第二話 故郷とは違う目覚めだった
主人公が日本に転生した直後のお話です。
赤ん坊だからなのか、意識を保っていられるのはそれほど長い時間では無かった。
意識がしっかりしている短い時間に思考する。魔王に倒されて死んだはずだった。自分達は負けたのだ。周りを見回すがぼんやりとしていてはっきりと様子を見ることが出来ない。
なんとか周囲が見えるようになって見回すが、知らない景色だ。見える人間達も見たことの無い白や薄いピンクの服を着た人間が多い。古い書物や賢者から聞いたことがある生まれ変わり<転生>なのかもしれない。今は赤ん坊の様だ。自由に手足を動かすことも、声を上げることもままならない。
体をつかまれて持ち上げられた。寝かされているより高い位置で周りを見回す事ができた。飾りの無い部屋のようだったが、見たことの無い物で埋め尽くされている。別の国に生まれた。いやこれは知らない世界に転生したということなのだろう。
同じ服を着ている人たちとは明らかに別の人がいた。透明な板の向こうにいる男、白い布を掛けられて寝ている女。男が父親女が母親なのだろう。世界が違うのだからハッキリとは分からないが王族や貴族では無く平民の様に思えた。
目が覚めると別の部屋にいた。隣にも赤ん坊がいた。自分も同じ格好をしているのに違いない。何か叫んでいるのだが、さっぱり意味が分からなかった。大人たちの話す言葉も意味が分からなかったが、言葉が有り文明が有る国に転生したのは良かったと言うべきなのだろう。暗闇を照らす、松明や魔法ではない明かりや、板の中に人物や動物が動いている絵など始めてみて驚いてしまった。
暗い中急に抱きかかえられて目を覚ました。母親の女だったので驚くことも無かった。なぜか女は自分を抱えたまま暗いままの部屋を出て行った。隠密スキルには遠く及ばないが、静かに隠れて歩いていく。通路の先に人の気配がするのを避けて歩いているようだ。ここは声を上げるべきなのだろうか、悩むところだ。
女は誰にも見つからず建物を出た。周りが急に騒がしくなり赤い光が点いたり消えたりしている、人の気配がそちらに集中てこちらを気にする余裕が無かったのかもしれない。この世界には、子供が生まれた時に神の祝福を受ける儀式を行ったり、治療師達にお礼をしたりする習慣は無いのだろうか。
外には父親らしき男がいて、しばらく歩いた先にある鉄の箱の扉を開けて中に入ると。動き出した。魔法で動く馬車だったらしい。
鉄の馬車が止まった先で降りた建物に入るとじんわり湿気が有る部屋で今までの場所に比べると気持ちのいい場所では無かった。部屋に入り部屋が明るくなつた時、小さな女の子が眠っているのが分かった、自分には姉がいたようだ。そして、また暗くなった。
大きな声で目を覚ますと、父親と母親が叫びあっていた。何を言っているのか分からなかったが喧嘩をしていたのだと思う。父親が母親を殴ることもあった。父親が部屋(建物なのかもしれない)を出て行くと。母親は姉どなったり殴ったりした。
父親が母親に優しくしているときは、姉も可愛がられていて、怒鳴られたり叩かれる事も無かったようだ。あまりに酷い時は何とかしたかったが大きな声を上げると姉が叩かれるので、それからは大きな声を上げないようにした。
父親が家にいる事はあまり無かったので世話をされた事がない。近くに来て顔を覗かれたことが有るくらいだ。母親はドワーフでもないのにアルコールの匂いをいつもさせていた。料理もほとんどしていないようで、入れ物に入っている料理を持ち帰って姉と食べたり、(多分通貨)を払って、届いた食料を食べたりしていた。
そんな母親だったので、母親がする自分の世話をすることは殆ど無かった。殆どは姉が世話をしてくれた。ミルクもオムツ替えも姉がしていた。姉は家の仕事の無い時は自分の横に座ると同じ絵本をボロボロになるまで何度も読んでくれた。
絵本がなくなると文字ばかりの本を、自分の横に座って読んでくれた。読めない字は想像で読んだり読み飛ばしていたので意味の無い文章だったりしたが、姉のおかげでこの世界の言葉や文字を覚える事ができた。
話し言葉が少し理解できるようになった頃、この世界に魔法が無いことが分かった。正しくは以前の世界の様な、攻撃のための魔法や防御の為の魔法等を使える人が存在しないようなのだ。赤ん坊のせいかもしれないが、確かに今の世界から感じられる魔法因子は殆ど無い。小さな火球を作ろうとしても長い時間掛かるだろう。読んでもらった<おとぎ話>の中の魔法は、時間を掛けて溜まった魔法因子が偶々発動したものを、魔法使いの物語に書き記したのかもしれないと思う。少ない魔法因子でも、有る事はあるので、魔法因子を体内に取り入れる訓練だけは始めた。どうせまだ起き上がる筋肉も無いのだから。
寝たままの状態から動けるようになると筋肉のトレーニングを始めた。映像を表示する板で見たスクワットというのも役に立ちそうだ。
一人で立って歩ける様になった頃。騒動が有った。
珍しく父親も母親もいて楽しそうにしていた夕食の時だった。一人の見知らぬ大人の女が入ってきた。




