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20.驚き思う

宿を襲撃した者どもは、ニュール達が仕留め捕まえた時点で自動的に熱を発する魔力が内側に流されたようだ。苦悶し暴れ回り物理的に内側を破壊され…本人達には何一つ問うこと出来なかった。


「あいつらのアレ…闇組織の懲罰対象者が受ける危険度高い以来の時に装着させられるやつ…いざという時の口封じ用だ…」


モーイが小さく呟くように伝える。


「じゃあ、プラーデラの依頼か…オレの所にはヴェステの奴が来ていた…」


タラッサに入り時間と共に追っ手が訪れる頻度が増しているようだ。

モーイと顔を見合わせたニュールは、ちょっと困り顔で額に手を当て状況を勘案しているようだった。

宿は穴だらけになったが怪我人もなく、野盗の襲撃だろうとの事で片付けられた。

決して自分達の追手とは言えないので、ニュール達は犯人捕縛と交戦してくれた事に寧ろ感謝されてしまう。

船の時に引き続き心苦しさを感じる。

翌日は少し進みを早めるため時告げの鐘が鳴る前の早朝に出発する。

後2日も進めばコンキーヤ王国には入るだろう。


昼時。昼食のため海辺で休息を取る。水に入りパシャパシャと遊ぶキミア。フレイもその様子を見てうずうずしているのが分かる。


「フレイ、お水楽しいよ~! おいでよ~」


キミアがそう言いながら水を飛ばし誘う。

その誘惑には抗えなかった…水掛合い遊ぶ姿は子供の遊びそのものだった…ずぶ濡れのフレイの姿が少しばかり子供じゃなかったが…。

ミーティの口元が余りにも緩んでいるのを見つけ、ニュールがフレイに注意する。


「そこまで餓鬼じゃないんだから程ほどにしろ~」


「は~い」


フレイは遠見の鏡を使ってから元気が復活したようだ。

ニュールの指示通り戻ろうとするフレイの手首を掴んでキミアが引き留める。


「ねぇフレイ、教えてくれないかな…」


キミア…なのに、キミアでは無い少し大人な喋り方。


「どうしたの? 戻ろうよ」


キミアの目が怪しい光を持つ。


「確認させて欲しいんだ」


「何を?」


「君は巫女…巫覡なの?」


「!!!」


思わず掴まれてる手を振りほどき引き離そうとするが、逆に子供の力とは思えない力で引き寄せられ、フレイは躓き転びそうになる。

キミアを押し潰してしまうと思い踏ん張ったが、もたれ掛かってしまった。

足元しか見てなかったフレイは気付かなかったが、そこには倒れず支えるキミアと思われる人物が居た。

確かにキミアの色合い持つ…見た目もキミアなのだが…大人の…男の人がしっかりと支え抱き止めてくれていた。


「この高さから見るフレイは今まで以上にゾクゾクするぐらい可愛いね…」


その人の戸惑いしか起きないような言葉にフレイは怯む。

キミアは上半身裸で遊んでいたため、この状況は見知らぬ…半裸の男の人に抱き締められている状況になってしまう。フレイの頭の中が混乱する。

少し遠くで眺めていたニュール達も姿の変化に戸惑いと…警戒感が出てくる。そんな状況の中、キミアが大声で他の者達に伝える。


「先に水の神殿に行ってます! ここから2~3日で着くと思うので気をつけて来てくださ~い。あと、サージャからの手紙が僕の荷物の中にあるので読んで下さい! それじゃぁ」


そう言うと引き留め問い質す間もなく、足元の水から魔力を立ち上げ渦巻く流れで陣を成し、青い転移の輝きを放つとその場から消えた。

勿論フレイごと…。

唖然とするしか無かったが、取り敢えず消えた水の上まで行ってみる。

魔力の残滓はあるが陣の痕跡は無し。 


『これはオレが作る転移陣の起点と一緒の感じがする…だがキミアから賢者の石に匹敵するような魔石を内包しているようには全く感じ無かったのだが…』


取り敢えず頭を悩ませる前に時間差を埋めるため、速やかに出発することにした。



サージャからの手紙は走り書きの様な物だった。


多分旅の途中で、この大賢者様は飽きて飛び出すと思ったので僕から手紙を書いておきます。

この方はタラッサの賢者の塔の方であるのは保証します。

一応本物だし無体を働くことは無いと思いますが、少し非常識な所があるので断言はできません。

本当は先に伝えたかったのだけど御屋形様が詰まらないとおっしゃるので、申し訳ないのだけど内緒にさせてもらいました。

因みにその方が我がナルキサ商会の最高経営責任者です。

僕は執行責任者って感じです。

一応塔の方にも先代様がいらっしゃいますので意志疎通出来る時期ならば、そちらから話を聞いた方が希望する話が聞けるしょう。

無事に辿り着けることを願っております。

                          サージャ・ナルキッシュ



読んでみると迷子になったときの対応書…というか、キミアがやらかした時用の弁明書の様にも見えた。

サージャでも対応に苦慮している姿が見える。


荷車は順調に進むが、案内役のキミアが居なくなったので一応途中の村で確認する。概ねキミアが言ってたことは合っているようで、ほぼ真っすぐ進めばコンキーヤ王国の王都カロッサに入る。キミアが行くといってたのはカロッサの神殿の事のようであった。




『海の塩水で張りついた服がベタつき気持ち悪い…』


そんな状態で抱き締められてフレイリアルは陣で移動させられた。

気付いたら陣に乗っていて、飛んだ先には石造りの冷んやりした仄暗い中に魔石の灯りともる落ち着いた空間だったのだ。


「御屋形様お帰りなさいませ」


先日キミアが戻ったとき同様に迎えられる。


「身なりを整えたいから湯あみの準備を…フレイにも同じように準備してあげて」


てきぱきと指示出し進める男の姿を、じっと様子を見るように見つめるフレイリアル。

そして尋ねる。


「貴方はキミアなんだよね…」


「そうだよ…あぁ、でも正式な名前じゃあ無かったかな」


そう言うとフレイに向かい合い背筋伸ばし立つ。畏まった礼をしてから足元に跪き挨拶を述べる。


「私、コンキーヤ王国、先々代が王の第4王子、キミアリエ・レクス・クインテです。エリミア辺境王国第6王女フレイリアル・レクス・リトス様にお目通り叶い僥倖であります」


正式な礼儀作法で挨拶を行い、フレイに向け微笑む。それを受けて目を丸くするフレイリアル。


「キミアはコンキーヤ王国の王子なの?」


「一応、先々代のね…ただ、この国はサルトゥスと同じで40歳にならないと継承権が消えないんだよ…だから僕は一生このままなのさ。サルゥスの先々代の王子と一緒だろ?」


「???」


「ちゃんと挨拶したのに聞いてた? フレイはチョットお馬鹿さんなのかな…僕は大賢者だからこのままなの」


「!!!」


輪をかけて絶句したまま、心の中でフレイは思い…そのまま口に出していた。


「いやっ馬鹿かもしれないけど、キミアが大賢者なんて説明されてないよ!」


「えっ? 魔力とかで分かんなかった?」


「わからないよ!!」


飄々とトボケタ事を言ってくれる。

そして、フレイはチョットした違和感を覚え思い出す。

事前に聞いていたタラッサの大賢者は塔付きだったはず。しかも高齢で塔の中で寝たきりだと…。


「でも、貴方は遠くまで出歩けるし、塔と繋がっているように思えない」


「繋がってるのは先代だもの!」


キミアが説明する。


「塔と繋がっているのは先代の大賢者。そして僕はその先代と繋がりを共有しているから、魔力循環領界の外で過ごせるんだよ」


『それが出来るならリーシェも塔から離れられるようになるのでは…』


フレイは思いついた希望に、一瞬顔を輝かせキミアに尋ねようとした。


「無理だよ…」


何も言ってないうちから否定される。フレイは不服申し立て反論しようとしたが、畳みかけるようにキミアは説明し始める。


「この状態は先代が導き出したもの、再現するのは難しい。それに継承する者と継承させる者と引き継ぐ時に同時にその場で処理したからこそ出来たことなんだよ…だからエリミアの大賢者にはもう無理なんだよ」


その説明にフレイリアルは沈み沈黙する。


「君は何をしてでもエリミアの大賢者に自由を与えたいの?」


下を向き落胆するフレイリアルの顔を覗き混む。


「だったらタラッサの…レグルスリヤ王国王都ハトゥルーサの本神殿地下にある深潭の地輝石を手に入れると良いよ。それを手に入れればカラの天空の天輝石を満たす事が出来るよ。そして天空の天輝石が有れば、その魔石で僕と先代の様な状態を作り出せるよ…」


キミアの浮かべる微笑みに何かしらの含みが有るのは分かったが、そこにある希望する結果へ辿り着く道を切り捨てる事は出来なかった。


「まぁ、ニュール達が辿り着くまでゆっくりと考えてみたら?」


ニュール達が着くのを待って良いと聞きフレイリアルは少しホッとする。決断は自分で下さねばならないのは分かっているし覚悟もしているが、少しだけ意見と支えが欲しかった。


「まずは身なりを整えて食事でも摂ろうよ!」


キミアは子供姿の時と同じように無邪気に言う。

だが、その目には小意地悪を楽しむ様な、然り気無い嗜虐的な笑みを浮かべていた。


「食事しながら情報をあげるから、ニュール達が着いたら直ぐ結論を聞かせてね…」


小さな望みを与えて落とす…キミアのお気に入りの暇潰しが始まる。

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