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30.動き届く前

球形の太陽如き輝き持つ光が上空で地上を照らし、その周囲を取り巻くように魔法陣が広がっていく。

賢者の塔を中心に広がる巨大な魔方陣はエリミアを超えサルトゥスにまで広がっていた。


真夜中なのに昼の様な明るさが続き、大元となる太陽の如き光球より生れ出る魔力纏いし光の玉が四方八方に一斉に飛び出し移動していく。

流れ星よりも遅いが砂蜥蜴(サンドリザード)よりずっと早いようだった。其れは、あっと言う間に上空から遠くへ飛び去る。

球一つ一つの飛んでいく速さが異なるのが不思議だ。

その中のゆっくりと移動するモノは、国外の何処かを目指すだけでなくエリミアの各都市上空に留まり輝く。

その異様な光景を目にした民は恐怖を覚え、扉と窓を閉ざし家に籠り震えるのであった。


ニュール達は、黄の塔からプラーデラ王宮へ移動した文書の調べを粗方終えていた。

本来ならここで王宮から立ち去りたかったニュールだが、簡単には実行出来そうもなかった。何故ならば、とてつもなく忙しい。

知らぬうちにピオとディアスティスの策略に嵌められ仕事を振られたニュールは、すでに継続的に大臣達から相談を受け、判断を請われ…と言う感じに王の執務の様なものを詰め込まれていた。


少し前のニュールなら気分だけで、即切り捨てたと思われる状況。

だがモモハルムアに揺り動かされ目覚めた人間の情が、それが持つ利点さえも取り入れようとする前向きで新しい魔物なニュールを作り出す。表面上は以前のニュールにかなり近付いていた。


元々人たらしな面持つニュールであり、魔物の心混ざる身であるのに周囲の気持ちをガッツリ掴んでしまっていた。むしろ以前より突き進む感じが先陣を切る者…先導する者に見え、従う者が急増中だ。

更に先日のモモハルムアの治療で黄の塔より大魔力導き入れ治療を施した時の姿が、魔力でやけに光り輝いていたらしく心酔する者が王宮内に生まれていた。


「ニュール、王様の次は神様やんのか?」


ミーティがふざけた事を聞いてくる。


「光神皇陛下とか言われちゃってんぜ」


…思わず寒気がするニュール。

そんな呼び方をされているのまで耳にして、この場所からの早急な離脱が必要だと気付く。


「遣らんし出来ん! …そもそも、何処からの情報だ」


「みんな言ってるぞ。まぁ、ピオが中に入って煽ってることが多いけどな」


「…まったく、妙な宗教立ち上げるな!」


ミーティに言っても仕方ないが、頭を抱えたくなるような余計な事をしてくれる奴がいるようだ…思わず溜め息をつきたくなるニュール。

ある意味、緊張感のない長閑な時を過ごしていた。

そんな中、遥か遠い地…と思われるが、爆発的な魔力が湧き上がっているのが伝わってくる。


「…なんだ?」


ニュールは怪訝な表情で感覚を得た方向を見て小さく呟く。

得られた怪しい膨大な魔力の高まりの詳細を感じとるため、目を閉じ感覚を研ぎ澄ます。


「…!!!、エリミアか?」


その言葉と驚きは、そこで起きている事を予感するものだった。


『オレが守れるのは、ほんの一握りの人間ぐらいでしかない…でも、立ち向かうのは楽しそうだ』


人の心取り戻しつつある魔物なニュールだが、新たな事態に昂ぶりつつ決断し伝える。


「ミーティ…各部署、各地へ伝令を出せ。王都の者はなるべく王宮へ集まるように動かせと伝えろ…生き残りたいのならば自分達で動け…と」


危機が訪れるという確実な予感に備えるため、まるで本物の王のように動き始めた。



ヴェステ王国の王宮最奥は大変な事になっていた。

王自身が導き出した、体内魔石から導きだした魔力で周囲を切り刻み、恐ろしき襲撃跡を作り出していた。

だが王は面白そうにその嵐過ぎ去ったかの様な惨状を見て、自身の体内魔石の魔力を動かしたり感じ取ったり…嬉々として楽しんでいる。

数刻後、宵から籠る寝所へ恐る恐る様子を伺いに来たのは古参の侍従であった。

離宮にいる頃よりの臣下。


「王よ、一体何が!」


その荒れた惨状を目にして声を出す。


「あぁ、ごめんね…此れ遣ったの我だから」


「いやっ、それは承知しております」


過去何度も経験している部屋の破壊、離宮にいた頃は毎日がこのような状態だった。


「ここへ導き誘った者が引き金ですか?」


「まぁ、そうなんだけどね…お陰で中身の制御が出来るようになったよ!」


この状態なのに、子供のように嬉しそうに伝える国王シュトラ。

体内魔石の制御は長年の悲願だった。


「それは僥倖でございます…」


王の悲願知る者は、王同様に噛み締める様に喜びの表情表す。叶うとは思わず叶ったシュトラの願いは、次の願いを引き寄せる。


「ならば次は本当に賢者の石だな…それで解き明かすための準備が整う」


だが、その自由に扱えるようになった体内魔石が語り掛けるかのように気付きを王に与える。


「更なる願いを叶える前に試練を受けねばならぬようだ…」


遠い天空より、光と影混ざる強大な力が押し寄せてくる感覚がヒシヒシと伝わる。

王が、真剣な顔で告げる。


「王都の者は王城砦内へなるべく速やかに移動させろ」


王の急激な表情変化と強い言葉に一瞬戸惑うが速やかに対応し跪き答える。


「仰せのままに」


素早く王の意に沿い動き始める。



キミアは何でこんな所まで言われるがままに飛んできたのか、指示に従う自分自身を疑問に思った。

エレフセリエが無理やり起きてきて告げた話の要の部分だから仕様がない。

白の塔の結界霧を超え、塔の前に立つ。

すると転移で現れた白の巫女ラビリチェルが、魔力高め容赦なく攻撃を仕掛けてくる。


「いきなり、これは無いだろ!」


攻撃を余裕で躱しつつ声を掛ける。


「不審者」


「いやいや、タラッサ…レグルスリヤの水の塔から連絡は来てないか」


「来た、でも知らない奴」


ざっとエレフセリエや水の塔の事を伝えても変わらず攻撃は続く。

大賢者を引き継いだ遠い昔、遠見の鏡で顔見世を行う予定だったが面倒で予定をすべて蹴ったのを思い出したキミア。


『アレにも意味があったんだね…そりゃ会ったこと無いから知らないよね』


その時、エレフセリエに言われた事を思い出す。


「手こずったらあの坊主…ニュールの話をすると良い」


『何でニュール? しかも坊主って…』


その時は言葉に引っ掛かり、思わずキミアは鼻で笑ってしまうだけだった。


「ニュールとも暫く一緒に過ごしてたんだよ!」


それだけで攻撃が止まった。


『何、このオヤジ効果! びっくりだね』


「ニュールの事、聞かせてくれるなら入れてやる…新しいディリも喜ぶ」


入れてやる扱いなのは気にしないことにしてお言葉に甘える事にした。

だがその時、樹海を越えた向こうから大きな魔力の高まりを感じた。そしてその塊の一部が向かってきていることを…。


『これのことか!!』


「急ごう!!」


ラビリチェルに声を掛け塔の中へ赴く。


「急いで都市部から避難する指示を出した方が良い。この周辺は強く守れる狭い範囲を作ってそこに人々を収容するんだ!」


各地で動き始めた。



サルトゥスでは動きを感じるより前から境界壁の魔力を塔へ繋ぎ変え、賢者を配置し防御結界陣を組み上げてある。補助魔力として闇石も用意してあるが、これはアルバシェルが居ない場合に使うのは難しいだろう。

時の巫女リオラリオによる先見によるものだ。

王都民には既に王城へ避難するよう指示した。

折角先が見えても、何からの避難なの分からない人々の一部は不満を口にして従わない。


「こっちは商売があるんだからさ、神殿の酔狂に付き合う謂れは無いんだよ…」


「起こるかも分からない危機に対応する気はないよ」


「迷信か? 馬鹿々々しい」


そう言って応じなかった者達が多数いた。


「聞かない者は捨ておきなさい…あとは其の者達自身の判断になります。こちらも其処までの力は無いのですから…」


『最小限の被害で終わるならば此処だけで済むだろう…』


リオラリオは最善を目指しつつ切り捨てることを選択する。説得する余裕は無い。

ただ、この結界は一度閉じてしまえは入れてあげられない…その時は目の前で起こる苦しさを受け入れるしかないだろう。


「あの子達が最善の選択をして進んでくれることを願うしかないのね…」


神殿の窓から、整った王都をしっかりと見守るのだった。



タラッサの水の塔では、各神殿に力を分け与え守りを強める。

大賢者エレフセリエも目覚めていた。

重要案件であり目覚めは必須。


「ワシは此処で力使えば生物としては潮時じゃろうな…だがこれでキミアリエの中にしっかりと納まってやれる」


そう呟くと満足そうな笑みを浮かべた。

耐えられるかは分からないが準備は万端だった。



指定された都市上空に魔力纏う光球が到達する。

ゆっくり進む物や早く至るもの…様々と存在した、それぞれの場所で明けの空の如き色合いを天頂にもたらし、移動で消費した魔力を周囲から集め、ゆっくりと輝きを増していく。


「そんなに早くは進んでいかないから大丈夫だよ…まずは王都や首都。その方が少し恐怖を…生きているって実感を得られるんじゃないかな。それにアレは魔輝を攻撃魔力に変換したものだから各国にとって恩恵でもあるんだよ」


そして美しく微笑みながら続ける


「生き残れればね…」


リーシェライルは壊れた柔らかい笑みを浮かべフレイリアルを見つめる。


「リーシェなんで!!!」


「君だって無くなっちゃえば良い…って何度も思ったことあるでしょ? なら一緒だよ」


「!!!」


「皆、同罪なんだよ」


強気なのに泣き出しそうな表情であった。


「止められないの?」


「この往古の機構を起動して作り出した魔法陣…他の陣と性質は一緒だよ。鍵を知る者だけが解除出来る…効果切れるまで止めることは出来ない。そしてこの陣は鍵を持たないし、負荷をかけ破壊するには強大で複雑…読み取り行う程の時間も無いよ」


灰簾魔石色の瞳に悲しみ湛え儚く笑むリーシェライル。


「後悔してるの?」


「後悔はしてないよ…」


そして花咲くような美しく鮮やかな笑みに切り替える。


「それでも、君との時間がもっと欲しかったな」


「それなら、私がリーシェとの時間を取り戻すよ。今度こそ本当に私が後悔しないために…」

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