11.攻め思う
「遠撃ちを使う」
「しかし陛下、使ってしまえば街が…」
「街ではなく船を狙えば良い」
「…!」
「乗る船が無ければアノ者を追いやすかろう」
プラーデラが築き上げた遠撃ちは城に備え付けた武器としては優秀な出来だったが、厳密に言えば確かな照準を定められる範囲で優秀なのであった。
それは通常の魔力攻撃も同じだが、探索魔力で補助を得て狙いをつけた標的には確実に攻撃が届く。
だが、あくまでも探索魔力が届く範囲なのだ。
使う魔石にもよるが、高位高級魔石を使うなら優秀な内包者で10キメル、賢者ならば50キメルの範囲は10メルの誤差で撃てるであろう。
だが探索魔力なく使えば、距離が遠くなればなる程に許しがたい誤差となる。
王都ポタミの隣のエスチェの街まで直線距離で80キメル。街道を経由すると170キメルある。港は、その手前10キメルと言った所。
探索魔力との連動無くして撃てば、港町だけでなく隣のエスチェまで破壊しかねない。
「私の探索魔力と連動させ導く。天空の天輝石失いし所以は、我が失態であるのだから…」
真摯な言葉とも受け取れるが、瞳の狂気の色が消えない。
「やるならすぐの方が良いだろう」
其れは既に闇時を終え、深の時。
あと2つ時程で時始めとなるであろう頃であった。
王城の防御壁最上段が激しく輝いた後、リネアル汽水湖へ向けて4つの流れ星の様な尾を引く光が長い間飛び続けているのを、夜間配送を行う者や商売の準備をする者など夜が開ける前から働き始める者達の多くが見かけたと言う。
王城から探索魔力を広げ、港のタラッサへ向かう船をすべて撃破すべく遠撃ちが使われた。
探索魔力広げたるは国王その人である。
国王シシアトクスは高位魔石の黄玉魔石内包者であり、国内でも有数の優秀な魔石使いであった。
大賢者であるニュールが確認すれば、その回路が既に賢者級で有ることが見えたであろう。最も宴席でそんな王を凝視観察するようなこと行えば、不敬と言われ投獄されたこと確実である。
国王の探索魔力は賢者級の50キメルに加え、体内魔石である黄玉魔石の力使えば其れに追加して20キメル先まで制御できる。
丁度直線で港までにあたる距離だ。
王は集中し導く。
夜空の下、自身が火球となり赴くような感覚を持ち飛翔するそれに繋げる。
下方に水を感じつつ4発を導き各船へ誘導した。
そこに停泊している各船に見事命中した…だが1隻淡く黄緑に輝き守られる船がある。
「くっ! 既に辿り着いていたか…」
そう言うと王は指示を出す。
「もう一度打ち込む」
そして今度は全弾一ヶ所に集中して続けざまに打ち込んで行く。
「あの時つけられなかった決着をつけたいぞ…衰亡の賢者よ」
呟く王の瞳は楽しげであった。
対岸に転移したニュール達は息を潜め、連れてきた騎乗用の獣に乗る。
モーイとフレイがクリールへ乗り、後は其々が連れてきた高叉角羚羊に股がり軽く隠蔽かけ進む。街道に達してからは隠蔽解き魔力感知板を警戒する。魔力感知板には感知した魔力を通報する機能もある為警戒が怠れない。
「後1キメル程度で港まで着くが、気を抜くなよ!」
声を掛けた。
流石に夜通しでの移動、皆に疲れが見える。
一応背後を皆で順に、定期的に視認しながら進む。
「ニュール! なんか空、光ってる。星みたいなのが近づいてる気がするよ」
フレイが王宮方面の空を見て知らせる。
「…!!、皆、急げ。王宮からの攻撃だ…この経路だと…多分、船を狙ってる」
ニュール達はその光と競うように港に着く。王城から飛び来る火球が、高い所より徐々に姿を大きくしつつ差し迫る。
時始めの鐘と共に出航しそうな船をみつけ、既に船員が活動している所へ勝手に乗り込む。
「おいっ、お前らまだ乗船の時に至ってないぞ!」
船の内より怒鳴られるが気にせず皆乗船する。
男が話を聞かないニュール達に向き合い阻み、実力行使で掴みかかろうとした。その時、激しく輝く光が船の上に到達し爆発炎上する。
黄緑の輝く透明な膜の外には、激しく燃え上がり蠢く炎が渦巻きつつ踊り狂い周囲を囲んでいるのが見える。
だが閉じ込められている内側である船上は、燃え上がることもなく、熱で溶ける様な事もなく整然としている。
「なっ!!!」
ニュールに掴みかかろうとしていた男は愕然とし、言葉を失う。
そして炎の勢いが多少減り、周囲を確認できるようになって分かった。ニュール達が乗っている船以外全ての船が失われたと言うことが…。
「他は守らなかったの?」
フレイに尋ねられる。
「直前に探索を掛けたが人の気配は無かったからな…それに、この攻撃が何処まで続くか分からないから余力は残しておきたい…」
今まで絶句していた船員が正気を取り戻し声をかけてくる。
「おっお前ら内包者か…」
やっと今の情況を理解しつつある男が声をかけてきた。
「すまんな、他の船まで守り切れなくって…」
「いやっ、良い! あれは俺らの船じゃあ無い」
男は自身の情況を語る。
この船の所属船籍はタラッサであり貨客船だそうである。偶々今回プラーデラへの荷を請け負い、帰りの荷は無かったが往復の運賃を貰っていた。2重契約になるがプラーデラの客船組合と臨時契約して、更に稼ぎを得ようとしていたら…巻き込まれたようだ。
「あんたらが、船に乗りたいなら乗せてやる! だからこのままタラッサまで船を守ってくれ」
これでタラッサへ向けての足は確保できた。
だがやはり、先程の一撃だけでは済まなかった。
既に魔力の使用を制限するつもりは無かったニュールは、探索魔力も広げてあった。
王宮より力の高まりを感じると、生み出された魔力乗せられし物理砲撃が向かってくるのが分かった。
しかも今回は更なる魔力が乗せられ飛び来る…その魔力は以前交戦して感じた事のある暁の防衛者…国王のものだった。
「直ぐに出航できるなら出港しろ、次は全てこの残った船に来るぞ!」
慌ただしく出向の準備がされ、港を出る。
明らかに魔力で制御され飛び来る砲撃は、正確にこの船を目指すようである。
船もある程度出向準備は整っていたようであり、直ぐに動き出す。
船橋で船を操る先程の男が率いる者達に声を掛ける。
「なるべく王宮…王都から離れてくれ。出来たら100キメル離れられるルートでの運航が安全だ! あの砲は無差別なら100キメルまで届く。重ね撃ちされれば防御結界も危うい。頼む!」
「了解した!」
「一応、皆も結界の補助を頼む」
ニュールの言葉にタリクとモーイが頷く。
ミーティが申し出る。
「オレの力じゃ結界の方には大して役立たないから船の足回りの魔力での強化を手伝ってくるよ!」
考え行動するミーティ。
「あぁ、そっちも大切だ。頼む!ミーティ」
「あぁ!」
一致団結し役割を見つけ動きだす。
「私は魔力供給と飛来魔力の吸収をするよ!」
フレイも少しは考えたようだ。
攻撃を指揮しつつシシアトクスは考えた。
「力失いし天空の天輝石如きでアノ者とその周りの力ある者全てが手に入るなら、勿体振らずに与え信頼得て外堀埋めて手に入れるべきだったのか…」
一瞬落ち着き冷静になる思考が自身の愚かさや浅はかさを鮮明に認識させる。
だがそこにアノ者の存在を加えてしまうと冷静な思考は取り払われ昂りが再燃し何も考えられなくなる。
まるで呪いのような強制的な思い。
「アノ者は逃げる…ならばヤハリ先に捕まえておくのが正解…手に入れぬことには、この飢え…手に入れたいと言う切望が止まらぬのだ」
第2段となる攻撃が襲い来る。
今度の攻撃はかなり魔力を乗せてある。守る者が攻撃する者となった時の、圧縮し効果高める様に巧みに制御した攻撃力を目にすることになった。
その適切に操られた魔力纏う物理砲から、4連撃が飛来する。
日の光の如き輝き放ち、結界の同一点を集中し攻撃し結界に歪みを生み出すべく働きかけてくる。
見事に管理統制された攻撃魔力だった。
何とか乗り切る。
これ以上の攻撃を受けたら、攻撃自体は防げても受ける衝撃により船に決定的損傷を生んだかもしれない。
ニュールは防御結界と共に船全体に強化施してはいたが限界はある。
その時真上にいきなり大魔力の塊のような純粋な魔力のみによる攻撃が及ぶ。
巧妙に隠蔽魔力も込められた攻撃であり直前まで気づくことが出来なかったのだ。
「「「!!!」」」
防御結界は築いていたが気が抜けてた分、結界巡る魔力量は落ちていたのであろう。
暁の攻撃者となったプラーデラ国王のシシアトクス・バタル・クラースの渾身の魔力攻撃は、結界に小さな小さな穴を開けた。
そして小さいが致命的となるであろう穴を船へも穿つ筈だった。
そう思われたが穴は開かなかった。
純粋な魔力であった攻撃する力は、フレイリアルに吸収され守る力へと変換された…しかも制御するよう繋がりつつ攻撃していた回路は完全に繋がり…人体からの魔力の流出が起こり始めた。
双方が意図せず繋いだ魔力吸収を起こした回路は、その魔力を吸い付くすと…生命力を魔力に変換し…奪い始める…。
予期せぬ状態に、呆然自失のフレイをニュールが揺さぶる。
「おい、回路を閉じろ! 繋がった者の命失われるぞ!!」
意識戻したフレイリアルは未だ放心状態となっているが、開き繋がった回路は閉じた様だ。
これ以上の攻撃は及ばないだろう事が予想できた。
短時間とはいえ、相手の受けた災禍は計り知れないだろうと思われる…。
遠く離れた王宮で側近の悲鳴のような叫びがあがる。
「陛下!!」
そして人を呼ぶ声。
「だれぞ参れ! 陛下の一大事よ」
攻撃を導いていたシシアトクスが崩れ倒れたのだ。
途中までは意気揚々と自身の読みと制御力と魔力量を誇るように、遠撃ち見送るリネアル汽水湖へと探索魔力広げていた。
そして徐に王国所有の魔石箱より王のみが使用できる金剛魔石を取り出す。魔力を導き出し一基だけ設置してある魔力砲に力込め、隠蔽魔力も纏わせ同じ方向に打ち出し探索魔力で捉え続ける。
自分の策と力で苦境を打開し前進するその姿は、自身が仰ぐいつもの王の姿であると近侍する者は思った。
だがその目の内に昨日から宿る狂気は側近であっても…いや、側近であるからこそ違和感しか持てなかった。
そんな事を考えている時、王が倒れたのだ。
人を呼び介抱するため王を仰向け愕然とする。
年齢より相当若く保たれていた王の容貌が年相応…下手をすると年以上のものに変化していた。
浮かぶ表情も恍惚と苦悶が混じる表情。
近侍し介抱しつつ恐怖する。
『触れてはいけない理へ王が近づいてしまったのではないかと…』




