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16.緩やかに思い過ごす

タラッサ連合国は何処の国とも違い全てにおいて豊かだった。

緑は豊かだし農作物の実り豊かであり、海産物も獲れる。気候は緩やかで整い、魔石採れる鉱山もあり、海には天輝まで降りると言う。

好条件詰め合わせた様な土地だった。


「この土地はかつて痩せた不毛の土地で有ったのを神の使徒たる大賢者様がお告げにあった6つの陣を使い、地中から魔力取り出し一夜にして作り替え、今の実り豊かな土地が得られたと言われています」


荷車を操りながら説明してくれる子供。


「あの海の上に斜めに強くせりあがる岩々がまるで倒れた建物のようであり、かつての都市の名残と言われています」


確かに高い建物が傾き、水に沈んだ後のように見える。

それでも普通に考えたら只の岩だ。

だがニュールは、現実に其れがあり得る事だと思えるのは大地創造魔法陣(エザフォスマギエン)の存在を白の塔で知ったからである。しかも、この場所では未だに陣と繋がる魔力の残滓を感じることが出来るのだ。


メランテ王国の港湾都市ザルビネを出立してから3日ほどで海沿いに入った。

海際を港からそのまま行けば1日かからない距離なのだが、陸も海も岩場が広がり徒歩でも騎乗できる獣等を使うにしても交通に不便な場所なのである。

なので一般に隣のコンキーヤ王国までは、内陸部に戻るか船にて沖に出てから戻るかして一度その場所を迂回する事が常となっていた。

ニュールとフレイリアルとモーイとミーティの4人とサージャが出してくれた案内役1名が共に行く。


イストアはナルキサ商会でちょうど募集していた雑用・受付見習いに採用されザルビネに留まる事になった。

とても迷ったようだ。


「もしニュールがあたしの方を向いてくれそうなら、一生寄り添いたかった…ゾ」


旅に出る直前に告げられた。

ニュールにとっては、とてつもなく好みの容貌でまともな恋愛年齢に近々達してくれそうな人材が一人去ってしまった。

そして、周りにはニュールの倫理規定に引っ掛かってしまうお嬢さんが残るのである。

タリクは宗都にいき転移陣を使い戻る予定だったが、最近ザルビネの商業組合に転移陣が用意されたためそこからサルトゥスへ戻る事になった。


「各国の中枢が…何らかの働きかけにより揺らいでいると言う情報を得ています。我が国も例外では無いので早急に戻らせて頂きます。貴方達もお気を付けください」


そう告げてタリクは出国した。


今回はサージャからの依頼を受けて荷車に荷物を乗せ荷運びを行う。装うのでなく本当の配送業者となる。

行程は大目に見積もって20日ほどであるが案内を付けてくれた。

案内役は子供だった。

キミアと言う名の案内役の子供はサージャの預かる子のようで、商人見習として一人で港湾都市ザルビネでサージャの下で学び過ごしていたようだ。同郷の者としてかなり目を掛けていて一時帰宅をさせてあげようとしていたが、丁度良い者が居なかったようで中々実行できなかったらしい。

その為、案内兼送迎保護してやる者…としてニュール達に託された。


7歳だと言うのだがとてもしっかりしている…同行の年長者達より…。

だが、癖も相当あった。



街に寄り宿泊しつつ移動するので体力的にはかなり楽な行程だし、宿屋の食堂では時々色々な噂が手に入り役立つ。

だが今回耳にした噂話には皆して固まった。


「何か面白いこと無いのかよ!」


「そういやぁ隣のプラーデラで幻想魔石団を装った黒、金、茶の髪した妖艶な3人の美女達率いる魔石使いの盗賊団が王宮から王国至宝の魔石を盗み出し港を破壊してタラッサで新な宝を狙ってるそうだ!」


「スゲーなぁ」


「そんな美女達になら、オレの有り金差し出すから来てくんないかな」


「お前の有り金じゃぁお前の母ちゃんだって逃げてくわ」


思わずニュールは飲んでたエールを吹き出しそうになったし、共に食事をしていた面々も手を止め気まずそうな顔になる。

港湾都市ザルビネから同行のキミア一人だけが、興味深げにその話題を口にする。


「王宮にあった至宝の魔石ってどんな魔石ですかねぇ~魔石好きのフレイは気になるんじゃ無いですか?」


この数日の間にキミアには皆の特性をしっかり把握されてしまったようだ。

フレイが魔石好きである事は理解している。

そして爆裂体型で有ることも良く理解していて、今日もある程度食事を終えた後は子供特権でフレイの膝に乗り極上のフワフワ枕に背を預けご満悦の様だ。



初日の挨拶時だった。


「キミア・クインテです。宜しくお願いします」


サージャから聞いてはいたが、コンキーヤ王国の貴族になるらしい。少し早めの6歳で選任の儀を受け、早々に商人見習いとしてサージャの下に来たそうだ。

挨拶しながら、その子供は一人一人に抱きついていった。そして、それぞれに言葉を残す。


最初に抱きつかれたニュールは言われる。


「良く鍛えられていて隙が無いですが…女子供に甘いです!」


「!!!」


そう言いながらキミアは離れつつ付け加える。


「魔力主体でも物理武器は品質の良いものをお薦めします。後でお近付きの印に納めさせて頂きますので検討してください」


絶句しているうちにミーティの所へ行き、同じように挨拶しながら抱きつき…やはり感想を述べる。


「素敵な筋肉ですね、僕もこんな身体になりたいです」


「…っへへ! そうか?」


誉められて満更でもないミーティにやはり追加の言葉を述べる。


「だけどお話にならないぐらい弱いです。特に左右のバランスの悪さが動きを妨げてます…それと加速訓練した方が良いです」


「!?!?」


年端も行かぬ子供に誉められて落とされ絶句するミーティがそこに残っていた。

そして、モーイにも挨拶し抱きつこうとするが避けられる。


「餓鬼に抱きつかれる程、お安くは無いんだよ!」


「本当ですね。此は高級…素敵な大臀筋です! 此が軽快な足捌きを生むのですね」


モーイは避けた…はずだったが、横からスルリと入られしっかりと抱えられ撫でられ確認されていた。


「!!!」


「この滑らかな感じ…癖になります」


「おい!」


「すみません! つい素敵だったので…」


子供の遣ったことであり、褒められてもいるのでそれ以上強くも出られない。だが、最後に腹の立つ事を付け加える。


「もし胸の強化も必要なら、今度良い薬と器具を進呈致します!!」


「はぁ?!!」


思わず怒りを抱きつつ、その提案に興味を持つモーイであった。

そして、最後にフレイに抱きつく…顔逸らす事無く真正面向き。高さ的にも絶妙の位置であり最初から検討つけ明らかに埋まりに行ってる。


「あぁ、予想以上に素敵です…」


埋もれたまま暫し夢見心地。


「申し分無いです…僕、今日からお姉さんと一緒に寝ます!」


勿論、ミーティとニュールに止められた。

特にミーティが抱える様に止める。


「エロませ餓鬼! やってる行動が10年早い」


「…僕、男の人の筋肉も素敵だと思うんです…憧れるなぁ」


そう言ってミーティの腹を絶妙に撫で付ける。そのゾワリとする感触に吃驚しミーティは真っ赤になって飛び退いた。


「僕、男女問わず身体が好きなんです! 肉体って凄いです」


色々な意味で曲者だった。

微妙に子供っぽくない子供のキミアであり、言動に周囲を窺い探る様な所が見え隠れする。



「僕ね、皆さんの体内魔石が見えるんです」


ニュールが荷車の御者をやっている時、突然キミアが言い出した。


「ニュールは魔物魔石…多分、砂漠王蛇(ミルロワサーペント)の魔石かな? ミーティは柘榴魔石かな…モーイは葡萄魔石!」


そしてニュールの顔を見ながら続ける。


「フレイはあんなに魔力の気配が大きいのに、魔石持ちじゃないんですね…不思議だな」


ニュールは警戒感見せないよう警戒し、フレイの事は流す。


「そう言うお前は何なんだ?」


「僕は北投魔石です」


「あまり聞かないな…」


ニュールはそのままの感想を伝える。


「最近はあまり採れないみたいで、僕が取り込んだのも家に残ってた儀式用の取り込み魔石の中に唯一残っていたもののようです」


「そうなのか…」


家に儀式用取り込み魔石が揃えられている時点で結構な家柄と言えよう。ヴェステでも子孫の繁栄を願い高位貴族ではそう言った事をしている家が多い様だった。

そして家格や財力によって内容が違うらしい。

そう言った内情を貴族の身辺警護の任に付いた時などに耳にすることもあった。


「そのお陰で見えるようになりましたが…石自体は雑魚魔石です。あまり役には立たないんですけどね…」


珍しく若干自嘲的なキミアであった。


タラッサ連合国に入ってからは荷運びを請け負っていることもあり、宿場で夜を過ごすことが多かった。

だが海沿いには集落はあっても宿があるような町は存在しない。


この国も大賢者や塔があるため、エリミア同様ある程度は気候調整がされているようである。しかしエリミアより広大な土地を持つため人口密集地帯のみの調整であり、末端の町や村、集落は対象外の様だった。

更に天候調整は海を含むため難しいようだ。

海沿いは街道通すには便利な場所であるが荒れる海に侵食されることもあったため、町は海より離れた場所に出来上がっているので宿に泊まるため内陸部に定期的に戻る必要があった。


今日、荷車を引くのは2頭の高叉角羚羊(イリンゴ)だった。時々クリールが代わって荷車を引き2頭を休めていたのだが、連日の海沿いで少し弱っているようで進みが遅かったのか微妙な位置と時間になってしまった。


「この先10キメルぐらいで内陸の町へ向かう為に入る道なのですが、この進みだとちょっと間に合わなくって…クリールにお願いするにしても、高叉角羚羊を荷無しで急がせても付いてくる間に疲れてしまうと思うんです。そうすると明日宿からの出発が遅れるか、見送るかになってしまいそうで…」


キミアが申し訳なさそうに言う。

それを受けてニュールが申し出る。


「いやっ、気づかなかったのはオレらも一緒だから気にするな。久々に野宿でもするか!」


その言葉に透かさずモーイが反応する。


「海沿いなら魚でも取って食うか!!」


目がキラリと光り、もう釣りする気満々だった。


皆で魔力使っての釣りを楽しむが、今回フレイには控えてもらった。何かを探る様なキミアのさり気無く見張る様な目があったからだ。

基本子供には緩いニュールではあるが、主義主張が凝り固まり傾き落ちた…あちら側に落ちた疑いある人間には子供であっても冷静に対処する。

キミアは大変疑わしかった。


久々の屋外で、クリールとも近くで楽しく賑やかな一時を過ごす中、モーイとニュールが静かに席を立つ。

久々に表れた敵意を察知した。

すでに囲まれているようだが、強い魔力の気配は無い…魔力より武力寄りの集団のと思われる。相手もこちらが気付いていることに気付き、人数的な威嚇も含め気配を露にする。30人程の様だ。


『小規模小隊って所か…』


どうやら、プラーデラが闇組織を介し雇い送り込んだ者たちのようだった。一応、上の下と言った水準に見える。


「モーイ、ミーティと一緒に守りを頼む」


ニュールが守りに重点を置こうとする。


「結構人数多いぞ!」


「あぁ、だがプラーデラならフレイの略取を警戒した方が良い。タリクの話だと…相当…執着していたようだから…」


一応タリクから王とフレイの詳細を聞いていたので、繋がりの話も聞き警戒した。


「仕留めそこなった獲物は大きく見えるからな!」


「全くその通りだな…」


案の定、半数はフレイのいる後方へ向かった。

モーイもミーティも構え防御結界展開しながら迎え撃つ。

そしてモーイはフレイへの言葉も忘れない。


「余計な事はするな!」


釘を刺すがそれでも油断は出来ない。敵以上に厄介なのは身をもって経験済み。


「お前は()()()()なんだから大人しくしていろ!」


ニュールからキミアが探りを入れている事を聞いていたし、フレイ本人にも伝えていたのだが念を押す。


『確実に守らないと、コイツは自分の事を忘れて使ってしまうから…こいつも自分を棚にあげちまう種類の人間だからな…』


少しだけ羨望含む視線でフレイを見やり、敵に立ち向かう。

しかし敵は予想以上に…あっけなかった。

確かに上位の魔力体術使いを多く含んでいたようだし、程ほどの攻撃魔力も相手から打ち出された。

だが、半時かからず制圧してしまった。

勿論、魔力攻撃は殆ど使わずに…ニュール達が勝った。

あまりの呆気なさに気が抜けて、思わずモーイはニュールに尋ねる。


「こいつら実は弱かったのか?」


「いやっ、程ほどの水準の者の気配だったぞ。弱いと感じるなら、お前らも少しは成長しているんじゃないか?」


ニュールが笑顔で背中を叩くとモーイが良い笑顔でニュールに抱きつく。


「やったぜ! 何か嬉しいよ。これからもモット鍛えてくれ! …色々とな」


何か言葉に含みがありそうで普通に返せないニュールであった。



その背後で一人、岩場に逃げた荷車の高叉角羚羊の様子を確認しにいく姿がある…片足水に突っんでまで…ありそうな光景なのに違和感が残る。

そして独り言ちる子供。


「これでは設定が緩すぎです…面白くないです。何の確認にもならないじゃないですか…愚策です。気合が入らないと言うならばもう少し餌でもくれてやりなさい…餌で動かないなら罰を与えなさい…今度詰まらないもの見せるなら次は無いです」


可愛らしい笑顔を浮かべながら何処とへもなく呟く。

その言葉に、力と毒含むのだった。

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