なんちゃって発勁、爆誕
魔力を衝撃に変える。
そのアイディアをアストから聞いたセイジはちゃっちゃとサイクロプスを納品して訓練場に向かった。
加速へ魔力を変化させることができるということは魔力を運動エネルギーへ変化させられるということだ。つまり加速の延長である衝撃も魔力から変換できる可能性が高い。もしこれが可能であればできることはぐっと広がる。衝撃で任意の対象を磨り潰し、吹き飛ばし、粉砕するという非常にロマンかつ実用的な攻撃手段が増えるのだ。これはダイヤモンドのような硬度の高い外皮を持つ生物に対して有効だし、体内に浸透させれば内臓を破壊できる。つまり現在触れずに加速できる限界の半径一m以内は実質的な無敵フィールドになる。
というわけで早速それを実証すべく危険を考慮して端っこによってから手を地面に当てる。そして魔力を掌へ集中させた。
なぜ手を当てるのかというと、イメージがしやすいから。
そのままアニメによくある発勁の雰囲気をイメージして「はっ」みたいな感じに軽く気迫を入れて掌から衝撃が地面へ送り込まれるイメージをする。ついでにひびが入るところも漠然とイメージ。
結果は瞬時に現れた。
冒険者達の訓練によって堅く踏み固められている地面が揺れる。送り込まれた行き場のない衝撃は地面の表層を巻き上げ、深層には細いが深い罅を刻み込む
そして、
「どわっ!!??」
土ぼこりを完璧に顔面で受けたセイジ。
顔面の汚れをCCで分解しながら満足気な笑みを浮かべる。
本場である中国拳法の発勁は体を素早くひねったり揺らしたりすることで強い反動を起こし、足や拳、時には肘や背中を使って相手に強い圧力を加える技だ。ぶっちゃけて言えば反動でぶん殴る技。それは人体が腕だけでは大変な重いものを持ち上げるときに背中の反動を利用して他の筋肉を動員するのと何ら変わらない。
ただ反動を攻撃に転用するための動きが一見すると理解できない気持ち悪さを秘めているだけだ。
そこに木の板はともかく大木を粉砕するような、全身の出せる筋力以上の運動エネルギーは発生しない。もちろん拳から衝撃波を飛ばすなんて以ての外。第一、人間の筋収縮速度では限界の42倍速い音速を越えられない。
しかしその限界を魔力は覆せる。
魔力で強化された人体は音速を超える出力と強度を得ることができるし、そもそも殴らなくても今回のように物理的なエネルギーを発生させられる。
原理は謎だが、ともかくセイジは新たな魔法を開発した。
言うなればーー
ーーなんちゃって発勁ーー
である。