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沖合騒乱

 昨日の夕方のこと。

 寝過ごした竜之助は急いでオールをこいでいた。朝には余裕をもって出発したかったが遅れに遅れて昼下がり。

 日没前には島にはたどり着きたかった。金がなかったために篝火の用意もしていない。


 急いだもののあと一歩及ばず。

 日が沈んでしまった。

 ぼんやりと島の影はわかるものの、荒波や渦潮に阻まれて近づけない。

 夜明けまで待つかと考えたが、ここで波乱トラブルが起きる。


「げええ!? 船底に穴が開いてる!!?」


 三文舟はやはり三文舟。安さにはそれ相応の理由があった。

 

 万事休す。

 しかし幸いにも自分と島の間に二隻の舟を見かけた。小さいが篝火を焚いていた。

 島の漁師だと思い、助けを求めた。


「おーい! 助けてくれー!! 船底に穴が開いているんだ!!」


 これで助かる。そう思った矢先の出来事。

 しゅぱ。しゅん。しゅぱ。

 無視するどころか、いきなり矢を飛ばしてきた。


「なんだなんだ、海賊か!? こんちくしょうめ!」


 腹が立った彼は矢を弾きながら漕いで接近する。


「てめえら何しやがる!!!」


 拾い物の刀を持って八艘飛びとは行かなくても一丈<曲尺で約3メートル>もの距離を跳び、賊の舟に乗り移った。

 暗闇が幸いし、同士討ちを恐れた賊の動きは鈍かった。

 残すは一人。戦意を失い、かつ暗い荒い海に飛び込む勇気のない死を待つだけの弱者。

 一思いにやってやろう、そう思った時だった。


「ぎゃっ」


 竜之助がとどめを刺すまでもなく、彼の頭に矢が貫通する。

 もう一隻から弓の雨。

 仲間が生き残っているかもしれないのに無情な作戦。


「いいぞ。切って捨てても心が痛まなくて済む」


 流れが読めない激しい潮流。

 無理に近づこうとせず、矢を防ぐことに専念する。

 必ず期が訪れる。そう確信していた。

 予感は的中し、舟が接近する。


「どおおおりゃああああ!!」


 雄たけびを上げて飛びかかる。

 待ち構えていた刃をかいくぐり、残りの賊も滅さんと果敢に獰猛に挑んだ。





「……以上だ。直前で覚えているのはここまでだ」

「……なるほどね。君の妄想はわかった」

「妄想ではない。真実だ」

「姫様。本当にこいつの話を信じるおつもりですか?」


 浦島の態度に変わりはなかった。

 乙姫は冷静に情報を処理した。


「真実も何も、浦島。君なら嘘か本当かわかるんじゃないか? 昨晩から今朝まで見張り番はお前が担当だ」


 浦島の眉がぴくりと動く。


「……そうですね。見張りは僕の番でした」

「まさか居眠りしてたんじゃあるまいな?」

「この僕が? 君のような生臭侍じゃあるまいし」

「どうなんだ、浦島。正直に申せ」


 乙姫の真っすぐな瞳が浦島を突き刺す。


「……これは隠しようがありませんね。ええ、確かに。遠い沖合でそれらしき騒ぎは見ておりました」


 またもや衝撃的な発言。


「浦島! なぜ早くそれを言わない! 怪しい影を見つけたら島民を避難させる決まりを忘れたか!」

「あなたを含め島民を不安にさせたくなかったからです。それに遠くからでしたが舟は海に飲み込まれたように見えました。だから大丈夫かと」

「それでもだ! 私にだけでも報告するべきではないか!」

「謝るしか他ありません。紛れもない隠し事を致しました。しかし竜宮家への忠義に嘘偽りはありません。処分はいかようにも受けます。だがそれは、この賊もどきを処分した後にしていただきたい」


 竜之助はあきれ果てて、首をガックシと落とす。


「性懲りもなく俺の首を狙うか。てめえは熊のように執念深いのな」

「熊という生き物がどんなものか知らぬが当然だ。お前が騒ぎの生き残りの可能性もある」

「どうして味方同士で争う。島は目前だというのに」

「知らぬ。しかしどうせ賊のことだ、下らん理由で喧嘩を始めたのだろう。そして一人で十人を切っただと? そんな出鱈目信じられるか」

「それじゃあいっちょ腕試しするか? 剣の腕は聞くよりも見るが早い」

「いいね。初めて君と意見が一致した。そして最後でもあるだろう」


 にわかに殺気立つ二人。

 乙姫は慌てて仲裁に入る。


「頭を冷やせ、二人とも! 決闘だと!? 当主代理の名において殺し合いは認めないぞ!」

「姫様。これは決闘でございません、練習でございます」

「そうそう。チャンバラですよ、チャンバラ。命の取り合いなんて物騒な真似はしないですって」

「浦島はともかく竜之助! お前は手枷がついたままだ! そんな状態でまともに動けないだろう!」

「なあに、ちょうどいいハンデですよ。あ、でも姫様は危ないんで離れていてください。あと落ちている刀を拾わせていただきます」


 竜之助は駆けだし刀を拾いに行く。


「お、おい、まて、竜之助!」

「姫様! あいつの言うとおりだ! 危ないですよ!」


 追いかけようとする乙姫を海女たちが引き留める。


「それに浦島様のことですよ。痛い目合わせるだけで殺したりはしませんって」

「そうそう。手加減を心得ているはずです。こてんぱんにやっつけて自信を失わせるつもりですよ。あとは牢でも閉じ込めておいて、龍神様のお休みの日が来たら海に放流すればいいのですよ」

「……そうだといいのだが」


 乙姫は心配をぬぐえなかった。

 竜之助の実力は未知数。十人相手に戦って勝った手練れだとしても相手は浦島。

 そして、なによりその浦島が普段と違う空気を振りまいているからだ。


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