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21.物思わしい

キミアの指示で、神殿内にゆるりとした落ち着いた部屋が用意された。

気の利く侍女から行き届いた世話をされるがままに受けつつ、フレイリアルは今までの事、これからの事を漠然と考えていた。


「サッパリしたかな?」


声を掛けてきたキミアは、支度を整えられ案内された場所にて既に寛いだ状態となりフレイリアルを迎えた。

食事が用意されている食卓の前にある広めの椅子にゆるりとした体勢で腰掛け、周りを多数の綺麗所で飾りたる。神殿であるはずなのに、豪華絢爛な花園が出来上がっていた。白の塔にいた時のニュールに張り合える状態であり、どこぞの王宮の後宮か…と突っ込み入れたくなるような状態だった。

今までの子供姿と違いすぎて、フレイリアルは何とも対応しにくく戸惑う。


「あのキミア…リエ様…」


その言葉に吃驚した様に顔をあげフレイを見て言う。


「今まで通りに読んでよ! この姿だと困るなら、ほらっ…こっちの姿でも良いよ」


するりと魔力纏い、ザルビネからずっと見ていた姿になる。

フレイは呆れるように言う。


「キミアの本来の姿で良いよ…」


その言葉にキミアは微笑み魔力解かれ再び大人に戻る。


「さぁ、食事をしながら話そう…」


そして手で席を指し示す。それに従い移動しようとすると続けて声をかけられる。


「所で何で敷布を纏っているんだい?」


「いやっ、この服ってチョット涼しくって…」


言い訳する。


「はて、神殿内は温度調整されているし…皆と同じものを取り敢えず用意させた筈だが何か問題でも?」


フレイリアル的には問題だった。確かにここにいる周りの人々も同じものを着ているし…サルトゥスの巫女の周りもこんな感じではあった。

だがしかし、何度着てもヤッパリあり得ないサルトゥスのアノ衣装に似ていた。

サルトゥスの物ほど華美ではなく、実用性のある布を使用し質素で動きやすく出来ているのだが…それ故に布が少なく短い。

羞恥心は個人ごとに違うのだ。

何を考えこの意匠を採用したのかとフレイは憤る思い湧くが、目の前のキミアの行動を見たら分かった。周りで世話をする綺麗な華々と戯れるため…ひいては自身の趣味だろうと検討がついた。

一応、雑談として、この衣装の採用担当者を問うてみるが予想通りの答えだった。


「…そうだよ、僕が今の衣装に変えて貰ったんだ。前は布を何枚も重ねたような、巻物の様な衣装で詰まんないのだったからね…素敵だろ? 皆の美しさ際立ち輝くようじゃ無いか!」


自分の美意識に自信のあるキミアは、それ故に敷布を纏うフレイの事が相当気になったらしい。


「ご飯食べるのに邪魔だから取って!」


そう言うとフレイ横まで歩みより敷布を引き剥がす。…衣装への細やかな抵抗は、今回も敢え無く潰された。


「……うん、僕の隣においで」


軽い感じでいるのがこの男の標準であるようだったのだが、その時は言葉少なく手を引き席まで連れていった。

言葉通りに隣の席へ着こうとすると更に手を引き、着席するのを阻む。

訳が分からずキミアを見るとニッコリ笑顔で自分と同じ席の横を叩く。


「隣は此処だよ!」


「はいぃい???」


思わず疑問系の返事になってしまう。


「だって塔の秘密を聞きたいんでしょ? 内緒話なら、この距離じゃないとね」


そして、まるでフレイリアル自身がキミアの花園に加えられてしまったかの様な状態が出来上がった。

横に座ると抱える様に、背に手を通され腰に手を回され足を撫で付けられる。


「フレイは上半身は完璧だからもう少し臀部の筋力をつけると、もっと均整が取れて美しい肢体が出来上がるよ! でも年齢とともに胸部も重力的な負荷によって下垂しやすいから支えるための筋肉は大切だよ」


そう言いながら全身隈無く触り骨や筋肉、脂肪を確認していく…普通触ったら怒られるような場所まで。

最初の挨拶で身体好きと言っていただけあって何だか詳しく説明するので、つい真面目に聞き入ってしまい遣っていることを流してしまったフレイ。

傍から見たら、ただ伸し掛かり無理やり全身まさぐる厭らしい男に襲われているように見えたであろう。


「んふっ、チョットもう止めてよ! 身体の作りの話じゃなくて魔輝石についてを聞かせてくれる予定でしょ」


「ん?…あぁ、ゴメンそうだな…このままだと本題を忘れて流されてしまいそうだったよ…」


そして小さく呟く。


「ちょっとアノ国の王の気持ちが分かって少し気の毒になったな…」


キミアにとっては巫女…巫覡と呼ばれるモノにどれ程の誘引する力があるのか実験の様なものだったのだが、危うくミイラ取りがミイラに…と言った感じに陥ってしまいそうだった。


『気を抜いて遊びすぎたら危険という事か…いつの間にか取り込まれそうだ…どこぞの王みたいに正気を失いたくはないかな…』


キミアはその状況に心し、注意を払うことにしたのだった。

そしてフレイが所望した話を始める。


「まず巫女…巫覡と言う存在。神降ろす者と表現される事で、如何にも未知の神がかった力導く者のように扱われるけど実質は門番であり鍵なんだ。これはお爺…先代大賢者が無意識下を探り、その中から得た情報だ」


いきなり詳しい難しめの話に入った。


「賢者の塔と大賢者も同様、門や鍵にあたるけど此方は外門って感じ。そして巫覡が内門」


分かるような分からぬような話が続く。


「外門からの接続はこの世界の理へ繋がり、内門からの接続は全ての存在の理へと繋がる…とされている」


一応一生懸命聞いてみるが頭が追い付かない。


「理の中には法則が流れていて門の中ではそれに接触することが出来るそうだ…」


フレイリアルは引き続きちゃんと聞いてはみたが、頭がクラクラする内容でしかなかった。そんな表情に気付いてキミアが微笑む。


「そうだよね、僕もお爺から1万回説明受けてやっと半分理解出来たくらいだもの…」


そして、その微笑みに少し苦しさが加わった。


「何にしても、僕らは力ある何者かに遊ばれているって事さ…」


突き放すような無表情に変わっていく。


「深潭の地輝石は、水の本神殿・賢者の塔の魔輝石なんだ…賢者の石と連動している」


言われた地輝石の話になり、フレイリアルの真剣さが増す。


「取り出せば塔が崩壊すると思う。そして深潭の地輝石の特徴は人の回路をこじ開けそこから導き出す…別の場所から魔力を取り出し蓄えるんだ。勿論、連合国内の大地の底を巡る力の制御もしているから、それには循環する魔力を基本的に利用するのだけど、足りない時は補充しているんだ…生者を死者へ変えることで…」


予想外と言うか…聞いてもどうしようも無い情報であり、利用しようが無いと思われる地輝石の話にフレイリアルの瞳に映し出されていた希望の光が薄れていく。


「だから贄を与え…補充して魔力取り出せば、きっと天輝石の魔力も満たせるよ…」


上げて落としたフレイリアルの中に作り上げられた落胆を目にし、キミアは心から楽しげに冷酷な笑みを浮かべ言葉を続ける。


「因みに命と引き換えて取り出す魔力は、回路の太さで取り出せる量が変わるよ…非内包者より内包者、内包者より賢者、賢者より大賢者…の順で力は大きくなっていくらしい」


何処かの誰かが其を試したのだろうと考えると吐き気がした。

思いそのままを言葉にしてフレイリアルはキミアに返す。


「そんなモノ使える訳無いじゃない!」


その至極真っ当なフレイリアルの答えに、キミアは蔑み含む心底冷えた目でみつめ苦言を呈する。


「その基準で道を選んでいたら、結局辿り着けないんじゃない? フレイの本気は良い子の…口先だけの本気だね。薄っぺらい覚悟…持ってても何の役にも立たないやつ…責任取りたくない奴の正論だね」


ぐうの音も出ないフレイに、キミアが追い打ちをかける。


「今、天空の天輝石を手にしてないのだって、結局覚悟が足りなかったからでしょ? そんなんじゃ、いくら時間を費やしても状況は変らないんじゃないの? 無駄だよ!」


「それでも…本気で…手に入れようと思っているし、本気で…行動している」


俯き、声を絞り出すように苦し気に呟くフレイリアル。


「では、言葉だけで無い…と言うのならヴェステに行ってみるかい? ヴェステの王から君に招待状が届いているよ」


キミアが片手をあげるとそこには、ヴェステの紋章あしらう装束に身を包む3名の男が立っていた。

そして代表者が口上を述べる。


「我が君…ヴェステ国王シュトラ・バタル・ドンジェから、エリミア辺境王国第六王女フレイリアル・レクス・リトス様へヴェステ王宮へのご招待を正式にさせて頂きます。正式なものですので帰れる保証だけはございます。天空の天輝石の件などご興味のある事も御座いましょう。ですから、御招待に応じていただけるのなら交渉の卓につく準備はある…と我が君は申しておりました」


いつの間にか目の前に控える微妙な口上並べるのは、フレイとも顔馴染みの隠者Ⅸだった。

今回は口数少なく如何にも使者と言う感じで、容貌はごく普通なのに微笑み優雅に佇む姿は何処か魅力的だ。

だからフレイリアルは気づかなかった。

あの五月蠅く腹立たしい、影の《14》であり《五》であった、現在は隠者Ⅸとなった者に…。


何処かで見た事がある…と思い出そうとして思い出したのは、プラーデラで2個めの興行をした時公演を鑑賞していた男女二人連れの男の方であり、同行の女と天空の天輝石の話をしながら恋人の口付けをしていた者だった。


「貴方はプラーデラの宿での公演の時、天空の天輝石の話をしていた方ですね…」


「おや、その様な仕込みまで看破なさるとは…ご慧眼恐れ入ります」


見事その情報に踊らされ、王宮の奥へと入り込んでしまったフレイリアル。そんな自身の迂闊さにまたも忸怩たる思い抱く。

そして、その使者が浮かべる何処か人を食ったような腹立たしさ増す笑みを見て思い出す…エリミアからずっと嫌な思い出と共に出てくる見知った者である事を…。

その気付きを得たフレイリアルの表情を読み取り、隠者Ⅸはニヤニヤ笑いを強め言う。


「やっと本当に気づいてもらえて光栄です。本性の方に気づかないって、どんだけ鈍いんですかねぇ~」


相変わらず失礼で腹立たしい男に言い返す。


「鈍くて結構です。あなたに気づきたくありませんから!」


本気でそう思うフレイリアルだった。


「さぁ、お知り合いだったようではあるけど…エリミア辺境王国第六王女フレイリアル・レクス・リトス様、使者殿と僕への返事は如何いたしますか?」


「行きます」


返事は心の中で決まっていた。

ある意味、隠者Ⅸに刺激されキミアに落とされた前向きな気持ちが復活したのだ。


『待つだけで得られないモノならば動いて手に入れる、最初から遣ることは一緒!』


乗せられただけである様な気もするが、前進することでフレイリアルの中に消えかけていた活力が湧き出すのであった。

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