表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/458

幼稚園児のころ


 幼稚園児の頃、私は電車で通園していた。たった一区間であるが、それでも毎日通ったのである。

 今でもその頃の定期券が残っている。

 〇〇殿とフルネームでいかめしく書かれ、ハンコで5歳と押されている。

 料金は1か月155円で、あの当時でも最も安い定期券だったろうが、見るところ「小」と赤字で印刷されているばかりで、幼稚園児だからといって、特段小学生よりも安くなっていたわけではなさそうだ。


 同じように電車通園する幼稚園児は近所に数人おり、しばしば男の子は電車に興味を持つ。おそらく登園途中もピーチクパーチク、甲高い声で電車のことを語ったであろう。

 当時の私たちは、あの電鉄の電車を数種に分類していた。


・ロマンスカー

某温泉行の新造車。東急のアオガエルみたいに、いかにも昭和30年代らしい丸っこいデザインで、前面の湘南顔はすでに多少、賞味期限切れ気味であったかも。

2両編成。4両しか存在しない。


・新型

いかにも昭和40年代的デザイン。ロマンスカーを貫通化、ロングシート化したと言えばそうだが、客用扉が両開きのもの、片開きのもの、両運車、片運車と数種に分かれるが、幼稚園児には識別は無理。本当のところ、新造車だけでなく、ツリカケ式の車体更新車まで混じっていた。


・赤電

ツリカケ式旧型車のうち、ロマンスカーや新型と同一の赤系塗装のもの。


・青電

ツリカケ式旧型車のうち、グリーン系の塗装のもの。この電鉄の旧塗装であった。

赤電、青電が実は塗装の違いでしかないとは、もちろん子供らは全く気付いていない。


 この他に電気機関車が1両存在し、ごくたまに見かけた。

 母が言っていたことだが、この電鉄では車内になぜか椅子のないポカンとしたスペースが存在し、

「何を積むためだろう?」

 と父と一緒に不思議がったそうだ。そして夫婦間の議論の末に得られた答えが、

「きっと牛を積むためであろう」

 であったのには、やれやれ。


 この鉄道の沿線には有名な温泉があり、「温泉へ行く」というよりも、「湯治」というほうがそれっぽく聞こえるが、戦前の日本では、湯治とは一家をあげての大行事だったようだ。

 1週間や2週間は温泉場で過ごすのが当たり前で、長期滞在するための宿屋も存在し、食事はそこで自炊する。

 すると当然、湯治に出かけるための持ち物は、鍋釜を含む大荷物となる…、ということだと思う。


 そういう大荷物に対応するため、この電鉄の古い電車には荷物室があった(全車ではない)。

 モハやクモハではなく、ここでは「デ」と称するから、デニがクモハニの意味になる。

 だが私が利用していた時代でも、大荷物をかかえての長期の湯治は、すでに過去のものとなっていたのだろう。デニの荷物室は客室として開放されていたらしく思える。

 それを見て私の両親が首をかしげていたわけ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ