父親
現在でもキハを指さして、
「電車だ」
という人は珍しくない。
私が幼稚園児だった頃だが、父はなぜ
『キハ82系が電車でなく、気動車であること』
を知っていたのだろうと不思議に感じる。
たぶん三宮か神戸のホームでのことだが、
「あれはディーゼルカーなんだ」
とキハ82系を指さし教えられた記憶があるから。
父は全く鉄道ファンではない人だったが、『キハ82系はディーゼルで、モハ181系は電車だ』という一般の人には無縁そうな知識をどこで仕入れてきたのだろう。
屋根上から排気ガスを吹き出していることや、パンタグラフがないこと、停車時でもアイドリングしているエンジン音等から父がそういう結論を出したとは、考えにくい。
私の父とはそういう人ではなかったのだ。
父はまた大阪緩行線を指さして、
「線路が4つあるのは複々線というのだ」
と教えてくれたが、そのとき同時に単線、複線という言葉も教えられたが、ならばと、
「3本線路ならどう呼ぶのか」
と意地悪な質問を自分が返したことも覚えている。
電車好きな幼児だった私に、父は父なりに、いいところを見せたかったのだろう。
大人の知識をひけらかしたかったのかもしれない。
考えてみれば、この時の父もまだ相当に若かったはず。
3本線路について、父は『単複線』なる言葉を苦しまぎれに造語して答えてくれたが、それ以来ウン10年生きてきても、そんな単語、私は一度も耳にしたことがない。
(結論)
幼稚園児というのは面倒くさい生物である。




