表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

177/281

おまけ1 ニュールの戻る場所

おまけ話書き始めました。


最初は地下で動き始めた魔法陣を止めに行った後、フレイリアルの所へ行く前のニュールの話です。

過ぎ行く時を刻むのに永遠に変化を止める黄白色の光溢れる無限に広がる空間、苦渋の決断を下し契約が終了した。世界を動かす意志持つ記録によって望む場所へと一気に移動させられる。

そこは薄暗い一室であり、今までいた煌めく光溢れる場所との落差で視界奪われた上に、その他の感覚も狂わされている状態の様だった。


「ここはどこだ…」


思わず声に出し呟いていた。

望む場所へ辿り着く…と言われたが、自身の願望など思い及ばなかった。


「きゃっ…」


部屋の主と思われる者が、闇の中にある人の気配に驚き小さく叫ぶ。

その者は吃驚した後、待ち望んでいた思い寄せる者の声を認識し、自身の口を両手で塞ぎ驚きの叫びを圧し殺す。

ゆっくりと笑顔の花が開く…そして、声の主の名を優しく甘く思いを込めて呼ぶ。


「ニュール…」


ニュールも其の声で自分の辿り着いた場所を把握する。

意思持つ記録…無限意識下集合記録の管理する領域から、選択の時を終えニュールが飛ばされた場所。そこは数刻前、塔の地下に降りるためニュールが最後に訪れた…モモハルムアが滞在する部屋だった。


モモハルムアは薄暗い闇の中で気配ある方向を見極め、瞳潤ませつつ愛しい者を探しだす。そして薄ぼんやりと浮かぶ影を、煌めき入る眼差しでジッと見定めると素早く立ち上がる。

先刻のニュールの治療で、一気にモモハルムアの傷の回復は進んだようだった。


「こんな時間にすまない。強制的に転移させられ出てきたのが…」


ニュールが感覚取り戻した時には、いつの間にか駆け寄り近付いたモモハルムアに抱きつかれていた。

モモハルムアの熱い思いが…昂る魔力と共に送らる。ニュールも正面から思いを受け止め、2人の周囲には綺麗に巡る魔力の環が出来上がり煌めく。


「無事で…無事にお戻りになられて…本当に…本当に良かった…」


涙し、ひしと抱きつきながら何度も呟き、モモハルムアはニュールの無事を確かめる。



王都への大魔力による直接の攻撃から、王宮や民達、臣下、城に在る全てのモノをニュールは守りきった。

地下で蠢いていた大地創造魔法陣(エザフォスマギエン)が引き起こす大地への強大な破壊的魔力も大賢者達で協力して止め、その後の揺り戻しもある程度防いだ。


城の内はひっそりとし、戸外の方が人の気配が濃いようである。

ニュールが出立する前に出していた指示に従い、王宮広間前の広場では難を逃れるために集まった何も知らぬ民達のために炊き出しが行なわれ未だ続いているのだろう。

モモハルムアも手伝いに出ようとした。

一昨日ニュールの代わりに受けた金剛魔石の攻撃で瀕死の状態となっていたは周知の事実であり、働く許可を与えるような者は流石に居ない。

誰に聞いても安静にしているように説得されるだけだった。

特にフィーデスからはきつく安静を申し渡され、代わりに手伝いに出るとまで言われてしまい、引き下がるしかなかった。実際にフィーデスは今も現場に出いるようだ。

仕方なく滞在する部屋で休むモモハルムア。

そんな状態だった故に、ニュールは短い時間とは言え穏やかにモモハルムアと会うことが出来た。

再度同じ場所を訪れたニュールが咎められなかったのも、食料や寝具などの支給の手伝いを未だフィーデスが行っている結果である。

もしフィーデスがモモハルムアの側に留まっていたならば、闇の支配する刻限…いきなりモモハルムアが休む部屋に現れ、小さく…とは言え叫び声を上げさせる不届き者を発見したのなら、厳しめの守護者フィーデスの剣が、有無を言わさず侵入者を一刀両断し裁きを下し排除したであろう。



ニュールは転移する前、更なる危機に対処するため賢者の塔である黄の塔へ赴く…と周囲の者達に一応伝えてはいた。様々な指示は出していたが、何の危機に対してなのかのは共に進んできた者達以外には詳しく知らせなかった。

知ることで予想外の行動起こし危険に陥るより、この場所が安全であると言う安心感で留まらせたかった。


モモハルムアは出立直前に治療がてら? …偶々…会う機会有ったからなのか、緊密な仲間同様に理由を聞かされることになった。


勿論それは偶々では無い。

ニュールは黄の塔に赴く前にわざわざモモハルムアの部屋へと立ち寄ったのだ。

「なぜ立ち寄るのか」 …今誰かに理由を尋ねられたら、「分からない」 とか 「何となく」 …としか答えようがないとニュールは思った。

" 本能 " …とでも言えそうなぐらいだった。


『治療…必要なのは治療だ』


心残りのある気持ち… 「何となく」 …の理由をニュールが考え無理やり辿り着いた答えだった。

これからニュールは淡黄の間へ赴き、塔と繋がり地下へ降りる。

白の塔で散々拒んだ接続を行う。

明確な手順も理解しているし、刻々と時が迫るのも分かっているのに、此の場所へ立ち寄らなければいけない理由…強制力ある思いの根拠を探したとき、それぐらいの理由しか思い浮かばなかったのだ。

モモハルムアの部屋の前に立ち、扉叩く。


「地下で大地を破壊する魔法陣が動き出している。ただ、止めるためには塔に繋がらねばならない…その前に最後の治療を…」


部屋に赴いたニュールがざっくりと説明すると、モモハルムアは心配そうに語りかける。


「ニュールは大丈夫なのですか?」


元々、心配したりされたりする様な者を持つ立場ではない、影に潜み暮らす者としての時間が長かった。こんな馬鹿みたいな力を持つようになってから、心配される立場になることもなく身の置き場のない…っと言った感じのムズ痒さがあった。

それでも、寄せられる心が嬉しかった。


『だからこそ守りたかったのかもしれない』


ニュールが金剛魔石の攻撃を受けたとき、自身でそのまま攻撃を受けていたのなら…全てを消し去るか…自身を消し去るか…の2択になっていた気がする。


『ここに今存在し、守りたいと思う者が居るのは…』


余計な事を考えると遣るべきことを放置してしまいそうなので、ニュールは一旦心に鍵をかけ保留する。

問いかけには答えず此処に来た理由を告げ実行する。


「治療を行う」


そう言って癒えきっていない傷を抱え寝具の上で起き上がっているモモハルムアへ口付ける。

ニュールの体内魔石の魔力引き出しながら注ぐようになされる口付け。

その癒しの力は体内を巡ると、魔力で身体を輝かせ活性化し再生を促す。そして更に傷を治癒へと導いていく。

その魔力と口付けは治癒と共に人を魅了する力をも持ち、惑わせ釘付けにする。

モモハルムアは離れていく唇が惜しくてたまらない気持ちになる。思わず横に座わるニュールへと、糸繋がるかの様ににじり寄り懇願する。


「もっと…」


珍しくニュールはその言葉に応じ、もう一度…治療以外の気持ちまで入ってそうな熱い口付けをモモハルムアへ捧げる。

絵面だけなら…通常より年齢域が低めな者が好みの、立派な犯罪者の出来上がり…と言った風に見られてしまいそうだ。それぐらい飾り気の無いモモハルムアは、幼げで儚い感じだった。

まだモーイぐらいの立年の儀前後の年齢層を相手にする…っと言う方が理解できる者は多いだろう。

本来のニュールの好みは、それさえも幼いと感じるぐらいだった。出るとこ出て引っ込む所引っ込むメリハリある大人な肢体や雰囲気が大本命であり、ニュールの趣味が変化したというわけでもない。

魔物の本能で考えても、番を選ぶなら成熟した者を選択するのが妥当である。

数年を経てから迎えねばならない様な者を待つ、必要性を感じない…それにも関わらずニュールの心が動く。


『この者で無ければ要らない…』


以前の倫理観と良識で縛られたニュール自身を、本能から湧き上がる思いに従う魔物なニュールが押さえつける。

心からの情を…渇望を潰すことを許さない。

蕩けそうに熱い眼差しを向けるモモハルムアを今度こそ引き剥がし、労わるような優しい気持ちで強制的に寝具の上掛けの中に押し込み休ませる。


「全てが終わるまでには然程はかからないはずだ…休んでいろ」


一言告げると転移陣築き黄の塔、淡黄の間へ思い定め向かった。



再びモモハルムアの前に立ったニュールは、大事を成し戻ってきたでのであろう…少し疲れた様子だった。


「ニュール…大丈夫ですか?」


モモハルムアの労わりの声掛けに素気無く答える。


「あぁ、問題ない」


実際はニュールの心は石を飲んだように重かった。

無限意識下集合記録との縛る様な契約は、ニュールを下へ下へと沈めていく。

世界を捕らえている枷を外すための願いで、自分だけが囚われ縛られる世界が出来上がる。

自由になった者達を目にしながら、囚われた檻の中から通り過ぎる人々を未来永劫見送り続けなければならぬ…自分が選び取ってしまった苛酷な運命。


了承はしたが納得いくかは自分次第。

投げ捨ててしまえば、神に等しき超越者の手慰みに…勝手気儘に面白半分で手を加える様な世界が出来上がる。

気の重さは横へ置き確認する。


「此方で何か問題は?」


「フィーデスが様子を見に来てくれた時に教えてくれましたが、王城外は2~3度地面が揺れたそうです。勿論人々は此処へ留まっていたので大丈夫でしたが、街はその前の攻撃魔力と地揺れの影響で相当酷いそうです…」


「そうか…」


「…あの、ニュールはこれからどうするのですか?」


「全てが片付いたら、そうだな…普通に暮らしたかったんだがな。まぁ、責任は果たしてからかな」


以前同様情けない…少し困ったような顔で答える。

そしてニュールは自分の中の複雑な思いを言葉にまとめて告げる。


「そう言えば礼を言ってなかったな…すまんな。お前が助けに入らなければオレは違う道を選んでしまったかもしれない、今のオレがここに居るのはお前のお陰だ…ありがとう」


其の言葉にモモハルムアは目を見開き喜ぶが、ふと不安そうに尋ねる。


「ニュールは今のニュールで居ることに、後悔はありませんか…」


「山ほどある。だが、後悔の上に成り立っている今の自分も悪くないと思っている」


そして柔らかに微笑み告げる。


「毎回オレを闇から引き上げ救ってくれるお前に感謝している…」


「感謝だけですか?」


モモハルムアは絶好の機会を得たとばかりに可愛らしくニュールに斬り込む。


「では、この先のオレの忠誠をお前に捧げよう」


「それだけじゃ、もの足りませんわ。私は欲張りみたいです…貴方の存在そのものを救ったと言うのならば、身も心も全てが欲しいです」


魔物なニュールに負けないぐらい、強かで艶やかな魔性持つ笑みを浮かべ攻め込むモモハルムア。

ニュールも其の挑戦的な誘惑に、先を考えた時の重い気持ちを吹き飛ばされる。愉しそうに困った振りをしながら答える。


「では、未来永劫お前に全て捧げ尽くすか…そうするとオレが喜びを手にする様なモノだが良いのか?」


「えぇ、私にとっても最大の御褒美と栄誉を頂く様なものです。一番の願いが叶います」


其のモモハルムアの得意気なもの言いに、ニュールが今までにない強かで魔物の王たるにふさわしい余裕のある笑みを浮かべモモハルムアをジット見つめる。

しかも全てを絡めとりそうな其の笑みはモモハルムアにゾワリした感覚を走らせ芯から熱くし、目の前に全てを晒しその身体を差し出したくなる力を持っていた。

だが其の後に浮かべた、本当に嬉しそうなはにかむような小さな笑みの方がモモハルムアの心臓を撃ち抜く。


『私のお慕いする方はやはり手強そうです…手に入れたとしても、警戒せねば他からかっさらわれそうですわ!』


そしてモモハルムアは決意する。


『絶対にこの方は誰にも譲りません…何回戦ってでも勝ち取ります』


久々に狩猟型魔物なモモハルムアの本能が全開になる。

其の覚悟を知ってか知らずかニュールがポスリとモモハルムアの頭に手を置き呟く。


「お前が前に言ったようにオレは時を持たぬ者…待てるから、慌てなくて良い…ゆっくりと成長しろ…」


暖かい茜射す橙色の瞳が包み込むような優しい微笑みを作り出し、モモハルムアの心を更に捕らえて離さない。

心臓を直接掴まれたかのように、モモハルムアのドキドキが止まらない。


「勿論、時間を超えて成長してみせますとも。でも、そう長くは待たせませんから覚悟して下さい」


そう言うとモモハルムアは待たずにニュールの肩を掴み頭をグイッと引っ張り下ろし、極近くで目と目を合わせ更に伝える。


「貴方は私のもので、私は貴方のものです…何者にも譲れませんわ」


そう言い、甘い毒をまき散らし獲物を痺れさせて狩る魔物の様に美しく笑む。そして、既に手に入れているニュールの心に止めを刺すように自ら誓いの口付けを捧げる。

苦笑浮かべつつ全てを受け入れたニュールは、今までにない幸せそうな笑みを浮かべ心捧げる口付けを返すのだった。

次は大賢者エレフセリエとキミアの話になります。


ポツポツと書いて行きますが、またお立ち寄り下さい。


宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ