くじらの祠
島のどこかにある祠。
その所在は島民の一部にしか知られていない。
パチリ、パチリ。
火が爆ぜ骨爆ぜる。
「……」
祈祷師くじらは顔にまで届く火花に眉一つ変えない。
彼は島で一番の年長者であり、この島の生まれの人間。その生涯を占いに捧げてきた。
パチリ、パチリ。
火と水が交わり、運命を知らせる。
「……」
くじらは袖を捲り、突如として火の中に手を突っ込む。
「てええや!」
握りしめるは高温に熱せられた鯨の骨。
勢いそのままに傍らの水瓶に突っ込む。
ジュワァ!
水蒸気が舞い上がる。
くじらの額にも汗が浮かぶ。白い眉を超えて瞳に流れるも瞬き一つしない。
「……」
骨を布の上に置く。
骨は丈夫で火に熱せられても完全な形を保っていた。
「…………ふぅ」
呼吸を一つ。
くじらはようやく生者らしい仕草に感情らしい感情を見せた。
占いの結果に一喜一憂しない。祈祷師として大局を見なくてはいけない。
しかし年を取ってからというもの、心の奥が結果に左右されてしまう。
運命はありのままに受け入れよ。
運命が死を知らせたとしても受け入れなくてはいけない。
高齢の身。自分の死はありのままに受け入れられる。充分長生きしたので後悔もない。
しかし島は違う。自分の生が途切れた後も島はあり続ける。平和に、豊かに、変わらず笑顔に溢れていてほしい。
「……飯にするか」
一仕事を終えてようとしたその時、
ビキッ……!
ひときわ大きい破裂音。祠中に響き渡る。
「こ、これは……!」
音の正体は鯨の骨。時間差で反応を示した。
ビキ、バキ、ギィキ、バギ!
骨は音を立てながら複雑に割れていく。
「あ、ああ……! そんな、まさか……!」
くじらは慌てて式神を編み出す。
「すぐに知らせなければ……! 姫様に……! 一大事だと……!」
波乱はすぐそこまで迫っていた。




