第九話 勇者の剣術修行
前回は勇者が父親の屋敷にやって来た話でした
武術修行の許可を貰ってからは、今までに無く上機嫌で家庭教師のお稽古事をこなした。
食べるものも施設の頃より美味しくなっていたし、食事に肉が増えたのもトレーニングに励める一因かもしれない。
肉も鳥の胸肉?や、ささみ肉?というのが登場する回数が増えた。
着る物の質が上がったのは関係ない。肌触りは良くなったけど、ピッチリしすぎて動きにくい。
しばらくして、近くに有る執事さん推薦の剣道の<道場>という所へ行った。<テレビ>で見たことがある。侍がいる場所だ。でも今はちょん髷はしてなかったはず。
父親と、板張りの通路を歩いて<畳>の部屋に入った。執事さんは玄関で挨拶をした後、車でお待ちしますといって外にいる。
部屋には、ひげのお年寄りと、年配の男性(三十歳位)が座っていた。部屋の中の物が珍しくてキョロキョロしていると。
「いささか落ち着きが無いが、面白そうな子じゃ。」
「とうさん、この年頃の子はこんなもんですって。
で、うちは防具無しでスポンジを張った木刀で本気で打ち合う事もあるので、たまに痣になったりすることも有りますけど大丈夫ですか。本気の打ち合いが人気なんですけど、分かっていた筈なのに、怪我したって言って怒鳴り込んでくる親御さんも時々いらっしゃるので。」
父親がこっちを見た後言った。
今はキョロキョロせずにじっと座っています。
「もちろん文句は言いません。こいつは強く育てたいのでね。叩かれても泣く事も無いでしょう。赤ん坊の時も、殆ど泣かなかった。」
泣かなかったのは姉が叩かれない為なのだが言わなかった。
「では。」と言うと父親は直ぐに出て行ってしまった。次からは執事が送ってくるのだそうだ。今日も後で迎えに来ると言っていた。
どうするか聞かれたので早速修行を見ていくことにした。修行中で打ち合っている者もいたが思ったほどに強いようには見え無かった。
ぼーつと見ているとさっきの男の人<師範>が「やってみるか?」と言って長い棒を渡してきた。真剣で戦って傷をおったら、直ぐに直す魔法もないので、怪我をしないけれど当たれば痛い程度の武器で戦うのだそうだ。
棒を持って向かい合う。師範も防具は付けていない。隙だらけに見えるので胸の辺りへ突きを打つ。
隙だらけだと思っていた様子が一瞬に変わり横へずれたと思ったらみぞおちの辺りを払われていた。叩かれてもいない。手加減されていたって事だ。
「なかなか早いな。だが基本が出来てないから無駄が多いし隙だらけだぞ。」
その後何度か挑んだが、当てることも出来ずに軽くいなされるだけだった。部分的に強化して挑めば何とかなるかもしれなかったが。師匠も本気に見えなかったので普通に頑張ってみたけど、だめだった。
思っていたよりこの世界の剣術は凄い。これからこの道場に通うのが楽しみだ。執事さんは、父親を何処かへ送った後直ぐに戻ったのか、道場の玄関で待っていてくれた。
「帰りましたね、とうさん。」
「おまえ、平静を保っていたが思いっきり本気だったんじゃないのか?」
「わかりましたか父さん。ひたすら避けて、見つけた隙のタイミングで切り掛かる事しか出来ませんでしたよ。あの子が疲れて終了になったから良かったですが、もう何本か続けたら危なかったですよ。」
「金持ちの坊ちゃんだというから、適当に遊ばせて返すのかと思ったが面白い子を見つけたわい。」
「そのうち兄さんを呼び戻さないと、ぼくでは適わなく成りそうです。」
「うるさい、道場はお前に任せると決めたんじゃ。せいぜい修行せい。」
「と、父さぁーん。」
その男の子が何回か通って稽古していたころ兄さんと叔父さんが、娘(女の子)を連れてきた。
叔父さんといっても本当の叔父さんではなく、兄さんの親友らしい。娘さんは可愛いというより、歌劇団に入ったらトップスターになれそうな感じだ。
兄さんが稽古をつけると言うので、見学することにした。何本か攻めさせ、何本か防御させる。体力もあるのかもうじき三時間も続いている。
初めの頃はただ棒を振り回しているだけだったのが終わる頃にはあの男の子に遜色ない状態だった。そんな稽古が何日か続いた稽古中に、あの男の子がやってきた。
「師匠あの人達は何なんですか。」
「おれの兄さんとその友達の娘さんだ。」
「凄い……。」
しばらく稽古を見ていたそいつが、自分にも試合させろと騒ぎ始めた。
「ほう。」
兄さんが稽古の手を止めた。あれだけ動いたのに息もきらしていない。女の子の方は少し肩で息をしている。兄さんのあの顔は面白がってる、何か企んでる顔だ。
「うん。そろそろ実践的な訓練も良いか。その子は最近、爺さんが強くなるぞって言ってたやつだよな。」
「そうです。最近は師匠にも何回かは勝ってます。」
「そうか。強いのか。じゃあ『アキ』こいつの鼻をへし折ってやれ。」
「本気で良いんですか?」
「ああ、痣ぐらい構わん。」
「じゃあ戦う。金持ちの坊ちゃんは嫌いなんだ。けちょんけちょんにしてあげるよ。」
頭にきた。今は金持ちの家にの子だけど、元々貧乏だ。来ている服だけで判断されては堪らない。できればこんな窮屈な服は着たくない。
女の子と向かい合う。師匠に教わった様な型は出来ていないのに物凄い気迫が迫ってくる。一瞬女の子が打ち込んできた。早い、受けるのがやっとだ。さっきまで稽古をしてて疲れているはずなのに早いしどんどん打ち込んでくる。打ち込んでくるタイミングを見てこちらから思い切り打ち込む。
受けない、流された。
胴の部分を思いっきり打ち込まれた。流された勢いで道場の端まで転がった。
「うーまだだー!」
「思ったよりやるんだな。ただの金持ちのお坊ちゃんだと思ったけど見る目が無かったね。気に入った!気が済むまで戦ってやる。」
「兄さん、凄すぎて意識が着いて行きません。」
「確かにな。頑張れば2人とも俺と同じくらいの強さになるかも知れねーな。」
「それじゃ僕には教えるの無理ですよ。」
「道場は任せたんだ。それに相手をするだけが指導や稽古じゃないからな。がんばれ。」
試合は自分が動けなくなるまで続いた。
完敗だった。僕は一本も打ち込めず彼女は肩で息をする以上には疲労していなかった。
「面白かった。次も試合しよう!」
そう言った彼女が、剣術の訓練を始めて一週間も経っていないと聞いたとき。自分の未熟さを更に思い知るのだった。
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