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おまけ2 キミアとエレフセリエの行く道 2

エレフセリエがキミアには許さなかった、世界の理が導く契約の領域にて自分自身のみで願った私的な思い。


「爺、奴らに何を願って叶えたんだ!」


問い質すキミアに悪びれずにエレフセリエは答える。


「大賢者になってしまった者を元へ戻す術はないようだから、普通にお前さんが大賢者としての人生を初めから歩めるように願ったんじゃよ」


「こっちの願いは叶えないくせに、そっちのは叶えるのかよ!」


あの領域のモノの取捨選択に納得いかないキミアは叫ぶ。だがエレフセリエは大人の余裕で答える。


「まだまだ、甘いのぉ。願う者の立ち位置の認識が間違っとるんじゃよ…現在の大賢者はお前さんなんじゃ…この塔との繋がりは持つが、ワシは既に非生物じゃからのぉ…フォッフォッフォッ」


全てを悟り朗らかに述べる。


「あぁ、その代わりワシが修練し手にした魔力の操作技術は自分で取得しなおしとくれ! まぁ一度は経験している技術じゃし、記憶は内に全てある上に感覚も完全になくなってしまう訳でもない。少し努力すれば何とかなるじゃろ」


「それって一方的に僕が苦労するってことか?」


「そりゃしょうがないじゃろ…今持ってるお前さんの技術は、ワシのを活用しているに過ぎんのじゃからのぉ」


願いの代償は、全てを最初から遣り直す様な状態へ戻ること…大賢者を1から始めるような状態になると言うことだ。

大賢者とはいえ記憶や感覚があっても力振るうには、地道な技術や感覚の取得が必要となる。キミアはエレフセリエの身体が残ったままでの大賢者の継承であるため、魔力操作の全てを修練せずに得ていた。


「そう言う事じゃなくって…」


「分かっとるよ…お前も分かってるんじゃろ?」


「………」


エレフセリエに一言で諭されるキミアは、二の句が継げなかった。

沈黙することで若干冷静さを取り戻す。

海山羊(マルカーペ)で海風を感じながら、エレフセリエが希望した通りの小旅行へキミアリエと共に赴く。


「海山羊に乗ったのは久々じゃ」


水の塔の祭壇前の地上出入口に準備された海山羊に、ご機嫌そうに飛び乗りはしゃぐエレフセリエ。子供姿のキミアが、妙に大人っぽく…いつもの様な大人が子供に擬態する感じではなく、まるで子供が大人の振りするようにエレフセリエに注意を促す。


「浮かれて落ちるような愚鈍なことはしないで下さいね」


「バカにしちゃいかんぞ。ワシは王宮との伝令役の賢者も遣っていたのだからベテランじゃ! この道を20年は行き来したんじゃからな」


鼻高々に…かなり自慢げな感じで茶目っ気たっぷりに語るエレフセリエだが、透かさず突っ込みを入れるキミアリエ。


「いったい何年前の話なんだか…」


「この立場になる前じゃから、かれこれ400年ぐらい前かのぉ」


エレフセリエが大賢者になる前の話だから、当たり前と言えば当たり前だった。

思わず時の長さを聞いて、仰け反り吹き出すキミアリエ。


「ぶふっ!! それ古すぎ! …本当に大丈夫か?」


呆気に取られる程の年数が経過しているというのに、エレフセリエは動じない。


「一度身をもって覚えた事は、そうそう忘れないもんじゃよ。20年は遣ってたからなぁ」


「下っ端時代が長過ぎじゃない? 随分とうだつが上がらない生活が長かったんですねぇ」


穏やかな口調だが、わざと厭味ったらしく言うキミア。


「お前さんと違って真面目に修行した…と言っておくれ。それにワシは普通魔石から偶然に烏刺紐母魔石を内包しちゃったもんじゃからなぁ…」


「あの賢者の石に、偶然ってありなのかよ!」


また驚かされて素に戻る。子供姿でエレフセリエと居ることで言動も少し子供じみてしまうのか、取り繕っている化けの皮はがれることが多くなる。


「丁度、大賢者なしで賢者の石が存在する時期だったのでな…継承の文献や伝承が失われていたんじゃ。だから、北投魔石で探すやり方をワシらの代は知らなかったんじゃ。塔は封鎖されっとたし、生贄捧げる…といった感じで無理やり可能性ありそうな者を定期的に透の間に送り込む…と言う酷いやり方をしてたんじゃ。だからワシは大賢者になった後で、継承の正しいやり方を必死に探したんじゃ…」


当たり前の様に犠牲を捧げていた頃を思い出したのか、エレフセリエの表情が硬くなる。


「犠牲なんて無くて当たり前のモノなのに、美化して誰かを犠牲にしてしまった事から逃げちゃいかんからな…」


今まで聞いたことのなかったエレフセリエの昔語りを聞きながら過ごす。


「そんなこんなで、意識下の深層に潜っているうちに趣味のように潜るのが楽しくなっちゃったんじゃけどな」


一瞬出た重い話の後のテヘッ…とした感じの告白に、キミアは拳固握り後ろから小突きたくなった。まさしく気軽で気負わない会話を2人して楽しんでいた。

キミアリエは王宮への道行きが終わる頃に何が起こるのかを…予想し…噛みしめ…理解しつつ尋ねた。


「結局、お爺は一緒に行って何をしたいの?」


その問いに、優しい面差しで答えるエレフセリエ。


「ちょっと思い出の場所…みたいなのに行ってみたかったんじゃよ…」


少し遠い目をしながら呟くように言葉を足す。


「ただそれだけなんじゃ」


何てこと無い会話も十分に交わされ尽くした頃、コンキーヤの王都カロッサへ入った。あっという間に城下…と言った区域に達する。


「王宮へ行くの?」


「まぁ、その近くじゃな」


海山羊の上で危なげなく両手を離し、お道化ながら進むエレフセリエ。その状態に少しイラつきながら、キミアリエは意見する。


「王宮へ行くんだったら転移で行けば良かったのに」


「こうして実際に赴くことも思い出の1つだったんじゃよ…そしてコレが新しい思い出の1つになるんじゃ」


キミアに向かい温かい笑みを浮かべながら語りかける。


「お前さんとは塔の中でしか思い出が無かったから、ワシは凄く嬉しいんじゃ」


更にエレフセリエが昔を忍ぶように、遠くを見て目を細め一方的に話し続ける。


「時は過ぎ去り人は変われど、大切な者との思い出は重ねられていくんじゃよ」


王宮へ向けて延びる1本道の途中まで至ってしまった。相変わらずニコニコ顔のエレフセリエと対照的に、複雑な表情を浮かべるキミアリエ。


「…嫌じゃ無い?」


「何がじゃ?」


「表から消えてしまうこと…」


聞きたかった事の核心を問うキミア。

海山羊の歩みに任せて進んでいたが、森に囲まれた一本道を抜け切り開かれた神殿と城壁が見える丘へ出た。キミアの質問にはひとまず答えずにエレフセリエが提案する。


「此処からは歩いて行こう」


キミアは返事をしなかったが従う。

海山羊から降りて並び歩くと、子供姿のキミアはエレフセリエと丁度肩を並べる背の高さだった。

キミアにとって、その道行は感慨深かった。


『初めて会った時は随分大きく感じたんだけどな…』


横目でエレフセリエを見て思う。エレフセリエもまた、並び歩く事に趣を感じた様で遠い目をしていた。


「お前さんが北投魔石を内包してワシの下へ来たとき、それはそれは嬉しかったんじゃよ…この役目の終着点が見えた事に…」


エレフセリエはキミアリエと会う前から終わりを見据えていた。


「だが引き継ぎのためにお前さんと接している内に、随分と楽しくなってしまってなぁ…この身体に残された時が少ない事を残念に思うようになってきた」


キミアはエレフセリエの独白を、歩みを進めつつ黙って聞く。


「そうしたら、いつの間にか塔付きの大賢者としても随分と長めの年数を、生き長らえてしまったんじゃ」


前を向いたままのキミアの顔に浮かぶ表情は、何かの思いを含むが全く読めない。エレフセリエは笑顔を浮かべたままキミアの背中にボスッと手を置く。


「こうして触れられなくなるのは寂しいが、いつでもお喋りは出来る。そしてお前さんと意識繋げ奥底へ潜れるなら今まで以上に安心じゃ」


この距離感で接する人間はキミアにとってエレフセリエが初めてだった。


「家族と言える人間は、もうこの世にお前しか居らんからな。それにワシらは此が最期と言う関係じゃない。永遠の繋がりじゃから…お前が望もうが望むまいが離れん」


キミアにとっても身内と言えるような人間は既にエレフセリエしか居なかった。


目的の場所は城と海…コンキーヤが見渡せる場所だった。そして遠くには塔のあるレグルスリヤまで見晴るかせる、城横の草原広がる地帯。

今は白い小さな花が一面に咲いている。

エレフセリエがその景色を目を細めながら眺める。


「お前とここへ来たかったんじゃ。願いを叶えてくれてありがとう」


「やっぱりもう少しだけでも…」


声を掛けながらエレフセリエと目を合わせ言葉を止める…エレフセリエの静かな笑顔の中には、既に揺らがぬ決意が存在しているのがキミアリエにも感じられた。


「キミアは大丈夫じゃよ…ワシが保証してやるぞ。そして内側から支えてやる…だから…」


言葉を継ぐ。


「…許せ」


そして解放に至る切っ掛けの言葉を、エレフセリエは口の中で小さく呟く。

エレフセリエの体は輝き…輪郭薄れ、中心部へ魔力として集約していく。その魔力溢れる輝きが、キミアリエの中へ飛び込んでくる。

輝きと魔力が自分の中へ戻り融合し、消えたエレフセリエと言う存在が自分の中にもともとあるモノだったのだと実感した。

このあっけないとも言える瞬間、本当の賢者の石の継承が完了したのだ。

それでも目の前にあった…存在が消えた事に対し、無表情なキミアの目から静かに涙だけが流れ続けた。


暫しの後、内から響く声に一瞬驚くキミアリエ。


「…あぁ、ちゃんと前から中に居たんだな…」


『じゃから言ったじゃろ。ワシはお前の中にちゃんと居るって』


「……」


キミアの心の中に、悲しみと共に救いの様な安堵感が広がる。この地に1人で立たねばならぬが、共に在る者は得られた。


「爺の世話をする必要が無くなっちゃったから、あの子の所にでも旅に出るかな…あの子達の所にも行ってみようかな」


『楽しそうじゃな! 期待しているぞ。じゃがその前に全ての魔力操作の修練を忘れずにな』


「勝手に契約したんだから、しっかりと手伝ってもらわないと困るからね!」


新たな旅の計画を立てつつ、キミアリエは新しい居場所に落ち着くエレフセリエと共に一歩進踏み出すのだった。

次はフレイリアルのその後の話になります。

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