気持てない諸事情へ向ける憤りと憂慮。


『奴らを動かすべきか…状況を動かすべきか…』


陽光の如き橙の瞳を瞼の中に沈め、眉間のシワ深くしつつ黄土の髪に手をやり…余計な事に頭悩ませる。

境界を越えてしまった…完全には人とは言えないような力持つモノであるのに、自身が何故に他者の些末な状況を気にしているのかが気になり…取るもの手につかない。謎の思いの中に宿る…憤る心持ちは理解できたのだが、他者を危惧し案ずる心は今一つシックリ来ない。

かつて持っていたはずの心持ちであるのに、理解できぬもどかしさに苛立つ。


『自身で決断下す巣立ちは、生物として必要な経験である。…なのに気付かず留まる愚かしさに苛立つ…のは解るが、何故にそれがオレの気掛かりにまでなるのか…』


他者を思い力得るため…人の身で魔物の思考受け入れ融合したが、本能優位な魔物の思考は人としての情から遠ざかる。

そんな…自身を危惧する思いも、ニュールは抱く。

其の上に悠久の時を生きる事にまでなってしまい、人としての常識的思いや気遣いから少しずつ離れていく自身を感じていた。それでも、 "見捨てられない" …と言う思いから、国王なんて立場まで背負ってしまった。

結局、度が過ぎるお人好しは普通に人であった頃と変わらないが、自身の中での理由付けには及ばなかったのだ。


『思うようにならぬ状態で他人を案ずるより、自身を何とかせよ』


自身の内に住む助言者ニュロや数々の大賢者達の記憶の中からの訓戒、その他色々な所より指摘を受けていた。最終的に優先すべきは自分自身である…とは理解しているし、単純な攻撃などなら確実に自身を優先する。

しかし、自身が切っ掛けとなり引き入れてしまった若者達に対して持つ、"責任" …の様な思いからは逃れられないし…何故か手放せない。


『執着…此れがオレの憂いの正体…なのかな…』


どうでも良い事に心揺らす保護者的責任を持つニュールの心など知らず、ミーティは踏み出せる余力が自分にある事さえ気付いていないし、モーイは今居る場所に固執し…自ら囚われている事に気付かない。

そんな、もどかしい状態への不満がニュールを占める。


魔物な心持ちのニュールは、保護下の子供…と言うには、もう巣立つべき時を待つだけの者達を憂い含む橙色の瞳で見守りつつ、人の心持ちで生じたモヤモヤを解消するための行動に移す決断をした。



非日常の極みと言える天変地異的な大魔力飛び交う大事変を乗り越えたプラーデラ王国も、他国同様…徐々に日常を取り戻しつつあった。

平穏と言えるような何気ない日々の巡りが少しずつ穏やかに築き上げられる中で、ミーティは国王ニュールニアに告げられる。


「お前、実家に帰れ…」


「えっ?!」


急に国王執務室に呼び出された上で言い渡された内容にミーティは憤る。


「何それ!」


艶やかな黒髪黒目の優し気な青年はシャキッとした表情で立っていたが、その理解及ばぬ指示に表情が固まる。

このプラーデラの地に留まってからの1の年の程で、ミーティからは幼さ残る少年…といった雰囲気が完全に消え、見た目だけなら若手将校といった感じの一人前の者に見える。

ニュールから依頼されたピオが心から嫌々指導し、厳しく丁寧に…趣味を取り入れ虐めぬくが如く鍛え上げた。

その姿は筋肉嫌いのピオが一目見て苛つぐらいの、彫像のような肉体美持つ柔和な整った顔立ちの立派な好青年に育っていた。

お陰でピオから時々、本気の蹴りと殺意向けられた鍛練を受ける。


言葉や態度は未だ少年…と言った感じを残しているため、見た目と行動に落差がある。申し渡された内容に、頭を掻きむしりつつ何が何でも此の理不尽に抵抗してやる…と言った表情で国王であるニュールを睨み付け異議申し立てる姿はとても大人…とは言い難かった。


「承諾するわけないっしょ!」


そして立て続けに、日頃の自身の働きを並べ立て切に訴え掛ける。


「何でオレだけ? オレちゃんと遣れてるよね…遣れてますよね? 毎日鍛練してるし、一般兵の訓練も受け持ってるし、魔物の討伐にも出てるし、面倒なピオや厄介な姉さんの相手もしているんだよ!」


日々の通常業務に加えて、厄介な偉い人達の相手をする業務まで含む。

ニュールに心酔している手強いお二方の相手は最近ミーティが担当になっていた。

かなりうるさくて粘着質で猟奇的な元敵である現プラーデラ王国の宰相務める、ミーティの戦いを指導するピオの暇潰しの遊び相手、そして姉さん…元敵国の将軍であり非常識な戦闘狂の現プラーデラ王国軍務大臣であり将軍であるディアスティス…との戦闘訓練。

どこまでも命懸けになる此の2人への対応…此れをこなすだけでも感謝して欲しいぐらいだとミーティは思っていた。


現在の立場になる前からニュールとミーティは旧知の旅仲間であったが、今やニュールは絶対的上司と言える国王になっている。そのニュールに対し、取って付けたような敬語っぽい言葉で本心ダダ漏れの状態で詰め寄る。


「こんなに頑張ってるオレに出て行けって、意味わかんねーです!!」


実家に帰れ…と言う言葉を、ミーティは解雇みたいなモノだと思い込んでいた。

ミーティの心情としては、青天の霹靂…と言った気分だったのだ。


ニュールについて行きたいという衝動に動かされ、一緒にプラーデラ王国まで辿り着き…今に至る。何だかんだと凄い人たちに囲まれ過ごす内に、色々と吸収し成長している自分に満足していた。

しかも自分の能力を生かし、成長し貢献もしている…と言う自負もあった。

その為余計に納得出来ない思いに駆られる。


「別に追い出す訳じゃない。ご褒美の休暇みたいなモノだ…ついでに頼みたい事も有るんだ」


ミーティの思いと勢いに驚くが、ニュールはどこまでも冷静に本来の目的を包み隠し伝える。


『お前は成り行きで…覚悟持たずに此の場に留まっている。自身の決断を周りに示し出直せ』


ニュールは声に出し強く指摘したかったが、言葉を飲み込む。

身も蓋もなく駄目出ししてしまう配慮しない魔物の意識持つニュールであっても、予想出来る展開。


『言葉として伝えてしまえば、反発だけで重要な事を放り投げてしまうだろう…』


此の年代の者が聞き入れる耳を持たぬのは百も承知…そんな事は、自身の胸に手を当てたりして考えて見るまでもない。

ニュールは実の親とは魔石内包することで引き離されてしまったが、周囲に対し反抗的に過ごした記憶が通り過ぎた道々に山ほど残る。今の魔物な心持ち強い状態であっても、恥ずかしくなるぐらい理解できた。

「王命だ」 と立場使い脅してみたとしても、 「冗談言うなよ~」 の一言で済まされてしまう関係性である。ミーティにそう言った力業は通じない…それ故に余計な手出しも口出しもしにくい。

だから少しだけ言うこと聞きたくなるように手を回しておいた。



「モーイ、すまんがミーティを樹海の集落に一度戻す手伝いをしてくれないか?」


まず先にモーイに声を掛けたのだ。


「何でアタシが?」


「あそこの集落には大賢者の持つ情報礎石には無い、独自の魔力回路を調整する技がある…と言う事が記憶の記録で確認出来た。調査と…付き添いと…ついでに、お前の魔力回路の問題も片付けてこい」


「…それは」


この提案にモーイは異を唱える事は出来なかった。

モーイは自分の状態を把握していたし、ニュールに気付かれていることも分かっていた。

コンキーヤの神殿でミーティと共に捕らえられ、ヴェステ王城砦の地下にある幽閉施設に入れられ自由を奪われた。其処から逃げ出すために魔石の実験に付き合い…魔力暴走を起こしてしまったのだ。

仲間の足手纏いになることを危惧し、結局余計な事態を引き起こしてしまった。モーイにとって自身の浅慮から引き起こされた当然の結末だった。


それなのにニュールはモーイに人形化処置を施した。

人形を自身の回路に繋ぐ処置は、魂凍えるような不快な作業であると言われてる。

魔力回路が焼き切れる手前の瀕死状態から身体の機能保ち回復させるために…意思が消えた身体のみの存在として回路を繋げモーイを生き長らえさせるために…。

意思が戻るかは賭けのような状態であるのに、大賢者の記憶にある症例検討し処置してくれたのだ。


本来なら再び意思ある者として復活出来ないような状態からの帰還であり、死者が復活したようなものであった。故に…それは決して甘いものでは無かった。

モーイの魔力回路は半分以上潰されたような状態であり、内包者として魔力扱うのは難しいのでは…と診断する者も居た。


「オレの中にある知識で出来たのは、命を繋ぎ意識を戻す所までだ。記憶の中に症例はあるが、魔力操作技術や回路の状態を元に戻せるかはお前次第になってしまう。…スマン」


意思を取り戻した後、ニュールに状態確認してもらった時にモーイが告げられた内容…。


友であるモモハルムアが敵の攻撃により、死を覚悟すべき傷を負った。その衝撃的な状態を目撃し、モーイは魂揺さぶられ意識は取り戻すことになった。

モーイはそれまで自身の意思持たぬ状態でニュールの回路と繋がり生き長らえていたが、それは…言葉以上のモノを共有する関係であった。

ニュールの意識の中で混ざり合う様に存在した悠久かと思われた時の無い時の中、モーイが得た特別に甘美な夢…ニュールが持つ負い目の様な自分に対する後悔と…向けられた大切と言う思い。

そして、身も心も最も近くに存在する者として過ごした。


甘美な夢は残酷さも含む。

繋がり感じ取ることが出来る、自分以外の者へ向かう…ニュールの中にある特別に大切…と言う思い。

その思いが向かう先を定め、ゆっくりと出来上がりつつある様を目の当たりにする。

ニュール本人さえも把握していない時点で、内の…深層の回路の繋がりから理解してしまった。

それでも、モーイにとって全てを捧げて付いて行きたいモノは1人だけだった。


『特別…ではなくても、大切な者の中の1人であるならば…それで十分』


意識戻り他者の回路を使う意思無き人形状態から脱却したが、自ら切るべき深層の繋がりを未だ断ち切れずにモーイは留まるのだった。

長めのおまけ話ですが、よろしくお願いします。

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