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竜宮島の乙姫と一匹の竜  作者: 田村ケンタッキー


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乙姫の裏切り 前編

 竜之助はさよりを家まで送り届ける。

 すると屋敷の前には森で別れた浦島と町で別れた乙姫が立っていた。


「竜之助! そして……さ……より……」


 乙姫は表情で悟る。

 竜之助は玄関まで行き、ゆっくりとさよりを下ろした。


「すまねえ……間に合わなかった……俺が見つけた時にはもう傷を負って……」

「この傷は刃物か……さぞ痛かっただろうに」


 乙姫は自分のことのように苦悶の表情を浮かべながら傷をなぞる。


「すまない、さより……私がもっとしっかりしていれば……死なずに済んだのに」


 必要以上に責任を感じる必要はない。

 そう竜之助は声をかけようとしたが勇気が足りず黙り込んでしまう。


「……許してくれとは言わない、さより。私のせいで……ずっと苦しい思いをさせてしまったな……」


 乙姫は涙を浮かべた。


「……」


 涙を見た竜之助は無言で玄関から出る。すると浦島が門に背を預けた状態で待ち構えていた。


「どこへ行くつもりだい」

「ばあさんの敵討ちだよ」

「敵討ち、ね」

「お前に言っても信じてもらえねえかもしれねえが、この島に俺以外の男がいた。そいつがさよりのばあさんを切ったんだ」

「さよりさんをね……」

「止めてくれるなよ。止めるならお前であっても」

「君が出る幕はない。そいつなら僕が始末しておいた」

「あぁ?」


 浦島は懐から巾着袋を取り出すとひっくり返し地面に何かを捨てる。


「これは……耳か」


 竜之助は何の躊躇いもなしに耳を拾ってよく観察する。


「うす暗くて確信はねえが、確かに男の耳だ」


 確認が取れると鼻をかんだちり紙のように耳を捨てる。

 死んだとわかると一気に頭が冷える。


「よく……仕留められたな」


 動きは素人ではなかった。去り際も弁えていたし戦いに敗れることはあっても死ぬ人間には思えなかった。


「森の中で背後から襲い掛かってきたんだ、返り討ちにしてやったけどね」

「……あいつ、性懲りもなく不意打ちを仕掛けたのか」


 ああいう人間は襲い掛かってくるよりも逃げ回られたほうが厄介だった。島民への被害の拡大を心配していたが浦島のおかげで未然に防ぐことができた。


(くそ、こいつのほうがしっかり仕事して立派じゃねえか……)


 竜之助は歯ぎしりをする。その姿を見て、浦島は満悦気味に微笑む。


「さて、僕は誰かさんと違ってまだ仕事が残っている。もう行かせてもらうよ」

「おい、待て」

「……まだ何かあるのかい?」


 浦島の仕事をこなした。それはそれとしてきっちりと問い詰めない点もあった。


「……どうして殺した。いろいろと白状させないとだろうが」


 いつからいたのか、どう島に上陸したのか、仲間がいるのか等々聞きたいことは山ほどある。

 その機会を浦島は不意にしてしまった。これは手痛い失態。責任は追及されて当然。

 だが浦島は飄々としていた。


「考えもしなかった。軽薄そうな顔してたんでね、ついうっかり」

「ついうっかり、ってお前」

「さっきも言っただろう。不意打ちだったんだ。確かに不審者から情報を聞き出すことは大事さ。でも僕はこの島を守護する役割もあるんだ。つまり絶対に負けてはいけないし傷を負ってはいけないんだ。まあ相手が誰であろうとそんな失態はしないけどね。誰かさんと違って」

「おい、最後の一言いらねえだろ」

「というか何様のつもりで説教してるんだい? 偉そうな割に君の話には新たな知見はなかった。聞くだけ無駄な時間だったね」


 手をひらひらさせて浦島は立ち去ろうとする。


「……おい、浦島」

「なんだい、また説教? 少しは頭を使って行動しろ、そう言いたいんだろ?」


 違う。竜之助が言いたいのはそんなことじゃない。


「……お前は、さよりのばあさんが死んで悔しくないのかよ」


 余裕の態度から笑みが消える。だがやはり軽い口調で答える。


「……悔しくはないさ。この手で敵を討ったんだからね」


 そう言い残し、ガシャンガシャンと甲冑の音を残し、浦島は城の方向に向かっていった。



 入れ替わりに乙姫がやってくる。


「浦島は行ったか」

「行きましたよ。姫さん、もういいんですか」

「……本来泣いてる暇などない。今は時間が惜しいんだ」

「……立派ですよ、お姫さん」


 となるとさよりの遺体をどう安置するとか聞くのは無粋。


「そうだ、まだお姫さんには話してなかったんでした。ついさっき島に、森に、俺以外の男が──」

「なあ、竜之助。歩き回って疲れただろう。水を飲め」


 言葉を遮るように乙姫は竹の器を渡す。


「そ、そうですね、水を飲んでからでも遅くはない」

「島で採れた名水だ。一気にグイっといけ」

「はいはい、わかりましたよ」


 言われるがままに竜之助は水を飲み干す。


「ほわぁ、間違いなくこりゃ名水だ。疲れが吹き飛ぶぜ」

「ああ、もうしばらくすれば本当に疲れが吹き飛ぶぞ」


 乙姫の足は城へと向かう。

 竜之助もなんとなしについていく。


「それでさっきの話なんですが、俺以外の男を──」

「ところで竜之助。気にならないか、この場所がどうしてこうも空き地が目立つのか」

「えっと、はい? 今、そんな話をする必要、あります?」

「どうしてさよりが一人で屋敷を守っているのかも気にならないか」

「えっと……まあ……気になりますね……」


 竜之助は優しい。

 乙姫が心の整理を望んでいると考えて報告は後回しにし話に乗ることにした。


(心の乱れは士気に関わる……それに個人的に気になってもいるしな……)


 ここを通るたびに乙姫は暗い表情をする、その理由を知りたくもあった。

 間違いなく過去に何かが起きた。

 そして深く、乙姫が関わっているともなんとなしにわかる。

 乙姫はついに語りだす。


「結論から先に述べよう。全て、全て、私が悪いんだ」

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