第十八話 料理人の意地
前回は開くと閉めるが逆だった話でした。
まったくホテルの跡取り坊ちゃんにも困ったものだ。宿泊客からのクレーム対応も大変だが、ホテルオーナーの坊ちゃんの我ままは度が過ぎている。
生徒の一人の部屋を物置にしろと言ったと思ったら、今度は上級生男子の料理に雑巾を絞った水を入れろと言う。
食堂の調理場に来て料理人(まあ妻なのだが)に相談する。愚痴を聞いてもらうのに近いかもしれない。
「どうしたもんか。」
「大丈夫だよ何とかするから、心配しないでおきなよ。」
「雑巾の水なんか入れて、食中毒でも出たら営業停止だからな。かといって、何もしない分けにもなぁ。」
「料理が、あまり美味しくなければ良いだけの話だろ。大丈夫だよまかせな。」
朝ごはんを食べに、小説家の息子とやって来た。
朝のトレーニングで汗だくになったので、体を拭いたりしていて遅くなってしまい、料理も残り少なかった。
料理を持ってテーブルに座ると、ホテルの息子がこっちをチラ見しながらクスクス笑っている。周りに気味悪がられている。カギを小説家の息子に開けてもらって遅くなったと思っているんだろう。
近くには昨日騒ぎになった先輩達がいた。
「なんか、この卵焼きふっくらしてるのに変な味しないか?」
「そうか?良く分からないけど。」
ホテルの息子は先輩男子達の方もチラ見してはクスクス笑って、周りから更に気味悪がられていた。
先輩達や、ホテルの息子が食べ終わって出て行き。
人が少なくなった厨房の端の方で、支配人と料理する女の人が小さな声で話していた。
「助かったけど、どうやったんだ。」
「上級生男子の卵焼きにね、ベーキングパウダーを沢山入れたんだよ。体には悪くないけど、苦くなるからね。それほど不味くならないように調整するまでに、苦い卵焼き何個も食べたけどね。はっはっはっ。」
苦い卵焼きを食べたのは、上級生男子と女性料理人だけだったらしい。
その後の授業も、トレーニングも特に何も無かった。夜中にカギをガチャガチャする音が聞こえたくらいだ。
あぁ。カギをまだ戻してなかった。
そして次の朝、昨日より、かなり早く食堂に来たぼく達を見てホテルの息子が支配人に文句を言いながら出て行った。
今日こそはカギを戻しておこう。
この後カギをずらしたり、戻したりを何回か繰り返すのですが、
ホテルの坊ちゃんは全てカギを開ける結果になったそうです。