暗闇にも温もりを
気付けば溶けた蝋燭は燭台の皿を満たし、零れ落ちそうになっていた。
一体あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか。
少しだけ手短に話すつもりだった。
箇条書きのように、歴史の出来事をかいつまんで話すように。
なのに一度始めたら、いることもいらないことも全て洗いざらい吐き出していた。
悩みも迷いも隠すべき秘密も打ち明けてしまった。
(はは、こりゃ一巻の終わりだ……)
女への凌辱が支配欲を満たされて楽しかったとまで話してしまった。
「……なるほど。お前のこれまでの生い立ちがよく分かった。それで竜之助。今の話に噓偽りはないのだな」
乙姫は親切にもろくでなしの男の話に最後まで付き合ってくれた。
「ああ、全部本当のことです」
情状酌量の余地なしとこの場で切り捨てられてもおかしくはない。
(でもここいらで終えるのも悪くねえな……今は、出すもの出した時よりも気分がいい……)
むしろそれを望んですらいる。
人間誰にも共通して訪れる瞬間がある。
今なら死んでもいい。
幸福に満ちた時、人生の絶頂を感じた時、この瞬間は訪れる。
竜之助の場合、多少事情が違う。
今よりもマシな瞬間が訪れない。
そのような消極的な気持ちを持っていた。
「なあ、姫さん。頼みがある。今この場で、俺を……俺の首を……その、脇差で──」
竜之助の縋るような思いは、
「ん~~~長かった長かった。まったく竜之助は若いくせして話が長い。まるで老人の世間話のようだったぞ」
軽々と一蹴される。
乙姫は伸びをして立ち上がる。
「さて、だいぶ遅くなったな。しかし明日も仕事は山ほどある。早起きしてもらうためにも早く寝るのだぞ」
「ひ、姫さん!? 俺の声、聞こえてます!?」
「ん? 不思議なことを聞く。勿論聞こえているぞ」
「それじゃあ俺の話を聞いてましたよね? 俺は善人なのか、悪人なのか、はっきりしてください! いや善人なわけないんですけども!」
「うむ、それについてなのだが……ひとまず保留にしよう」
「保留!? そんな無責任な!」
「今はこの島の最高責任者は代行であるが竜宮乙姫のである私だ。その私が保留と決めたのであれば保留なのだ」
「そんなご無体な!」
「夜も更けたというのに大声を出すものじゃない。先程も言ったが早く寝ろ。私も屋敷に戻ったらすぐに寝る」
有言実行。乙姫はとっとと帰りの支度を始める。
そして帰り際、
「おっと、忘れるところだった」
それは冷たい金属の檻越し、
「おやすみ、竜之助」
この世にありふれているはずなのにとんと縁のなかった優しさに触れる。
「おやすみ……なさい……」
乙姫は去っていった。
布団はない。あるのは手枷と足枷。
真っ暗闇の中ではやることもなし。寝ることしかできない。
でもどうしてか恐怖や震えはない。
孤独の暗闇にも温もりは残っていた。




