優しさの輪奈
ファーストキッスは、レモン味って言うでしょ?
「本当にあなたのことが好きで、こんな言葉なんかで表現してしまえないほど、あなたのことが大好きです。」
そんなあなたへの想いを抱えて、数年間。それを告げる勇気は無くて、いつもその関係に甘えてた。でもそれも今日でお終い。今、あなたに伝えに行くから。結果なんて解ってるから、それでもいいから、私と一瞬だけ甘い夢を見てください。
あなたと視線が絡まって、あなたの瞳が優しく細まる。その瞳に、私だけを映して?
私の想いを、聴いてください。
「好きですっ!!!!」
***
学生時代、まともな恋愛なんてできなかった。初恋の人には、「告白されたから付き合っている子がいる。だから、ごめん。」と振られ、次の恋では、「忘れられない人がいるから、ごめん。」と言われた。
初めてできた彼氏は、別に好きではなかった。告白されたから付き合った。だけど自己保身の為に彼は私を裏切った。それを許した私も私だが、そんなことが3回あって結局は別れた。だけど彼の言った嘘の噂は学年中に広がり、私の心に深く刺さった。その時に学んだ。こんなものか、って。なら、別れるのを前提で付き合っていこう。
その後にできた彼氏も、告白されたから付き合ってみた。前回の人と違ってとても優しくって、いい人だった。だから、その優しさに甘えてはいけないと思った。その時、私には他に想う人がいた。…申し訳なくなって、別れを告げた。その時のことが未だに忘れられない。
こうして自分が付けられた傷は深くて、結局自分も同じ過ちをして、人を傷つけた。それが自分の傷を誰かに知ってもらいたかったからなのか、自分がされた痛みを他人に当たっただけなのか、私には解らなかった。ただ自分が誰かを愛すのは、いけないことだと思った。それは傷つけた人に対する罪悪感もあるが、これ以上傷つきたくないと、目を背けたからだ。
罪悪感を抱えたまま、一生いようって思ってた。のに…。いつからだろう、あなたの傍に居て、その笑顔をずっと見ていたいって思うようになってしまったのは。
「伊多さーーん、笑ってないで~。」
そんな間延びしたあなたの声が、
「え、もしかして腹黒っ?!」
そう言ってげらげら笑うあなたの顔が、
「よく頑張りました。」
その優しそうな笑顔が、大切だと気付いてしまったんだ。でも彼は3つ年上で、上司と部下だ。この想いは一生報われない。なら、一緒に居られる時間を大切にしようと思った。
「俺ね、免許取って3日で一般道を180キロくらい出して走ったことあるよ。田舎だったからさ、真っすぐだし深夜だからいいかなぁって。」
「…それ、よくできましたね。」
そう言ってお互い口を大きく開けて、げらげらと笑った。この時間がずっと続けばいいのになって、できもしないことを願っていた。そうしてるうちに、別れのときなんてあっという間に訪れて…。彼の移動が決まり、全く会えなくなってしまった。会えなくなる前に少し早いヴァレンタインと言って、チョコを渡した。それで、諦めようと思った。だけど、人間の決意なんて揺らぎやすいもので、私の足は彼の勤務先へと向いていた。
キラキラ煌めく星は私を嗤っているのか、応援しているのか。寒さで思考回路もどんどんネガティブになっていく。もうすぐ終業時間で、彼が出てくるはず。やっぱり、言うのはやめよう。そう思って踵を返そうとしたとき、
「あれ、伊多さんじゃん。どうしたの~?」
大好きな声が聞こえた。振り返ったら、この気持ちに蓋をして嘘の言葉を言わなくちゃいけない。だって今決めたんだ、言わないって。
「えっと、あの…。」
「どうかした??」
そう言って視線が絡む。あなたの瞳が優しく細まるのを見て、さっきの決意は簡単に崩れ去った。
これ以上、自分の気持ちに嘘をついていられない。この気持ちに蓋なんかできない…!!
「あの!」
その優しそうな瞳が、三日月のように笑うのが。キラキラの笑顔が。ちょっとの変化で気付いてくれる観察力が。人間のきれいな部分も黒い部分も見せてくれるところが。私を笑わせてくれるところが。その全部が、大好きなんだ。
「あなたの笑顔が、瞳が…。あなたのきれいな部分も、黒い部分も―――。」
心友に言われた言葉を思い出す。
――――黒い部分も好きってことは、本当の本気の好きだね。
うん、そうだ。だってこんなに、胸が高鳴って苦しい気持ちになって、ちょっとのことで一喜一憂して、こんな気持ち、初めてなんだ。この気持ちが、愛なんだって知ってしまったから。
握り締めた拳に力が籠る。息を呑んで、冷や汗が全身を流れる。声は裏返って、自分の心臓の音で周りの音なんか聴こえない。顔が、全身が燃えるように熱いのが解る。瞳には薄い膜が貼っているのか、視界はぼやけてて。今すぐ逃げ出したいほどに、恥ずかしくてしょうがない。でも、言わなかったら後悔するんだ!!!!
「好きですっ!!」
そのあとの付き合ってくださいの言葉なんて言う余裕もなくて、羞恥心からそのまま下を向く。
怖い、怖くてたまらない。今彼がどんな顔をしているのかも、どんなことを思ってるのかも。でも、言った。言えたならそれでいい。
「…伊多さん。貰ったお菓子、すっごく美味しかった。だからこれ、お返しね。はい、あーん。」
そう言って口を開けと促す彼に従って、口を開ける。ころんと口の中に甘酸っぱさが広がった。でも、恥ずかしくて居たたまれなくて、再度俯く。
「なんの味か、わかる?」
その言葉に私は心友に言われたことを思い出して、急いで顔を上げて彼を見た。見たことないくらいに顔が真っ赤の彼を見て、同時に唇に当たる柔らかいものに、私の頬を生温かいものが伝うのがわかった。
星はいつものように煌めいているだけなのに、全く違う輝きをしていた。いつも、寒いな、と寂しいなと思っていた帰り道は温かかった。
―――光琉、バレンタインのお返しにね……を貰うといいよ
―――なんで……なの?めっちゃ義理じゃん!!
―――意味はね、『あなたが好きです』って意味だよ?覚えておき給え。
―――それ、相手が意味知らなかったらだめじゃん!!
―――そのときは、そのときだよ。大丈夫、きっと上手くいくよ。だって、
展開ジェットコースターでした。
誤字脱字、日本語おかしいのは目を瞑ってください。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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