表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/450

電気ブレーキ

 中学の頃、国語の教科書に、ある作品が掲載されていた。

 タイトルは「正義派」といい、作者は志賀直哉。

 いま手元に現物がないのでうろ覚えだが、あらすじはこんな感じ…


 路面電車が、線路上で人をひいてしまう。その人は電車に背中を向けて歩いていて、電車の接近に気づいていなかった。

 それで問題になるのが、

「運転手が、性能の悪い手ブレーキではなく、より早く停車できる電気ブレーキを最初からちゃんと使用していたのか」

 という点。


 警察の調べに対し、目撃者が名乗り出た。これが、事故現場の近くで作業をしていた保線係たち。

「運転手はあわてて手ブレーキのホイールを回すばかりで、電気ブレーキの使用は遅れていた。だからひいてしまったのだ」

 この証言が決め手になり、運転手に責任ありとされたが、当の保線係たちはすぐさまクビを言い渡され、飲み屋で憂さを晴らす…


 これを読んで、私は憤然と鼻息が荒くなったのである。

「電気ブレーキを使用するのが遅れたから事故を防げなかった」だって?

 そんなまさか。


 この小説が書かれた時代の路面電車には、恐らく空気ブレーキはまだ装備されていなかっただろう。あるのは手ブレーキと電気ブレーキだけ。


 だが当時の私の印象では、電気ブレーキとは、ダラダラ長い下り坂で抑速ブレーキとして使うか、新性能電車(死語だな)が停車駅に接近したとき、巡行速度から、せいぜい時速30キロまで減速するのに用い、後は空気ブレーキに引き継ぐものとしか思っていなかったのだ。


「おうおう作者さんよ、もうちょっと取材してから小説を書きねえ」

 という気分だった。


 ところがインターネットは恐ろしい。ユーチューブはもっと恐ろしい。

 私は見てしまったのだ。


 どこの町だったかは忘れた。ヨーロッパのどこかの町の路面電車を映したビデオだ。

 それもひどく古めかしく、

「これは戦前のやつやな」

 と思える車体。

 それが電停に近づくとブレーキ音がして、停車する。そして客扱い。

 ところが、ところが…。


 そのときの停車音、何回再生スイッチを押して耳を澄ませても、「電気ブレーキ」の音だけなんすよ。


 空気ブレーキのなかった時代、路面電車は電気ブレーキと手ブレーキだけで日常的に運転していた…。

 はい、アメミヤ君の負け。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ