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竜宮島の乙姫と一匹の竜  作者: 田村ケンタッキー


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34/53

かれいが感じた違和感

 日が傾き、空が赤みを帯び始めた頃。

 島民がこぞって仕事を切り上げ、家に帰る時間帯であったが今日は違った。

 島民はこぞって山の上の城へと向かう。

 子供からお年寄りまで全員で。

 それはなぜか。

 お風呂のお触れが出たからだ。


「いやぁ楽しみだね~! 久しぶりの温泉!」

「ここ最近肩が凝ることばっかりで……ゆっくりと疲れを取りたいわ~」

「聞いた? お風呂のあとはご馳走も出るって話よ?」

「噂でしょう? でも本当だったらいいわね。毎日魚ばっかりじゃ飽きちゃうもの、山菜の天ぷら食べたいわ~」

「なにより飲兵衛の旦那の世話をしなくて済むからゆっくりできるわ」

「本当ね~」


 我慢を強いられた生活が続いた。

 そんな島民へ乙姫からの労いだった。

 誰もが疑わず城へと向かう中、とある一人が違和感を抱いていた。


「おかしい……お母さんも姫様もなんだか怪しい……」


 かれいだった。

 彼女は家に妹と一緒に残っていた。


「どうしていきなりお風呂なんて……それも一斉に……?」


 かれいも城の露天風呂に行ったことがある。考えられないほど広い風呂だった。だけど島民の半分が入られるほど広くはない。普段は年齢で区切って開放している。

 労い以外の別の意図を感じられた。例えば……城に残った島民全員を集める。

 しかしそれは予想だ。子供の予想に過ぎない。何より証拠がない。

 だから、かれいは確かめることにした。

 その確認する手段が家に残ることだ。


「そろそろ来る頃合いかな……」


 なんとなし、雰囲気で意味ありげに呟く。

 すると聞こえてくる足音。ひどく慌てた様子。


「本当に来た……」


 かれいの家の玄関が開く。


「かれい! どうして家にいるの!」


 普段はおしとやかな母が髪を乱して家に上がる。

 疑惑はますます深まる。

 かれいはさらなる一手を繰り出す。


「……お風呂やだ」


 子供っぽくそっぽを向く。


「……お風呂やだって……あんた、お風呂大好きだったでしょう?」

「今日は気分じゃない」

「気分じゃないって……こんなときに……じゃなかった、みんな上に来てるよ? かれいも行きましょう? そうだ、今日は一緒にお母さんと入らない? 髪洗ってあげるよ」

「髪くらい自分で洗えるもん」

「……もうこの子ってば……」


 しかし母もやり手。


「……お風呂を嫌がるような女の子を嫁に欲しがる男はいないわよ?」

「ぐ……ぐぬぬ」


 痛いところを突く。

 母はとっくに娘の恋に気づいていた。

 しかし、かれいは一歩も引かない。


「わかんないでしょう! お風呂嫌いな男もいるかもだし!」

「そんな男いるもんですか!」


 しびれを切らしたあかめはかれいの手を引く。


「ほら行くよ!」

「痛い! 痛いってお母さん!」


 握る手は力強い。絶対に振りほどけない本気の親の力。

 聞き分けのない子供を大人の力で従わせる。

 場合によっては愛、考えようによっては暴力。

 かれいも子供だが、大人に近づいている。

 なんとなしに親の愛、本気度はわかっていた。

 普段は力で言うことを聞かせる親ではない。だからこそわかる。

 疑惑は確信へ。


(やっぱり、島に何かが起きてるんだ……)


 無理に反抗しても無駄。今はその時ではない。


「わかったって……お母さんと一緒に行く」

「わかってくれればいいのよ……わかってくれれば」


 それでも母の手は離れない。

 今はこれでいい。

 かれいは母親に連れられて家を出る。あかめは玄関を閉めずに城へと急ぐ。

 まだ明るいのに活気と人気が抜け落ちた町を歩く。


「……お母さん、そういえば竜之助は?」

「……竜之助さんは……お城にいるよ?」

「そっか……」


 娘は直感で母の嘘に勘付く。

 かれいは母親に手を引かれて無人の町を後にする。

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