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竜宮島の乙姫と一匹の竜  作者: 田村ケンタッキー


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32/53

くじらの祠

 島のどこかにある祠。

 その所在は島民の一部にしか知られていない。


 パチリ、パチリ。

 火が爆ぜ骨爆ぜる。


「……」


 祈祷師くじらは顔にまで届く火花に眉一つ変えない。

 彼は島で一番の年長者であり、この島の生まれの人間。その生涯を占いに捧げてきた。


 パチリ、パチリ。

 火と水が交わり、運命を知らせる。


「……」


 くじらは袖を捲り、突如として火の中に手を突っ込む。


「てええや!」


 握りしめるは高温に熱せられた鯨の骨。

 勢いそのままに傍らの水瓶に突っ込む。


 ジュワァ!

 水蒸気が舞い上がる。

 くじらの額にも汗が浮かぶ。白い眉を超えて瞳に流れるも瞬き一つしない。


「……」


 骨を布の上に置く。

 骨は丈夫で火に熱せられても完全な形を保っていた。


「…………ふぅ」


 呼吸を一つ。

 くじらはようやく生者らしい仕草に感情らしい感情を見せた。

 占いの結果に一喜一憂しない。祈祷師として大局を見なくてはいけない。

 しかし年を取ってからというもの、心の奥が結果に左右されてしまう。


 運命はありのままに受け入れよ。


 運命が死を知らせたとしても受け入れなくてはいけない。

 高齢の身。自分の死はありのままに受け入れられる。充分長生きしたので後悔もない。

 しかし島は違う。自分の生が途切れた後も島はあり続ける。平和に、豊かに、変わらず笑顔に溢れていてほしい。


「……飯にするか」


 一仕事を終えてようとしたその時、


 ビキッ……!


 ひときわ大きい破裂音。祠中に響き渡る。


「こ、これは……!」


 音の正体は鯨の骨。時間差で反応を示した。


 ビキ、バキ、ギィキ、バギ!


 骨は音を立てながら複雑に割れていく。


「あ、ああ……! そんな、まさか……!」


 くじらは慌てて式神を編み出す。


「すぐに知らせなければ……! 姫様に……! 一大事だと……!」


 波乱はすぐそこまで迫っていた。

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