生地の模型
私も老人になったのか、無塗装の模型もいいものだ、と最近は思える。
中学生の頃、鉄道模型の雑誌を読んでいて理解できなかったものに、塗装のされていないHO車両があった。
「この模型機関車は、どうして塗装されていないんだろう?」
『生地』と書いて、キジまたはナマジ完成品と呼んだように思う。
あの頃のHO模型は真鍮製だったから、塗装していなければキラキラ金色に光ることになる。
(ただしまったくの無塗装ではなく、組み立て完了後にわざわざ金色に塗装してあったようだ。某メーカーのDD54で、本来は赤いはずのプラスティック製パーツまでが金色に輝いている例を見たことがある)
アメリカへ旅行した時、鉄道模型店に足を運んでみたが、ショーケースにある模型のほとんどが生地なのが日本とは違うところだった。
といってもアメリカでは塗装を省略しているというよりも、実物車両があの多色で派手な塗装だから、模型メーカーも手に負えないというのが本当のところかもしれない。
だから購入後に自分で塗るか、専門家に依頼するのではないかと思う。
そのためにプロのペインターという職業が存在するようだ。
それはそうと無塗装の模型。
寺院や博物館には昔の仏像が置かれているが、その多くは塗装もされず、というよりも実は、
「元来は明るく塗装されていたのが、長い年月の間に剥げてあのようになっている」
のだが、現代の我々はあれが普通だと思っている。
しかし仏像とは、元来は色付きの極彩色だったはず。
塗装済み模型と無塗装模型を仏像に例えるのが乱暴であれば、カラー写真と白黒写真に例えよう。
そういえば今の若い方々は、白黒写真にはあまり縁がないかも。
現代では白黒写真なんて、本や雑誌のページで見かけるぐらいですかね。
「カラー写真の命は発色」
これだけということはあるまいが、発色の具合がカラー写真の評価を決めるのは間違いないと思う。
一方で白黒写真は、被写体の形の面白さが追求できるように感じる。
戦前の大サイズの乾板写真などがそうだが、機関車の姿そのものを鑑賞するには、白黒写真の方が適しているのかも。
だから生地の模型にも、「機関車の形をより深く鑑賞できる」みたいなメリットはあるのかもしれない。




