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メアリ―後日談

名無しのメアリ

 こんなに長くなるとは思わなかった。

「…………ん。んん…………ん~あああああー! 良く寝た…………」

 いつからか分からないが起床時間が早くなった気がする。時刻は朝の四時半。まだ朝日すら昇っていないので二度寝しても良いが、それよりも隣の女性を眺めている方が目の保養になりそうだ。

 俺と一緒のベッドで眠っている女性の名は皁月莢。かつてとある人間に仕えていたメイドさんであり、今は同居人としてここに住んでいる。メイドの責務から解き離れた事もあって給仕服を拝む事は叶わなくなってしまったが、代わりに無防備なワイシャツ姿を見せてくれるようになったのでイーブンだ。

 勘違いしないで貰いたいが、彼女は俺の恋人という訳ではない。飽くまで同居人、飽くまで同居人なのだ。キスをした事もなければそれ以上の行いも無い。精々気付かれない様に透け下着を楽しんでいるだけだ。彼女がこの家に住み着いてから毎日確認しているが、残念ながら下着を着け忘れた状態は拝めていない。

「…………」

 俺と莢さんが一緒のベッドで寝ているのは安心感を得たかった気がするが、不安の元凶が無くなった今、それを続ける理由はない。強いて言えば下心と、莢さんの匂いがとても落ち着くからだ―――って、朝っぱらから俺は何を考えているのだろう。


 ―――どう考えても昨日のせいだな。


 莢さんまで巻き込む訳にはいかないので、音を立てない様に部屋を出て階段を下りた。早朝過ぎてやる事が無い。取り敢えず顔を洗ってついでに煩悩も振り払おう。

 洗面所まで何の障害も無く辿り着いたので、当初の予定通り顔を洗う。先程まで視界は開き切っていた筈だが、顔を洗うと真に視界が広がる感覚を覚えた。何度やっても不思議だと思う。眠い時なんかもそうだが、その時その時は間違いなく目を見開いているつもりなのに、いざ目が覚めるとそれが錯覚だった事に気が付くのだ。

 鏡に映る俺の顔に疲労は無い。心なしか若返った気もする。昔の俺は……記憶が正しければ、相当疲労困憊していた。

「……まあ、だらしない顔は見せられないよな」

 『無欠の希望』こと周防メアリと檜木創太の意地の張り合いが終了して早二か月。




 世界は平常に運行し、俺自身も元の生活に戻りつつあった。 









 絶頂死に至らなかった人々が一斉に病院を支配した事で一時世界中が混乱したが、安静にさえしていれば(持病が無ければ)治るというのは既に周知の事実と化している。本当に一時混乱を招いただけで、後は収束の一途を辿るばかり。二か月も経過する頃には、もう話題にもされなくなった。

 世界中の人間からすっぽり記憶が抜け落ちているので仕方がない。誰もその事に言及しない以上、空白の数か月は文字通り無かった事にされるのだろう。

「創太様。お味の方は如何ですか?」

「あ、美味しいですよ。いつもありがとうございます」

 皁月莢は元々周防家に仕えていたメイドだったが、メアリが決断して以降、周防家は存在自体が無くなってしまった。恐らく天畧に力ずくで雇われた莢さんには周防家以前の行き場所がないだろうから、俺はこの家に彼女を住まわせている。しかしメイドとして働いていた名残で未だに俺と敬語で話すのは如何なものか。

 その方が彼女らしいので何も言わないが。

「そう言えば創太様の噂を小耳に挟んだのですが、お尋ねしてもよろしいでしょうか」

「俺の噂? 何ですかそれ」

「創太様に彼女が出来たのではないかという噂です。心当たりはございませんか?」

「―――無くも無いですけど、あり得ないですね。莢さんが間違えられたんだと思います」

 彼女の頬に薄紅色が僅かに差した。気恥ずかしくなった莢さんは箸の動きを露骨に遅らせると、視線を右下に逸らしてポツリと漏らした。

「御冗談が、お上手ですね」

「冗談っていうか、莢さん美人ですからね。普通の人は恋人でもないのに一つ屋根の下で暮らすなんて家族以外に考えられませんし。まあそういう噂は無視してくださいよ。直接突撃してくる様なら撃退しても良いので」

「成程。ではトウガラシをふんだんに使用した催涙スプレーとスタンガンのどちらを使用すればよろしいでしょうか」

「前者は確実に悍ましい事になるのでやめてください。本人からしたらちょっと揶揄っただけ程度でしょうに。実際もそうなんですけどね」

「では催涙スプレーは何処で使えば宜しいのでしょうか。正当防衛的に使えないともなると、嫌がらせ目的で創太様にお使いする事となりますが……」

「何で使う前提なのッ!? 別に使わないならそれに越した事ないでしょうが! 銃だってそうでしょ?」

 時々小ボケを挟んでくるが、それこそ本来の莢さんなのだろう。表情は変わりにくいが、言葉の端々に感情がかなり乗っているから見た目以上に彼女の気持ちは察しやすい。今はご機嫌だ。

「あ、この後俺出かけますから。留守番お願い出来ますか?」

「畏まりました。何時頃お帰りになられますか?」

「夜には帰ると思います」

 

 














「やあ檜木君。今日は安楽死をしに来たのかな?」

「アンタいつもそれ聞いてるな。そんなんだから客来ないんですよ」

「たまにくるなら問題ない。安楽死を望む人間は確実に居るのだからね」

「檜木さん! おはようございます、今日は先生に用ですか? それとも私のリベンジを受けに来てくれたんですかッ?」

「幸音さんはいい加減勝って下さい。俺だってチェスで五〇〇連勝もしたくないんですよ」

 梧つかさと藍之條幸音はメアリが居た頃と何も変わっていない。強いて挙げるならば幸音さんと築いた関係はそのままであり、ここを訪ねるとつかささんと同じくらい俺に甘えてくるくらいか。彼の方は相も変わらず積極的安楽死を推進する人間で限りなくアウトの犯罪者なのだが、通報しようとは思わない。俺という人間は正義漢とは程遠い存在だ。多少グレーでも彼なりに救える存在が居ると言う時点で横やりを入れる気はこれからも無い。

 待合室のソファに座ると、直ぐに二人分のコーヒーが用意された。早速つかささんは口を付けた。

「まあ幸音君のリベンジはいいとしてだ。今日は本当に何の用かな?」

「用って程の用はありませんよ。近くに来たから寄っただけじゃダメですか?」

「駄目とは言うまいよ、君は友人だ。好きなだけゆっくりすれば良い。話し相手にはなろう」

「用が無いなら私と戦いませんかッ? 新しい戦術を研究してきたんです! これなら誰にも負けません!」

 生粋のデュエリストに掛ける言葉はない。それは馬鹿につける薬はないのと全く同じだ。付き合うのは吝かではなかったが、今回は遠慮しておこう。尋ねたい事もあるし。

「つかさ先生。幸音さんはちゃんと学校に通えてますか?」

「ん? どうしてかな?」

「いやどうしてって……不老じゃないですか幸音さんは。留年しないか心配なんですよ」

 この国に年を取らない人間に対するマニュアルはない。そもそも不老など現実的に考えてあり得ないので用意する必要性がそもそも皆無なのだが、世の中にイレギュラーは付き物である。『何故』不老になったかの過程が忘れられて結果だけが残る今の状態も、そう呼ぶにふさわしいのではないだろうか。

 つかささんは「あ~」と愉し気に何度も相槌を打っていたが、心配はいらないと片手を振りながら言った。

「一体この世界の誰が『こいつは不老かもしれない』って思うんだい? 成長期が早く終わっただけかもしれないじゃないか。留年は流石にね。体育は少し心配だが義務教育を信じるよ僕は」

「ああ、まだ運動音痴なんですか。あ、そうだ。幸音さん、今日は外で運動しませんかッ?」

「え、嫌です」

「即答かよッ! つかささんの執刀とか手伝わないんですか? 体力鍛えといて損はないと思いますよ」

「じゃあ勝負しましょう! 檜木さんが勝ったら先生指導の下運動します! もし私が勝てたら今日一日付き合って下さい」

 勝負への誘い方ばかり上手くなって。幸音さんは一体何処を目指しているのだろうか。この二か月間かなりの頻度で梧医院を訪れているが、二人の関係に進展は全く見られない。片思い故に仕方ないかもしれないが、幾ら何でも奥手すぎるだろう。

 せめてデートもこれくらい積極的に誘えれば、少しはつかささんの考えも変わるだろうに。

「……いいでしょう。ついでにハンデもあげますよ。こっちは十本、そちらは一本で行きましょう」

「ふ……私も舐められたものですね……! 後悔、しないでくださいよッ?」

 



「……ちょっと待ちたまえ。何故僕が巻き込まれているんだ」




 司さんの不満が溜まり切るよりも早く勝負は決着した。勿論俺の勝利だ。

「何で~ッ?」

 自作ゲームを持ち出すという反則スレスレの手段に訴えたにも拘らず負けるのは非常にダサイ。理不尽なルールもなく、さりとて心理的な駆け引きも容易で―――俺は一体何にハラハラドキドキすれば良いか分からなくなってしまった。

 適当にやってるのに勝ってしまうのは俺が強いからではない。何故か彼女が死にに来るのが悪いのだ。悪手ばかり打つという意味なら最善手しか打ってこないのは一種の才能である。誰にも誇れないのが空しきかな。

「という訳で身体でも鍛えて出直してください!」

「ちょっと待って! 待って檜木さん! 三回勝負にしない? 今のはリハーサルって事で本番は―――」

「…………見苦しいよ幸音君。勝手に巻き込まれただけだが僕も付き合ってやるんだ。何としてでも君を道連れにしなければいけない。地獄を見せてあげるよ」

「キャアアアアアアアアアアア!」

 つかささんに肩で担がれながら、幸音さんは駅の方向に消えてしまった。彼女とそう大差ない身長の癖に軽々と持ち上げる彼は何物なのだろうか。隻腕の医者とは思えない膂力に驚きを隠せない。

 さて、昨日の約束に従って、黄泉平山に向かうとしようか。

 

 




 












 自殺の名所という言葉に偽りはないのだが、そのワードは俺の中では最早形骸化しつつあった。何度行っても迷う事はなく、道を覚えなくても何となく神社に辿り着ける。自殺の名所に足を運ぶ俺を人は死にたがりと呼ぶかもしれないが、この山のお蔭で俺は生きる選択肢を得られたと言ってもいい。

「おお創太、良くぞ来てくれたなッ。妾の所に来てくれたという事は、遂に腹が決まったんじゃなッ!」

「いや、単に遊びに来ただけです」

 発端は昨日―――命様を連れ出して月喰さんの所へ行った時の話だ。何故敵同士の二人を突き合わせたかと言うと、命様が俺の薬指に刻まれた指輪に対して不機嫌になってしまったからだ。そこで話し合いをさせるべく行かせたつもりだったのだが―――

 

 まあ酷い事になった。


 いや、二人の胸に顔を挟まれたり、引き離す為に尽力したら結果的に揉みしだく事になったり俺は幸せだったのだが、共通の敵を失くした事で二人は互いに敵対心を抱く様になってしまった。その場は月喰さんと交わした『契り』の一度目の代償を払う事で凌いだが、次はどうなる事やら。

 因みに彼女の唾液に反応して身体に広がる指輪は、現在薬指全体を覆っている。

「何じゃお主は決断力に欠けるのうッ。そんな事では将来生まれる子に申し訳が立たぬぞ?」

「え、何で俺が怒られるんです? み、命が喧嘩を買ったんじゃないですか」

 敬語はもう直らないのかもしれない。差別化する為にも月喰の方は直したが、俺は逆にするべきだった。

「妾のせいかッ? 酷い旦那様じゃな! これでも最近は主が居らぬ間に話し合いを重ね、三人でまぐわってどちらが相応しいか決着を付けようと―――」

「だから何で俺が一番負担掛かるんですかッ? 何度も言ってますけど只の人間ですからね?」

「妾と月喰が主を欲しているのじゃ、それは只の人間では成し得ぬまごう事なき偉業……ではないが。男児おののごとして自信は持つべきじゃぞ? 今となっては神に愛される人間などお主しか居らんのじゃから」

 先程も会話に出たが、命様は神をやめて大量信仰を欲しなくなった事で自由に移動が出来る様になった。と言っても基本的には移動しないのだが、お蔭さまでデート出来る幅が広がった。近い内にデートしようかとも考えている。

 以前と違って力を好き放題に行使出来るので、口では反抗しているが実際には逆らえない。だが彼女曰く『お主の心を操るのは女としての道義に反する』という事で、基本的には何もしてこない。

 俺を弄る時にはしてくる。

「時に創太よ。我は新たな神饌を欲している。何か物珍しい供物は無いか?」

 こうして何かをねだってくる時だけかつての面影が見える。しかしながらその体つきはけしからんを詰め込んだ様なエロさなので、接近されるだけでも俺の煩悩がヤバい。除夜の鐘でも払いきれないだろう。

 昨日は不可抗力と言ったが、あれは二人に挟まれた俺がまた煩悩に負けてしまっただけという説もある。

「ええッ? もう神やめたんでしょ? 神饌とかいいじゃないですか」

「嫌じゃー! 妾はお主から貰うのが快感なのであって、自ら取りに行くのではそれを感じられぬ! ほれ、考えてみよ。何かあるであろう? 具体的には和菓子に連なる物体じゃが」

「和菓子に嵌ったんですかッ? この辺りにそんなものあったかな…………」

 記憶の限りでは存在しない。和菓子なんて老舗でもない限り中々売れるものじゃないし、そもそも老舗はこんな辺境の町なんかに進出してこない。

 慈悲も無く俺はハッキリと切り捨てた。

「無いですね」

「むむむ…………では仕方があるまい。―――創太、口を出せ」

「え―――ちょッ」

 有無を言わさぬ怪力が俺の背中を留め、言葉は彼女の唇に遮られた。空花のそれを二回り以上大きくしたその胸の弾力たるや筆舌に尽くし難く、それを抑え込んで接吻しているので、俺の胴には彼女の胸がこれ以上なく押し付けられている。


 確信した。昨日は俺が単に負けただけだ。


 三分以上も続いた接吻。その唇が離れる頃、頬を純情な紅に染めた命様が嬉しそうに呟いた。

「愛しておるぞ、創太ッ!」

 神と妖の二人に惚れられ、果たして俺の身体は保つのだろうか。そんな疑問が砕け散るくらい、眼前の命は可愛かった。保つのではなく保たせなければならないのだろう。ずっとずっと―――長い付き合いになるのだから。

「そう言えば社の中には居るんですか?」

「む? 『知らぬ』が、行くか?」

「一応ね」

 

 








 外見の三倍以上も広い社の内部。俺が足を踏み入れた瞬間、側面から女性が飛び出してきた。

「創太君。おはよう」

「よ、メアリ。元気にしてたか?」

「勿論。病気になんかなれないもん」

 存外に巫女服の似合う銀髪碧眼のこの美少女こそ周防メアリ。かつて世界を支配し、破滅に追いやりかけた女性。彼女の手で俺の十一年は屠られたが、今は恨んでいない。かけがえのない大切な友人だ。

 神の力と引き換えに俺以外から認識されなくなってしまった彼女だが、曰く少しもその選択は後悔していないらしい。好きな人を好きなままで居られることが嬉しいから、との話。

「あ、そうだ。ねえ創太君。お出かけ用の新しい服が欲しいから、私、買いに行きたい。付き合ってくれない?」

「着替える必要があるのか? お前が巫女服着て歩いてても気にする人間は誰も居ないぞ」

「私は創太君に見てもらいたいの。少しでも貴方が可愛いって思ってくれたら、とっても嬉しいからッ!」

「―――なら今度遊びに行くか? 何処か遊園地とか」

 メアリはこの二か月で少しだけ表情も声音も豊かになってきた。だが時たま落ち着くのでまだ明るい女の子(当時のメアリの性格は本人の理想を反映した姿らしい)には程遠い。俺を振り向かせる為にも特訓したいとの意向なので、こうしてたまに誘ってみる。

 メアリの髪の毛がピョコンと跳ねた……気がした。

「行く行く! デート行くッ」

 俺の両手を握り、食い気味に迫るメアリ。嘘じゃないかと目で確認されたのでこちらも目で頷いてやると、彼女はその場でガッツポーズ。ぴょんぴょん跳ねたり、俺に抱き付いたりと忙しい。

「私遊園地大好き。創太君と一緒に行くのが夢だったの」

「そ、そうか。お前も大袈裟な奴だな」

 メアリからの抱擁に応え、俺も力強く抱き返す。昔こそ色々あったが、今はまるで嫌いになれない。彼女が可愛く見えるなんて…………遂に俺も信者になったか?

 なーんて。冗談だが。

 頭を撫でると、メアリは嬉しそうに頭を振った。











 







 二人に顔を見せた後、俺は山を下りた。今度は月喰さんに顔を見せた方が良いと思ったのである。不本意ながら(満更でも無いとも言う)彼女は俺のお嫁さん故。


「―――やあ少年。久しぶりだね」


 その落ち着いた声を聴いて、暫時俺の脳は停止した。声のする方に振り返る。

「―――茜さんッ!」

「やあやあ。久しぶりだね。いやはや私も直ぐに顔を見せたかったが―――」

 長ったらしい釈明を遮る様に俺は彼女に飛びついた。メアリが世界を支配した時は不可視の存在でさえその力に抗えないのであの場に居なかった事を咎めるつもりはない。むしろ俺は嬉しい。もう会えないという気も……心の何処かでしていたから。

「……おやおや。私の話を遮ってまで抱き付いてくるのは感心しないな。この身体は紛れも無く女性で、少年は男だ。あまりそういう事はするべきではないと思うよ」

「済みませんッ。でも嬉しいんです……茜さんにまた出会えて」

「私が死んだとでも思ったかい? まあ私の起源は死んでいるが、都市伝説たる私には寿命が無い。少年を置いて勝手に死んだりはしないさ。そこの山に長時間滞在でもすれば話は別だが」

「茜さんの身体…………とても冷たい。気持ちいい」

「夏先の水枕みたいな感想だね。とても複雑な気分だが―――少年が元気そうならそれで良しとしようか。私も少年の体温を直に感じられてとても嬉しいよ。ただ、私はあの神様ほど煽情的な肉体は持ってないから、抱き付いているだけ損かもしれないぞ」

「茜さんには茜さんの良さがあるんです!」

 それに冷たいのは茜さんだけだ。そういう死人の体温が、俺にとっては愛おしい。命様達とは違うので、俺は直ぐに離れた(二分)。

「それにしてもよく俺の居場所が分かりましたね」

「山の付近に居れば会えると踏むのは別に名案でも何でもないよ。所で少年、良いニュースと良いニュースどっちが聞きたい?」

「二択じゃねえんですけど。じゃあ最初から教えてください」

「そうか。じゃあ良いニュースを。月喰が闇祭りを開くそうだ」

 

 …………それの何処が良いニュースなのだろうか。


 茜さんは俺の心を読んだように伏し目で言った。

「まあ最後まで聞き給えよ。君の言いたい事は分かるが、次のニュースこそ肝要なんだ」

「はあ」




「君の妹も、参加するそうだよ」




 幸福な結末と言えども犠牲は付き物。そう割り切って今まで過ごしてきた。しかしそれは、間違っていたのかもしれない。

「お、俺の妹って……清華ですか?」

 檜木清華。

 元メアリ信者で、俺の妹。『キリトリさん』としてつかささんと共にメアリを殺さんと立ち向かったが、最終的には神の力を掌握したメアリによって消去されてしまった存在。

「何でも、月喰が国中の怪異や幽霊に捜索を頼んだらしい。何故私が省かれたのかは甚だ納得いかないが、見つからない内は少年に万が一でも伝わらない様に配慮したんだろう」

「それ、本当ですかッ!」

「本人に聞いたから、本人が嘘さえ吐いていなければね」

「―――お礼言いに行かないと! 有難うございました!」

 








 私の制止も聞かずに飛び出していく少年の背中を見ながら、私は何処へ言うでも無く呟いた。

「腐っても兄は兄。どんな事があっても兄妹の絆って言うのは切れたりしないものだよ。良かったじゃないか、ねえ? 仲直りするなら今しかないんじゃない―――?」

 ほんの少し。視線を後ろに向ける。


「檜木清華」

 

   

 続きは今日にでも。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ヒロインが水鏡の子以外勢揃いしてて良い。 闇医者の人は片腕で人を持ち上げられるのバケモン過ぎる、もう怪異だろ。 [一言] 清華ザン!?ナズェミテルンディス!?オンドゥルルラギッタンディス…
[良い点] 完結した作品を漁っていたらこの作品に出会いました。 とても面白く先が気になりすぎて2日で読み切ってしまいました。 作品の細かい感想は語彙力がなさすぎて省きますが読んだ感想は「評価ポイント…
[良い点] 茜さんとのやりとりがすごくにやにやしてしまう。メアリとの遊園地デートは周りから見ると創太一人で楽しんでるように映るんだよね…? [気になる点] 空花とのその後の関係も気になりますね。
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