12.派手に巻き込まれたその後
猛獣系の肉食お嬢様に弄ばれ…其のお付きの獰猛な番犬女騎士からは威嚇される…そんな場所から逃れ、ニュールはフレイリアルに留まるよう指示した…中央広場の舞台前へと向かう。
潔いお嬢様に勝利を納め…無事に守護魔石を譲り受け、ある意味気が抜ける。
大した休憩も入れず気を張り続ける事に、ニュールは疲れを感じていた。
此の所…ゆったり快適に無理無く自分の裁量で請け負う配送仕事に慣れ、酷使される労働環境を忘れてしまったから…なのかもしれない。
『あんな職場には、絶対戻りたくない…な』
ニュールは切実に思う。
『そもそも、戻ったら生き残れるかさえ怪しい場所。頭も体も酷使され、3日完徹余裕で当たり前みたいに使われたら…普通の奴らなら心が折れるぞ。生きてるのに死人に近しき人外擬きの扱いなんぞ、遣ってられるか! 奴らに見つからず過ごせるなら、留学先選ぶ権利手にすべく最善尽くすぐらい当然だ』
以前の不快な労働環境を思い出し、苦い思いと共に足掻く力が沸き上がる。進んで飛び込んだ競り合いでは無いが、自身の利害絡む故に真剣だ。
そして一瞬、手っ取り早い回避手段を思い浮かべてしまう。
『もし…選抜の途中で姫さんが討たれちまったら、どうなる…』
参加者が退場なら最下位に近付くが、亡きものにされた場合の扱いは…。
危うい選択が頭をよぎると同時に、現状を知らされた後…ナルキサ商会から抜け出す時にサージャが小声で囁いた内容を思い出す。
「ニュール、忠告しておくよ。お姫様の事は何があっても守るんだ」
襲撃を受け混乱する建物内、サージャが真剣な表情でニュールだけに聞こえるよう…密かに告げた言葉。
「大賢者様だけは怒らせちゃいけない。今までに味わった事の無いであろう、無限の責め苦に苛まれる獄へと捕らわれてしまうよ」
過去の実際体験語るかの如く、険しい顔で嗜め…戒める。
「君がどんな過酷な環境に耐えられる強靭さ持つとしても、あの御方を敵に回してはいけない。此れは決して冗談じゃない、片隅で良いから…記憶に残して」
普段から何事にも決して臆し怯まぬサージャが、強張る表情抑えつつ与えた警告。
サージャと言う人物は、凶悪な魔物や人と戦うような場面でも笑顔浮かべ楽しみ…屈強な肉体駆使して極めた技を繰り出し喜ぶ…生粋の戦士。
戦闘力は歴代の英雄並み…と称賛される強者だ。
肉体的な強さだけでなく…頭脳的にも精神的にも優れ、現在の商売でも抜きん出た才を見せる。
しかも傲らず誠実であり、手堅さまで備える…隙のない男。
其のサージャが、敢えて忠告してきたのだ。
サージャが商会長務めるナルキサ商会は、エリミア国内に限らず周辺各国に広がる…ありとあらゆる情報集め精査する事叶う組織。其処の商会長が提供した情報であり、信憑性は高いだろう。
真偽疑う余地も無く、ニュールの心へと嫌な重さがのし掛かる。
『姫さんが傷つくと、保護者である大賢者様の怒りに触れる…って事か』
忠告時のサージャの表情思い出し、顔も知らぬ大賢者様に対し…若干寒け催す。
ふいに思い出す会話に心乱されつつも歩み進めていたニュール、先程フレイリアルを待機させた中央広場入り口へと辿り着く。
「少し手間取っちまったけど、問題なく過ごせたであろうか…」
思わず独り言ちてしまう程には心配だ。
離れている間も常に警戒怠らず、ニュールは広範囲へ…出力押さえつつ魔力探索を継続していた。勿論…今の所は、大丈夫である…とも感じる。
あと少しで守護対象を確認出来る場所、念のため…今まで以上に周囲へと気を配り近付く。
『舞台での催しは、魔石夢幻魔術団の幻想奇術か。如何にも姫さん好みの出し物だし、暇潰しに楽しむには丁度良かったじゃないか…』
巡らした魔力の中…見知った気配を感知する。
ニュールの予想通り…相当舞台をお気に召したのであろう、歓喜し…無意識で魔力を放出をしていたよう。そして更に近付き…行き交う人々の中で垣間見えたのは、瞳輝かせ子供らしい表情浮かべ…心から演目楽しむフレイリアルの姿。
ニュールは自分の心に空く穴が、目の前の光景で埋められていく様な気分になる。
『くぅ~癒しって必要だよなぁ~って、此の気分…良くエイスの飲み仲間ジェイダが飲むと面倒になるアレだ! 我が子推しの、推し語り。今ならちょっと分かる…って、オレっ子供居ないし…アイツのオヤジでも無い! 何より…オヤジになる為に必要な嫁のあてが、そもそも無い!』
ニュールが疲れたり混乱してる時に引き起こす、一人ボケ突っ込み。
痛々しい思考が巡り、頭の中で迷走する。
ニュールが呑気に自滅する中…フレイリアルの座る観覧席後方まで後30メル程、探索魔力に違和感生じ…多重展開しておいた結界の外郭…何者かが干渉している事に気付く。
「?!?!」
和みと自虐の混乱に独り陥るニュール、気が緩んでいた事は否めない。
ほんの僅か一瞬、反応が遅れた。
其れでも…察知した異変に危機感覚え、瞬時に行動加速し…対処する。
握っていた魔石から限界まで魔力引き出し、ひと息で跳ぶ。力使い果たした手持ち魔石は崩れ、導き出された苛烈な魔力纏う足は…石畳を破壊しながらニュールを空へ解き放つ。
一蹴りし、上から見下ろす光景。
綻びかけの結界…舞台に釘付けになるフレイリアルが、思いきり浮かれはしゃぎ…喜ぶ姿があった。同時に…フレイリアルの直近に座す男が、身体ごと静かに向き直り…手にする大きめの魔石から魔力導く瞬間を目にする。
だが舞台に集中するフレイリアルは、横で禍々しい鈍い輝き放つ魔石に…身に迫る危険に…全く気付かぬよう。
男は素早く淡々と魔力高め…集束し、殺傷力持つ高密度の凶器へ一瞬で作り替え…其の残忍な力をフレイリアルに向け…振るった。
真横…直近からの攻撃、刹那の光景がニュールの脳裏へ…鮮明に刻まれていく。
「フレイィィィィ!!!!」
刻々と進む惨事止めるべく…叫び声と共に、ニュールは切り裂くような魔力を上空から撃ち放つ。
手に持つ魔石は跳躍で使い潰していたので、体内魔石による攻撃。
ニュールが体に取り込んだ魔石は、魔物由来魔石。弱肉強食の世界に生きる魔物が、生き残るための殺戮を繰り返し…相手の魔石取り込み魔力を高めていく魔石。
人が取り込む事も…扱う事も…難しいと言われているので雑魚魔石と言われるが、モノや扱いによっては…下手な攻撃用魔石より余程高出力の魔力導き出せる。
2つの攻撃魔力は共に目標を直撃し、舞台の終幕の演出と共に光輝き…人々の視界を塞ぐ。
其の爆音と衝撃でようやく異変に気付いた人々が、驚き逃げ出し始める。
危機的状況を制止すべく撃ち放ったニュールの魔力は、男へ一瞬で届き…到達点の椅子を破壊し…石畳砕き…男を激しく薙ぎ倒す。
ニュールが放ったのは、十分な力持つ迅速な攻撃。
しかし男が放った魔力を阻むには、幾ばくか…遅かった。
フレイリアルは大きな魔力を直近で受けた衝撃で2メル程吹き飛ばされ、石畳の上に横たわり…動かない。
ニュールが攻撃阻止すべく魔力撃ち放ったのは、フレイリアルが攻撃を受ける瞬間であり…間に合わなかったのだ。
男が放った魔力も強烈であり、フレイリアルを吹き飛ばすだけではなく…ニュールの攻撃同様敷石に至るまで破壊し粉々にする。だが被害は何故か其の場だけに留まり、最小限に収まる。
ニュールが予め築いてた防御結界、周囲への影響食い止めた後…完全に壊れた。
皮肉にも其の結界は、非道な男をも守る盾となった。
深手を負い…虫の息ではあるが男は生きていた、もし其の守り無くば…愚かな犯人の骸が無惨に転がっていたはずだ。
其の場へ降り立ったと同時に、ニュールはフレイリアルへ駆け寄り…ぐったりと倒れた体を抱き上げる。
そして襲撃者への怒りと共に、自身の甘さに歯噛みし憤る。
「…すまんっ…フレイ…すまんっ…」
忸怩たる思いが、食いしばったニュールの口から漏れ出す。
其の時…ニュールは腕の中に、ムグリッ…とした動きを感じる。
「……ホントだよぉ。巻き込んだお仕置きにしては酷い~」
「!!!!!…?」
返ってくる予想外にも元気で素っ頓狂な反応に、言葉を失うニュール。
「…痛った~い、手ぇ擦りむいちゃったじゃん。それに壊したら弁償なんだよ! こんなに壊しちゃって一体どうするの?」
口をとがらせ文句を述べるフレイリアルは、騒ぎの全てをニュールが引き起こしたと思っているようだ。
腕の中で元気に暴れ始めたフレイリアルをニュールは無意識にギュッ…と抱き締め、抜け出そうと元気に抵抗する子供の温かさを実感する。手の内にある…成り行きとは言え守るべき存在を失わずに済んだ事に、思わず涙が出そうになる。
「…良かった…」
其れ以上の言葉が出なかった。
暴れていたフレイリアルも、抱き締められる安心感と何らかの充足感に…其の身近な温かさを受け入れる。
そんな…安堵と慈しみの情に浸っている感動的な場面なのに、横で僅かに動く…息絶え絶えな敵対する守護者候補であろう者の…小さな呟きが耳に届く。
「…化け…物…め…」
呪わしい言葉をぶつけたかったのが、ニュールなのか…フレイリアルなのか…は分からない。
だがニュールはフレイリアルを立たせ…怪我が他に無いかを確認しながら、聞こえた敗者の呟きに…正面から答える。
「殺すつもりで攻撃したお前も、十分…化け物の仲間だ…」
落ち着く間も無く、此の騒ぎに今度はワラワラと人が集まり始める。
周囲を見回し警戒するが、害意は感じない。
ただし…遠巻きに見守る人々を散らしながら近付く者達は、何故か一様に隠蔽魔力を纏い…個人で目立たぬよう配慮してた。曖昧に簿かされた認識の中、賢者の塔に所属する者達が纏うマントだけがハッキリと確認出来る。
『これが観察者か』
ニュールの気楽なエリミアで暮らしの中、仲間から飲み屋で聞いた与太話の1つ。
「エリミアでは気付かぬ内に街が正されるんだ」
どんな凄い正義の味方が出没するのか、ニュールは期待する。だが所詮…酒の肴、修復に特化した善人が現れる…と聞かされた時には相当に笑わせてもらった。
結局…年に一度行われる儀式で、破壊を査定する…賢者の塔所属の者達だと正解を聞かされ納得する。
手際良く作業に取り掛かり、原状回復を行う観察者達。
負傷した襲撃者も、手当てを受け回収されたようだ。
それでも…守護者候補と思われる者の主が、現場に姿見せる事は無かった。
フレイリアルとニュールが呆然と立ち尽くす中、周囲が急速に復旧していく。
状態がある程度戻る頃…作業していた観察者の中の1人が、此方へ向かって来る。
『弁償についてか! 椅子と石畳の損壊…と敵以外には被害は無いはず…とは思うが、何を言われるのやら…』
恐々とするニュールの心持ちなど関係なく、やって来た者は淡々と当たり障りのない言葉を並べる。
「此度…選抜参加される貴き方々の御健勝、草の根より祈らせて頂いております」
何の思いも入らぬ挨拶、其の後…観察者代表は早々に本題を持ち出す。
「今回の状態…双方の攻撃によるものと判断は致しましたが、相手片の初撃が誘因とはいえ割合として7対3の破壊率…貴方様方に7の負担をお願いします。請求は後日送らせて頂きますのでご確認下さい」
若干…納得はいかぬが、受け入れざるを得ない結果。いきなり始まった対戦もどきは、えらく事務的な処理で終了した。
守護魔石を所持しているはずの儀式参加者は、逃げたのか隠れたのか…結局其の後も会えず終いとなる。
色々壊し…賠償責任だけが残り、何とも間抜けな終わり方。
「ところで、何でお前は大丈夫だったんだ?」
ニュールは直球で尋ねる。
フレイリアルが受け止めた…練り上げられ威力高められた攻撃的な魔力、何の対策もなく直近で当たったのならば…通常なら確実に息絶える威力。
いくらニュールが完璧な魔力操作で…精巧に多重の防御結界築いていたとしても、一般流通している魔石の魔力で築く結界程度では防ぎきれぬはず。
其れぐらい凶悪で強大な魔力だったのに、フレイリアルは至って平然と…何事も無かったかの様に現在過ごしている。
此の…明らかな不自然さ。
ニュールは先程の守護者候補が呟いた言葉で、フレイリアルの表情が一瞬強ばるのを見逃さなかった。
若干気になり、其の場では気遣い…尋ねず見守る。
今は特段問題無いように見えたので、直接問い掛けてみたのだ。
「あれが… 《取り替え子》 の化け物姫の物語の元凶、魔力吸収…だよ」
フレイリアルは表面的には明るく笑いながら語るが、奥に隠された仄暗い思いが…瞳の奥で揺らめく。
「「《取り替え子》の姫、人の魔力啜りに闇夜にまぎれ現れる…」」
「「《取り替え子》の姫、魔力無き者の命を魔力に変え啜る…」」
此の二つに色々な物語を付随させ脚色し…面白おかしく伝えられ、今では国中が知る恐怖の物語となっていた。
最初は石樹の儀の後。
魔石を内包できなかったフレイリアルをからかうために、周囲の悪ガキ共が起こしたイタズラ…が原因だった。
儀式に参加した子供たち数人での…悪ふざけ、内包したばかりの体内魔石の魔力引き出し…フレイリアルに当てたのだ。性質定めぬ純粋な魔力…であり、当たっても目眩がするぐらいのはず…だった。
だが倒れたのは…魔力当てられたフレイリアルではなく、当てた子供達の方だった。2~3日昏睡した者もいたが、授かりたての魔力を無理に引き出したせい…と処理された。
次に異変…が起きたのは、城で王族が通う学舎にて。
子供は6の歳よりの2~4の年、行儀と常識を習うべく基礎学習を行う。王城でも、賢者の塔に併設される学舎で学習が行われる。
其の時は…学舎にて魔力操作実習が行われていたのだが、又もや蔑み揶揄いの対象となり…其処から事件へ発展した。
魔石を使った水魔力の発動訓練…授業を監督する賢者達の目の届かぬ所、数人の傲る者がフレイリアルを的にして水の攻撃魔力擬きを撃つ。
フレイリアルは攻撃を無事遣り過ごし、事なきを得た。
だが…おイタと言うには笑えない悪戯を実行した首謀者達は、魔力の暴走引き起こし…昏睡する。
再びのフレイリアルの周りで起きた子供達の昏睡事件、もともと石樹の儀を失敗したフレイリアルの周りから人は消えたが…此の出来事を機に 《取り替え子》 の姫が持つ禍々しき力…として面白可笑しく噂が一気に広められた。
『あの頃、リーシェが迎えに来てくれたんだよね』
ニュールに王宮での過去の悪しき思い出を語りながら、リーシェライルとの出会いを振り返り…遠い目になる。
「其の力のお陰で、今回無事に遣り過ごせたんだな。其の力があって良かったよ、本当に無事で何よりだ」
不意に返ってきた、心から安堵したようなニュールの言葉。
フレイリアルは、何だかぴょんぴょん跳び跳ねていたい気持ちになる。
『此処にも居た…』
自分を心配してくれる存在が増えたことの嬉しさ、そして…フレイリアルが持つ力を忌み嫌わず受け入れてくれる事の驚き。
フレイリアルは、自然と喜びが沸き上がるのを止められなかった。
あまりにもその場でジタバタぴょんぴょんしているので、ニュールは何かの予兆感じ取り…余計なお節介で声を掛ける。
「我慢するな~行けるとき行っとけ、其処の店なら貸してもらえるぞ~」
「……!!! ニュールの変態! 馬鹿! スットコドッコイ!!」
一瞬絶句したフレイリアルから、殺気と共に向けられた暴言。
オヤジな空気の読み間違い…お門違いの親切は、小さくとも女子である者の怒りを買う。
若干首を捻り、謂われなき雑言受けるかの如き表情のニュール。
余計な一言の影響力軽んじるモノ、悔い改めねば人生に多大な響及ぼす…と知るのはイツの事やら…。
『手にしている守護魔石は2つ。17組の競う者達で2つずつ魔石を手に入れた者達が最大数居るとして8組。基本的に、十分に国内組に残留出来るはず。少なくとも留学先を選べる立場は手に入れた…はず』
ニュールは、今までの成果を確認し思う。
『最低限で最良を目指すなら、引き時だな…』
時間的に大分余裕あるが、もう城へ向かうべきだとニュールは判断する。道々妨害がある可能性も、完全には否定できない。
それでも一応の山場は越え、油断ならない敵対者達が直接目の前に現れる事はもうないであろう。
「フレイ、ゆっくりとでも城方面へ移動しよう。特に問題は無いか?」
「大丈夫だと思う…けどもう少し時間ある?」
もう半時で昼時の4つ、おやつを食べたい時間。
そして目の前には、屋台がズラリと並ぶ広場がある。今までの色々忘れるくらい、魅力的な甘い匂いが漂っていた。
「この棒に刺さってる甘いいい匂いのは何?」
「アカンティラド産の甘酸っぱい実に溶かした砂糖を被せた物だぞ」
ひとつの物に納得すると次へ移動し、質問を繰り返す。
「あっちのいろんな形に焼けてる、ケーキみたいな匂いのは?」
「あれはここら辺で良くある焼き菓子だ、食ったこと無いか?」
「無い!」
全てが目新しいのか、フレイリアルは飽きることなく楽しそうに巡る。
昼食時の食事屋台でも同じだったが、店の直近に陣取り…作業する者達の一挙手…一投足…を食い入るように見守る。余りにも熱心なので、店の兄さんやおばちゃんが味見で色々恵んでくれたりもした。
ニュールも売ってた焼き菓子を見て…自身も初めて行った村祭りの屋台で色々買ってもらった事を思い出し、フレイリアルに買い与える。
袋入りの焼き菓子を摘まみながら歩く2人、フレイリアルはふと些細な事を思い出したかのように…軽くニュールに尋ねてきた。
「ニュールは賢者なの?」
いきなり核心を突いた質問。
「あ゛っんぐ…ん゛っ!!!? …違う…と思うぞ」
不意打ちの問い掛けに、思わず焼き菓子が喉に詰まりそうになり…目を白黒させるニュール。
一応、冷静な感じで否定する。
此の選抜中、また同じ質問を受けてしまった。
「そうなの? でも、さっきの凄い攻撃って体内魔石からでしょ? 回路も開いてる感じだし、きっとそうだよ! リーシェに確認してもらえば確実に分かるよ」
ニコニコしながら、嬉しそうに説明する。
『いやっ! 確認してもらっちゃ困る。ヴェステから賢者が来た…なんて言われて広まったら、アホな国の軍事バカに追跡捕獲されちまう!!』
心の中で必死に拒否し、とっさに誤魔化すように別の話を振る。
「確認は要らないよ。あれは、偶々手に入れた魔物魔石を使ったんだ。結構強力で、オレもびっくりだったよ!!」
フレイリアルが持つ天然の看破力で気付かれたようだが、背中に冷たい汗をかきながらも苦しい言い訳で逃れようとするニュール。だがフレイリアルの察知は、言葉で簡単に惑わされるヘッポコ能力。
魔石に関わる事には鋭いが…チョロくもなると言う弱点を持ち、《魔石》 と言う特別な一言を入れると…フレイリアルの意識は180度の方向転換をする。
「どんな魔物魔石?」
相変わらず自分の興味に真っ直ぐなフレイリアルは、今まで注目していたニュールの賢者疑惑など吹き飛び…目をキラキラと輝かせながら魔石について尋ねてくる。
「昔、砂漠で拾った魔物魔石さ…」
目論見通り、フレイリアルの心は新たなる魔石話に導かれたのだった。