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14.巻き込まれに行きます

何だかんだしていたら斜…夕時の4つ半手前。


もう半時と少しで期限の夕時、少し日が沈み始めてるがまだ明るさをしっかり残す時間だ。ニュールが思ったより王城門までは歩きだと時間がかかった。

苦になるような距離ではないので、屋台で必要以上に色々食べて中身の詰まってる腹には丁度良い運動になった。


王城の外門は、ニュールも荷物の届け入れで入ったことはある。そこには門兵の詰所や配送物の預かり所、他には兵の訓練所等もある。内門へ続く通りには兵や荷運び人が利用できる食堂や雑貨店などもあり、王城へ仕事で来る人たちの為の小さな街と言った感じの場所だ。

王城中央外門からそのまま続く道を進むと2つほど交わる通りがあり、それを越えると内門に達する。


外門すぐにある配送物預り所に行ったことはあるが、この内門まで続く街中の様な道は全く踏み入ったことのない領域でありニュールも少し緊張する。


だが、ニュール以上に表情を固くしているフレイが斜め後ろを歩く。


普通の街中よりは落ち着いているし屋台などは無いが、やはり祭当日と言うだけあって飾りつけが華やいだ雰囲気を作っていて、通りに面した店はそれなりに賑わっているようだった。

それなのにフレイは街にいるとき以上にマントを目深にかぶり、真下以外見えてないんじゃないかと言う状態でトボトボ歩いてる。


外門に到達するまでは、曲がりくねりながら少しずつ坂道を昇っていき、高い場所からの目線に変化していく景色を楽しみ、ニュールの周りをクルクル回りながら魔石に纏わるアレコレを説明していた。


「この王城への道に沿って出来てる手すり壁には、魔石が一定間隔で埋めてあって暗くなってくると光るんだ。今は夕方でも明るいから光ってないけど、最高~にきれいなんだよ。ニュールも光ってるお城を宿から見た? 本当は塔の上から広がる街の灯りがお薦めなんだよ。そして、この道は全体として見ると魔法陣の一部になっていて王城を守る結界を形作るんだって! だから王城へ向かうすべての道は魔石を含む石で作られているんだよ。翡翠魔石を含んでいるんだけど…国内の山で採れるらしいんだ~一度行ってみたいなぁ」


外門に入る前は、城の説明がいつの間にか魔石の説明になってるぐらい夢中になっていた。もう騒がしいぐらいに身振り手振りを付けて話していたが、外門の門兵による検問を受ける辺りからおかしくなってきた。


やっと門に到達ししたので、王城関係者の列に並び待っていた。順番が来たため、流石に王城内で右も左も分からないニュールではなくフレイが対応することになった。


「名前と身分証をお願い致します」


ずたぼろのマントを頭からすっぽり被っているフレイは怪しい人間にしか見えないし、ニュールは宿で提供された質の良い服を着てはいるが庶民以外の何者にも見えない。服に負けてる上に、くたびれた風貌であり門兵はさぞ息吹かしんだであろう。

それでも、王城関係者専用門を選び通過しようとする者。

高貴な方である僅かな可能性を考えて丁寧な対応をしてくる。しかし向けてくる視線は警戒感を顕にしていた。


「フレイリアル・レクス・リトス…選任の儀の試練から戻りました。昨日申請した守護者候補を伴っての入城となります」


「…はっ…ん?」


一瞬、対応していた門兵も二人の見た目で無礼者の悪戯か、狼藉者の侵入か…と疑惑の目を強めた。もう一人の門兵はためらいなく王族を騙る悪徒と断定し、怒りの形相で顔を赤黒くして今にも飛び出し拘束せんとばかりに槍を握り絞める。

しかし、最初に対応した者は息巻く仲間を押さえ自分の中の疑惑も一旦封じ、身分証を確認してからの対応へと持っていく。しっかりした対応の出来る門兵であり、教育が行き届いているようだ。


『なかなか見所のある奴だな。思い込みの激しい居丈高な奴が対応していたら間違いなく拘束されただろう』


ニュールは再びの小部屋行きの危機を脱出した事に感謝しつつ、こう言う仲間が居てくれたら心強かったろうに…と過去の経験を思い起こしてた。


フレイリアルの対応は今日一番で最高にダメダメだった。


フレイは無感情な冷々とした声色で高圧的に自身の名前を告げ、簡易な紐に結びつけられた身分証を懐から取り出し、門兵の目の前へ手でぶら下げたソレを突きつけた。


差し出された身分証札が蒼玉魔石である事を確認し、門兵の緊張が高まる。


身分証札はその身分で材質が異なるが、王城関係者の身分証は全て魔石を使用している。

王と王妃が金剛魔石、継承権10位までが蒼玉魔石であり、継承権無き王族が黄玉魔石である。

王城に入城する一般の勤め人などは、水晶魔石が基本となる。

そして王族の身分証には王自らが魔力を通し印した認証が付いている。


先程、怒りの形相で顔を赤黒くしていた門兵が今度は恐怖の面持ちで蒼白になっていた。こちらも、なかなか面白い者のようである。


「確認させていただきます」


ぶっきらぼうに差し出された札上に刻印された名前と王が組み込んだ魔力を確認感知し、青ざめ一歩下がった。


「大変お待たせいたしました。確認させていただきましたのでお通り下さい」


まるで見てはイケない者を見てしまったかのような表情。

フレイリアルに一応礼を執るが、見ませんでしたと言わんばかりにギュッと目を瞑り通りすぎるのを待っていた。

こうしてトボトボ歩きのフレイが出来上がった。ニュールは声をかけ、引き戻そうとしたが心ここに在らず…と言った感じのままだった。


「朝は違う所から出たのか?」


「うん……」


「このまま、あの100メルぐらい先に見える門へ進めば良いのか?」


「うん…」


反応が呆れるぐらい薄い。あまりにも反応が薄いのでからかってみたくなった。


「もう腹へったから何か買うか?」


「うん…」


「…今から守護者候補辞退しても良いか?」


「うん…………ダメッ!!!」


反応は遅かったが、聞こえてはいたようだ。

やっと顔を上げてニュールを見る。その瞳は泣きそうなのを我慢しているのがバレバレだった。


「やっと正気に戻ったか? さっきイッパイ食ってたのに、もう腹空いたのか? オレは帰っちまって良いのか?」


「ダメッ!!! 一緒にいてっ!」


ニュールの服の裾を思いっきり引っ張り、必死に留めようとするその姿は小さな駄々っ子でしかなかった。


「気が晴れないんなら、ぶちまけろ。腹の足しに成らないもん溜め込むな~」


そう言いながらニュールはニカッとオッサン笑いをして、フレイの頭にぽふぽふと手を乗せた。泣きそうな瞳の中に安心感が浮かんだ。


王城中央内門の検問にたどり着く。


ここからは中枢を司る機関が集約されている、国の重要な場所になるはず…なのだが外門より緩い感じがある。

先程の外門の様に誰何されるような場面もなく、誰でも入れるのでは…と言った感じの門。


なのにフレイが珍しくニュールに注意する。


「ちゃんと外門で渡された認証魔石持ってるよね」


「あぁ、身分証か?」


「ちゃんと触れててね」


飾りの様に立っている内門の門兵が見守る中を通り、門を抜ける。

…瞬間、激しい重圧を感じたと思った。直後に、体の中味をかき混ぜられているような嫌な感触が訪れた。吐き気を覚えそうなほどの不快感だが、ほんの一瞬で消えた。あまり何度も味わいたくない感覚だった。


「大丈夫だった?」


フレイが心配そうに聞いてくる。


「あぁ、大丈夫だが何度も味わいたくない感覚だな」


げっそりした表情で答える。


「やっぱりニュールって回路の繋がりが強いんだね」


「どう言うことなんだ?」


フレイリアルが内門の説明をしてくれる。


この内門の実質の管理者は賢者の塔である。

王宮から出されている人員は文字通りのお飾りの兵である。

内側外壁には強めの魔石が一定の間隔で柱として入っていて、各柱は魔法陣で繋がり各々の魔力を増強して強力な結界を築いている。

魔法陣の繋がりは回路の繋がりであり、回路がしっかり開いている内包者(インクルージョン)は干渉を受けやすいのだ。

賢者の塔の結界管理者達は王城壁の魔力に同調し、常時通過者を精査確認している。

そして城壁だけでなく、国境門から国を囲うように伸びる境界壁にも魔石を用いた壁が築かれていて魔物などの外敵の侵入を防いでいる。

魔力の調整や供給をコントロールし、まとめているのが大賢者リーシェライルであり、各賢者の塔長達である。


大賢者と賢者の塔長達は、この城の守りの要として組み込まれている。


「大賢者様は凄いんだな~」


ニュールはこの辺境の国で、この機構を正常に稼働し管理できていることに感嘆した。この国で暮らしてみて驚いた事の一つの謎が解けたような気がした。魔物の宝庫である樹海に隣接しているのに問題なく暮らせているのも、侵入を防ぐ機構が有るからこそなのだと知った。


「へへっん! リーシェは凄いんだ」


自分事のようにフレイは顔を綻ばせ鼻高々に答えた。


「そうだな。本当に凄いな。じゃあ、近くにずっと居られるようになると良いな」


この話で城門内に入ってからのフレイの憂鬱顔が吹き飛んでいた。この先も快適に城内で過ごすための心の支えとなりそうな大賢者がらみの話を、ニュールは更なる希望となるような言葉として伝えてみたかった。しかし、フレイはその言葉に異を唱えた。


「…ううん。魔輝石探しに行くから…」


「前にも言ってたけど、そんなに欲しいのか?」


「うん。必要。リーシェが自由に暮らせるようにするために手に入れてあげたい…」


「?」


更にその先の話を聞いて見たかったが選任の儀を受ける王族達が集まる控えの間に辿り着いてしまった。

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