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おまけ2 影から隠者にされた男の思い

サルトゥスからの帰国後、赤の将軍に呼び出された。

なのに其処には黒の将軍もいた…《五》は嫌な予感がする。

そして言葉短に告げられる。


「お前、今日から隠者な…」


「王が1名…働きの良いのをご所望なんだ」


赤の将軍からの補足説明が入り、王の元に期限無しで貸与されてしまった事を把握した《五》だった。

そうして隠者の末端に入れられる事となったのだ。


上司からの命令は絶対だが、直接将軍方に聞くこんな機会も無いので問いかけてみた。


「これは、失態に対する罰…と言うことでしょうか?」


任務の指令に問い掛けで答える影は少ないだろう…黒の将軍は顔を上げ此方を確認すると答える。


「偶々だ…」


言葉からの情報量の圧倒的少なさ…身分を戻しても全く変化の無い様子は呆れを通り越し驚嘆に値する気がする。

この黒の将軍は影の頂点に立っていた者だ。

影の《一》は、裏切った元《三》に殺められた…となっているが、実際は真の裏切り者である《二》を始末する機会を狙い、都合が良いので殺されたことにして黒の将軍職に戻っただけの様だった。


この事実は、余程情報扱いに長けた者でないと手に入らないようになっていた。


多分今の《一》~《三》はこの事実を知らないだろう。

知っているのは今の《四》と《五》である自身と《9》辺り、そしてあの状態で意識戻るなら《30》が数少ない知っている者に入るであろう。


元《三》に近かった、あの偉そうだった元《四》でさえ知らなかったはずだと《五》は思った。

面識が有ればすぐばれる様な個性強い性質。

広まってないのは其なりに知ってしまった者を処分しているからだろう。



即時対応させられ、王宮の隠者棟へ赴かされる。


隠者は面倒くさい。


影だって面倒だが個人主義で通せるので、強ければ文句は聞かなくて済む。

文句を言う奴がいるなら殺ってしまえば良いだけだった。

だが隠者は妙な精神論を振りかざし、長く居たもんが偉い的制度もあり面倒だ。更に、分不相応なほど自尊心が高いのも厄介だった。


朝、時告げの鐘が鳴る頃から神の代理人たる王皇陛下への祈りを捧げ、その後鍛練を行うのが日課であると説明を受ける。しかも新入りは支度まで担うらしい。


「陛下の尊き存在と、陛下からの温情で与えられる世界に降り注ぐ恵みに感謝の気持ちを捧げるのです」


その盲信的尊崇に陛下だって胃もたれ起こすんじゃ無いかと思うのさえ、不敬と言われそうで笑えた。


『いっそのこと全員の脳天ぶちまけて頂上に昇れば面倒は減るってか…』


冷静なつもりだったがブチキレる手前に知らず知らずになっていて、自分でも制御の効かない一番ヤバい状態になっているようだった。


『あぁ、元《三》もこんな気分だったかも知れない…』


それでも自分が市井に混ざっても上手くいかないことは自身が良く知っている。


『僕は鮮やかなる色飛び交う、命感じる場所でないと詰まらなくなってしまうから…元《三》だって絶対無理だと思うんだけどなぁ』



そんな数日に耐えた後、行き成り王からの呼び出しがあり拝謁が必要であると告げられる。


「えー、そう言うの興味無いんすけど…」


思わず素の言葉で返してしまう。

王からの指命による呼び出し連絡の知らせを持ち、使者を伴い来たる隠者??。身体を震わせながら、その隠者にあるまじき態度に泡吹き怒り示す。


「神の代理人である陛下に何足る不敬! 天誅下されるべき愚かしき行為…だが下してしまっては王の召喚に応じられぬ! この場で成敗出来ぬとは…なんと無念」


勝手に板挟みになり身悶えていたので放置して、王からの使者と共に王宮へ向かう。

王の下へ向かいながら思う。


『連行されて供物や生け贄にされるってんなら即消えよう』


そんなこんなで王の前に跪き待機するが、こちらから王を見定める機会でもある。しっかりと観察するつもりだった。


『詰まらん雇い主ならコッチカラ願い下げだよ~』


謁見の間にて跪いて待つこと暫し。

無言の足音と共に高貴なお方が入室された気配があった。


場を仕切る者に促され顔を上げると、其処に居るのは30歳にになるかならないかと言う風情の端麗な容姿持つ男が居た。豪奢な作りの椅子に腰かけ、頬杖をつきつつ此方をじっと見ていた。

見つめる目は優しげな微笑みさえ浮かべているのに、その視線の重圧は100人の刺客に狙われるより冷や汗が出る。

何か薬でも使われたかと息吹かしんだが、その者の凝視が消えると重圧も消えた。

これが強者を付き従える王者の持つ風格なのかと妙に素直に納得した。


「うんっ、いい子紹介してくれたね!」


「まぁ程々だ…」


陛下の隣には黒の将軍が控えていた。


「フフっ、はじめましてだね。急に呼び出されてビックリだよね」


最高権力者なのに威圧感を消してしまえば気さくな青年…と言う感じだった。


「実は君を正式に僕の下に誘いたくてね…まぁ今決めたのだが…」


笑みのなかに含まれるものが多すぎて下手に受け取れない。


「いざ我と共に世界の深淵を覗いて見ないか…とか言われたらどうする?…くくっ」


良くわからないが悦に入ってた。


「僕は深淵は別に見たくない。世界の真実と答え…真理が欲しい、だから協力してくれ」


いきなり自身の希望を述べる。


「君の欲しいものは何だい? 殺戮かい? 終焉かい? いや、そんなものは飽きちゃうよね…本当に欲しいのは果てる事無き刺激だろ? 尽きること無き興奮とでも言うのかな?…僕なら君を満たしてあげるよ…ピオ…」


亡くした名前まで捕まえられ、喉元に牙をあてられ、優雅に差し出された魔物じみた手をつい取ってしまう。


「御心のままに」


服従を了承してしまった。

何故王の言葉を了承してしまったのか分からなかった…。


「雰囲気に飲まれたのが敗因ですかねぇ」


自分にとって面白くないことをさせられている状況は、誰かが面白がって用意したものでは無いのかと思ってしまう。


「ヤッパリこれは左遷だったんですかね…余りにも単純作業で詰まらなすぎます。やはりサルトゥスでの成果と失態の均衡が崩れていたのかもしれません…」


呟きながら作業する。


「人形の回収をやらされるとは思いもよりませんでした。…だけど、ご褒美のような《三》の姿を目にできて僥倖です。ちょっと良い日なのかもしれませんね」


輝くような膨大で超越した魔力と、鮮烈で凄惨な心動かされる光景を思い出し、悠久なる興奮へと導かれ感嘆の吐息を吐く。

その前にあったチョットした遣り合いは既に記憶に留めていない。


「あの御方に仕え傅く事で用意して下さった刺激の一環と言うならば、見合う働きを捧げなくてはですね…」


期待の籠る笑みを浮かべ作業を続けるのであった。

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