キハ10の謎
キハ10の謎と言えば大げさだが、少し感じることはある。
「どちらも両運車であるのに、キハ11にはトイレがあって、キハ10にはなぜないのか」
というよりも、この疑問をせんじ詰めれば要するに、
「同じ両運車であるのに、トイレ付きとナシで、なぜわざわざ2形式に作り分けなくてはならなかったのか」
ということ。
かつて富士急行という私鉄がキハ58を3両新造したことは、よくご存じだろう。
そう、国鉄のキハ58と同型。
ただ違うのは、
キハ58001 と キハ58002 は国鉄車と同一だけれど、キハ58003 はなんと両運車だった。
そもそも、電鉄会社である富士急行がなぜキハを作ったかというと、
「当時はまだ気動車列車だった国鉄の急行『アルプス』に併結して、新宿まで乗り入れたかった」
から。
富士急行は2両連結での乗り入れを想定していて、
キハ58 + キハ58 + (アルプス)
という感じね。
(まだまだ非冷房が当たり前の時代だから、冷房電源のことは考えていない)
ここで問題になるのが予備車のことで、3両目のキハ58003はどちら向きに作ればいいのか。
キハ58001 + キハ58003
のように、001 と連結するときには 002 と同じ向きでよいが、一方で 002 と連結するときには支障がでる。
だから結局 003 は両運車になったというわけ。
しかしながら、もともと片運のキハ58に無理やり運転台をつける設計だから無理があり、003 はトイレなしになった。
だが 001 と 002 にはトイレがあるので、運用上の問題は少ない。
さてさて、キハ17が製造された時にも同じ問題が起きたのではなかろうか、と私は言っておるのです。
国鉄はせっせとキハ17を量産していた。
当時の編成は2両よりは長かったろうが、例えば4両編成だとして、
キハ17 + キハ17 + キハ17 + キハ17
しかし気動車区には予備車が待機している。
だが製造数は少しでも絞りたい。
あっち向きのキハ17とこっち向きのキハ17を1両ずつ用意して、予備車として2両を気動車区で寝かせるなんて、もったいない。
そこで、
「じゃあ予備車は両運にしようぜ。そうしたら1両で済むもんな」
という意見が出てきても不思議はない。
富士急のキハ58003と同じ考え方で、予備キハ17は両運転台のトイレなしになる。
こういう経緯で キハ10 は誕生したのではありますまいか。
キハ30にトイレがない理由も恐らく同じでござろう。
新造当時、関西線ではキハ35系が長編成でガガガと走っておりました。あれの予備車ね。
ところが、国鉄の各線区でキハ化が進んでくると、場所によっては、
「マジで単行キハで十分行けるぜ」
という乗客の少ない路線も出てくる。
だけど当時の国鉄としては、
「かといって、トイレなし車両の単行運転は困る」
というところ。
だから キハ11 が製造され、その後もキハ20 キハ23 キハ40 とトイレ付両運車が増備されていったのではありますまいか。




