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10.動き救い出す

タリクはサルトゥス王宮内の協力者を頼り、アルバシェルの過ごす区域を管理する者たちの中に潜伏する。


普段、王宮ではあまり見かけない賢者に達している神殿関係者が多い。これは時の巫女のリオラリオが噂通り王宮に滞在している為であろう。

その分時の神殿に居る賢者もほかの人員も少なく、転移陣使った者の確認なども甘かった。

タリクは別の者の認証魔石使いなりすましムルタシア闇神殿から転移で時の神殿へ飛んだが、見咎められることもなく容易に移動できた。


別人の認証魔石は用意したが、その時々を隠蔽魔力でごまかすのには限界がある。その為、実際に髪色変え、衣装替え、変装して行動する。



この地に戻って半の月程。

闇の神殿から密かに手配し、協力を取り付けた者達に依頼し王宮内を探っていた。

入ってくる報告が日々過激になっていくのを感じ、時が差し迫っているのが予想できた。


「王宮内で王が弑虐されました」


その報告はタリクを震撼させた。


「アルバシェル様は?」


「相変わらずリオラリオ様により管理されています」


一応無事に過ごされていることに胸を撫で下ろす。


「ただ、反応が薄いようです」


「??」


「お人形ではないのですが、それに近い行動である…と、近くで世話する者に聞きました」


「…あと、他の継承権有る者たちで皇太子に非協力的な者は処分された様です」


「!!」


「お人形だった皇太子とすげ替えられる予定だった第二王子も処分されました」


着々と王宮が皇太子率いる者に掌握されているのを感じた。

唇噛みしめ思案するタリク。

アルバシェルが安全であると言い切れない、切羽詰まった状況になってきたのをヒシヒシと感じる。


「早々に奪還すべきなのかもしれませんね…」


そしてアルバシェルを自身の手で救い出すべく、タリクは魔物の巣窟の様になってきている王宮へ踏み入った。

話には聞いていたが、かつて訪れたエリミアの王宮の様にお人形率が高かった。


『聞きしに勝る状態ですね…』


タリクが王宮に慎重に潜み様子を伺う。

リオラリオが本気で皇太子を支援してアルバシェルを軟禁しているのなら細心の注意を払わねばなるまい。


アルバシェルは王宮に一応与えられている自室に籠っている…との情報を、侍女達から手に入れていた。

様々な情報を得てくれたのは、タリク以外のアルバシェルに付く側近3名だった。

今回の救出はタリクとその者達とで協力している。

最も実行するのはタリクのみである。

アルバシェルが軟禁された上に、周囲の継承権保持者がどんどん処分された。

事務的な対応していた一部の者も、現状の自身の立場に危機感覚え多少なら…と協力を申し出てきた。


同じ小殿司であるキリティアスもだった。

以前から何かとタリクに突っかかる人物ではあるが、情報収集力などは優秀だったので頼りにはなる。

タリクがアルバシェルの希望でフレイリアルに付いている時にも、この者がアルバシェルの周りを取り仕切っていた。


「アルバシェル様は昼時3つから4つぐらいは一人で過ごされているはずだ。他の方々は丁度、毎日王宮で開かれる会議の時間であり不在だ。突然何者かが訪れることは少ないと思われる…」


キリティアスが得た情報だった。

一応形式上執務も部屋で行っているので、側近が1名付けられていてキリティアスが其れをこなしている。


「執務中はリオラリオ様が指示されているから気を付けてくれ。それと一応アルバシェル様の周りに近づく時の潜伏用の衣装だ」


「あぁ、助かる」


いつもの様に無感情に返事するタリク。


「一応そう言った変装も必要だろ?」


そして手渡してくれたのは侍女用の衣装だった。

受け取る時にキリティアスの表情を見ると少し小馬鹿にしたような面持ち…普段の意趣返しと言った感じのようだった。


だが、意趣返しされたのはキリティアスだった。

比較的侍女用の衣装もサルトゥスの物は露出が多く…性別を超えて着てしまうと相当滑稽になる。

ちょっとした冗談の様な意地悪であり、キリティアスは小さく笑った後、普通の侍従の衣装を勿体つけて用意してやろうと思っていた。

だが、着替えたタリクは完璧に着こなしていた。

しかも、そこいらを歩く侍女より美しかった。

細身で妖艶な美少女に変身したタリクが艶やかな笑みを浮かべ、キリティアスに近づく。


「可笑しな所が無いか確認して下さい」


「!!!」


そう言って至近距離まで近づく。

キリティアスはタリクだと分かっているのに、その艶麗さに心奪われそうになり全身硬直している。

タリクは更にキリティアスの耳元まで近づき、甘く優しく声をかける。


「覚悟なき意趣返しは己に帰りますよ…」


飛び退き真っ赤になったキリティアスは、タリクを睨みつけるのであった。


タリクは仕掛けられた意地悪に対しちょっとしたカラカイ遊びをした後、示された時間少し過ぎた頃にアルバシェルの私室に水を持ち向かう。


「お水をお持ちしました」


扉を叩き要件を伝え中へ入る。

アルバシェルが椅子に座り一点を見たまま動かない。


「!!!」


その姿を見てタリクは絶句して顔をしかめる。

瞳を見ると人形では無いが、意思が抜けてしまっているかのような状態であった。予想した以上に内側を強く拘束されたのであろう事が分かった。


「酷いな…表層にいらっしゃらない…」


「そうよね、ちょっと予想以上に効果が出てしまって少し使いづらいのよね」


そこにはリオラリオも居た。


「ちっ!」


「あぁ、ごめんなさいね。貴方の同僚のキリ…何とか君、貴方への対抗心と嫉妬に囚われていたから誘惑させてもらったら、簡単にこちら側に落ちたの…」


「あぁ、やっぱりアイツ落ちてましたか…残念です」


「予想以上に潔いわねぇ…」


「悔しいですが、私の負けです」


そう言ってタリクは両手を上げる。するとその時、予想外の方向から声が聞こえる。


「ねっ! ちゃんと役立つでしょ? 私たちの勝ちだよ!」 


タリクの負け宣言は、この者達に対してだった。


「キミアだって一応大賢者なんだから大丈夫だよ」


「一応…って、言い方酷くないですか?」


アルバシェルの背後から声があり、隠蔽魔力が消えていく。

そこには、フレイリアルとキミアが居た。

昨日の朝早くにリャーフを出発して今朝ここへ着き、何も考えず着の身着のまま適当に王宮へ潜入していた。

そして潜入して早々、タリクに見つかったのだ。


「迂闊で愚かです」


定番のお小言をを頂いた。


「!!!」


今度驚くのは時の巫女の方だった。


「本当に、最近見えないものが多くって困っちゃうわ…って貴方、笑っているけど見えないのは未来よ、目じゃないのよ! 体は若返っているんだから見にくいわけないでしょ!! 本当に失礼しちゃうわね!」


リオラリオは背後に立つリオラリオの御付きの者であるお人形に向かい、一方的掛け合いのような会話をする。まるで独りボケをしているように見えた。


「あぁ、予想外の…予定外の進みだったので動揺しちゃったわ。皆でお茶でも飲んで少しゆっくりしましょう」


そう言ってリオラリオは寛ぎ始める。

リオラリオも相当潔かった。


「この流れになったのなら二者択一…どう動いても変わらないわ。それに動きようもないぐらいその子が強固な結界陣を構築して出入りを封じているでしょ? 解除できないこともないけど、今の私には結構な負担なのよ…」


リオラリオが言うように、この部屋はキミアによって閉じていたので、申し出通りお茶にする。

タリクが用意されたお茶に対し警戒する様子を見てリオラリオが言う。


「大丈夫よ、毒となる薬やら、体操るような魔石は入ってないから…言った通り自分に負荷はかけたくないから余計な事はしないわ。目標を目前にして潰えるって愚かだからね…」


リオラリオは自身の体調をやけに気遣う。健康そうではあるが、確かに疲れているように見える状態だった。


「この子は私が…薬と巫女の影響力で意識を落としたの…薬の影響はもう切れているわ。残っているのは巫女の支配による人形化のようなものよ…」


リオラリオは主にフレイリアルを見て話す。


「でも、ここまで拒否して表層から意識が落ちるとは思わなかったのよ」


ため息を付きながら優雅にお茶をすすり、フレイリアルに申し出る。


「だから、貴女が戻せるなら戻してみて頂戴…戻るか、戻らないかで進みに若干の差は出そうだから…」


「進み?」


「先への進み方よ」


思わず質問し説明が返ってくるが、今一つ進みについて理解できなかった。

それでも言われた通りにフレイは呼びかけ試してみる。

タリクも同時に試してみる。


「アルバシェルさん!」


「アルバシェル様!」


何度か同じように話しかけるが、反応が薄い。


「姫君なら王子様の目覚めの口付け…で起きる所ですかね~」


キミアが余計なことを言う。


「じゃあタリクからどうぞ?」


予想外の提案をフレイリアルがする。


「はい?」


「だってタリクの方が今は素敵な姫に見えるし、先に其で目覚めたら良いんじゃない?」


「……」


まぁ試すのはただ…と言うことで、タリクが挑戦するが無反応だった。次にフレイリアルも試してみるが、やはり無反応。


「此の大賢者様も繋がりができているのなら、此方の方が効果的かもよ~!」


「!!!」


キミアは突如横からそう述べると…スルリと元の姿に戻り、フレイを力強く抱き締め…アルバシェルの前で口付けてみせる。

だが全く効果無く、フレイリアルがそのキミアの行動に固まり絶句するだけだった。


「やはり、まだ時が満ちてないのかしらね…それならば私ももう少し抗わねばいけないのね…」


リオラリオはそう呟き、気だるげに巫女としての魔力高め…陣の解除に動き始める。

此のままだと巫女が陣を解除してしまう。

その後、ここは戦いの場になるだろう。


「アルバシェルさん、此のままだとリオラリオ様と…宮殿の人達と戦わなければいけなくなっちゃうよ! 戻ってきてよ! アルバシェルさんがインゼルに助けに来てくれた様に私も助けに来たよ…来てくれて嬉しかったから…来たんだよ! でもこれじゃ助けられないよ…塔で…隣に居てくれるって言ったじゃない!」


その気持ちと言葉と共に魔力の環が出来上がり循環し、アルバシェルを掴んだ腕を通し魔力が巡っていく。


『そうだな、このままじゃ隣を歩けないよな…』


アルバシェルの中で呟くような思いが湧き上がる。

青空の下で見る深い緑の輝き発し、内からアルバシェルが浮かび上がってきた。


「フレイリアル…来てくれたんだな…」


澄み渡る空の色した瞳で優しく穏やかに包むように微笑み、目の前のフレイリアルを抱き締めた。

フレイリアルはその瞳を見ることが出来て、無償に嬉しさ込み上げる。リーシェライルと海の道を歩いた時に近い思いが湧き上がるのだった。

巫女がそれを見届けて陣の解除を中止した。


「まったく、起きるのが遅いわよ!! 余計な労力を使ってしまったじゃない!」


思いっきり不機嫌そうな表情で言う。


「貴女が間に合いこの子の呪縛解いた時点で、此の経路はここで消滅ね…ならばもう好きになさい。一番簡易で被害少ない経路だったのだけど…戦禍に沈む自国の都市なんか見たくないと思うぐらいの良識は私にだってあったのだからね…ここまで来たら行き着く先は変わらなそうだからもういいわ」


あっけらかんと述べる。


「えっ、戦禍?」


「軍事力による政権掌握を起こされる選択肢も見えていたのよ…何とか避けたけどね」


最悪の事態起こりえる可能性あった事を説明する。


「私は時の巫女。操る事は出来なくとも見ることは出来る。そして関わることも…」


時の巫女は多大な情報を得て、一人行動していた様だった。


「今回、私の希望を打ち砕く経路も見えたから関わっただけ…それ以上でもそれ以下でもないわ」


そしてフレイリアルに向かい宣告する。


「貴女は空の巫女。空間を操るに長けた者。此の世界を続ける選択をするのなら何処でどう動くべきかしっかり考えておきなさい」


フレイリアルが何を考えるべきなのか…解らぬ事を指示してきた。


「次に私と貴女が会うのは扉の内で選択するとき…私はそれ以外の経路を望まないわ。関わりすぎも違う道を招くから、あとは貴女が考えて進みなさい」


そして、今度は他の者に向けても伝える。


「ここの状況は、もう終局まで至っているから変化はないわ…次はエリミアとヴェステ…それにプラーデラかしら」


皆を見回し当たり前の様に告げる。


「動かしているのは集合知に含まれし自動演算解析処理(プログラム)よ。多分、解析が終了し判断実行し始めているわね…無意識化集合記録の人格…若しくは意志…が動くとでも言うべきかしら」


そしてフレイとタリクとアルバシェルは白の塔でニュールから聞いたことを思い出す。キミアはお爺から散々言い聞かせられた事を思い出す。


「みんな其々頭を使い、そして覚悟を持ってあたりなさい」


リオラリオはそう言うとキミアにつかつかと近付き、陣を解除させ表に出る。

外で様子を伺っていた者達を解散させ、足早に人形の側近引き連れ時の神殿に戻っていった。

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