表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜宮島の乙姫と一匹の竜  作者: 田村ケンタッキー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/53

暗闇にも温もりを

 気付けば溶けた蝋燭は燭台の皿を満たし、零れ落ちそうになっていた。

 一体あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか。

 少しだけ手短に話すつもりだった。

 箇条書きのように、歴史の出来事をかいつまんで話すように。

 なのに一度始めたら、いることもいらないことも全て洗いざらい吐き出していた。

 悩みも迷いも隠すべき秘密も打ち明けてしまった。


(はは、こりゃ一巻の終わりだ……)


 女への凌辱が支配欲を満たされて楽しかったとまで話してしまった。


「……なるほど。お前のこれまでの生い立ちがよく分かった。それで竜之助。今の話に噓偽りはないのだな」


 乙姫は親切にもろくでなしの男の話に最後まで付き合ってくれた。


「ああ、全部本当のことです」


 情状酌量の余地なしとこの場で切り捨てられてもおかしくはない。


(でもここいらで終えるのも悪くねえな……今は、出すもの出した時よりも気分がいい……)


 むしろそれを望んですらいる。

 人間誰にも共通して訪れる瞬間がある。


 今なら死んでもいい。


 幸福に満ちた時、人生の絶頂を感じた時、この瞬間は訪れる。

 竜之助の場合、多少事情が違う。

 今よりもマシな瞬間が訪れない。

 そのような消極的な気持ちを持っていた。


「なあ、姫さん。頼みがある。今この場で、俺を……俺の首を……その、脇差で──」


 竜之助の縋るような思いは、


「ん~~~長かった長かった。まったく竜之助は若いくせして話が長い。まるで老人の世間話のようだったぞ」


 軽々と一蹴される。

 乙姫は伸びをして立ち上がる。


「さて、だいぶ遅くなったな。しかし明日も仕事は山ほどある。早起きしてもらうためにも早く寝るのだぞ」

「ひ、姫さん!? 俺の声、聞こえてます!?」

「ん? 不思議なことを聞く。勿論聞こえているぞ」

「それじゃあ俺の話を聞いてましたよね? 俺は善人なのか、悪人なのか、はっきりしてください! いや善人なわけないんですけども!」

「うむ、それについてなのだが……ひとまず保留にしよう」

「保留!? そんな無責任な!」

「今はこの島の最高責任者は代行であるが竜宮乙姫のである私だ。その私が保留と決めたのであれば保留なのだ」

「そんなご無体な!」

「夜も更けたというのに大声を出すものじゃない。先程も言ったが早く寝ろ。私も屋敷に戻ったらすぐに寝る」


 有言実行。乙姫はとっとと帰りの支度を始める。

 そして帰り際、


「おっと、忘れるところだった」


 それは冷たい金属の檻越し、


「おやすみ、竜之助」


 この世にありふれているはずなのにとんと縁のなかった優しさに触れる。


「おやすみ……なさい……」


 乙姫は去っていった。

 布団はない。あるのは手枷と足枷。

 真っ暗闇の中ではやることもなし。寝ることしかできない。

 でもどうしてか恐怖や震えはない。

 孤独の暗闇にも温もりは残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ