第六話 勇者は忍者を探す
勇者は養護施設の周りを走ったり、筋トレしたりトレーニングに余念が無いようです。
あの後ダークウルフなどの魔物に襲われる事は無かったが、気配を感じる事は時々有ったので監視されている気はする。今のうちに体力を付けたり魔素子を集めたりしておくしか無さそうな状況だ。
魔素子を集める練習。魔素子を特定の場所、足や手に集めることで少し早く走れたり力が強くなる事は分かった。それほど魔素子も使わないので身体強化に近い事は出来そうだ。
集めた魔素子を体の一部へ移動させる訓練もしてみた。指の先にだけ集めると見えるぐらい光ったのだが見つけた先生に火遊びは駄目だと本気で怒られた。父親や母親に怒られたときと違い、心配して怒っているのが分かったのでその後、人のいる所では訓練もしないと決めた。本物の火を使った<マジック>という、指の先に火を灯す見世物氏がいるのだそうだ。
養護施設で映像板(テレビと言うらしい)の情報には本当でないものが多いことを知った。魔法を使う人間が居ないのは自分も使えないので分かっていたが、忍びが居ないのは残念で仕方が無い。以前の世界の<隠遁のスキル>を持った人はいると思っていたのだ。
施設の子供達とそれなりに上手くやっていたと思うが、友達は出来なかった。他の子たちが本当の子供なのに、自分は中身がそれなりの経験をしているからかもしれなかった。悪戯にしろ悪ふざけにしろ子供っぽかった。
施設の子達と大勢で出かける事があった。
ある程度の年齢以上の子達がまとまって出かけるのだそうだ。遠足という旅で、近くの工場を見学するとうい事だった。大きな工場と小さな工場を大きな鉄の馬車に乗って回るのだそうだ。
年が上の男の子達はつまらなそうにしていた。早い時期から就職先を決める為の社会科見学の意味も有るのだそうだ。
何故ツマラナイのかが分からなかった。実際に物を作る現場など、前の世界でドワーフの刀鍛冶くらいしか見たことが無いから、楽しみで仕方が無い。
早く仕事を決めて、超一流の職人を目指すのも前の世界では当たり前の事だった。
初めに行ったのは、大きな石の建物で、果物を固めた菓子を作っている工場だった。
駐車場でバスを降りた時、ポケットのどんぐりをそいつに投げた。
「ギャー。ガー。」叫びながらこちらへ向かってきた(多分)ダーク・クロウは、反転して木が生い茂る方に飛び去って行った。大した威力では無いけれど当たってはいた。日ごろ投擲の練習をしていた成果だと思う。
何羽かいる中の一羽が、僕めがけて突進してきたので狙われていたんだと思う。
「引率の先生に、どうしたの。」と言われたので
「どんぐり、投げたら当たった。」と言っておいた。
石を投げると怒られるが、投げたのがどんぐりだと注意されるくらいで終わるのが不思議だ。
工場で作っていた果物の菓子は、半透明の小さな固まりが透明なものに包まれていて、色々な果物の味がするのだそうだ。
工場のおじさんに包まれる前のものを何個か貰って食べたら美味しかったし、お土産に袋に色々な種類が入ったものを戴いたので、丁寧にお礼の言葉を述べておいた。女の子達がとても喜んでいて。女の子はもう一袋づつもらっていた。
見学の後工場の食堂で、お昼を食べた。
自分で好きなものを、幾つでもトレーに取って良いと言うので、端から乗せ始めたら先生に怒られてしまった。冒険者の頃はこれくらい平気で食べていたので調子にのっていたかもしれない。工場のおじさんよりちょっと多いかなくらいにしておいた。
次に行ったのはラバーマスクというのを作っている工場で、建物の中はドワーフの鍛冶場に雰囲気が似ていた。有名人やモンスターの形を真似した柔らかい材質のマスクを、お祭りで被ったりするのだそうだ。
前の世界にいたモンスターに似たマスクも有ったが本物のほうが間違いなく恐ろしい。
男の子達は見本のマスクを被って騒いでいたが。暗闇で本物に間違われて攻撃されたらどうするつもりなのだろうか。
帰った後、病気で行けなかった子に貰ったお菓子を分けてあげたりして、その日は終わった。
その後も大勢で出かける事が何回か有って、近くの竹林の中でダークタイガーの襲撃を受けたり、ダークジャガーの襲撃を受けたりした。どちらも様子見程度だったので怪我も無かった。周りの大人は大きな猫がじゃれついた様にしか、見えていなかったのだろう。向こうが倒れる事も無かった。
心配なのはこの世界に敵が増えてきてるんじゃないか、という事だ。
そんな時あいつがやってきた。魔王はでは無い。
魔王は戦う相手だが、係わり合いになりたくない相手。そう、父親だ。
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