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16.思いに動かされ

最近エリミア王国内、王国外共に騒がしいようだ。


国内では王妃が重い病で臥せっていて、公務が滞っていたとモモハルムアは聞く。

元々王は心遠くに置く方故、王妃が公務の半分以上を受け持っていたらしい。特に内務を担当する大臣達が困っていたそうだ。王妃は療養受け持つ賢者の塔にて、介助を受けながら復帰に向けて活動していると言う話だった。


国外に至っては、サルトゥスでは皇太子による王位簒奪が起き、タラッサは宗主国の奪い合いによる内紛が起き、インゼルではヴェステによる中枢乗っ取りが進んでいるようであり、プラーデラは軍備の強化を行いヴェステに全面的に仕掛けると言う噂も聞く。


そんな国内外…近隣諸国の物騒な話をしながら祖父アナジェンテとフィーデスとお茶をしている時だった。

祖父がお茶をするには重い各国の情勢語っていたのだが、更に重い表情になり突然に話題を変えた。


「今のままの彼ならば追うのは止めなさい…」


滅多にモモハルムアに意見しない、モモハルムの祖父アナジェンテが意見する。


「えっ?」


祖母譲りの紫水晶色した瞳に揺らぎが生じる。

今までモモハルムアは一言も慕う殿方が居るなどと祖父に伝えた事が無かったから動揺する。


「アレはお前には荷が勝ちすぎるし、お前に相応しくない」


「???」


「お前には普通に幸せを手に入れて欲しいと思うのは爺の我が儘か?」


お茶に噎せそうになりながら、思わず聞き返す。


「急に何をおっしゃるのですか?」


「ヴェステの王宮に現れて、王と取引をしたそうだ」


ニュールのことと思われる指摘にモモハルムアは青天の霹靂と言った気分になる。


「それが何故…」


「彼の者…人の心が希薄だ」


祖父の心に引っ掛かる何かがあったことを察するモモハルムア。


「?!」


「特殊な環境下でやむおえず陥った状況での出来事については、其処からの脱出と言う足掻き有るならば…と思った。囚われ支配され陥ったであろう状況も納得できなくはない…」


相手の素性を既に熟知しての言葉だった。


「だが、今回は…例え何らかの事情あるとしても…人として存在する意義を手放してしまった様な者に…戻る道は存在しない」


モモハルムアは、アナジェンテに返す言葉を思いつかなかった。暫し沈黙の後、短く返す。


「それでも私はニュールをお慕いしてるのです」


アナジェンテは孫娘のその言葉と瞳の強さに言葉を継げなかった。

例え、誰が何と言おうがモモハルムアの気持ちは変わらない。思いを変えられるのはモモハルムア自身のみ。困難な状況なれば寧ろ闘争心あらわに立ち向かう。


「もし…あの方に戻る道が無いのなら、私が作ります。それでも戻れないと言うのなら、共にその先へ参ります」


アナジェンテは遠い昔に覚えのある、その真っ直ぐ思い定める紫水晶魔石の様な瞳と対峙し何も言えなくなるのであった。


「まず私は確かめに参ります」


そしてヴェステヘ向かうため、モモハルムアは王宮へ陣を使うため赴く。




全てを片付け切ったタリクとともにフレイはアルバシェルの家に入り一心地つく。

タリクはアルバシェルに対するように、至れり尽くせりの対応で一家に1人居たら絶対便利な人…という感じでフレイリアルの世話をする。


「タリクって、一緒にいたら完璧に快適な生活送らせてくれる人だよね…きっと最高の旦那さんになるね!」


お茶とお菓子を侍従か執事か…という完璧な動きで給仕するその姿にフレイリアルの漏らした、他意無き感想だった。

表情は冷静なままだが、思わず手元が狂い食器の音を立ててしまうタリク。


「余計なことを喋らず、温かいうちに召し上がりなさい」


丁寧な叱責…という感じで述べたが、タリクが喋る言葉に薄っすらと動揺が入る。

一度捕らわれた繋がりを自覚してしまうと、無意識に何度も見返し…深めてしまう。

そして自身の行動を恐れ…原因から距離を取りたくなる。


今日は魔石拾いに続き、長閑な寛ぎのお茶の時間…と暢気な時間を過ごしていると家の外に仕掛けてある防御結界に反応があった。

窓から外を確認すると、エリミアの正式な使者などが持つ旗と、門兵たちが着ける鎧を纏う10人程の集団が外に控えていた。

敵意を感じないため1名通過許可を出すと、訪問者がやって来て扉を叩く。


「エリミア王国第6王女フレイリアル・レクス・リトス様のお迎えに上がるよう、大賢者リーシェライル様より申し受けて参りました。速やかにご同行頂きたく存じます」


応じると、恭しく述べる内容は予想外のエリミアからの迎えの兵の口上だった。

全てお人形になっている者達だった。


『動く魔力にリーシェを感じる…』


フレイリアルは魔力を操る気配にリーシェライルを感じホッとする。

正式な兵を賢者の塔…リーシェライルが動かせるとは思えないので、リーシェライルの率いる私兵という感じの者達かと思われる。


「用意をするので四半時程お待ちください」


フレイリアルは対応したタリクにそう告げてもらい、準備を整える。

準備を手伝いながらタリクが告げる。


「私はエリミアの方達の所まで貴方を連れて行くのが役目。正式…と思われる十分な戦力持ち安全にエリミアまで行ける迎えが来た以上、私の見送りは此処までとさせて頂きます」


フレイリアルの瞳が不安で揺らぐ。

それを感じ取ったタリクが優しい笑みで瞳を合わせ言う。


「貴方は十分に色々なモノに対応出来る力を持っていますよ。安心して前に進みなさい」


「タリク、ありがとう!」


感謝を込めて思わずフレイリアルは抱き付いてしまう。

そこには元気付るような優しい思い巡る魔力の交換が起こり循環し環を作る。

だが、タリクはそこに熱い思い付け加え抱きしめ、見送りの口付けとは違うと分かる心の存在する口付けを捧げる。


「こういう、迂闊で愚かな所は自重して頂きたいのですが…これを含めて貴方らしいのでしょうね…」


抵抗せず茫然自失と言った感じのフレイリアルに、冗談にする様に優しく小さく笑いを漏らすタリク。

そして、いつもの不敵な笑みを浮かべて告げる。


「貴女が全てを手放してしまいたくなったら命じなさい。何処へなりと一緒に逃げてあげます」


その言葉に一緒に微笑み勇気づけられる。


「最高に勇気の出る見送りありがとうね」


そして忌まわしくも懐かしいエリミアへ向かうのだった。



エリミアには恐ろしく順調に辿り着いた。

それは兵に囲まれ寄り道するような雰囲気が欠片も無かったので、フレイが魔石探しを出来なかったためだ。

円滑に進む事で、会いたかった者に…リーシェライルに早々に再開できた。


その姿を目にした瞬間…全てが視界から消え、その者しか見えなくなった。

端正な顔立ちの中、ひと際美しく輝く宵闇に光差す様な色した瞳が、そよぐ風に踊らされている銀の雫のような髪の間…雲間に浮かぶ星のように煌めく。

その光の見せた幻の様な者へ駆け寄り、思い切り抱き着く。


「リーシェ!!」


触れた瞬間、目に見える程の魔力の煌めきが流れ込み巡り環を成し循環を作る。

この者の為ならば自ら全ての思いも存在も捧げても良いと思える者。


「フレイ…」


そして同じ思い以上のモノを返してくれる者。

離れていたが故に、より強く巡るようになった思い…決して、なくせない者。


気持ちが落ち着き状況が見えるようになってきてフレイリアルは改めて驚く。

リーシェライルは賢者の塔の前で待っていてくれた…今まではあり得なかったその状態に驚く。

塔を支配下に置き内部構造を制御下に組み込む事で、繋がるだけでは実現出来なかった魔力めぐる魔力循環領界の拡張を行う事に成功し、少しだけ行動範囲を広げられるようになったそうだ。


「リーシェ凄いね!」


「フレイがもたらした天空の天輝石が切っ掛けとなり出来たことだよ…ありがとう」


優しい微笑みの中に、こうして此の場に居られる事に嬉しさを滲ませるリーシェライル。

だが、ふと顔を曇らせ申し訳なさそうに切り出す。


「塔でスグにユックリしたい所だけど、その前にフレイはあまり会いたくないかもしれないけど…決めたいことがあって少し一緒に考えて欲しい事があるんだ…」


その言い方はフレイリアルが青の間でリーシェライルに教えを受けている時、課題を出される前の言い方を思い出させた。


「フレイはこの人をどうしたい?」


連れていかれた王宮の結界を厳重に張り巡らされた一室でその人を見た時、フレイリアルは愕然とした。

其処に居たのはエリミア辺境王国王妃であり、フレイリアルの母である人がいた。

声も動きも拘束されている様だが、フレイリアルを見掛けたときの目の色が尋常では無かった。

そして囚われる事になった経緯の説明を受ける。

リーシェライルに行った数々の行い…罪状に怒りが湧く。だが、伝え聞いた王妃が側の行動理由については何の感慨も湧かなかった。


「別にどうもしたくないよ…だって何の繋がりも出来上がらなかった人だから」


以前この方に問われた、頭の中がグシャグシャする気分になる質問についてだけはフレイリアルは答えを叩きつけたかった。


「まず、私は私がこの世界に居ることを今は少しだけ嬉しくて楽しいと思えてる…だから感謝はしています」


フレイリアルは淡々と王妃へ向かい告げ、そして続ける。


「以前、 "貴女は、貴女の居ない世界を夢想した事がありますか" って聞かれた事があったと思うのだけど…私には自分が存在しなかった世界を想像できないし、そんな世界は存在しない。私は私が居なくなったとしても居た世界しか思い描けないし愛せないです…」


いつの間にか声の拘束解かれた王妃がその言葉に返す。


「貴女が…私が…居なければ…」


「居るのに、全く居なかった事を想定できない。私を排除したとしても、其れは貴女の世界での事。私の世界には干渉させない…」


そして魔力使い世界を切り離した。

文字通り世界を…同じ空間であっても同じ場所で無い世界とするため無意識に自身の力を使った。


「もう良いの?」


「立ち向かう時間をくれて有り難う」


「僕は君だけには甘いんだよ…」


不安そうな瞳をリーシェライへ向けるフレイリアルを、真綿でくるむように優しく気遣い抱き締める。


「大丈夫だよ…僕はずっと…共にあるよ」


王妃をどう処遇するかフレイリアルも分かっているが意義を申し立てることはしなかった。

それだけのことをリーシェにしたのであり、例え身内であってもフレイリアルに何かを言う程の思いがなかったのだ。


「いい子だね。よい判断が出来たと思うよ…」


まだ少し辛そうな雰囲気を持つフレイリアルを慈しみ呟く…そして思う。


『ご褒美に、外へ行きたくなくなるほど甘やかしてあげないとね…』


フレイの頭上でリーシェライルが極上の毒含む笑みを浮かべ更に強く抱きしめるのだった。

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