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23.思い軽やかに重く

夕暮れ時に転移陣使い赴いたヴェステ王国より、フレイリアルは闇時1つに戻る。


ヴェステ国王との謁見後、王が最初に出した条件通り無事に神殿まで送り届けられた。但し、フレイリアルがやらかした事で余計なモノが色々と付いてきていた。


フレイリアルが見せた強大とも言える力の恩恵を受けるべく暗躍する魑魅魍魎と化したヴェステの上層を占める面々の手先が、あっという間に増殖し神殿の周囲に潜み入り込む機会を伺う。

そして、それに連動して探る他国の者たちまで群がってくる。


一応タラッサ連合国とヴェステ王国は友好国である。

国の管轄下にある神殿にあからさまな襲撃や略取狙う輩が押し寄せる事は無かったが、この状況では一歩外に出ればその限りでは無いだろう。


ヴェステ国王との謁見は、余り物を深く考えない比較的前向き思考のフレイリアルでさえ疲れさせた。王の言葉に悔しさと憤りを感じ否定し正したいのに、届く言葉を紡げぬ自身に腹が立った。

王との考え方…認識…立場…全ての相違に辟易とする。


色々あり、色々と思い返し反論の余地無かったのか一生懸命考えてみたフレイリアル。戻ってから与えられた部屋で休むも眠れず深の時2つ…もう時始めの鐘が鳴るまであと2つ…と言う時間まで起きていた。



朝日昇りそうな、時始めの鐘が鳴るか鳴らないかの頃。

キミアは眠るフレイの部屋へ勝手に入り込み、枕元に腰掛け話し掛ける。


「フレイ…君は何をやらかして来たの?」


フレイが眠ってからまだ3つ時と経っておらず、起きる訳もなかった。

自然と目覚める頃、フレイが寝ぼた状態で目を開くと誰かに抱えられていた。

エリミアの塔でうたた寝して起きた時を思い出して声を掛ける。


「リーシェ、腕が重いよぉ」


声を掛けると更に抱き締められる。


『あれっ違った?』


ぼんやりした頭で更に心当たりを呟いてみるフレイ。


「アルバシェルさん?」


「フレイ、それって酷くない?」


横で返事もせずに抱きしめフレイの言葉を聞いていたキミアが、突然がばりと起き上がり抱き締めていた状態から馬乗りになり両腕を押さえる。


「何だキミアか…おはよう」


寝起きのぼんやりした顔に、満面の笑み浮かべ挨拶するフレイリアル。

何の危機感も持たず状況を受け入れる…余りにも呑気過ぎてキミアの気が削がれる。

寝ぼけているにしても、この体勢で動じないのはフレイが場馴れしているのか…状況を理解せず、キミアの事も全く意識してないのか…後者であることは明らかであった。

それはキミアにも直ぐ分かったのだが、何だか納得いかない気分になってくる。


キミアの中で2つの選択肢が思い浮かぶ。

このまま絶好の機会を強引に使い事を運んでしまうべきか…はたまた余りにも緩い警戒心にお説教してやるべきか…。

第三の選択肢として…キミアはそのままプイっと立ち去った。


「まずいな…気をつけているつもりだったのだけどな」


自分の中に出来上がる小さな繋がる思いを警戒する呟きを残して…。



ほぼ起きたのが昼時だったため、フレイに朝昼兼用の食卓が用意されていると神殿の世話係の者に告げられた。

そして、フレイの為に用意された新たな服を確認し袖を通しながら驚いた。


『ちゃんと気を使ってくれたんだな…』


何だか温かい気持ちになった。


支度を整えて食事が用意された広間へと赴くと、昨日と同じ場所にキミアが座って待っていた。しかし今日は侍る華々が居ないし、何処か沈んでいる。

フレイでさえも気付くぐらいの憂い顔だが、余り気にしてはいけない気がした。

何食わぬ顔で服の礼を言う。


「キミアありがとう。この服、凄く気に入ったよ! 動きやすいし、何かちょっと懐かしくて嬉しかった」


今回用意されていたのはエリミアで良く皆が普段着とし着ている服を、少し改良かけて動きやすくした様な物だった。少しゆったりした布を首のところの紐で調節して絞り結び留め、腰の紐で更に絞る様な服だ。

丈を短めにし、布の量を減らし動きを妨げない様な工夫までしてある。

そのまま旅装束の中にも着られそうな、良く考えられた服だった。


キミアは相変わらず少しむくれた様な表情だったが、昨日と同じように自分の席の隣を叩きフレイを呼び寄せる。

何だか行動が子供姿の時のキミアに戻っている様で笑ってしまい、思わず示された通り隣に座ってしまった。


「気に入ってくれたんだね…嬉しいよ」


隣に来た事でご機嫌が直ったのか、素直にフレイの感謝の言葉を受け取り優しく微笑む。

今までに無い透明感のある笑みはフレイを少しドキリとさせる。

色々なコンキーヤ王国の名所の話や名物の話…とても楽しい話を食事を摂りながら話してくれるのだが、話の途中で向けられる視線に熱が入っている様な気がして思わずフレイは目線をそらしてしまう。

だがキミアはお構いなしに自分の望むままにフレイを見つめながら話を続けた。


自身の事も話してくれた。

キミアリエ・レクス・クインテが大賢者となった経緯を。


「今はコンキーヤとレグルスリヤは連合内の違う国として存在しているが、以前はひとつの国だったんだ」


コンキーヤとレグルスリヤの成り立ちから話は始まった。


レグルスリヤが塔含む土地として独立する前のコンキーヤ王国は、国の内に塔があることで他国より難癖つけられ攻め込まれたり、理不尽な要求を突き付けられる事が多く難儀していた。

塔も、連合国全体の利益を考えるべき立場で動いているのに、国内の一部の地域からの要求を通すよう強要されたりする事多く、双方に負荷がかかっていた。

その為に画策し、塔をレグルスリヤ王国として切り離し独立させた。


レグルスリヤの独立によってコンキーヤ王国は他国から賢者の塔を侵攻しようとする者が国土を踏みにじるのを抑制することが出来た。

レグルスリヤはハトゥルーサにある水の本神殿である賢者の塔を擁する国として立ち上がることで、独自性と何者にも与しない独立性を手に入れた。


この関係はおおよそ上手く行ってたのだが、大賢者の後継問題が生じる。

そろそろ大賢者が世代交代の時期と悟り、周囲から次代の候補を探すが後継者となりそうな妥当な賢者が存在しなかった。


レグルスリヤの王は大賢者が兼任しているので、後継が居ないと言うこと自体が国としての存続を危ぶませる。

再びの混乱を作り出さない為に、大賢者を " 作り上げる " ための賢者の石の苗床となるべき内包者(インクルージョン)を、石を授ける海宝の儀を使ってタラッサ連合国全土より選び出す。

何十年も試し…キミアが該当する魔石…北投魔石を内包したので、強制的に回路を拡張連携させて大賢者へと至らしめた。


「僕の助言者は先代だ…意識下の繋がりはあっても、本体があるから居ないようなものなんだ。エリミアの大賢者同様、統合人格が僕の助言者かな。あぁ、サルトゥスの大賢者も助言者には明確に繋がらないから同じように別な助言者持ってるんだよね…。賢者の石に繋がれた大賢者達は皆似たような境遇の下で存在しているんだな」


キミアは少し寂し気に述べた。

事故のように大賢者へと至った者、強制的に大賢者へ至った者…今代の大賢者に1人として臨んで至ったものが居ないのが不思議なぐらいだった。


「僕が持ち得た知識は全てお爺からのもの。もっとも、口頭で直接聞いてるから大賢者らしさは皆無の知識だけどね」


「キミアは先代様の事が好きなんだね」


「あぁ、そうだね。何だかんだズット一番一緒にいた人間だからね…」


綺麗に微笑み心を覆う。

キミアの瞳の中には2種類の思い宿っていた、思慕と…憎悪が。

そして、曖昧にする為にフレイに絡む。


「僕が、今日沈んだ気分になったのはフレイのせいなんだからね!」


「???」


いきなりの攻める言葉にフレイがたじろぐ。


「フレイがヴェステから帰って来てから、時間とともに神殿の周囲に怪しい人たちが増えてくるんだもの。結界を強化したり、夜通し色々対策をした上で様子を見にフレイの所へ行ったら全く起きてくれないし…起きたと思ったら他の男たちの名前を並べ立てるし…僕の事までこき使う男たらし?!って思ったよ」


何だか一方的に酷いこと言われているような気がしたけれど、必要以上に恥ずかしくなり思わず赤面してしまう。

そして一応言い訳をする。


「リーシェの名前が出たのはいつもエリミアで小さい頃から一緒に過ごしていたからだし、アルバシェルさんは不意に抱きしめたり良くされてたから…」


「じゃあ僕の名前も出てくるように、もっとシッカリ記憶に残るぐらい抱きしめないとね」


そう言ってキミアはお茶目な笑み浮かべ、横にいるフレイを強く抱きしめた。

そこには優しい思いめぐる循環が出来上がる。

この循環は歪さなく真っ直ぐな思い巡る環を描く、負の感情吹き飛ばすような繋がりだった。




ヴェステ王宮にて、側に控える隠者Ⅸは何も気にせず興味のまま王に尋ねる。


「王はアノお嬢さんは、そんなに好みではなかったですか?」


是非確認してみたかったことだ。


「いいや、大変好みさ! あの情欲を掻き立てるような性質含め、蹂躙し尽くしたい欲望に駆られるよ…一度触れてしまったら自分が捕らわれ…捉えたくなってしまい、約束破って帰せなくなってしまうからね。自分も戻れなくなってしまいそうだから…1年ぐらい外に出てこないで籠ってて良いなら、それも魅惑的な選択だったのだけどね」


至って冷静に語るが、目の奥に潜む激しく濃く蠢く欲が漏れ出てる。


「自制心の勝利って感じですかね…」


「それ以上を求める為かな…。あの者が求める繋がりを…より強めた後に断ち切るほうが、甘美な蜜を啜れ愉悦に浸れそうではないか?」


残忍に甘く微笑む王。


「取り敢えず今のところ、やはり貴方が正しく我が君でございます」


畏まり跪く隠者Ⅸであった。

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