ブーム
「おまえ、D51って知ってるか?」
そういう質問を不意に投げかけてきたのは、確かSという名の、あまり親しくもない同級生だったと思う。
小学3年ぐらいのこと。
下校時にたまたまそばを歩いていたのだ。
当時はSLブームが始まりかけて、昭和50年のSL全廃に向けて盛り上がりを見せつつあった。
現在の感覚では想像しにくいかもしれないが、当時のブームというのは本当にとんでもないものだった。
例えばある人気歌手がヒット曲を飛ばし、社会現象と呼べるほどの大変な人気が出たとする。
すると夜7時台のプライムタイムに同じ歌手が、異なるA局とB局の別々の番組に同時に出演していることだってあったほど。
SLもそういうブームになりかけのころで、現在も「鉄道ダイヤ情報」という雑誌が存在するけれど、当時は「SLダイヤ情報」という名前だったりした。
このS君もそういうブームに乗っかって、D51に関する記事にどこかで接触したのだろう。
「おまえ、D51って知ってるか?」
そんなことを問われて、私のようなガキがおとなしくしているはずがない。
私の口からは、機関銃のごとくD51のスペックがほとばしり出た。
「自重〇〇トン。車軸配置1D1。製造開始昭和11年。製造終了昭和20年。製造両数1115両。テンダーは……」
Sはポカンとしている。
私は言葉を終えた。
「……D51って、こういうやつのことかい?」
こうなると、Sが口にできる言葉はただ一種類しかない。
「もうええわ……」
思えば私は、かなり感じの悪いガキだったようだ。




